伯爵令嬢、溺愛されるまで~婚約後~

うめまつ

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グラッセの最後

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実際にその通りで。

どんなに大人しい態度で反省をして見せても、出来ていないからと何年もやり直し。

やっと一曲の半分。

気に入らなければまた最初のフレーズから。

勉強もおさらいと言ってやり直して間違えればまた最初から。

美貌も枯れて精魂尽き果てた頃、初めて屋敷の中を歩かせて貰えた。

「さあ、ご挨拶なさい。お父様のお姉様。グラッセ叔母様よ」

あの恐ろしい弟嫁には5人の子供達。

見たことのない優しい笑みを子供達と弟に向けて。

弟は貫禄がついて趣味のいい装いに男振りが上がってた。

子供達も憎たらしくなるほど無邪気で利発そう。

不細工と馬鹿にした弟嫁は弟と子供達と睦まじく微笑んでいた。

「久しぶりですね、姉上」

「え、ええ」

声がかすれる。

勉強以外の言葉が分からない。

「妻のウルリカはどんな怖い教育ママになるのかと思ったら良妻賢母の素晴らしい公爵夫人になりましたよ」

自慢げな弟の顔。

こんな堂々とした姿は初めて見た。

眩しくて目眩がする。

それと自分のみすぼらしさも。

装いを綺麗に整えてもシワが増えた手、きしんだ髪。

自信で弟は輝いているのに、私は一体なんなの?

「ふふ、あなたったら。この子達が賢いからですわ」

ちらっと私を見つめる視線に“あなたと違ってね”と映る。

途端にヒュッと喉が締め付けられて体が震えた。

ゼェゼェと息苦しくなる。

「あら、お義姉様。具合が良くないようですね。もうお部屋でお休みしましょうね」

「は、はい」

「もう?その前に姉上に縁談の話をしたかったんたが」

弟の話に固まっていると弟嫁はそうねぇと微笑む。

「まだ再教育は終えてませんのよ?」

「ひ、」

「あとどのくらいかかる?」

「さあ、どうでしょう。お義姉様次第ですものね」

ここから逃げられるなら何でもいい。

震える声で結婚したいと言うとまた冷たい視線。

「お義姉様のお心次第かしら?まずはご結婚の前にすることがございますもの。お分かりでしょう?」

「な、何を?」

「……まあ、分からない。……そう、残念ですわ」

子供達が驚くのも構わずに床に手をついて教えてくださいと願った。

メイド達が素早く子供達を別室へ。

「まだ分からないなんて。私の教え方が悪かったのね。一からやり直ししなくては」

謝るのに許してもらえない。

引きずられてまた部屋へ。

「ねえ、あなた。お義姉様はここで再教育されるのといまだ復讐に燃える家に嫁ぐのはどちらが幸せかしら」

「さあねぇ、姉上の自業自得だから。でもいつまでも屋敷に置いて置くのもねぇ」

「そうよねぇ。でも、いまだにお義姉様ったら害したご令嬢への謝罪がないのよ?許せる?」

「僕が子供の親なら八つ裂きにするね」

「私もよ」

背中から聞こえた二人の会話に悲鳴をあげた。

ごめんなさい、ごめんなさい。

私が間違ってました。

「まあ、あと五年ほどこのままよねぇ。子を成せなくなるまでは」

「その前に精神が病みそうだね」

「少しくらいよろしいわよ。ここにいれば命の保証はされるんだから」

嫁げばすぐに殺されるわよと。

欲しがるのは犠牲になった家ばかりだからねと肯定する弟の声も。

私はそんなにひどいことしたの?

この地獄のような場所しかないの?!

なんてことをしたの!?
 
恐ろしさから唯一残された美しい金の髪は半分に減った。

色もくすんで金とは言えない色に。

瞳もくすんだ。

美しかった虹彩のアイスブルーも。

血走って灰色に濁った。

一気に老け込んで何もなくなった。

見目も、王家の色も。

運動をしない体は衰えるのも早くて。

子を成せないと判断された頃、修道院に送られた。

望むなら結婚してもいいと言われたけど恐ろしくて泣いて断った。

弟嫁は、そうでしょうねぇと相変わらず冷めた瞳だった。

「お久しぶりでございます。グラッセ王女」

修道院ですぐ何人も挨拶に来るけど誰か分からなかった。

「……覚えてらっしゃらない?……そうですか」

弟嫁にそっくりな冷めた視線がいくつも注がれて恐ろしさに震えていると一人がこの女のせいだと呪いのような声を出した。

「私達は忘れたことありませんからね。離宮の中庭で三人の男に追い回されたこと」

「フィンレー陛下がいずれ復讐の機会をくださると約束してくださいましたの。お待ちしておりましたわ」

「復讐をやめた者もいますのよ?ここに通ってくださるサフィア妃殿下のお優しさに慰められて」

「でもここに残った者は復讐を選びましたの。こんなに沢山仲間がいて心強いわ」

「さあ、楽しみましょうね?グラッセ王女」

「いえ、もう俗世のお名前は捨ててしまったのよね。今はグラウス。平民のね」

「そうそう、敬語も何もいらない。ただのグラウス」

「こんなにおばあさんになってしまって。すぐに死なないでね?」

ずっと待ってたんだから。

修道女達がクスクスと笑う。

このまま心臓が止まってくれたらと願いながら微笑む彼女達に引きずられてどこかへ連れていかれる。

どこに?

石造りの長い通路。

天井を見上げてた。

寒々しい灰色の壁。

はあはあと呼吸が浅く息苦しい。

震えて歩けずにいるのに膝を擦りながら引きずられて続ける。

まだ続くの?

やっとあそこから出たのに。

違う。

そんなに悪いことをしたのよね。

私は。

分かってないと呆れていたのはこのことね。

やっと分かった。

恐怖で目が白くチカチカと光って前が見えない。

でもお仕置きを受けないといけないんだ。

ずっと。

ずーっと。

自分の愚かさを呪うしかない。

「は、はは、あはは、あは、あはー、あはは」

あら、もう壊れたの?と女達の声が遠くに聞こえた。





~終~
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