伯爵令嬢、溺愛されるまで~婚約後~

うめまつ

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ウドルの答

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「いっつもだよ!昔っから!お前らは草と花の匂いでさ、こっちは埃か魚臭かったのに!」

魚?

何のことだ。

「お前らはいいよ!いつも家族で幸せそうで!俺はあの店のくそ親父の無茶苦茶な仕事ばっかり!寝床もねぇ!くっせぇ魚の倉庫で見張りを毎晩押し付けられてたんだ!」

「お、オイ、ヤメロ。やめ、ぷは、」

バサバサ、バサバサ。

何度も拾って俺に投げつけて。

腕で顔を覆って隠れないと。

当たると痛い。

腕の隙間から目の前に座ってるのは分かるんだけど。

投げつけられてるし。

でも全然、前が見えない。

こいつ、どうなってるんだ。

「悪かったな!今度は血生臭くってよ!」

なんかよく分かんないけど気にしてたんだ。

匂いのこと。

でもこんなに文句を言われるのもムカつく。

俺もぱきぱきに折れたドライハーブを片手に握って投げつけた。

「うるサイ!」

「るせぇのはお前だ!」

「もうイイ!片付ケ、手伝エよ!」

そう言うとハッとして手が止まった。

目がきょろきょろとさ迷って小屋の惨状に顔を歪めた。

「……悪い」

「……片付け、手伝エ。そしタら、許ス」

黙って頷いた

二人で黙々と折れたハーブを拾う。

匂袋に入れるつもりだからこのくらい折れたり小さくなっても問題ない。

そう説明して適当な皿に大きさも種類も気にせず集めた。

ついた土もザルに入れて軽く叩けばだいたい取れるから平気だ。

「落ち込ムナ」

あーとか、うーとか。

生返事。

背中をさすって肩を叩いても反応ないから、頭を撫でてやる。

「……子供扱いすんな」

「カナリ子供ダよ」

さっきのが子供の癇癪じゃないならなんだ。

反応があったからさっと手を引く。

「俺は庭師ダから土と草臭いンダよ。お前騎士だし、色々と仕事があるんダろ?」

「んなの、どうでもいい。俺は向こうに行けって言ってるんだ」

「行かナイ。お前ガ、」

「は?俺がなんだよ?」

「イテ、」

伸ばした足で軽く蹴られた。

意地っ張り、もう。

「蹴ルな、俺が寂しいンダって、」

「嘘つけ、忘れてただろうが」

「お前は忘れてなかっタんダろ。妹の一人でもお前に頼めバ良かっタと思ってルよ」

両親が立て続けに死んで妹達が残った。

巻き添えが怖くてどこでもいいから遠くへと全員すぐ遠方の親戚へ嫁にやった。

「お前はシッカリしてルし頼りにしてル、ぐ!う!」

「あー、そう?なら、シッカリ者の俺の言うこと聞けよ?お前が俺のご機嫌取って懐柔しようなんざ10年早いね」

あーバレた。

首に片腕巻いて絞められてる。

抵抗する暇もなくこいつの小脇に固定されて。

絞める力はなくなったから外そうと引っ張るのにびくともしない。

俺の方がデカイのに、こいつスゴい。

「お前がだらだらゆっくり話す時は機嫌取る時だよ。変わんね」

「昔はコレで良かっタのに」

妹もこいつも子供は楽だったな。

「バーカ」

そのまま小脇に首を絞まられたまま。

まあ、いいかとそのままの体勢でのんびりと。

「くそ、ムカつく。たかが庭師のくせに俺に逆らいやがって」

ぶつぶつ文句言ってる。

「俺はお前と一緒がイイ。一人なら行カなくてイイ。行っても向こうカラ帰ってくルからな。イたッ、オイ、痛イって」

急に無言になり、グリグリと拳で脳天をねじられる。

地味に痛い。

止めろ馬鹿。

「行けって」

「一緒がイイ。寂シイから」

お姫さんのところは行きたいけど、でもお前が本当に心配。

毎日血生臭くて、ここで死んだように寝て。

「行けよ」

俺が行かないって断る度に声が弾んでるの気づいない。

それだけでお前が俺の側にいたいの分かる。

側にいたいならそうすればいいのに。

俺にはさっぱり分からない。

お姫さんが恥ずかしがって婚約者から走って逃げたのも、こいつが外に追い出したがるのも。

ここでしか眠れないくせに。

俺がいなくなったらお前、どこで寝るんだ。

プライドの高いお前に言わないけど。

もう揉めたくないから黙って、こいつがしたいようにさせてやるんだけど、さすがに苦しいから首をねじって逃げるのに離してくれない。

「イたいよ」

「るせぇ」

顔を上げたら壁のキャンバスが目についた。

笑うくらい格好よく描いてくれてる。

あのお姫さんは本当にこう見えたのかな。

「ナァ、アレッて似てルか?キャンバスの奴と俺」

「話変えんな。あー、くそ。動くんじゃねぇ」

逃げるのが成功したあと、もう一度聞いたらキャンバスを眺めて首をひねった。

「……似てるぞ。笑ったらそっくりだ」

目を細めて薄く笑うこいつの横顔。

いつも意地の悪い顔で笑うのに珍しく柔らかくていい顔だなと思った。

「ソウカ、嬉しいナ」

「お前は笑っとけ」

あとは俺に任せろって。

何をと尋ねるのに教えてくれなかった。

まさか勝手にお姫さんの所へやるつもりかと焦った。

「向コウには行かナイからな?勝手に決めルなよ?」

「分かってるよ。うるせぇなぁ」

「イテッ」

パコンと頭を叩かれた。

「叩くナ」

軽く肩を拳で押し返した。

またいつものように憎まれ口を叩くと思ったのに意外と素直に頷いた。

ふて腐れて罰が悪そうにこっそりと。

俺を伺う視線と態度が幼い。

「笑うな。くそ」

「お前が笑えト言っタ」

反論に拗ねてそっぽを向くから余計子供っぽくて笑った。
 
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