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庭師の日常
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あれから半年、外が涼しく過ごしやすくなったから外にベンチを置いた。
仕事から戻るとそこにごろ寝してる。
コンコンと爪先でベンチの足を小突く。
眉間にシワを寄せながら目を開けた。
「夜勤はナイのか?」
「ない。休み」
それだけ尋ねたら小屋に入った。
道具磨きをして過ごしていると外から話し声。
扉のノックに急いで覆面を着けて開いていると返した。
「荷物を取りに来ました」
あいつの部下のひとり。
匂い消しを作るようになってあまりにも量が多いから奥様の許可を取って、こうやって近衛の若い隊員が引き取りに来る。
「いつもありがとうございます」
俺があいつの友人だから丁寧に扱われる。
恐縮してお辞儀を返して目線が上がらないように腰を屈めて麻袋を渡した。
皆が助かってると言うので深く頭を下げた。
「奥様にお伝えしマス」
そのままでいたら若い隊員から戸惑いを感じた。
何か失礼だったかと内心は焦った。
「ウドルさん、これお礼です。どうぞ」
渡されたそれを見ると紙袋。
見ると中は甘い菓子。
「甘党って聞いたんで。今日、休みの者が買い出しついでに」
「スイマセン、ありがとうございマス」
縮こまる俺に苦笑いしている。
いつもはあっさり帰るのに、今日はよくしゃべる。
渡した品物がいいとか体格が羨ましいとか。
誉められてむず痒い。
奥様のことも誉めていた。
ますます困って小さくなると猫を手なずけようと苦戦するような顔をしている。
しゃべらない俺に困りながらも怒ることなく苦笑い。
自分の気の利かなさが申し訳ない。
無言の間にお互い固まる。
「あー、あのですね、……俺達はあなたの行動を尊敬してるんです」
「い、イエ、」
箝口令の内容だと察して慌てていると落ち着いてと笑って手をかざした。
「あの気難しいタイロン様のお世話をありがとうございます」
これからもよろしくと頼まれた。
「ついでに俺達とも上手く付き合ってもらえたらと思いまして」
ただ振り子のように頭を揺らす。
世話らしいことはしてないし、貴族出身の近衛兵と上手く付き合える気もしない。
見送りで一緒に外へ出るとまだあいつはベンチで仰向けに寝ている。
部下の前でこんなだらけていいのかと心配になる。
「綺麗な庭ですね。とても安らぎます」
庭師の俺にとって一番の誉め言葉。
嬉しくて顔が緩む。
それを見て隊員も笑った。
「たまに来てもよろしいですか?」
「いつデモ、ドウゾ。この辺りナラ、奥様方の訪問はありまセンから」
近衛なら問題はない。
メイドを通して報告するだけですむ。
「来んな、俺の穴場に」
唐突な返答。
「しゃしゃって来んな」
そんな厳しく言わなくてもと非難の眼差しを向けるが、こっちを気にした様子はなく相変わらず目をつぶってるから俺の咎める視線に気づいてもいない。
「いいじゃないですか。少しくらい」
やはり仕事仲間だから気心が知れているようだ。
庶民的な乱暴な言葉遣いを気にせず言い返して仲良さそうに会話を続けている。
「タイロン様、皆で文句言いますよぉ?いっつもここでサボってるって。ズルいですよね?」
「ちっ、……なら、少しなぁ」
「……ココをサボり場にされルのは、ちょっト」
サボり宣言されると困る。
「俺達は休憩ですよ。ちゃんと時間や人数を考慮しますから。タイロン様は入り浸りすぎです」
「るせぇ」
仕事はちゃんとしてると不機嫌な声で答えた。
「じゃあ失礼します」
隊員が帰ったらさっと起きて俺より先に小屋に入る。
俺も小屋に戻ると、あいつは作業台に置いていた紙袋を掴んで摘まんでいた。
「げぇ、甘い」
甘いものは嫌いだ。
それでも手が止まらないのは空腹なんだろう。
「腹減っテルなら帰れ」
「そうだな。腹へった。なあ、飯行こうぜ」
「食堂はマダ早い」
使用人用のホール。
近衛なら空いた時間帯で食べていいが、俺は許されてない。
「外だよ。もうそれ気にしてないだろ?」
まだモシャモシャお菓子を食べて早くしろと急かす。
仕方ないとそれに付き合って支度をした。
泥のついた作業着を着替えて財布。
着替えの前に外していた覆面を着け直す。
「外せば?」
「サスがに通行人を怖がらせル」
以前は目尻まで覆ってた。
用事がない限り外出もしなかった。
今は緩く着けて、はみ出た傷と覆面に多少視線が集まるがあまり気にならない。
「おーい、男前ぇ。似てるぞぉ?」
ニヤニヤとからかう声音でコンコンと絵のかかった壁を叩く。
「オイ、俺で遊ブな」
「はは、いーじゃん?」
「うるサイなぁ、もう」
「はは、」
へらへら笑ってからかわれても嫌な気はしない。
キャンバスの俺の顔。
美醜は置いといて、お姫さんの絵と同じ顔で笑ってると今なら信じられる。
『勉強もやらないと』
道中、こいつからお姫さんの言葉で話しかけてきた。
『ヨロシク、オネガイシマス』
「ぶは!ふはは!」
『えーとっ、……ヘタ、ワラウ、イジワル』
『その調子、ぐふ、くく!』
通行人に見られながら言葉を笑われる方が傷より恥ずかしかったが、人前で使うのが上達の近道らしい。
こいつが言うなら間違いないと思う。
笑いたいだけではないはず
仕方ないと諦めて下手くそな語学の練習。
こいつがずーっと笑うから、気づけば俺までつられて笑っていた。
覆面も気づいたら顔から落ちて首に。
戻そうかと思ったけど、こいつとしゃべって笑うのに忙しい。
その日はずっとそのまま。
何も気にならなかった。
~終~
仕事から戻るとそこにごろ寝してる。
コンコンと爪先でベンチの足を小突く。
眉間にシワを寄せながら目を開けた。
「夜勤はナイのか?」
「ない。休み」
それだけ尋ねたら小屋に入った。
道具磨きをして過ごしていると外から話し声。
扉のノックに急いで覆面を着けて開いていると返した。
「荷物を取りに来ました」
あいつの部下のひとり。
匂い消しを作るようになってあまりにも量が多いから奥様の許可を取って、こうやって近衛の若い隊員が引き取りに来る。
「いつもありがとうございます」
俺があいつの友人だから丁寧に扱われる。
恐縮してお辞儀を返して目線が上がらないように腰を屈めて麻袋を渡した。
皆が助かってると言うので深く頭を下げた。
「奥様にお伝えしマス」
そのままでいたら若い隊員から戸惑いを感じた。
何か失礼だったかと内心は焦った。
「ウドルさん、これお礼です。どうぞ」
渡されたそれを見ると紙袋。
見ると中は甘い菓子。
「甘党って聞いたんで。今日、休みの者が買い出しついでに」
「スイマセン、ありがとうございマス」
縮こまる俺に苦笑いしている。
いつもはあっさり帰るのに、今日はよくしゃべる。
渡した品物がいいとか体格が羨ましいとか。
誉められてむず痒い。
奥様のことも誉めていた。
ますます困って小さくなると猫を手なずけようと苦戦するような顔をしている。
しゃべらない俺に困りながらも怒ることなく苦笑い。
自分の気の利かなさが申し訳ない。
無言の間にお互い固まる。
「あー、あのですね、……俺達はあなたの行動を尊敬してるんです」
「い、イエ、」
箝口令の内容だと察して慌てていると落ち着いてと笑って手をかざした。
「あの気難しいタイロン様のお世話をありがとうございます」
これからもよろしくと頼まれた。
「ついでに俺達とも上手く付き合ってもらえたらと思いまして」
ただ振り子のように頭を揺らす。
世話らしいことはしてないし、貴族出身の近衛兵と上手く付き合える気もしない。
見送りで一緒に外へ出るとまだあいつはベンチで仰向けに寝ている。
部下の前でこんなだらけていいのかと心配になる。
「綺麗な庭ですね。とても安らぎます」
庭師の俺にとって一番の誉め言葉。
嬉しくて顔が緩む。
それを見て隊員も笑った。
「たまに来てもよろしいですか?」
「いつデモ、ドウゾ。この辺りナラ、奥様方の訪問はありまセンから」
近衛なら問題はない。
メイドを通して報告するだけですむ。
「来んな、俺の穴場に」
唐突な返答。
「しゃしゃって来んな」
そんな厳しく言わなくてもと非難の眼差しを向けるが、こっちを気にした様子はなく相変わらず目をつぶってるから俺の咎める視線に気づいてもいない。
「いいじゃないですか。少しくらい」
やはり仕事仲間だから気心が知れているようだ。
庶民的な乱暴な言葉遣いを気にせず言い返して仲良さそうに会話を続けている。
「タイロン様、皆で文句言いますよぉ?いっつもここでサボってるって。ズルいですよね?」
「ちっ、……なら、少しなぁ」
「……ココをサボり場にされルのは、ちょっト」
サボり宣言されると困る。
「俺達は休憩ですよ。ちゃんと時間や人数を考慮しますから。タイロン様は入り浸りすぎです」
「るせぇ」
仕事はちゃんとしてると不機嫌な声で答えた。
「じゃあ失礼します」
隊員が帰ったらさっと起きて俺より先に小屋に入る。
俺も小屋に戻ると、あいつは作業台に置いていた紙袋を掴んで摘まんでいた。
「げぇ、甘い」
甘いものは嫌いだ。
それでも手が止まらないのは空腹なんだろう。
「腹減っテルなら帰れ」
「そうだな。腹へった。なあ、飯行こうぜ」
「食堂はマダ早い」
使用人用のホール。
近衛なら空いた時間帯で食べていいが、俺は許されてない。
「外だよ。もうそれ気にしてないだろ?」
まだモシャモシャお菓子を食べて早くしろと急かす。
仕方ないとそれに付き合って支度をした。
泥のついた作業着を着替えて財布。
着替えの前に外していた覆面を着け直す。
「外せば?」
「サスがに通行人を怖がらせル」
以前は目尻まで覆ってた。
用事がない限り外出もしなかった。
今は緩く着けて、はみ出た傷と覆面に多少視線が集まるがあまり気にならない。
「おーい、男前ぇ。似てるぞぉ?」
ニヤニヤとからかう声音でコンコンと絵のかかった壁を叩く。
「オイ、俺で遊ブな」
「はは、いーじゃん?」
「うるサイなぁ、もう」
「はは、」
へらへら笑ってからかわれても嫌な気はしない。
キャンバスの俺の顔。
美醜は置いといて、お姫さんの絵と同じ顔で笑ってると今なら信じられる。
『勉強もやらないと』
道中、こいつからお姫さんの言葉で話しかけてきた。
『ヨロシク、オネガイシマス』
「ぶは!ふはは!」
『えーとっ、……ヘタ、ワラウ、イジワル』
『その調子、ぐふ、くく!』
通行人に見られながら言葉を笑われる方が傷より恥ずかしかったが、人前で使うのが上達の近道らしい。
こいつが言うなら間違いないと思う。
笑いたいだけではないはず
仕方ないと諦めて下手くそな語学の練習。
こいつがずーっと笑うから、気づけば俺までつられて笑っていた。
覆面も気づいたら顔から落ちて首に。
戻そうかと思ったけど、こいつとしゃべって笑うのに忙しい。
その日はずっとそのまま。
何も気にならなかった。
~終~
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