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年寄りの独り言
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久々の故国、ふた月ぶりだ。
王宮に入れば書類を副官に預けて一番にティールームへ向かった。
陛下には出迎えにお気に入りの令嬢を頼んでいた。
「ウォルおじさま、お帰りなさいませ」
「ただいま」
「ご無事のご帰還、嬉しゅうございます」
可愛い可愛い私の孫。
本当の孫ではないが。
古い友人、と言うより命の恩人の孫娘。
私より少々年上の恩人はとうの昔に亡くなって毎年の墓参りで懐かしさを求めて訪問すると、必ずこの孫娘が顔を出して話し相手を勤めてくれた。
何を話しても喜んで熱心に耳を傾けてなついてたのだから可愛くて同然。
私の溺愛っぷりのせいで自他共に認める孫になっているだけだ。
本物の孫は男ばかり。
最近、結婚をしてこのまま順調にいけば来年の今頃はひい孫が産まれる。
どうも軍人気質なせいか男には厳しく接してしまう。
ひい孫は女児が良い。
リリィのように可愛がるのに。
そんなことを考えながら側に寄るとまた昔のように駆け寄ってすぐに私の手を握る。
デビューもして子供でもないのに。
困った子だと呆れるのに顔からは嬉しくて笑みしか出ない。
「長旅で、お疲れではございませんか?」
気遣いが心地よい。
眼差しも。
ふわふわの幼子の手はすべらかな淑女の肌に変わっている。
大人になったというのに。
私もつい甘やかして叱ることもなくその手を握り返した。
お互いにまだ幼子のような気持ちは抜けない。
甘えて握る手のひらが可愛くてそのまま手を重ねて会話を続けた。
「ふふ、柔ではないのだぞ?昔は軍人だ。あのくらいの長旅なぞどうもない」
逆に野盗が出たら捕まえて逆さに吊るしてやろうと言うと、まあ、と一言。
くすくすと笑って昔のようには信じてくれない。
それもよし。
「お土産があるが王宮の精査が済んでからだ。楽しみにしてなさい」
はい、と素直に。
「ふむ、土産話をと思うが何の話をしようかのぉ」
そう言ってリリィをソファーへ座らせて私もはす向かいの一人がけに座った。
「それなら、ウドルは元気でしたか?」
やはり気になるのは大樹の巨人か。
目を細めてあの大人しい青年を思い浮かべた。
「おお、彼はいい青年だね。もう元気だった」
贈り物をとても喜んでいたと話すと嬉しそうに顔をほころばせ扇で顔を伏せてしまった。
もう少しその喜んだ顔が見たかったのだが。
残念だ。
私からもお礼としてリリィの絵姿を渡したと言うとますます隠れてしまう。
「よ、喜んでくれたかしら?私の絵姿なんて。もっと良いものがあったと思うんですが」
自信のない声がいじましい。
「とても喜んでいた」
扇を少しだけ下げてチラッと私の顔色を伺う。
その仕草が幼くてクスクスと笑った。
「リリィの言う通り、本当に大きな青年で驚いた」
「ウォルおじさまもあんなに大きな人は初めてですか?」
頷いて答えた。
「ないわけではないが。なかなか珍しいね」
体格だけなら軍人向け。
ただどうにも心根の穏やかさが争いに向かない。
「はい、とても大きくて優しい人です」
ぼんやりと物思いに耽っている。
報告書を読んだが、身を呈して庇うものの相手に歯向かうことはなかったとあった。
そのことを思い出しているのだろう。
私もこの目で見て本当に穏やかいい青年だったと思い出した。
代わりにもう一人の友人らしい近衛騎士は勘が良くて闘争心の塊のような男だった。
微かに私のこぼす殺気に気づいて側から片時も離れず、使用人に任せていいような案内や付き添いまで何でもこなしていた。
清廉な貴族的な騎士というより野生の獣のような異質な空気をまとっていたのが印象的だった。
近寄れば実際に獣臭かった。
血と腐肉。
慣れた者なら正体に気づく。
清潔にしていたようだが、甲冑に染みた匂いはなかなか取れんからのぉ。
洗うだけでなく金物以外の革や布地の交換やら分解して裏の溝の清掃もせねばだめだ。
毎日、血を浴びねばあそこまでならん。
死人のような顔色でこいつは一人で泥沼の戦争をしているのかと驚いた。
二人を助けた恩人と思い、何かと気にかけて会話を重ねた。
最後の出立の日には多少ましな血色になり、握手を交わした際にこっそりと騎士らしくない悪党のようなにやけた表情を向けて、また来いよじいさんと囁いた。
お前が来いと答えておいた。
そのためにあの絵姿の裏に連絡の仕方を記した。
いくつか私の子飼いの密偵と繋がるための単語を書いただけなのに、ひと目でそれが何の意味かを察して頷き返していたから気に入った。
やはり王宮だけではなく市井にも詳しい。
この男を我が国に欲しいと思うほど。
この国に執着がないのなら狙えないかと思わず内心で画策してしまった。
もう現場から離れて久しいのに。
気に入ったついでに好きに飛ばせと言って鳥も預けた。
有事の連絡でも構わなかった。
一瞬悩んでいたが受け取って、自分の懇意にしてる商隊を伝えてきた。
やり取りはそこでと指定したことに満足した。
たかが近衛で外にも連絡の手段を持つことに感心し、ますます気に入った。
「お茶が冷めてしまいましたね。新しくご用意します」
「うむ」
孫同然の可愛いリリィにニコニコと笑みを返して頷くとリリィも昔と変わらない可愛らしい笑みで答える。
手ずから新しいお茶を用意する姿を眺めて、見つめる私と目が合うとクスクスと楽しそうに笑った。
「ウォルおじ様、そんなに見つめてたら失敗しそうです」
「小さかった頃を思い出してな。お茶の支度も出来るようになったと思うと楽しい」
変わらないその笑顔にまた満足だ。
もしこの大事な令嬢の微笑みが壊れることがあれば許せなかった。
「おじ様はもとは外交官とお聞きしてましたが、今回行かれると聞いて驚きました。もう随分前に引退されていたでしょう」
「うむ。今回は特別にな」
「すごい方だったんですね。陛下のご指名を受けるなんて」
「昔のことだ。老骨が役に立つなら使命を全うするのみ」
第四王子とリリィへの報復のためだ。
よくも我が国の尊い王子と私の可愛がる孫に。
外交官を勤める第四王子も私の大事な教え子だ。
我が国の四人の王子は能力も人となりも素晴らしい方々。
特に私の厳しい教授にめげない第四王子は気に入っている。
暴挙を知ったのはあちらの連絡が王宮に届いてまもなくのことだった。
陛下から直々に知らされなければ王宮を離れた私はすぐに詳細を知ることはなかった。
リリィの証言は外交官が現地で聞き取りを行い、王宮でも報告をさせている。
報告書にまとめた王子とリリィの証言は後日、陛下に召喚された私へと渡された。
読み終われば額に青筋が浮かんだ。
引退した私に読ませて何をさせたいのかと陛下に尋ねると、逆にどこまで何をすべきかと問われた。
「秘密裏に詫びの親書が届いたものの、我が息子とその婚約者への暴挙をどうしてやろうかと悩んでいる」
陛下も腹に据えかねて目をつり上げて静かにお怒りだった。
そして、あちらの王家に嫁いだ令嬢ふたりも気がかりだと仰った。
本音はご令嬢方を取り返して戦争を考えたそうだが、気がすむだけで何の利はない。
一計が欲しいと相談された。
令嬢らの安否を知りたいということもあり、私が自ら出向いた。
行ってある程度いたぶってみれば何ということのないやり取り。
長年、大量に放流していた密偵達。
彼らの集めた膨大な情報は正確だった。
病弱で政を寝台で行い、貴族の掌握が出来ない陛下が溺愛するのは社交界を居丈高に牛耳る第一王女、片手間に内省をまとめる第二王子。
腹違いの第三王子は王家に相応しくない色と王宮の隅に追いやられて、国から逃げるように外交官として勤めているとあった。
北の寒い国。
歴史が古いばかりで大した武力も資源もない。
何を勘違いしたか。
いや、国民をそうやってコントロールしていたことは有名だった。
血筋と色。
過剰な王家への服従。
他国でも行う当然なことを閉鎖的なあの国はもっと極端に洗脳的に。
面白いと興味があるが、好戦的な我が国の国民性では反発が出て向かないと判断して調べるだけに留めた。
長く国を持続させるひとつの手法。
残念なことは子供らへの教育だ。
国内と外への顔の使い分けを教えていなかった。
最終日はサフィア王子妃の執りなしのもと二人の王子との密談。
第一王女は今後一切、表に出さない。
その代わりに第二王子フィンレーを皇太子にする援助をサフィア王子妃は提案した。
今さら二人の王子しか残っていないのにと思うが、第一王女の悪行で広がった貴族の反発と娘を復帰させようと躍起になる陛下、他国からの干渉が続き遠縁の王家筋の人間が暗躍し始めている。
若い王子二人には手に余る状況だった。
回りを御せず、図に乗るだけの皇太子など関わっても無駄と思ったが。
彼女は多くの宰相を輩出したザボン公爵家の愛娘。
もとは我が国で最大の王妃候補だったサフィア・ザボン公爵令嬢だ。
最もザボン家の厳しい教育と王妃教育を完璧に学んでいた。
恋愛は恐ろしいくらい下手くそだが。
第二王子に恋をするものの冷たくされ諦めずに付きまとっていた。
しかも第二王子が執着するリリィへ暴力沙汰を起こすという短絡ぶり。
しかし政治家として見るなら違う。
長年宰相を勤めるザボン公爵家の秘蔵っ子。
ご嫡男の兄と劣らぬ才覚を持っていた。
次いで第二王子妃の存在も。
一介の伯爵令嬢でありながら、学者顔負けの知識。
話せない言語はないと言われるほど語学は堪能。
各国のマナーや芸術、歴史への造旨も深い。
その数は大陸全土と言われるくらい。
有能だが妹のリリィと違い、計算高く裏表の激しさと美意識の高さから性格に難ありで私には可愛くない。
私をショボくれたじじいと侮って態度が悪い。
挨拶もまともにしない。
肩書きで人を判断する娘だ。
しかし、変わり身の早さとあの抜け目のない性質は外交の交渉に役立つ。
投資するなら才能と才覚のあるこの二人。
内心では有利な取引にほくそ笑み、是と答えていた。
だが、内心を隠して、決断は陛下がされると言ってその場は話を預かることにした。
「老骨からつまらぬ助言をいたしますが、我が国から送りました二人のご令嬢がいれば王子方の望む通りになります。お二人を慈しまれよ」
それだけ告げて帰ってきた。
こちらが負担になるような援助など必要ない。
おそらくサフィア王子妃は理解していた。
そのための密談。
王子達へ釘を刺して欲しかったのだろう。
ただ後押しするだけで、あのふたりに任せればいいだけだと先ほど陛下に伝えた。
持ち帰った結果に満足されていた。
「あついっ、」
ガチャンと大きく陶器のぶつかる音。
「リリィ?」
「………失敗、しました。ポットの熱いところを触れてしまって」
恥ずかしそうに手を押さえてショボくれている。
「早く冷やしなさい」
卓上のベルを鳴らしてメイドへ手を冷やすものを頼んだ。
すぐに冷たい水とタオルが運ばれて、ついでに第四王子も来た。
「………王子までいらっしゃらなくてよろしい。何しに?」
可愛い孫との戯れなのに。
「怪我をしたと聞いて心配したんです。そんなに邪険にしないでください」
「リリィは見られたくなかったでしょうに」
ハッとして王子がリリィを見ると、リリィもバッと勢いよく顔をそらした。
言わんこっちゃない。
失敗するとへこむのだから。
甘えん坊だが、人を頼って慰めを求める性格はしていない。
そこだけは負けん気が強いと言っていい。
「リリィ、ごめん」
「い、いいえ、失敗した私がいけませんでした」
「そんなことないよ」
恥ずかしがって顔をそらすのに王子が慌てて側に寄るから顔を赤くしてますます縮こまる。
孫との時間を邪魔されて文句を言いたいが、王子を慕って恥ずかしがる姿も良い。
子供っぽいとばかり思っていたのだがなぁ。
女性らしく成長したことと仲睦まじい二人のやり取りに少々の淋しさが混じる喜びで相好が崩れた。
~終~
王宮に入れば書類を副官に預けて一番にティールームへ向かった。
陛下には出迎えにお気に入りの令嬢を頼んでいた。
「ウォルおじさま、お帰りなさいませ」
「ただいま」
「ご無事のご帰還、嬉しゅうございます」
可愛い可愛い私の孫。
本当の孫ではないが。
古い友人、と言うより命の恩人の孫娘。
私より少々年上の恩人はとうの昔に亡くなって毎年の墓参りで懐かしさを求めて訪問すると、必ずこの孫娘が顔を出して話し相手を勤めてくれた。
何を話しても喜んで熱心に耳を傾けてなついてたのだから可愛くて同然。
私の溺愛っぷりのせいで自他共に認める孫になっているだけだ。
本物の孫は男ばかり。
最近、結婚をしてこのまま順調にいけば来年の今頃はひい孫が産まれる。
どうも軍人気質なせいか男には厳しく接してしまう。
ひい孫は女児が良い。
リリィのように可愛がるのに。
そんなことを考えながら側に寄るとまた昔のように駆け寄ってすぐに私の手を握る。
デビューもして子供でもないのに。
困った子だと呆れるのに顔からは嬉しくて笑みしか出ない。
「長旅で、お疲れではございませんか?」
気遣いが心地よい。
眼差しも。
ふわふわの幼子の手はすべらかな淑女の肌に変わっている。
大人になったというのに。
私もつい甘やかして叱ることもなくその手を握り返した。
お互いにまだ幼子のような気持ちは抜けない。
甘えて握る手のひらが可愛くてそのまま手を重ねて会話を続けた。
「ふふ、柔ではないのだぞ?昔は軍人だ。あのくらいの長旅なぞどうもない」
逆に野盗が出たら捕まえて逆さに吊るしてやろうと言うと、まあ、と一言。
くすくすと笑って昔のようには信じてくれない。
それもよし。
「お土産があるが王宮の精査が済んでからだ。楽しみにしてなさい」
はい、と素直に。
「ふむ、土産話をと思うが何の話をしようかのぉ」
そう言ってリリィをソファーへ座らせて私もはす向かいの一人がけに座った。
「それなら、ウドルは元気でしたか?」
やはり気になるのは大樹の巨人か。
目を細めてあの大人しい青年を思い浮かべた。
「おお、彼はいい青年だね。もう元気だった」
贈り物をとても喜んでいたと話すと嬉しそうに顔をほころばせ扇で顔を伏せてしまった。
もう少しその喜んだ顔が見たかったのだが。
残念だ。
私からもお礼としてリリィの絵姿を渡したと言うとますます隠れてしまう。
「よ、喜んでくれたかしら?私の絵姿なんて。もっと良いものがあったと思うんですが」
自信のない声がいじましい。
「とても喜んでいた」
扇を少しだけ下げてチラッと私の顔色を伺う。
その仕草が幼くてクスクスと笑った。
「リリィの言う通り、本当に大きな青年で驚いた」
「ウォルおじさまもあんなに大きな人は初めてですか?」
頷いて答えた。
「ないわけではないが。なかなか珍しいね」
体格だけなら軍人向け。
ただどうにも心根の穏やかさが争いに向かない。
「はい、とても大きくて優しい人です」
ぼんやりと物思いに耽っている。
報告書を読んだが、身を呈して庇うものの相手に歯向かうことはなかったとあった。
そのことを思い出しているのだろう。
私もこの目で見て本当に穏やかいい青年だったと思い出した。
代わりにもう一人の友人らしい近衛騎士は勘が良くて闘争心の塊のような男だった。
微かに私のこぼす殺気に気づいて側から片時も離れず、使用人に任せていいような案内や付き添いまで何でもこなしていた。
清廉な貴族的な騎士というより野生の獣のような異質な空気をまとっていたのが印象的だった。
近寄れば実際に獣臭かった。
血と腐肉。
慣れた者なら正体に気づく。
清潔にしていたようだが、甲冑に染みた匂いはなかなか取れんからのぉ。
洗うだけでなく金物以外の革や布地の交換やら分解して裏の溝の清掃もせねばだめだ。
毎日、血を浴びねばあそこまでならん。
死人のような顔色でこいつは一人で泥沼の戦争をしているのかと驚いた。
二人を助けた恩人と思い、何かと気にかけて会話を重ねた。
最後の出立の日には多少ましな血色になり、握手を交わした際にこっそりと騎士らしくない悪党のようなにやけた表情を向けて、また来いよじいさんと囁いた。
お前が来いと答えておいた。
そのためにあの絵姿の裏に連絡の仕方を記した。
いくつか私の子飼いの密偵と繋がるための単語を書いただけなのに、ひと目でそれが何の意味かを察して頷き返していたから気に入った。
やはり王宮だけではなく市井にも詳しい。
この男を我が国に欲しいと思うほど。
この国に執着がないのなら狙えないかと思わず内心で画策してしまった。
もう現場から離れて久しいのに。
気に入ったついでに好きに飛ばせと言って鳥も預けた。
有事の連絡でも構わなかった。
一瞬悩んでいたが受け取って、自分の懇意にしてる商隊を伝えてきた。
やり取りはそこでと指定したことに満足した。
たかが近衛で外にも連絡の手段を持つことに感心し、ますます気に入った。
「お茶が冷めてしまいましたね。新しくご用意します」
「うむ」
孫同然の可愛いリリィにニコニコと笑みを返して頷くとリリィも昔と変わらない可愛らしい笑みで答える。
手ずから新しいお茶を用意する姿を眺めて、見つめる私と目が合うとクスクスと楽しそうに笑った。
「ウォルおじ様、そんなに見つめてたら失敗しそうです」
「小さかった頃を思い出してな。お茶の支度も出来るようになったと思うと楽しい」
変わらないその笑顔にまた満足だ。
もしこの大事な令嬢の微笑みが壊れることがあれば許せなかった。
「おじ様はもとは外交官とお聞きしてましたが、今回行かれると聞いて驚きました。もう随分前に引退されていたでしょう」
「うむ。今回は特別にな」
「すごい方だったんですね。陛下のご指名を受けるなんて」
「昔のことだ。老骨が役に立つなら使命を全うするのみ」
第四王子とリリィへの報復のためだ。
よくも我が国の尊い王子と私の可愛がる孫に。
外交官を勤める第四王子も私の大事な教え子だ。
我が国の四人の王子は能力も人となりも素晴らしい方々。
特に私の厳しい教授にめげない第四王子は気に入っている。
暴挙を知ったのはあちらの連絡が王宮に届いてまもなくのことだった。
陛下から直々に知らされなければ王宮を離れた私はすぐに詳細を知ることはなかった。
リリィの証言は外交官が現地で聞き取りを行い、王宮でも報告をさせている。
報告書にまとめた王子とリリィの証言は後日、陛下に召喚された私へと渡された。
読み終われば額に青筋が浮かんだ。
引退した私に読ませて何をさせたいのかと陛下に尋ねると、逆にどこまで何をすべきかと問われた。
「秘密裏に詫びの親書が届いたものの、我が息子とその婚約者への暴挙をどうしてやろうかと悩んでいる」
陛下も腹に据えかねて目をつり上げて静かにお怒りだった。
そして、あちらの王家に嫁いだ令嬢ふたりも気がかりだと仰った。
本音はご令嬢方を取り返して戦争を考えたそうだが、気がすむだけで何の利はない。
一計が欲しいと相談された。
令嬢らの安否を知りたいということもあり、私が自ら出向いた。
行ってある程度いたぶってみれば何ということのないやり取り。
長年、大量に放流していた密偵達。
彼らの集めた膨大な情報は正確だった。
病弱で政を寝台で行い、貴族の掌握が出来ない陛下が溺愛するのは社交界を居丈高に牛耳る第一王女、片手間に内省をまとめる第二王子。
腹違いの第三王子は王家に相応しくない色と王宮の隅に追いやられて、国から逃げるように外交官として勤めているとあった。
北の寒い国。
歴史が古いばかりで大した武力も資源もない。
何を勘違いしたか。
いや、国民をそうやってコントロールしていたことは有名だった。
血筋と色。
過剰な王家への服従。
他国でも行う当然なことを閉鎖的なあの国はもっと極端に洗脳的に。
面白いと興味があるが、好戦的な我が国の国民性では反発が出て向かないと判断して調べるだけに留めた。
長く国を持続させるひとつの手法。
残念なことは子供らへの教育だ。
国内と外への顔の使い分けを教えていなかった。
最終日はサフィア王子妃の執りなしのもと二人の王子との密談。
第一王女は今後一切、表に出さない。
その代わりに第二王子フィンレーを皇太子にする援助をサフィア王子妃は提案した。
今さら二人の王子しか残っていないのにと思うが、第一王女の悪行で広がった貴族の反発と娘を復帰させようと躍起になる陛下、他国からの干渉が続き遠縁の王家筋の人間が暗躍し始めている。
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ご嫡男の兄と劣らぬ才覚を持っていた。
次いで第二王子妃の存在も。
一介の伯爵令嬢でありながら、学者顔負けの知識。
話せない言語はないと言われるほど語学は堪能。
各国のマナーや芸術、歴史への造旨も深い。
その数は大陸全土と言われるくらい。
有能だが妹のリリィと違い、計算高く裏表の激しさと美意識の高さから性格に難ありで私には可愛くない。
私をショボくれたじじいと侮って態度が悪い。
挨拶もまともにしない。
肩書きで人を判断する娘だ。
しかし、変わり身の早さとあの抜け目のない性質は外交の交渉に役立つ。
投資するなら才能と才覚のあるこの二人。
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それだけ告げて帰ってきた。
こちらが負担になるような援助など必要ない。
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そのための密談。
王子達へ釘を刺して欲しかったのだろう。
ただ後押しするだけで、あのふたりに任せればいいだけだと先ほど陛下に伝えた。
持ち帰った結果に満足されていた。
「あついっ、」
ガチャンと大きく陶器のぶつかる音。
「リリィ?」
「………失敗、しました。ポットの熱いところを触れてしまって」
恥ずかしそうに手を押さえてショボくれている。
「早く冷やしなさい」
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すぐに冷たい水とタオルが運ばれて、ついでに第四王子も来た。
「………王子までいらっしゃらなくてよろしい。何しに?」
可愛い孫との戯れなのに。
「怪我をしたと聞いて心配したんです。そんなに邪険にしないでください」
「リリィは見られたくなかったでしょうに」
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言わんこっちゃない。
失敗するとへこむのだから。
甘えん坊だが、人を頼って慰めを求める性格はしていない。
そこだけは負けん気が強いと言っていい。
「リリィ、ごめん」
「い、いいえ、失敗した私がいけませんでした」
「そんなことないよ」
恥ずかしがって顔をそらすのに王子が慌てて側に寄るから顔を赤くしてますます縮こまる。
孫との時間を邪魔されて文句を言いたいが、王子を慕って恥ずかしがる姿も良い。
子供っぽいとばかり思っていたのだがなぁ。
女性らしく成長したことと仲睦まじい二人のやり取りに少々の淋しさが混じる喜びで相好が崩れた。
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