60 / 315
先生
しおりを挟む
そのままぐるぐる浅瀬を泳いでやると、きゃっきゃと喜んだ。余裕があれば泳いだまま濡れた耳を触って水中の尻尾を足でつついてくる。ムラッとするからやめてほしい。完全に緊張が抜けて慣れた頃に岸を離れて深いところまで泳ぐ。
怖いらしくてヒェッと小さく叫び、ぎゅっとしがみついて身体が強張った。
「力を抜け。沈む」
「うぅ、」
「魚がいるぞ」
「え、どこ?」
「見たいか?」
「見たいです」
「力を抜いておけ」
流れは緩やかだがかなり深い。
私でも足がつかない。
立ち泳ぎに変えて背中にいるエヴ嬢を横に捕まえた。
「あそこ」
「あ、本当だ。いっぱいいる」
その後も深いところと浅瀬を繰り返して泳ぐ。
緊張が解れて手を引いてやると多少はばた足で泳ぐ真似事はできた。
「水に慣れたようだな。楽しいか?」
「はい、楽しいです」
「少し休憩を挟もう」
岸に上がり事前に支度していた焚き火の側に座らせる。
エヴ嬢には厚手の大きなタオルを被せてわしわしと頭を拭いてやった。
冷えたせいで顔色が悪い。
「湯を飲め。身体を温めろ」
飲んでいる間、桶に湯を張り手拭いを浸して絞る。
着替えさせたいがそうもいかない。
毛布にくるんで程よい熱さの手拭いを顔や首に当てて世話をした。
「団長ー、俺達も休憩を挟んでいいっすかー?」
リーグの声に手を振って招く。
死屍累々とまではいかないが、焚き火の側まで来て手足と胸当ての甲冑を脱げずにヤン達はぐったりと突っ伏し、濡れたまま休まないでくださいとリーグが手早く脱がせてる。
向こう岸まで泳いだダリウスとスミスだけは遅れて上がった。いつものしれっとした態度だ。人狼化した私より少し大きい体格を持つのだから当然かもしれない。赤銅色の太い筋肉を持つオーガと違い、病み上がりのヤンと筋肉の付きづらいエルフだから仕方がない。
「ダリウスの身体能力の高さに感謝だな、スミス」
「…そのようです」
神妙な顔付きに教える手間がかかってるようだと分かる。
エヴ嬢を抜いて各々が甲冑を脱ぎ、大判のタオルを巻いたり肩にかけたりと腰巻きひとつだ。
エヴ嬢は皆の裸体を気にする風でもなくお湯を飲んで私の世話を受けている。
鈍感さに思うところはあるが子供と思えば心の中で納得する。
それにしても番の世話は楽しい。
こんなに楽しいとは知らなかった。
楽しみながら焚き火に当たり冷えた身体を暖めていると、甲冑を脱いだダリウスが雫を垂らしたまま私に手を出すので顔を見る。
手拭いを渡せってことかと察する。
「休むといい。さすがに疲れたろう」
「いえ」
渡す気はないので断るのにまた、ずいっと手を向ける。
「気にするな」
再度断るも圧を強めて目を反らそうとしない。
穏便に済ませたいが手放したくなくて手が止まる。
「エヴ嬢、顔色が悪いっすね。大丈夫っすか?気持ち悪くない?団長、まだ水泳続けさせるんすか?可哀想っす」
「えー?リーグさん、私そんなに悪そうですか?平気です」
「最初の顔色と比べるとですねぇ。無理はダメっすよ?初めてなんですから?」
「むぅ…無理じゃないです。ヤン達と同じくらいやれます」
「あー、そりゃぁ出来ないっすね。身体が小さいんだから俺達より早く冷えちゃうし、着衣水泳から始めて体力の減りもガンガンっすよ。1日で出来るもんでもないし意地だけでやっちゃダメっす」
「今日はもうダメですか?楽しかったのに」
「んー、俺は止めたがいいと思いますよ。ほら?空は雲が出てきてますよね?そうなると日が陰って寒くなるし、ずぶ濡れで休んで続きをしても風邪引くっす。こっちの二人もちょっと怪しいから切り上げたいっすね。団長、今日はいいっすよね?もう上がって」
リーグが指を差すので空を見上げれば厚い雲が太陽を遮っていた。
火に当たるのに顔色がなかなか回復しないのも体調を我慢しているのだろう。
ぎゅっと力を入れて丸まっていたので気づかなかったが、空を見上げて体を伸ばした時に全身が小さく震えているのが分かった。
「三日ほど予定を考えている。構わん」
頷くと三人は不承不承抜けることになった。
ヤン達も限界を悟ってるようで体力の少なさを悔しがる様子に、リーグが1日でここまで出来たと各々の上達を口にして、湯に入って芯から暖めるようにと細かく指示を出していた。
「分かりました。暖かくして気を付けますね。リーグさん、ありがとうございます」
「エヴ嬢、オレが下っぱっすよ?口調は砕けて呼び捨てしてください。身分はクレイン領のお姫様なんですから。絶対っすよ?」
「リーグさんが先生なのに?私、生徒ですよ」
「あー、なるほど。だから敬語なんすね。でもオレがいいって言ってるからいいんすよ?分かってもらえました?」
「はぁい。分かりました。じゃあ、また明日ね?リーグ。団長、スミスさん、また明日お世話になります。ダリウス、頑張ってね?」
一礼したヤン達に付き添われ、毛布にくるまってニコニコと手を振る後ろ姿を見送った。
怖いらしくてヒェッと小さく叫び、ぎゅっとしがみついて身体が強張った。
「力を抜け。沈む」
「うぅ、」
「魚がいるぞ」
「え、どこ?」
「見たいか?」
「見たいです」
「力を抜いておけ」
流れは緩やかだがかなり深い。
私でも足がつかない。
立ち泳ぎに変えて背中にいるエヴ嬢を横に捕まえた。
「あそこ」
「あ、本当だ。いっぱいいる」
その後も深いところと浅瀬を繰り返して泳ぐ。
緊張が解れて手を引いてやると多少はばた足で泳ぐ真似事はできた。
「水に慣れたようだな。楽しいか?」
「はい、楽しいです」
「少し休憩を挟もう」
岸に上がり事前に支度していた焚き火の側に座らせる。
エヴ嬢には厚手の大きなタオルを被せてわしわしと頭を拭いてやった。
冷えたせいで顔色が悪い。
「湯を飲め。身体を温めろ」
飲んでいる間、桶に湯を張り手拭いを浸して絞る。
着替えさせたいがそうもいかない。
毛布にくるんで程よい熱さの手拭いを顔や首に当てて世話をした。
「団長ー、俺達も休憩を挟んでいいっすかー?」
リーグの声に手を振って招く。
死屍累々とまではいかないが、焚き火の側まで来て手足と胸当ての甲冑を脱げずにヤン達はぐったりと突っ伏し、濡れたまま休まないでくださいとリーグが手早く脱がせてる。
向こう岸まで泳いだダリウスとスミスだけは遅れて上がった。いつものしれっとした態度だ。人狼化した私より少し大きい体格を持つのだから当然かもしれない。赤銅色の太い筋肉を持つオーガと違い、病み上がりのヤンと筋肉の付きづらいエルフだから仕方がない。
「ダリウスの身体能力の高さに感謝だな、スミス」
「…そのようです」
神妙な顔付きに教える手間がかかってるようだと分かる。
エヴ嬢を抜いて各々が甲冑を脱ぎ、大判のタオルを巻いたり肩にかけたりと腰巻きひとつだ。
エヴ嬢は皆の裸体を気にする風でもなくお湯を飲んで私の世話を受けている。
鈍感さに思うところはあるが子供と思えば心の中で納得する。
それにしても番の世話は楽しい。
こんなに楽しいとは知らなかった。
楽しみながら焚き火に当たり冷えた身体を暖めていると、甲冑を脱いだダリウスが雫を垂らしたまま私に手を出すので顔を見る。
手拭いを渡せってことかと察する。
「休むといい。さすがに疲れたろう」
「いえ」
渡す気はないので断るのにまた、ずいっと手を向ける。
「気にするな」
再度断るも圧を強めて目を反らそうとしない。
穏便に済ませたいが手放したくなくて手が止まる。
「エヴ嬢、顔色が悪いっすね。大丈夫っすか?気持ち悪くない?団長、まだ水泳続けさせるんすか?可哀想っす」
「えー?リーグさん、私そんなに悪そうですか?平気です」
「最初の顔色と比べるとですねぇ。無理はダメっすよ?初めてなんですから?」
「むぅ…無理じゃないです。ヤン達と同じくらいやれます」
「あー、そりゃぁ出来ないっすね。身体が小さいんだから俺達より早く冷えちゃうし、着衣水泳から始めて体力の減りもガンガンっすよ。1日で出来るもんでもないし意地だけでやっちゃダメっす」
「今日はもうダメですか?楽しかったのに」
「んー、俺は止めたがいいと思いますよ。ほら?空は雲が出てきてますよね?そうなると日が陰って寒くなるし、ずぶ濡れで休んで続きをしても風邪引くっす。こっちの二人もちょっと怪しいから切り上げたいっすね。団長、今日はいいっすよね?もう上がって」
リーグが指を差すので空を見上げれば厚い雲が太陽を遮っていた。
火に当たるのに顔色がなかなか回復しないのも体調を我慢しているのだろう。
ぎゅっと力を入れて丸まっていたので気づかなかったが、空を見上げて体を伸ばした時に全身が小さく震えているのが分かった。
「三日ほど予定を考えている。構わん」
頷くと三人は不承不承抜けることになった。
ヤン達も限界を悟ってるようで体力の少なさを悔しがる様子に、リーグが1日でここまで出来たと各々の上達を口にして、湯に入って芯から暖めるようにと細かく指示を出していた。
「分かりました。暖かくして気を付けますね。リーグさん、ありがとうございます」
「エヴ嬢、オレが下っぱっすよ?口調は砕けて呼び捨てしてください。身分はクレイン領のお姫様なんですから。絶対っすよ?」
「リーグさんが先生なのに?私、生徒ですよ」
「あー、なるほど。だから敬語なんすね。でもオレがいいって言ってるからいいんすよ?分かってもらえました?」
「はぁい。分かりました。じゃあ、また明日ね?リーグ。団長、スミスさん、また明日お世話になります。ダリウス、頑張ってね?」
一礼したヤン達に付き添われ、毛布にくるまってニコニコと手を振る後ろ姿を見送った。
0
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる