人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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屋台

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10年の寝たきりは本人が話したので全員が知るところだ。
だが、そんな病状は知らなかったようで驚愕から誰も言葉を発しない。

「そうだったんですね」

「ああ。余計なことを言った。忘れろ」

「はい」

エドと共に天幕を出る。

「団長は、だから大事にされるんだな」

「ああ、お二人がご成婚されるといいな」

「知らなかった。結婚秒読みかと思ってた。いつも引っ付いてるから、」

後ろから話し声が聞こえて、エドがまた天幕を開けた。

「声が漏れてるぞ。箝口令だ。お前ら、番のことは忘れろ」

叱責に慌ただしく返事が聞こえた。

「あとは頼んだ」

鍵を手渡す。現金と湯のタオルだけ持って行くつもりだった。

「分かりました。ごゆっくり。夜も食事を取ってから戻られてください」

「出来るならそうする」

そう言って陣から出て街へ向かった。
公衆浴場は町のど真ん中にある。
道中、荷車に魔獣を載せた荷車がいくつも通って、聞いていたよりかなり行き交う人が多かった。
避難していた住民の多くが戻り、新しく移住者も増えて活気に満ち溢れ商店街には店や商品が並んでいる。
果物をひとつ買って齧りながら歩いた。
意外と屋台も多く見受けられて、次はどれにしようも品物を物色した。
串焼きの肉を買って頬張る。
王都と違う味付けを楽しみながらエールをひとつ買った。
さあ次だとふらふらと屋台に並んで食事を楽しんだ。
腹が満たされて目的の公衆浴場へ向かう。

「あら?グリーブス様?あらぁ?」

声に振り向くと天幕の荷物運びに協力したご婦人が立っていた。

「やあ、ご婦人。先日は世話になった」

「あらー?!やっぱりグリーブス様!お耳は?それに少し小さくなったような?」

「獣化を解くとこうなる」

「あらー?!それでもいい男だよっ!」

満面の笑みに苦笑いする。元気な声に思ったより頭痛がする。どうにも疲れている。

「昨日から大変でしたね、私達もバタバタでしたよ」

「そうか、怪我などはないか?他のご婦人方も」

「ああ、みーんな元気でさぁ!グリーブス様と領主様のおかげで!だから今日もこうして街が元気なんですよ」

ありがとうございますと元気良く笑う。
命を張った甲斐があったと誇らしさに胸が熱くなった。

「元気そうで何より。本当に嬉しく思う。貴女方を守るために尽力尽くせたのなら誇らしい」

「守るだなんて、外で戦う男どもに負けてらんないさ、私ら女だって街を守るために何だってやるからね。そうだ、あそこ、うちの兄とうちの息子の飯屋なんだけど食べていきませんか?」

「申し訳ない。ちょうど屋台で食べ終えてしまった」

「そうかい、またいつでもお越しください。うちの奴らにはちゃんと伝えておくんで。いつ来ても良いように」

お風呂、ごゆっくりと言って騒々しく離れていった。
浴場に向かうと伝えてないのにと手元を見て、これで察したのかなと独りごちた。
脱衣場で服を脱いだら浴場の番台に財布を預けた。
番号の書いた木札を首にかけて扉のない大浴場に入る。
同じように来ていた団員らとすれ違うと久しぶりに獣化を解いた姿に目を向けられた。
尋ねる者には、たまにはなと答える。
湯船に浸かって一息入れる。
他の客同士の話しぶりから露天があるらしく、そちらへと足を向けた。
王都でも珍しいほど湯船が並んでいた。
冷たいのからぬくいの、暑い温度の風呂と寝転がれる風呂。
基本的に大きな浴場がひとつあれば上等なのに、ここはうちの団員を全員入れても余裕な程広く湯船の種類が豊富だ。
横になりたくて寝転がれる風呂を選んでそちらへと向かった。
低い湯船の中、藤で編まれた枕を頭に敷いて仰向けに転がっていると見知らぬ客と隣同士になる。
話しかけられたら適当に会話をして過ごした。
教えてもらったが、どうやら地面からかなり熱い湯が湧くらしく水を引いて温度を調整するそうだ。
温泉は王都にもある。
他領にも。
効能はそれぞれ。
だが、大衆が使える温泉は数が少ない。
金のある奴らが独占している。
大衆向けで、ここのように大きくて風呂の数が多いのは見たことがない。

「珍しい」

「そうでしょう、ここの自慢なんですよ。見かけない顔だけど、その傷の山を見ればわかりますぜ。特にその立派なガタイと品のいい話し方は王都からの兵隊さんでしょ?当たったかい?」

「ああ」

「やっぱり!そうだと思ったんですよ!ピーンと来て!ここで楽しんでくださいよ」

怪我に効きますからと笑った。

「領団の兵隊さんもだし、お宅さんらのおかげで助かったんだ。今度、うちの飯屋にも顔を出してください。安くしますから。おっと、眠そうですね。いけね!昨日も大変だったんだ。申し訳ねぇ、旦那。お邪魔様、どうぞ、ごゆっくり」

私が気のない様子でただ頷くだけだったのを気にして賑やかな男は離れていった。
気持ちが元気ならもっとしゃべりたかったが、寝不足と疲れで瞼が重い。
目の上にタオルを被せてしばらくぼーっと過ごした。
時折あれをどうしたもんかとよぎる。
この途方にくれた感じは昔、王命で婚約者にされかけた時以来だ。
他にあったかと記憶を辿るが、大して思いつかない。
殴ってどうにかなるなら殴るし、言葉で丸め込めるなら丸めた。
あの頑ななエヴ嬢だって時間をかけてほだす気でいる。
王都には手紙を送った。
返信と共に迎えが来るはず。
おそらく向こうでは不在に大騒ぎしている。
さすがにこの危険な地に大手を振って送り出したと思えない。
一層のこと担いで馬車に詰め込むか?
触れたらこれ幸いに結婚だなんだと騒ぐから触りたくない。
何度あったか。
グラスの受け渡しで手が触れただけで結婚しろと騒いで、その時は私の侍っていた女性らがそのくらいでやめなさいと諌めて回りは笑った。
あとはなんだ?
今の地位につく前だ。
階段から走ってきて転んで受け止めたら、お礼の前に抱いたのだから結婚しろと脅迫された。
何を言うんだと見ていたエドや他の団員らが一緒になって上に掛け合ってくれたんだ。
その後も、私がちゃんと受け止めないから怪我をしたので責任をとれと母親に迫られた。
困るのがなんでも本気にする叔父の前陛下だ。
尻馬に乗る父親のパティ公爵と押しの弱い現陛下。
毎回、白が黒に変わる瞬間、父をはじめとした一族で抵抗したから今まで無事だった。
国内随一の武力を盾に人狼のグリーブス家は番以外の婚姻は許さんと。
なのに、この歳で獣化せず、年々圧力も強まり兄からはあれが嫌なら番が見つかるまで風避けに他の女と契約結婚してはどうかと提案されていた。
心配から見合いをさせようと父と画策していた。
もし番が見つかってその契約結婚の相手が別れなかったら、結婚して本当にあれが諦めるのかと思ってなかなか踏み切れず、ならこのまま遊ぶ方がいいと手当たり次第。
見合いの画策は嫌だったが、今まで守られていたとしみじみ思う。
ここには押し退けて対抗出来る奴がいない。
迎えが来るまで待つか、追い返すほどの失態をしてくれるか。
待つ間の身の置き所を考えた。
リーグと同じようにクレイン領団に混じろうか。
庶民嫌いのあれなら探しに来ないかもしれない。
あちらの剣技は多種多様で楽しそうだ。
相談してみようか、それかうちの団員と対決させてみたい、自分も戦ってみたいと、あれこれ想像して楽しくなった。
しかし、そこまで考えてさすがに迷惑かと苦笑いをする。
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