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勢い
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「ふー、俺達の分かることはこれだけですよ。まだお聞きになりたいですか?」
「聞くのは楽しい」
「そうですか。でも、俺はこれで。酔いを冷まさないと」
「酔ってない」
笑うと微かに口角が上がる。クレイン領は酒蔵も有名で酒豪が多い。顔色ひとつ変えずボトル半分を一人で飲み干し、やはりブラウンも酒には強いようだ。
ボトルを傾けると黙ってグラスを向ける。
「開けたからには呑むといい」
「こんないい酒は初めてです。尊敬するグリーブス団長とさしで呑めるのも光栄です」
機嫌よく答えた。
私もグラスに口をつけて付き合い、土産だとボトルを2本持たせた。
ひとつはベアード殿に、もうひとつは世話役に通ってる彼らと呑めと言うと喜んでいた。
「君らには足らんだろうな」
世話役はブラウンを含めて三人だ。
だが、ブラウンのしっかりした足取りから他の者も酒豪なら足らないだろうと思えた。
「いえいえっ、俺達にこんないい酒ひとつで充分ですよ。貰ってばかりですね。傷薬も感謝してます」
額から瞼の傷を撫でて呟く。
頬や首、手にもかなり大きな痕が残っているが、失明や欠損がないことは幸いだった。
「こちらも団員が世話になっている」
「リーグですね。あいつは良くしてくれます」
「どうだ?馴染めているか?」
「ええ、それはかなり。最初はひょろいから鍛練をどうこなすか心配でしたが、驚くほど持久力がありますし、器用で回りが教えた武器を上手く扱います。腰が低くて賢い。でも物怖じせずによくしゃべる。お嬢様達を含めて皆のお気に入りですね」
「あいつらしい」
「夜はここに寝泊まりしてるんですよね?本人から報告はないんですか?」
「自己評価が低い。なんとかやっているとしか答えない」
「そうですか?意外です。まだ若いからですかねぇ」
「かもな」
ブラウンと共にエヴ嬢との待ち合わせ場所へ向かった。
街側に面した陣の出入り口だ。
先に来て待っていたので謝罪をするといつも通り穏やかに微笑む。
清拭だけの日は鎧姿だ。
「よお、ラウル。昔話に花が咲いたぞ。お前のおかげで話が尽きない」
「は?何?勝手に人のことを」
私がエヴ嬢と話す間に話しかけられたラウルは不機嫌そうにブラウンを睨む。
「クソガキだった話だ」
「ふんっ、うるせぇ」
罰が悪いらしくそっぽを向いた。
「あれは悪かった。反省してるよ」
「ああ、反省しろよ?」
がっと頭を掴んでぐしゃぐしゃ混ぜた。
何も言い返さず、珍しくされるがままのラウルに目が行く。
「安心しろ、お前だけじゃない。なあ、坊っちゃん?」
「う、」
恥ずかしそうに呻いて頭を下げる。
「甘ったれでした。勘弁してください」
「ああ、もちろん坊っちゃん。分かってますよ。それにしても二人とも立派になった。昔からは想像つかない」
「…分かってないじゃないか。もう言うなよ」
拗ねたラウルが小声でぼやく。
「誉めてんだぞ?」
「誉められてる気がしないっての」
「恨み買ってんだ。諦めろ。自分のことを棚にあげて馬鹿なことをするからだ。団長への体当たり止めとけ?人を呪わば穴二つだ。分かるか?」
「俺はラウルに巻き込まれたか。何をした?」
ダリウスが困ったと眉を下げてラウルに尋ねる。
「…分かった。団長、すいません」
「怒ってはいない。毎回、頭に突進されるのは困っていたが」
「恩人だということを忘れるな。お前の非礼は領の不利益だ」
「…すいません」
「ガキ。成長しろ」
「ううっ」
ブラウンの説教に膨れていじけた。
「ラウルが困らせたようですね。申し訳ありません」
「気にするな、ヤン。鳥が頭に突っ込むだけだ。痛くはないが毎回、衝撃がある。特別仕様らしい。本当に術式の幅広さには驚かされる」
「そうでしたか。重ね重ね申し訳ありませんでした。…ラウル、もう少し考えて動け」
「痛くないようにはした。あだっ!」
「バカたれっ」
ブラウンから後頭部に平手を食らった。
「いてぇ、」
「この跳ねっ返りが。坊っちゃん、あんたがお目付け役だ。甘やかすのはいい加減にしろっ」
「すいません」
ますます眉を下げてでかい身体を恐縮に縮こまらせている。
「…良かったですね。二人とも。私からの忠告でなくて」
びくっと二人の身体が揺れた。
「罰としてギリギリまで吸い上げるか、余った魔力をたっぷり詰め込んでみますか?慣れたとは言えどちらも一気にすると苦しいでしょう?」
「そうやって躾けたのか?」
「ええ、昔はどちらも扱いかねて迷惑でしたが、エヴ様から吸った魔力の器にちょうどいいと割りきって引き取りました。オーガとエルフ、どちらも器として大きいのでとても助かりました。感謝してますよ?二人とも。…すぐに役に立つようになったので解放しましたけど」
「よく逃げなかったな」
「…逃げられなかったんだよ。死ぬぎりぎりを狙いやがる。ドレインを使えないように封印したのにごり押しでぶち破った。それがムカついたから、大人しく従っていつかやり返そうと思ったんだけど」
「最近も試しましたが、まだ跳ね返せますからね」
「あり得ないんだよ、こいつ」
「誉め言葉と受けとりましょう。では、早速」
「ごめんって!反省してるから!ヤン!」
にぎにぎと両手を向けた途端、悲鳴のように叫んで後ずさり、ダリウスが慌てて制した。
「出掛けるから、今は勘弁してくれ」
「そうですか。今はね。では、後で。二人とも覚悟しときなさい」
「後もやだってば!本当にもうしないから!」
「ヤン、許してあげないの?もう良くない?ラウル、もうしないよね?」
「はいっ」
「ね?ヤン。もう良いよね?ダリウスも反省してるよね?」
「はい」
「ヤンも、ダリウスの優しい所とラウルの思いきりがいい所が助かるって誉めてたじゃない。自分にはないって。良いところあるからもう許そうよ。喧嘩だめだよ?」
「…このタイミングで」
ヤンが渋く顔を歪めた。
「二人もヤンは頼りになるっていつも言うよ?私も仲良しの三人が好きだから仲直りして?ブラウンも叱るのは終わり」
「お嬢様が一番甘いんだから。失礼があったんです。許さないでください」
「じゃあ、わ、私の管理不届き!責任は私の!もう終わりっ」
ブラウンとヤンは、ぎょっと目を丸くした。
「聞くのは楽しい」
「そうですか。でも、俺はこれで。酔いを冷まさないと」
「酔ってない」
笑うと微かに口角が上がる。クレイン領は酒蔵も有名で酒豪が多い。顔色ひとつ変えずボトル半分を一人で飲み干し、やはりブラウンも酒には強いようだ。
ボトルを傾けると黙ってグラスを向ける。
「開けたからには呑むといい」
「こんないい酒は初めてです。尊敬するグリーブス団長とさしで呑めるのも光栄です」
機嫌よく答えた。
私もグラスに口をつけて付き合い、土産だとボトルを2本持たせた。
ひとつはベアード殿に、もうひとつは世話役に通ってる彼らと呑めと言うと喜んでいた。
「君らには足らんだろうな」
世話役はブラウンを含めて三人だ。
だが、ブラウンのしっかりした足取りから他の者も酒豪なら足らないだろうと思えた。
「いえいえっ、俺達にこんないい酒ひとつで充分ですよ。貰ってばかりですね。傷薬も感謝してます」
額から瞼の傷を撫でて呟く。
頬や首、手にもかなり大きな痕が残っているが、失明や欠損がないことは幸いだった。
「こちらも団員が世話になっている」
「リーグですね。あいつは良くしてくれます」
「どうだ?馴染めているか?」
「ええ、それはかなり。最初はひょろいから鍛練をどうこなすか心配でしたが、驚くほど持久力がありますし、器用で回りが教えた武器を上手く扱います。腰が低くて賢い。でも物怖じせずによくしゃべる。お嬢様達を含めて皆のお気に入りですね」
「あいつらしい」
「夜はここに寝泊まりしてるんですよね?本人から報告はないんですか?」
「自己評価が低い。なんとかやっているとしか答えない」
「そうですか?意外です。まだ若いからですかねぇ」
「かもな」
ブラウンと共にエヴ嬢との待ち合わせ場所へ向かった。
街側に面した陣の出入り口だ。
先に来て待っていたので謝罪をするといつも通り穏やかに微笑む。
清拭だけの日は鎧姿だ。
「よお、ラウル。昔話に花が咲いたぞ。お前のおかげで話が尽きない」
「は?何?勝手に人のことを」
私がエヴ嬢と話す間に話しかけられたラウルは不機嫌そうにブラウンを睨む。
「クソガキだった話だ」
「ふんっ、うるせぇ」
罰が悪いらしくそっぽを向いた。
「あれは悪かった。反省してるよ」
「ああ、反省しろよ?」
がっと頭を掴んでぐしゃぐしゃ混ぜた。
何も言い返さず、珍しくされるがままのラウルに目が行く。
「安心しろ、お前だけじゃない。なあ、坊っちゃん?」
「う、」
恥ずかしそうに呻いて頭を下げる。
「甘ったれでした。勘弁してください」
「ああ、もちろん坊っちゃん。分かってますよ。それにしても二人とも立派になった。昔からは想像つかない」
「…分かってないじゃないか。もう言うなよ」
拗ねたラウルが小声でぼやく。
「誉めてんだぞ?」
「誉められてる気がしないっての」
「恨み買ってんだ。諦めろ。自分のことを棚にあげて馬鹿なことをするからだ。団長への体当たり止めとけ?人を呪わば穴二つだ。分かるか?」
「俺はラウルに巻き込まれたか。何をした?」
ダリウスが困ったと眉を下げてラウルに尋ねる。
「…分かった。団長、すいません」
「怒ってはいない。毎回、頭に突進されるのは困っていたが」
「恩人だということを忘れるな。お前の非礼は領の不利益だ」
「…すいません」
「ガキ。成長しろ」
「ううっ」
ブラウンの説教に膨れていじけた。
「ラウルが困らせたようですね。申し訳ありません」
「気にするな、ヤン。鳥が頭に突っ込むだけだ。痛くはないが毎回、衝撃がある。特別仕様らしい。本当に術式の幅広さには驚かされる」
「そうでしたか。重ね重ね申し訳ありませんでした。…ラウル、もう少し考えて動け」
「痛くないようにはした。あだっ!」
「バカたれっ」
ブラウンから後頭部に平手を食らった。
「いてぇ、」
「この跳ねっ返りが。坊っちゃん、あんたがお目付け役だ。甘やかすのはいい加減にしろっ」
「すいません」
ますます眉を下げてでかい身体を恐縮に縮こまらせている。
「…良かったですね。二人とも。私からの忠告でなくて」
びくっと二人の身体が揺れた。
「罰としてギリギリまで吸い上げるか、余った魔力をたっぷり詰め込んでみますか?慣れたとは言えどちらも一気にすると苦しいでしょう?」
「そうやって躾けたのか?」
「ええ、昔はどちらも扱いかねて迷惑でしたが、エヴ様から吸った魔力の器にちょうどいいと割りきって引き取りました。オーガとエルフ、どちらも器として大きいのでとても助かりました。感謝してますよ?二人とも。…すぐに役に立つようになったので解放しましたけど」
「よく逃げなかったな」
「…逃げられなかったんだよ。死ぬぎりぎりを狙いやがる。ドレインを使えないように封印したのにごり押しでぶち破った。それがムカついたから、大人しく従っていつかやり返そうと思ったんだけど」
「最近も試しましたが、まだ跳ね返せますからね」
「あり得ないんだよ、こいつ」
「誉め言葉と受けとりましょう。では、早速」
「ごめんって!反省してるから!ヤン!」
にぎにぎと両手を向けた途端、悲鳴のように叫んで後ずさり、ダリウスが慌てて制した。
「出掛けるから、今は勘弁してくれ」
「そうですか。今はね。では、後で。二人とも覚悟しときなさい」
「後もやだってば!本当にもうしないから!」
「ヤン、許してあげないの?もう良くない?ラウル、もうしないよね?」
「はいっ」
「ね?ヤン。もう良いよね?ダリウスも反省してるよね?」
「はい」
「ヤンも、ダリウスの優しい所とラウルの思いきりがいい所が助かるって誉めてたじゃない。自分にはないって。良いところあるからもう許そうよ。喧嘩だめだよ?」
「…このタイミングで」
ヤンが渋く顔を歪めた。
「二人もヤンは頼りになるっていつも言うよ?私も仲良しの三人が好きだから仲直りして?ブラウンも叱るのは終わり」
「お嬢様が一番甘いんだから。失礼があったんです。許さないでください」
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