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表に馬の繋がれた店に着くとブラウンが二階から手を振っていた。
「お待ちしておりました」
中へ入ると賑やかな店内だった。
注目を浴びるが、騒ぐなと周知しているために側に寄る者はいない。
ひとりが拍手をし、店内に広がる。
「こんばんは、皆さん」
エヴ嬢がペコリと頭を下げて、ブラウンと店主が挨拶に出てくると皆は静かになり各々が食事に戻った。
二階へ案内され腰かけると、元気のいいご婦人が大きな木の盆を抱えて食事を届けにきた。
「先にいくつかご用意させていただきました!お腹すいたでしょう?」
「こんばんは、ご婦人。こちらには個室があるのだな、助かった」
「ようございました!汚いところだけど寛いでおくんなまし」
もとは客向けではなく親戚一同が集まって会食する場らしい。
部屋の隅にごちゃごちゃと荷物が寄せてある。その中に子供向けの玩具や揺りかごがあった。
ご婦人に注文を頼む間、エヴ嬢はそれらを見つけてリーグに説明を求め、ひとつひとつ眺めた。
ブラウンも同席し、皆で次々運ばれる料理に舌鼓を打つ。
リーグとブラウンで気を利かせて働き、時折、階下や窓の外を眺めて周囲の警戒も怠らない。
その様子に、ダリウスは倣って動く。
ブラウンへ色々と今後の自分の気を付けることや足りない部分を相談していた。
「討伐の腕は確実に坊っちゃんだ。だが、魔人以外の対応に経験が浅い。要人の警護はベアード団長が得意だからお話を聞け。いいな?無口だから聞かないと答えないぞ?聞いても口数が少ない」
うんうんと頷くダリウスに優しく目を細めた。
「坊っちゃんの素直さは美徳だ。それなのにお前ときたら、」
「う、」
二人のやり取りを隠れるようにただじっと見つめていたラウルに呆れて声をかける。
「跳ねっ返りめ。知りたいなら聞け」
「…分かった」
「手当たり次第、術式で片付けようとするなよ。ったく。二人を足して割るとちょうどいいのかもな」
二人を相手に人を想定した要人の警護について話し合う。
「いい先生が見つかったな、ヤン」
「ええ、本当に。私も勉強になります」
「エヴ嬢も守られる立場を理解してもらわねばな」
「え?私、強いのに?」
「力は関係ない時もある。簡単なのは身分だ。上に逆らうということはクレイン領全体に被害がある場合がある」
「あ、はい。分かります」
「上が理不尽な時もある。魔獣と違い、人間相手だと殴って終わりは出来ない。気をつけて動かねばならないし、安易に頷くな。時には否定さえ言えない時もある。ジェラルド伯やヤン達を頼るようにしろ」
想像がつかないようで視線がさ迷っている。
「そうだな。例えば相手から誰かのことを非難する話題を出されて、あなたがそんなことないと否定をする。そんなはずはないと強く言われて頷くまで話を続ける。諦めてそうかもしれないと濁す。すると、相手はあなたが言ったと言い触らす」
「へ?自分で言ったのに?」
「そうだ。頷いたり同意の素振りを見せるだけで言ったことにされる。口が上手い奴ならあなた一人に責任を負わせるのは簡単だ。気を付けろ」
「そんなの、どうやって気を付ければいいですか?」
「人目のある大人数で動き、不穏な話題には参加しないこと。あと、人となりが分かるまで観察することだ。あなたと同じ考えの者を探せばいい」
「嘘をつかれたら?」
「あなたなら見抜ける」
不安そうにヤンへと目が移る。
ヤンも不安そうにこちらを見た。
「あなたの回りは真の意味で忠誠を持つさまざまな人格者ばかりだ。目が肥えている。母君とヤンのおかげで甘い言葉に騙されることもない。己を律する強さがある。良い指導者に恵まれたと感謝するといい」
「はい」
顔を赤らめて頷いた。
ヤンも少し顔が赤い。
「団長に会えて良かったです。私の先生の一人です」
「私は妻として迎えたいとおも、」
「え、やだ」
話の腰を折って早い即答に頭を抱えた。
「相変わらず…」
ぐっさり刺さった痛みで唸った。
「…すげぇ反応」
隣のリーグがぼそっと呟く。
「それは私へか?」
軽く睨むと苦笑いをしながら首を振る。
「エヴ嬢の反応の早さっす。ここで言う団長の強さにも感動しましたが」
目を伏せたヤンは聞かない振りに食事を進め、ラウル達は話に夢中でこちらの会話には気づいてない。
「抜け目ないっす。さすが団長」
淡々と話すリーグの感情は読めない。
以前より感情の変化を隠すのが上手くなった。
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