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淫魔

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「団長、ごめんなさい。番なのに」

「謝るな。その一言だけで嬉しい。あなたが決心した時でいい」

「はい」

このやり取りで私との婚姻は是非を待つだけと分かる。
本人の中でしっかりと意識に根付いてる。
あとはこちらが不安を解消していかねばならない。
それさえも楽しさがある。
ヤンはちらっとエヴ嬢を寂しげに見つめ、それだけでエヴ嬢の心情の変化を妨げることもじわじわ迫る私を払うつもりもない。
本当に隙が多い、ありがたいが危なっかしいと心の中で呟いた。

「またお越しください」

食後、エヴ嬢が代金の支払いをした。

「どうして合わないんだろう?お釣りが多い」

「サービスが多かったんですよ。頼んだ分の計算は合っています」

ブラウンの説明に納得し、夜道を歩いて帰る。
後ろからブラウンが馬の手綱を引いて付き従う。
遅くなったため、商店街は静かで繁華街の方が明るく喧騒が響く。

「あっちは何のお店ですか」

興味を引かれて寄っていくエヴ嬢の腕を掴んだ。

「こら、フラフラするな」

「行ってみたいです」

「だめだ」

「遅くなりましたので早く戻らねばなりません」

「帰りますよ」

ヤンとラウルも慌てて先を促す。

「あちらは貴族令嬢にはよろしくない。聞くのもだめだ」

「でも、何かいます」

「何か?何のことだ?」

「誰かいるんです。少しだけ、会ってみたいです」

ぱっと腕を振り切って走り出した。

「エヴ嬢!」

「エヴ様っ」

人混みに混ざってすり抜けて小さな身体を見失った。

「こっちだ」

ヒムドの繋がりがある。
私達はブラウンをその場に残しラウルを先頭に追いかけると、大きな娼館の前で客引きに立つ女達へと話しかけるエヴ嬢を見つけた。

「何のつもりだっ」

肩を掴んで振り向かせると向かいに対峙した数人の女達は膝をついた。

「なんだ?」

青ざめて震える女、憧れに紅潮した者、反応は様々だが、それぞれ畏敬を抱いて拝んでる。
それぞれ下位の淫魔に多い羊や山羊の角を持っている。

「淫魔の、上位種。尊き方。御目見えを感謝いたします。あなた様の御名を」

「やめろ、勘違いだ。行くぞ」

女達の口上に慌ててエヴ嬢を引きずって繁華街から出ていく。

「どういうことだ?」

人気のない道中、尋ねた。
こちらは気色ばむのに、それをぼんやりと見つめ返している。

「あの近くにいたら気配があったので、気になったんです。なんか、懐かしいみたいな?知らない人達なのに会えてよかった。嬉しい。何でだろう」

分からない話に目を見合わせた。
ラウルだけ分かったようで小声で囁く。

「多分、共鳴したんだ。精力を探す魔人は無意識に魔力の網を張る。それが同種の伝達手段でもあるから」

封印を急がなきゃと呟いた。

「…腹を空かせているのか?」

「え、い、いいえっ」

慌て具合に嘘だと分かった。意識した途端、溢れた魅了に執着が見えた。

「そうか」

がっと胸ぐらを掴んで引き寄せて指を口に突っ込み一気に精力を流した。

「嘘はよくない」
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