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子供
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それから引きこもりだ。
リーグの運んだ昼食をひとり櫓で取る。
付き添おうとしたが、大型討伐の休息ためにあいつは休みの予定だった。
午前中から忙しくエドとクレイン領団の橋渡しのために駆け回っていた。
いいから休めと言えば、顔を渋らせていたが大人しく引き下がった。
昼は静かなもので、中休みになれば気を効かせたブラウンがクレイン領の皆で作った飯を差し入れして、もうひとりのバークスという領団の若い男が湯を運んできた。
「助かる」
さっさと脱いで手拭いを湿らせて身体を拭いた。
午前中で汗をかいて水を浴びたかった。
ぐしぐしと顔を拭ってさっぱりして気持ちいい。
二人とも気にしないということなのでこちらも気にせず真っ裸だ。
「すいません、水の方がいいのか分からなくて、熱めの湯でよかったですか?」
「ああ、どちらも気持ちいい。今は熱めでよかった」
肩に温めた手拭いを乗せて自分でコリをほぐす。
「良かったらこいつに揉ませましょうか?上手いですよ」
こっち座ってと椅子へ手招きされた。
「そうなのか?」
「なんでかこいつが揉むと筋違いや打ち身の治りが早いんですよ。そういう魔法使いです」
「隊長、ちげぇし。うちは指圧師だって何度も言うてるでしょ?」
「ブラウン、分かってて連れてきたんだろう?」
「まあ、そうですね。うちのお勧めです」
確かにブラウンの勧めに心が動いた。
椅子に座ってバークスへ笑いかける。
「そんなに上手いなら頼んでいいか?」
「へへ、ばあちゃん直伝なんでマジ自信あります。うわぁ、かったぁ、かてぇっすね」
手拭いの上から肩の筋肉を揉んで固さに何度も驚いていた。
「上手いな。気持ちいい。これだけ上手いならいずれ実家を継ぐのか?」
「正確には継ぎません。兄弟多いし、でも今は暖簾分け頼んでるところです」
「自警団か?」
「はい、金ほしいからまだ戻る気ないんです。団でやるのも勉強兼営業ですね」
「商魂逞しい。いいことだ」
しばらくして眠さにあくびが出た。
寝転がったまま揉みましょうかと聞かれ頷いた。
寝台でうつ伏せに転がってしてもらってるうちに眠ってしまった。
微かにブラウンとバークスの、寝かせときましょうとかお疲れなんですね、とかお客さんになってくんないかなーとか、小さな会話が聞こえた。
ふと、辺りの暗さに気づいて目が覚めた。
まだ眠たくて視界がボンヤリする。
掛けられたシーツの上からだが、背中の辺りを揺さぶられてる気配にパッと目を開いた。
「なん、だ?わ!」
起きて背中を見ると金髪の女の子がいた。
一瞬、ペリエ嬢かと思い焦ったが匂いが違う。
「やっと、起きたぁ。団長ぉ、お父様とお兄様がぁ、ふえ、うええん、」
「エヴ嬢?」
黒髪ではなくなぜか金髪、変わらない紫の瞳と鈴のような声、一回り小さくなったエヴ嬢だった。
匂いで間違えようがない。
「団長ぉ、聞いてよぉ」
ひんひん泣いてお父様が、お兄様がと言うが意味が分からない。
まず金髪になって小さくなったことが分からない。
「髪の色はどうした?なぜ小さくなった?」
「髪は元からこの色だよ、黒なんかじゃないもん。皆と一緒だもん、変だもん、ふえ、」
小さいせいか泣いてるせいなのか幼くなって要領が得ない。
話を聞いてからと好きなだけしゃべらせるとジェラルド伯とロバート殿にとうとう嫌われたと泣いた。
髪の色のせいだ、頭が悪いせいだと延々泣く。
ますます分からなくなってきた。
お二人がそんなことになるわけがないのに。
「そうか、その話を聞いてほしかったんだな。それでどうやってここに来た?」
シーツを腰に巻いて寝台に胡座で座って向かい合っていたが、泣いて抱っこをせがむので今は膝の上だ。
小さなエヴ嬢はだぼだぼの薄い寝間着を着て余って垂れた袖を肘まで巻くっている。
以前、泊まった日に着ていた物にとても似ていた。
「え?来た?どこに?」
「私のところだ。ここは敷地の端にある櫓だ」
「団長が来てくれたんでしょ?私のところ」
首を捻って考える。
どうにも部屋は櫓の一室だ。
バークスの指圧の後からずっと眠っていたはず。
「私はどこにも行っていない。来たのはあなただ」
「私?んー…、じゃあ、これ夢だよ。私、皆でご飯を食べたあと天幕で寝たもん」
「ヤン達とか?」
「皆だよ。陣中でお祭りだったの」
それでね、と話を続けようとしたら部屋の扉が開いた。
「あ、起きてますか?今、クレイン領団の宴会から戻りました。スゴかったすよー。マジで面白かったっす。ちょっとやべぇことありましたが。これ、皆から差し入れっす」
月明かりに照らされて扉からテーブルまでをすたすたと歩き、テーブルに篭を置いて蝋燭に火をつけている。
「リーグ、ちょっと待て、まだ着けるな」
「リーグ!」
「酒と摘まみ届けに来ました。ん?え?はぁ?!えっ?!!ちょ、だれっすか?!その子!」
リーグの運んだ昼食をひとり櫓で取る。
付き添おうとしたが、大型討伐の休息ためにあいつは休みの予定だった。
午前中から忙しくエドとクレイン領団の橋渡しのために駆け回っていた。
いいから休めと言えば、顔を渋らせていたが大人しく引き下がった。
昼は静かなもので、中休みになれば気を効かせたブラウンがクレイン領の皆で作った飯を差し入れして、もうひとりのバークスという領団の若い男が湯を運んできた。
「助かる」
さっさと脱いで手拭いを湿らせて身体を拭いた。
午前中で汗をかいて水を浴びたかった。
ぐしぐしと顔を拭ってさっぱりして気持ちいい。
二人とも気にしないということなのでこちらも気にせず真っ裸だ。
「すいません、水の方がいいのか分からなくて、熱めの湯でよかったですか?」
「ああ、どちらも気持ちいい。今は熱めでよかった」
肩に温めた手拭いを乗せて自分でコリをほぐす。
「良かったらこいつに揉ませましょうか?上手いですよ」
こっち座ってと椅子へ手招きされた。
「そうなのか?」
「なんでかこいつが揉むと筋違いや打ち身の治りが早いんですよ。そういう魔法使いです」
「隊長、ちげぇし。うちは指圧師だって何度も言うてるでしょ?」
「ブラウン、分かってて連れてきたんだろう?」
「まあ、そうですね。うちのお勧めです」
確かにブラウンの勧めに心が動いた。
椅子に座ってバークスへ笑いかける。
「そんなに上手いなら頼んでいいか?」
「へへ、ばあちゃん直伝なんでマジ自信あります。うわぁ、かったぁ、かてぇっすね」
手拭いの上から肩の筋肉を揉んで固さに何度も驚いていた。
「上手いな。気持ちいい。これだけ上手いならいずれ実家を継ぐのか?」
「正確には継ぎません。兄弟多いし、でも今は暖簾分け頼んでるところです」
「自警団か?」
「はい、金ほしいからまだ戻る気ないんです。団でやるのも勉強兼営業ですね」
「商魂逞しい。いいことだ」
しばらくして眠さにあくびが出た。
寝転がったまま揉みましょうかと聞かれ頷いた。
寝台でうつ伏せに転がってしてもらってるうちに眠ってしまった。
微かにブラウンとバークスの、寝かせときましょうとかお疲れなんですね、とかお客さんになってくんないかなーとか、小さな会話が聞こえた。
ふと、辺りの暗さに気づいて目が覚めた。
まだ眠たくて視界がボンヤリする。
掛けられたシーツの上からだが、背中の辺りを揺さぶられてる気配にパッと目を開いた。
「なん、だ?わ!」
起きて背中を見ると金髪の女の子がいた。
一瞬、ペリエ嬢かと思い焦ったが匂いが違う。
「やっと、起きたぁ。団長ぉ、お父様とお兄様がぁ、ふえ、うええん、」
「エヴ嬢?」
黒髪ではなくなぜか金髪、変わらない紫の瞳と鈴のような声、一回り小さくなったエヴ嬢だった。
匂いで間違えようがない。
「団長ぉ、聞いてよぉ」
ひんひん泣いてお父様が、お兄様がと言うが意味が分からない。
まず金髪になって小さくなったことが分からない。
「髪の色はどうした?なぜ小さくなった?」
「髪は元からこの色だよ、黒なんかじゃないもん。皆と一緒だもん、変だもん、ふえ、」
小さいせいか泣いてるせいなのか幼くなって要領が得ない。
話を聞いてからと好きなだけしゃべらせるとジェラルド伯とロバート殿にとうとう嫌われたと泣いた。
髪の色のせいだ、頭が悪いせいだと延々泣く。
ますます分からなくなってきた。
お二人がそんなことになるわけがないのに。
「そうか、その話を聞いてほしかったんだな。それでどうやってここに来た?」
シーツを腰に巻いて寝台に胡座で座って向かい合っていたが、泣いて抱っこをせがむので今は膝の上だ。
小さなエヴ嬢はだぼだぼの薄い寝間着を着て余って垂れた袖を肘まで巻くっている。
以前、泊まった日に着ていた物にとても似ていた。
「え?来た?どこに?」
「私のところだ。ここは敷地の端にある櫓だ」
「団長が来てくれたんでしょ?私のところ」
首を捻って考える。
どうにも部屋は櫓の一室だ。
バークスの指圧の後からずっと眠っていたはず。
「私はどこにも行っていない。来たのはあなただ」
「私?んー…、じゃあ、これ夢だよ。私、皆でご飯を食べたあと天幕で寝たもん」
「ヤン達とか?」
「皆だよ。陣中でお祭りだったの」
それでね、と話を続けようとしたら部屋の扉が開いた。
「あ、起きてますか?今、クレイン領団の宴会から戻りました。スゴかったすよー。マジで面白かったっす。ちょっとやべぇことありましたが。これ、皆から差し入れっす」
月明かりに照らされて扉からテーブルまでをすたすたと歩き、テーブルに篭を置いて蝋燭に火をつけている。
「リーグ、ちょっと待て、まだ着けるな」
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