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失神
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以前、エヴが使った貴人牢だった。
中から怒鳴り声が聞こえてくる。
「この無礼者!筆頭公爵パティ家の公爵令嬢をこんな汚い部屋にいつまで閉じ込める気なの!いい加減に出しなさい!」
どんどんと扉を叩く音も。
中の椅子やテーブルは床に張り付けてあるので動かせない。
拳で叩いてるはずだ。
ガチャン、ゴン、と激しい音が聞こえるがおそらく部屋に置かれた水差しやコップも木か金属を使ってあるだろう。
割れるようなものは使われない。
見張りの二人がげんなりと私達へ頭を下げた。
「世話の女が二人いたんですが、ひとり突き飛ばされて腰を痛めました。付き添いでもうひとりが医者のところへ連れていってます」
「最低ね」
叩き続ける扉に、どごん、とエヴが一発、扉を殴り返した。
一瞬静かになったが、中から負けじと怒鳴り声が響く。
「暴力になんか負けないわよ!高貴な私が、」
扉の小窓を開けてエヴが中を覗いた。
「暴力を振るったのはあなたですよ。迷惑なんでやめてください」
「ぎゃぁぁぁ!なんであんたがここにいるのよぉ!」
「うるさ、」
奥へ走って逃げる気配にエヴは小窓を閉めて見張りに鍵を開けろと指示を出した。
中へひとりずかずか入り扉を閉めた。
「一応、他の男性は入れないように気を使ってるんですよ?これじゃ、世話人の女性を用意できません」
「あんな平民の年寄り、私に相応しくないわ!しわしわの汚い手で触られるなんて許せない!」
「失礼な人ですね?それに仕方ないでしょう?あなた達が泥棒して団員に暴力を振るったからです。しかも将来性の高い団員に再起不能な怪我をさせたせいです。しかも辺境伯令嬢の私と間違えて。もとは私狙いなんて悪質すぎます。貴族の暗殺は重罪ですよ」
自業自得ですと言い切った。
「私は許されるのよ!」
「誰が許すんですか?このクレイン領で。領外での犯罪はその土地の法に任されるんです。自領ならパティ公爵、王都なら大公が庇っておられたのでしょう。今はここの法に従って処罰します。あ、良ければ王都へお手紙書きますか?反省のなさをどうぞ晒してください」
あちらから扉を叩いて、便箋とペンを持ってきてと指示が来る。
見張りのひとりが走って取りに向かった。
戻れば小窓から手渡した。
「ありがとう」
「いえ、とことんお願いします」
「お母様みたいに出来るか分からないけど」
「片鱗はお持ちですよ」
ふふ、と中から笑い声が聞こえる。
「…強いな」
ぼそっと呟くと見張りは誇らしげに笑い、ヤンはなんとも言えない顔で神妙に頷いた。
「…怒ると、ですね。普段はおっとりされているのですが」
中からペリエ嬢の怒鳴り声がいつまでも響きエヴがだからなんだと理路整然と言い返している。
「あなたが犯罪をしなければよかっただけです。私の持ち物まで盗っていたと聞いて驚きました。そういう物はご自分で買ってください」
「盗ったなんて言いがかりだわ!私のために用意されたんだから使って当然よ!」
「あれは私の部屋です。あなたのためのものではありません。客間が気に入らなくて勝手に私の部屋に移ったんでしょう?大人しく案内された部屋を使うべきです」
「ふん、あなたより私の方が似合うわ」
「似合う似合わないはどうでもいいんですよ。あれは家族が私に用意したものです。勝手に持ち出して良いものではありません。そういうことが分からないからこの部屋に閉じ込めることになったんです。反省してください」
「みすぼらしい部屋を用意するのがいけないのよ」
「ここは戦場です。最近、やっと衣食住がまともになっただけで贅沢なんて公衆浴場くらいしかありません。そんな場所に先触れもなく押し掛けて豪華な部屋をねだるのはパティ家の教えですか?教育が疑われます」
ばちんと肌を叩く音に扉をこじ開けた。
「エヴ!」
「生意気よ!まともな礼も出来ないくせに!」
ペンを逆手に握ってエヴを押し倒していた。
「やめろ!」
服の背中あたりを掴んで引き離した。
「か、カリッド様!」
後ろには気色ばんだヤンとダリウスがいる。
みしっと軋む音に目を向ければダリウスは壁を掴んでヒビを入れていた。
「男性が女性の部屋にずかずか入らないでください。全員、出て」
エヴは呆れ顔で立ち上がって腰垂れのシワを手ではたいて伸ばした。
「主が叩かれて許す気になりませんが?」
怒りに威圧を放つヤンの低い声にペリエ嬢はびくっと体を揺らす。
「守護持ちだよ?このくらい」
何でもない顔で肩の革に刺さったペンを抜いてテーブルに置いた。
「書くつもりがないのならこれは片付けますね。こちらの世話人が気に入らないならもう付けません。支度は自分でどうぞ」
テーブルの便箋とペンを片付けて扉に向かうと、ペリエ嬢のあまりの静かさを不審に思い後ろを振り向いた。
「お姫様?」
私もペリエ嬢へ目線を向ける。
「ひ、ひゃ!か、かか、カリッド様が目の前にぃ!ひぃ!」
目が合うと顔をますます赤く染める。
尻餅をついて転げるようにテーブルの奥へと逃げていった。
ひいひい言いながら私の名前を何度も呟いて震えていた。
「あああっ!カリッド様がぁ!カリッド様がいらっしゃるううう!同じ部屋ぁ!同じ空気を!はああ!ああ!」
変態にドン引きしているとはあはあと過呼吸を起こして倒れた。
「ええ?!お姫様?!」
中から怒鳴り声が聞こえてくる。
「この無礼者!筆頭公爵パティ家の公爵令嬢をこんな汚い部屋にいつまで閉じ込める気なの!いい加減に出しなさい!」
どんどんと扉を叩く音も。
中の椅子やテーブルは床に張り付けてあるので動かせない。
拳で叩いてるはずだ。
ガチャン、ゴン、と激しい音が聞こえるがおそらく部屋に置かれた水差しやコップも木か金属を使ってあるだろう。
割れるようなものは使われない。
見張りの二人がげんなりと私達へ頭を下げた。
「世話の女が二人いたんですが、ひとり突き飛ばされて腰を痛めました。付き添いでもうひとりが医者のところへ連れていってます」
「最低ね」
叩き続ける扉に、どごん、とエヴが一発、扉を殴り返した。
一瞬静かになったが、中から負けじと怒鳴り声が響く。
「暴力になんか負けないわよ!高貴な私が、」
扉の小窓を開けてエヴが中を覗いた。
「暴力を振るったのはあなたですよ。迷惑なんでやめてください」
「ぎゃぁぁぁ!なんであんたがここにいるのよぉ!」
「うるさ、」
奥へ走って逃げる気配にエヴは小窓を閉めて見張りに鍵を開けろと指示を出した。
中へひとりずかずか入り扉を閉めた。
「一応、他の男性は入れないように気を使ってるんですよ?これじゃ、世話人の女性を用意できません」
「あんな平民の年寄り、私に相応しくないわ!しわしわの汚い手で触られるなんて許せない!」
「失礼な人ですね?それに仕方ないでしょう?あなた達が泥棒して団員に暴力を振るったからです。しかも将来性の高い団員に再起不能な怪我をさせたせいです。しかも辺境伯令嬢の私と間違えて。もとは私狙いなんて悪質すぎます。貴族の暗殺は重罪ですよ」
自業自得ですと言い切った。
「私は許されるのよ!」
「誰が許すんですか?このクレイン領で。領外での犯罪はその土地の法に任されるんです。自領ならパティ公爵、王都なら大公が庇っておられたのでしょう。今はここの法に従って処罰します。あ、良ければ王都へお手紙書きますか?反省のなさをどうぞ晒してください」
あちらから扉を叩いて、便箋とペンを持ってきてと指示が来る。
見張りのひとりが走って取りに向かった。
戻れば小窓から手渡した。
「ありがとう」
「いえ、とことんお願いします」
「お母様みたいに出来るか分からないけど」
「片鱗はお持ちですよ」
ふふ、と中から笑い声が聞こえる。
「…強いな」
ぼそっと呟くと見張りは誇らしげに笑い、ヤンはなんとも言えない顔で神妙に頷いた。
「…怒ると、ですね。普段はおっとりされているのですが」
中からペリエ嬢の怒鳴り声がいつまでも響きエヴがだからなんだと理路整然と言い返している。
「あなたが犯罪をしなければよかっただけです。私の持ち物まで盗っていたと聞いて驚きました。そういう物はご自分で買ってください」
「盗ったなんて言いがかりだわ!私のために用意されたんだから使って当然よ!」
「あれは私の部屋です。あなたのためのものではありません。客間が気に入らなくて勝手に私の部屋に移ったんでしょう?大人しく案内された部屋を使うべきです」
「ふん、あなたより私の方が似合うわ」
「似合う似合わないはどうでもいいんですよ。あれは家族が私に用意したものです。勝手に持ち出して良いものではありません。そういうことが分からないからこの部屋に閉じ込めることになったんです。反省してください」
「みすぼらしい部屋を用意するのがいけないのよ」
「ここは戦場です。最近、やっと衣食住がまともになっただけで贅沢なんて公衆浴場くらいしかありません。そんな場所に先触れもなく押し掛けて豪華な部屋をねだるのはパティ家の教えですか?教育が疑われます」
ばちんと肌を叩く音に扉をこじ開けた。
「エヴ!」
「生意気よ!まともな礼も出来ないくせに!」
ペンを逆手に握ってエヴを押し倒していた。
「やめろ!」
服の背中あたりを掴んで引き離した。
「か、カリッド様!」
後ろには気色ばんだヤンとダリウスがいる。
みしっと軋む音に目を向ければダリウスは壁を掴んでヒビを入れていた。
「男性が女性の部屋にずかずか入らないでください。全員、出て」
エヴは呆れ顔で立ち上がって腰垂れのシワを手ではたいて伸ばした。
「主が叩かれて許す気になりませんが?」
怒りに威圧を放つヤンの低い声にペリエ嬢はびくっと体を揺らす。
「守護持ちだよ?このくらい」
何でもない顔で肩の革に刺さったペンを抜いてテーブルに置いた。
「書くつもりがないのならこれは片付けますね。こちらの世話人が気に入らないならもう付けません。支度は自分でどうぞ」
テーブルの便箋とペンを片付けて扉に向かうと、ペリエ嬢のあまりの静かさを不審に思い後ろを振り向いた。
「お姫様?」
私もペリエ嬢へ目線を向ける。
「ひ、ひゃ!か、かか、カリッド様が目の前にぃ!ひぃ!」
目が合うと顔をますます赤く染める。
尻餅をついて転げるようにテーブルの奥へと逃げていった。
ひいひい言いながら私の名前を何度も呟いて震えていた。
「あああっ!カリッド様がぁ!カリッド様がいらっしゃるううう!同じ部屋ぁ!同じ空気を!はああ!ああ!」
変態にドン引きしているとはあはあと過呼吸を起こして倒れた。
「ええ?!お姫様?!」
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