人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

文字の大きさ
169 / 315

二枚舌

しおりを挟む
「ずっと辛くて悲しかったの!カリッド様に避けられて。エステートや侍女達はずっと知恵を出して応援してくれたけど、上手くいかなくて、段々本当に私のために言ってるのか分からなくなった。私のためだと皆、どんどん過激なことを言うし、でも私のためだからと信じたのにっ」
「はあ、そうですか」
しがみつくペリエ嬢に怪我をさせないように両手をあげて自由にさせている。
紋様は引いて強化が解けているのに気づいていない。
私はペリエ嬢の熱の真意を理解した。
またか、という思いで腹が立って壁に指をめり込ませていた。
「でも、あなただけが私のことも叱って、カリッド様にも向き合えと強く言ってくれた。嬉しかったの。そしたら、エステート達はからかいや悪ふざけであんなことを私にやらせていたと気づいて、それに比べて、会って間もないのにあなたときたら。私、あなたにひどいことばかりしていたのに。今も私に怒っているのに怪我を気にしていて優しいわ。本当に優しいのはあなたなのね。カリッド様やエステート達でもなく、」
一旦落ち着こうと一呼吸入れてる間にペリエ嬢が次々と言葉を紡ぐ。
「エヴ!強化は解けている!こちらへ来るんだ!」
「あ、はいっ」
「だめよ!」
「うわ、」
こちらへ来ようとするエヴを羽交い締めにして捕まえた。
「カリッド様はずるいのよ!私の恋心を10年も無視して無下にしたのに!その上にこの方まで私から盗るなんていやよ!渡さないから!」
「この、私の番だと言うのにっ」
ふざけるなと怒鳴るのと踏み出しそうな足を堪えて思わず頭が下がる。
激情から身体に強化がかかり、みしみしと掴んだ石壁が割れていく。
「私も大概なことをしましたよ?拐ったし、魔獣と戦わせたり」
「いいの、私を諌めるためでしょう?魔獣をけしかけたのだって、私が泣いたら必ず助けてくれたわ。不甲斐ないエステートのことも叱って狼藉をとめてくれた。悔しかったけどあの時、嬉しくてあなたのことを格好良いいと思ったのよ?」
素敵だったわと、頬擦りして喜んでいる。
握りつぶした石壁の一部は砕けて粉だ。
後ろから見張りがひぃぃと叫んでいる。
「私はお姫様のことあんまり好きじゃありませんよ?どちらかと言えば嫌いです」
「そ、そんなこと言わないで?悪いところ治すからっ」
「こういうことするから嫌なんです。離してください」
「だって、やっと素直になれたのに。離れたくないものっ。次にいつ会えるか分からないし、」
「治す気あります?」
首に巻かれた腕をほどきたがるのにますます頬に顔を埋めていやいやと頭を振った。
「止めてください、げっ、やめ、本当に離れてっ」
私と目が合い殺気におののいた。
「また団長が怒るから嫌なんだってば!」
「いやよっ!行かないで!」
「分かった!分かったから!あ!罪を償ってから!うちとの揉め事がちゃんと治まったら、お友達として、」
「いずれ恋人に?!」
「なるか!私の番だ!」
思わず怒鳴ると見張りがひえっと叫ぶ。
「…やっぱ、あのお姫さん根性あるぞ」
すげぇと二人の声が小さく聞こえた。
「そんな根性いるか!エヴ!いい加減に、」
「もうっ、なんで私が怒られるんですか?!」
「恋人でもないくせに呼び捨てしないでくださいまし!ご本人からまだ何もないのはお聞きしてますのよ!」
「本人っ?!エヴ!いつそんなことを言った!?」
「わ!ごめんなさいっ、天幕で、言い合いした時、」
「ええ、そうですわ。好かれてはらっしゃらないようですわね?番だけどカリッド様のことはどうでもいい、私とあなたのいさかいに巻き込むなと大変お怒りでしたの。私とカリッド様ふたりで勝手に結婚でもなんでもしろと大勢の前で、」
「そんなことを言ったのか?!エヴ!」
ごっと壁に手がめり込んでデカイ穴が開いた。
「わー!ごめんなさい!だって、お姫様が婚約者だって言うから、あの時は勢いで!団長!怒んないでよぉ!」
「簡単に騙されるんじゃない!」
やはり嘘を吹き込んでいたせいで拗れていたんだ。
「お姫様が嘘つくからです!嘘つかないでください!」
「嘘じゃないわ。あの時は将来のって意味よ。言ってなかっただけ」
「ええ!何それ!」
しれっと涼しい顔で答えてエヴがショックを受けている。
ペリエ嬢も王宮の手練手管に慣れているのだから、このくらいのことは平気でする。
「それにしてもいやだわ、そんなに声を荒げてみっともなくってよ?そんなに心が狭くて狂暴な男とは知らなかったわ。ねえ、あなた、国一番の不誠実な狼男より私の方がいいでしょう?顔が好きって言ってたじゃない?」
「中身が嫌いです!」
「そんなぁ!」
即座の返答に悲痛な声をあげた。
その隙に腕から逃れてこっちへ走ってきた。
横をすり抜けようとしたのをがっしり捕まえて腕に閉じ込める。
「はっ、いい気味だ。やったことの報いと思え」
言い捨てて強く扉を閉めてさっさと戻ろうとしたのに。
「あ、明かりとペンを忘れた」
無言で小窓を開けた。
「ペンと明かりを」
インクはいいと付け足す。
安全のために明かりと尖ったペンは回収していかねばならない。
放火と自傷の予防だ。
自棄になった者がよく起こす。
「あなたじゃなきゃ嫌」
黙ってエヴと交代したらペンと火の消えた燭台を小窓の隙間から差し出した。
受け取ってエヴが手を引こうとしたら指を掴んでいた。
「…ねえ、私のことそんなに嫌いかしら?どうしたら好いてくださるの?」
「え?…そんなの、分かりません。ここを乱したこともどうかと思うし、ラウル達にしたことは許せないんです」
「…そう、謝罪を続けるしかないわね。もう一度明かりとペンを貸して。その二人に謝罪を書くわ。叔父にも、父にももっとお願いするから」
エヴが私へと視線を送るので、横に首を振った。
必要な手紙はもう手元にあるので必要ない。
「書きたければ明日だ。エヴ以外の女性を遣る。明日、呼んだ世話人に不満なら書かなくていい」
また乱暴するようなら世話人は外す。
そのつもりで伝えると静かに了承の答えが返ってきた。
「平民と卑下したことも改めるわ。あなたの大切な人に、ごめんなさい」
小窓を閉める間際、隙間から早口でエヴの訴えた。
それを黙らせるように、かしゃんと金属の留め具を落として閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

処理中です...