人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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八つ当たり

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回りが忙しく立ち回る中、喧騒の真ん中で私は号泣のエヴにしがみつかれている。
人目があるがどうしようかと首をかしげた。
慰めに肩なり頭なりに手を添えて撫でたい。
だが、エヴが揶揄されるような事態は避けたい。
そんなことを考えているうちに、ずびずびと盛大に鼻をすする音に眉をひそめた。
「エヴ、鼻水つけてるだろう?」
懐から手拭いを出して顔と胸の隙間に滑り込ませて、エヴの顔をグリグリと拭いて上を向かせた。
「令嬢が人前でこんなに鼻を垂らすな。団長でもあるのに」
「ふえっ、えっく、ごめっ、ごめんなさいぃ、うぇ、えっ、ひ、んっ」
でも怖かったのぉと、幼く目を擦り舌っ足らずに口にする言い訳が可愛い。
回りも同じようなもので生暖かい目でうんうんと頭を揺らして微笑んでいた。
「見慣れないなら大の男だって裸足で逃げ出しますよ。こんなえぐいの」
「おかげで手早く出来たんだ。触れないくらい気にしなさんな」
「あんな一気に丘に上げちまうなんて楽なもんだ」
エヴがいれば討伐は簡単になるとクレインの男が慰めに声をかけて回りを囲んで良くやったと励ました。
「いや、嫌なら来なくても良かったのに。無駄に無理するからですよ」
ひとつ、囲みの後ろから機嫌の悪い声が声高に響いた。
「ああ、そんなみっともなく泣き叫んで獲物が逃げます。止めてほしいです。最初から来なけりゃ良かったんだ」
「こっちはその気持ち悪いのを相手に死ぬ気でやってんのに。姫君は見ただけですがって泣くのか。はっ、」
二、三人の声が重なり囲んでいたクレインの男達が気色ばむ。
「…あぁ?」
「…うちのお嬢に、何か言ったか?」
皆がゆっくりと振り返ると水から上がったうちの専門部隊の若い男らだった。
専門部隊の部隊長は彼らを渋く睨んだが、ため息をついて黙った。
一気にクレインとうちの対立に張り詰めた空気に変わった。
番への中傷にどう仕付けようかという思いと結局こうなるのかという残念な気持ちでため息をつく。
「この戦場で子供のように泣いて男の側仕えに抱きつこうとしたり。そちらの姫君を理解できない。グリーブスの栄誉も反故にしていまだ婚姻もしないくせ団長に人前で軽々しく抱きつく。恥はないのか?!あんた達もチヤホヤみっともねぇ!いい加減にしてくれっ!こっちは命懸けだと言うのに!」
日焼けをした黒みがかった赤毛専門の団員が叫び、怒った若いクレインの男がひとり胸ぐらを掴もうとして手を引いた。
若い男の目線の先にこの中で最も年配の男が手を制して止めていた。
体格からドワーフ。
確か自警団の隊長。
「…イグナスさん、止めるんすか?」
「ん。ケスラー、手ぇ出すな」
應揚に上げたその手をしっしと振って払うと黙って後ろへ下がった。
「…それで、あんたの言い分はそれでいいんか?そっちの連れもか?言いたいことは言いなせぇ。若いんだから我慢は良くねぇ。怒んねぇから言っちまえ。はは、」 
こいつらは俺が止めてやると顎をしゃくって半目に笑った。
強気な態度に二人が怯むが、その中の赤毛がひとり睨み返す。
名はサライエだ。
リーグと歳が近く、よく班を組んで親しい。
身分差から揉めていたが今はそれなりに付き合っていると聞いていた。
サライエは一瞬、戸惑った二人に目線を合わせて言えよと強気で促す。
それに煽られて二人も胸を張った。
「ならはっきり言わせてもらう。子供のような、外聞も恥じらいもない女性に来てほしくない」
「俺も同じだ。ずぶの素人に出張られたら迷惑だ」
その言葉に控えていた後方支援の団員らも空気が変わった。
普段、泳げない団員は水辺の討伐には参加しない。
素人の彼らの癇に触った。
「…それは私達のこともか?」
「ああ、そうだ。へらへらしやがって」
「はあ?!」
「まあ、まあ。聞きましょうぜ?言い分は」
聞くのはタダだと変わらずイグナスは半笑いに手を振って諌めた。
「ああ、水中は陸上より命懸けだ。逃げ場は少ない。水の中に引きずり込まれたら死ぬしかない。なのにお前らに軽く見られて不愉快だ」
「どんどん言っちまえ、腹のもんは出しちまえ」
「さっき何て言った?簡単だと?私達専門が泳いだり船から追いたてたから出来たことだ。もっとも危ないことは私達がした。それに、」
私は彼らの次々と口に出す不平不満と口をつぐんだ部隊長のガード、半笑いで場を扱いこなすイグナスを見つめた。
「そうかい。軽く見たつもりはないんだがなぁ。さすがと感心したし。まあ、そう見えたなら謝りますわぁ。申し訳ねぇ」
好きなだけ白状させるとイグナスがぺこっと頭を下げた。
謝られて逆に三人は目をつり上げた。
その様子を見て本音は別かと合点がいく。 八つ当たりに感情をぶつけたいのに謝って逃げられることが許せないのだ。
「それでさ、うちの奴らも何人かあんたらと同じように水の中に入りましたぜ?でも怒っちゃいねぇしぃ。聞けば話は堂々巡り。…お宅ら、本当は何を怒ってるんすか?根っこをさらけ出してくんねぇとぉ、俺も困っちまうなぁ」
困った顔で笑うのがクレイン流かと微かに頬が緩む。
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