人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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世話焼き

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私も午後は天幕へ戻り報告と書類を片付けて過ごした。
天幕の外から食欲をそそる匂いが漂い、手元の書類から顔をあげて、維持を張らずに貰えばよかったかなと少し残念に思った。
外から声がかかり、立ち入りを許すとガードと湯を抱えた若いのを連れて中へ入ってきた。
「いい加減お仕事の手を止めてください。姫君からのお呼びが来られる前にお支度をお願いします」
清拭の支度を勝手に始め、急かすガードに首をかしげた。
「お前達だけの予定だが?」
「姫君は番です。団長を差し置いてなど出来ません」
「仲間内だけで過ごしたいだろう。気を使わせるつもりはない」
「私共はいいのです。さあ、ご支度を」
「団長、お早くこちらへ」
「待て、髪留めには触るな」
若いのが椅子に座る私の背後から手早く髪をほどこうとしたので止めさせた。
ガードまで私を急き立てて椅子から立たせて鎧をほどいていく。
「髪留めは、ああ、なるほど。クレインの流行りに合わせたんですね。ここは革物が好まれてます。シンプルなのは姫君のお好みですか?」
つけ直すので安心してくださいとほどいて丁寧に畳んでいる。
髪紐の扱いに不満はないが、されるがままの状態になぜこんなことにと茫然となる。
「いや、もういいから止めろ」
「いけません。急ぎますよ」
断るのに強硬な二人の様子に流されて頭から足の先まで身綺麗に整えられた。
途中、ご機嫌のエドがこざっぱりとした服を届けに来る。
「これでいいか?」
「はい、これで。姫君は自然体を好まれるから気取らないものがよろしいかと思います」
「そうなのか?貴族だろうに。もう少し布地とか凝った柄とかの方がいいのではないか?」
「クレイン家の好みだそうです。姫君も同様だと確認しました」
手渡された服と二人のやり取りに気が遠くなりそうなのを堪えた。
何にしろこのまま裸でいたくない。
のろのろと下履きに足を通す。
着替えると髪や足元までかしずかれて手直しされた。
細かさに呆れて三人を見回すのに、彼らは私の出来上がりに満足していた。
「…どういうつもりだ?」
声を絞り出して問う私にガードが真面目な顔を向ける。
「姫君には候補者が多すぎます。何ですか、あの賭け、ライバルの数。団長、気を抜いてはいけません。わざわざイグナスから情報を買ったらなんてことになっているんですか」
「ガードもこの苦境を分かってくれたんですよ」
不思議なことに真面目に怒るお節介なガードよりこの状況を喜ぶエドに腹が立った。
「…誰が手伝えと言った」
怒る気にもなれず項垂れて頭を抱えようとするとそれさえも髪が崩れるとガードが叱る。
「隣国からも打診が来ているのはご存知でしたか?」
「…それは知らん。近隣からの打診は聞いていた」
顔をあげて不機嫌に答えるとガードも眉をひそめて頷く。
「隣国との関わりが深く、しかも姫君の母上があちらの出身ですからね。ご実家の親戚筋かららしいです」
「情報はイグナスか?」
「ええ、とんでもない男ですね。手広く商売をしているらしく扱う情報の幅がおかしい。ここの討伐に足止めされているのに」
「ここが金のなる木だからだろう」
日々の討伐で毎日、山のような資源が生まれている。
資源についてはうちの団は関わりがないのでどうしているのか全く知らないが、イグナスのあの立場なら横流しも簡単なはず。
自警団全体でやっていそうだと思ったが、娘をネタにされた賭け事さえ懐の金に変える気のジェラルド伯なら把握しているかもしれん。
むしろ積極的にやらせてコントロールするつもりに思えた。
さすがの私もそこまで強気な統治は思い付かない。
「賭けの候補は誰だ?」
ベアードの後押しがある三人は確実だと当たりはつくが、他に誰がいるのか知りたくなった。
「団長とヤン殿、ダリウス殿、」
「あとラウルだろ?他は?リーグか?」
「リーグもです。名前が上がってるのはそれだけです。他は隣国への脱出とその名無しの親戚筋、または近隣の貴族が大まかな選択として上がってます。未婚の者なら誰でもという勢いで団員の名前が端にまとめてありました。大穴狙いですね」
「ふぅん。…それで、お前がやる気になったのか?お節介にも」
「ええ、グリーブスの栄誉になぜ婚姻が進まないのか全く理解出来ませんでしたが、あれを見て考えを改めました。クレインの団員らも豪腕の姫君から相手を選ばなければ当然と見ております」
「…迷惑な」
そんなことは百も承知だと言うのに。
ガードに聞いた状況に不満を持つよりこの二人のお節介が煩わしい。
頼んでないとふて腐れて言うとどこから使命感が湧くのかガードとエドが反論する。
私のあから様な不機嫌の原因も、グリーブスの栄誉を軽く見られていることに落ち込んだからだと誤解している。
そんなわけあるか。
落ち込んだ時もあるが、それは手に入らないからだ。
グリーブスの栄誉が確立するずっと前は番を得るために先祖はあの手この手とあらゆる手段を用いて手に入れてきた。
一族にとってこれは誉れというより、番を得るための便利な手段という認識でしかない。
そのためにお互いに協力し合う一面もある。
貶されたからと何ら忌避はない。
私としても利用出来ないのなら次の手段を模索せねばと切り替えている。
それにこの状況を面白おかしく言う者の存在も当たり前に理解している。
笑われようが手に入ればいいのだから有償無像なぞどうでもいいことだった。
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