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石鹸
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見張りと探索を残して砦に戻ると遠目から少し空気がおかしいことに気づいた。
見える城壁の見張りに慌ただしさがある。
城門につくと狼狽えた団員が報告に駆けてきた。
「王宮からの使者です」
「早いな」
ジェラルド伯の通達から四日だ。
「わ、ワイバーンで来られました」
「は、そうか」
事の大きさに王宮に三頭しかいない草食の翼竜を使ったか。
操縦者の他に4、5人は乗れる。
「何頭で、同乗者は何名だ?」
「一頭、同乗者は四名です。宰相と警護の男と書記官らしき男、あと一人の方はご年配で私はどなたか分かりかねますが、身分の高い方のようでした。今は城内でクレイン辺境伯が対応されています」
「ご本人が参られたか」
それを聞いて天幕へ足を向けて進んだ。
「行かれないのですか?」
「呼ばれたら行けばいい。どうせこの姿では話し合いの場にはそぐわない」
エヴから体液が移って汚れている。
背中と尻尾が生臭い体液にまみれている。
マントを肩に引っかけて前に垂らして担いでいた。
不可解そうになぜマントの下が汚れたのか聞かれたが、そういうこともあると答えて誤魔化した。
下級兵は陣内に設置した簡易の洗い場である程度洗ったら公衆浴場を利用し、上官の多くは城内の広い浴室をお借りしていた。
天幕で汚れた鎧を預け、用意させた水で軽く拭ったらいつものように城内へ向かった。
「ガード、来ていたか」
「はい。今回は汚れすぎました」
途中、手拭いを頭にがしがし擦りながら向かうガードに声をかけた。
「湯でなくては取れません」
「そのようだ」
ベッタリした髪に同情して共に吹き抜けの浴室へ入る。
「温泉が嬉しいです」
嬉々とするガードに首肯した。
公衆浴場と同じく源泉を水で調節している。
「ヤン、ダリウス」
湯船の真上は外からの明るい日差しが差し込み、辺りには湯気が立ち込める。
数人の影の中から広い洗い場で泡だらけになった二人を見かけて声をかけた。
「二人で来ていたのか?」
いつもは一人としか会わないのに。
「あ、はい。団長も来られていましたか」
「見張りはいいのか?」
二人まとめてエヴから離れるのが珍しい。
初めてではと驚くと二人とも神妙に頷いた。
「…臭い、そうです」
落ち込んだ気配に同情した。
「…ああ、そうか。…エヴは?」
「押しきられまして。年配の女性陣がお世話しています」
女性用、というか個室の洗い場がある。
そちらを使用しているのだろう。
エヴは男らが大きな風呂に入るのを羨ましがっていた。
「石鹸、使われますか?」
「いや、持ってきています」
ガードがダリウスに勧められたが断っている。
「良さそうですね」
珍しく二人の羨ましそうな気配に首をかしげ、ガードが気を効かせて渡している。
「これだと髪についた粘りがよくとれるんですよ。使いますか?」
「ぜひお借りしたいっ」
両手を差し出して食い気味にお辞儀をする。
「私にも貸せ。尻尾を洗いたい」
そう言えば便利なものがあったと私も口を出して割り込む。
「ええ、どうぞ。ヤン殿も使ってみてください」
「ありがとうございますっ」
四人で代わる代わる使うとヤンとダリウスはよく取れると目を丸くした。
「困っていたんですよ。なかなか落ちなくて洗い残しで気持ち悪くて」
「…臭いし」
げんなりとダリウスもため息を吐いた。
「灰でもいいんですけどね。始末が面倒でやりたくありません」
「灰、ですか?」
「乾いた灰を染み込ませてから揉むとよく取れます。それより石鹸をお分けしましょうか?」
「お願いします。エヴ様もお困りになっていたので」
「姫君もでしたか。お可哀想に。リーグから聞きませんでしたか?専門の者は皆、これを使ってます」
「話には聞いていました。ですが、ここまで汚れたことがないらしく、専用の物は買ったことがないと言ってました」
「…あいつ」
ある意味不遜な言葉にガードがしばらく固まって腹立たしげに顔を歪めた。
「諦めていたんですよ。クレインでは流通してませんし、イグナスに頼みましたが、どうやら海辺の品物らしくしばらくかかるとの事でした」
「商売の邪魔してしまったようですね」
「いえ、購入はします。今後の水辺討伐に常備する予定です」
とりあえずエヴ様と自分等の分です、とこぼす。
「臭いで三人揃って城内の立ち入りが制限されてしまいます」
「急いだ方が良さそうですね。お待ちください」
泡のついたままガードが立ち上がって帰り間際の同僚に伝言を頼んでいた。
自分の荷物から石鹸を姫君に届けるようにと頼んでいた。
「専用の奴を姫様にか?…ああ、困ってらっしゃるのか。いくつ?」
「三つほど。頼んだよ」
手を上げて去っていくの見送るとこちらへ戻ってきた。
ヤン達が礼を言うと非礼のお詫びですと頭を下げた。
見える城壁の見張りに慌ただしさがある。
城門につくと狼狽えた団員が報告に駆けてきた。
「王宮からの使者です」
「早いな」
ジェラルド伯の通達から四日だ。
「わ、ワイバーンで来られました」
「は、そうか」
事の大きさに王宮に三頭しかいない草食の翼竜を使ったか。
操縦者の他に4、5人は乗れる。
「何頭で、同乗者は何名だ?」
「一頭、同乗者は四名です。宰相と警護の男と書記官らしき男、あと一人の方はご年配で私はどなたか分かりかねますが、身分の高い方のようでした。今は城内でクレイン辺境伯が対応されています」
「ご本人が参られたか」
それを聞いて天幕へ足を向けて進んだ。
「行かれないのですか?」
「呼ばれたら行けばいい。どうせこの姿では話し合いの場にはそぐわない」
エヴから体液が移って汚れている。
背中と尻尾が生臭い体液にまみれている。
マントを肩に引っかけて前に垂らして担いでいた。
不可解そうになぜマントの下が汚れたのか聞かれたが、そういうこともあると答えて誤魔化した。
下級兵は陣内に設置した簡易の洗い場である程度洗ったら公衆浴場を利用し、上官の多くは城内の広い浴室をお借りしていた。
天幕で汚れた鎧を預け、用意させた水で軽く拭ったらいつものように城内へ向かった。
「ガード、来ていたか」
「はい。今回は汚れすぎました」
途中、手拭いを頭にがしがし擦りながら向かうガードに声をかけた。
「湯でなくては取れません」
「そのようだ」
ベッタリした髪に同情して共に吹き抜けの浴室へ入る。
「温泉が嬉しいです」
嬉々とするガードに首肯した。
公衆浴場と同じく源泉を水で調節している。
「ヤン、ダリウス」
湯船の真上は外からの明るい日差しが差し込み、辺りには湯気が立ち込める。
数人の影の中から広い洗い場で泡だらけになった二人を見かけて声をかけた。
「二人で来ていたのか?」
いつもは一人としか会わないのに。
「あ、はい。団長も来られていましたか」
「見張りはいいのか?」
二人まとめてエヴから離れるのが珍しい。
初めてではと驚くと二人とも神妙に頷いた。
「…臭い、そうです」
落ち込んだ気配に同情した。
「…ああ、そうか。…エヴは?」
「押しきられまして。年配の女性陣がお世話しています」
女性用、というか個室の洗い場がある。
そちらを使用しているのだろう。
エヴは男らが大きな風呂に入るのを羨ましがっていた。
「石鹸、使われますか?」
「いや、持ってきています」
ガードがダリウスに勧められたが断っている。
「良さそうですね」
珍しく二人の羨ましそうな気配に首をかしげ、ガードが気を効かせて渡している。
「これだと髪についた粘りがよくとれるんですよ。使いますか?」
「ぜひお借りしたいっ」
両手を差し出して食い気味にお辞儀をする。
「私にも貸せ。尻尾を洗いたい」
そう言えば便利なものがあったと私も口を出して割り込む。
「ええ、どうぞ。ヤン殿も使ってみてください」
「ありがとうございますっ」
四人で代わる代わる使うとヤンとダリウスはよく取れると目を丸くした。
「困っていたんですよ。なかなか落ちなくて洗い残しで気持ち悪くて」
「…臭いし」
げんなりとダリウスもため息を吐いた。
「灰でもいいんですけどね。始末が面倒でやりたくありません」
「灰、ですか?」
「乾いた灰を染み込ませてから揉むとよく取れます。それより石鹸をお分けしましょうか?」
「お願いします。エヴ様もお困りになっていたので」
「姫君もでしたか。お可哀想に。リーグから聞きませんでしたか?専門の者は皆、これを使ってます」
「話には聞いていました。ですが、ここまで汚れたことがないらしく、専用の物は買ったことがないと言ってました」
「…あいつ」
ある意味不遜な言葉にガードがしばらく固まって腹立たしげに顔を歪めた。
「諦めていたんですよ。クレインでは流通してませんし、イグナスに頼みましたが、どうやら海辺の品物らしくしばらくかかるとの事でした」
「商売の邪魔してしまったようですね」
「いえ、購入はします。今後の水辺討伐に常備する予定です」
とりあえずエヴ様と自分等の分です、とこぼす。
「臭いで三人揃って城内の立ち入りが制限されてしまいます」
「急いだ方が良さそうですね。お待ちください」
泡のついたままガードが立ち上がって帰り間際の同僚に伝言を頼んでいた。
自分の荷物から石鹸を姫君に届けるようにと頼んでいた。
「専用の奴を姫様にか?…ああ、困ってらっしゃるのか。いくつ?」
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ヤン達が礼を言うと非礼のお詫びですと頭を下げた。
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