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羽根
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「もっと早く気づけばよかったのですが」
「分けてくださるだけでありがたいことです。お支払もさせてください」
「いえ、リーグのお礼も兼ねてますから」
「分かりました。ではそういうことで。それにしても灰の話も助かりました」
クレインの臭い奴らを洗いますと真顔で答えた。
「エヴ様が臭いでだいぶやられてますから」
「…そうか、灰まみれにしてやれ。私も手伝おう。うちの奴らもだ」
それも原因かと思うと眉間にデカイ亀裂が走った。
「ぶふっ、ふ、ふふ、うちの奴らが余分に持ち込んでます。集めてお渡しします」
鬼の形相で灰を振り撒く姿を想像したのだろう。
ヤンと私から目をそらして肩を揺らしている。
「…エヴ様が面白がる」
「ふっ、くくっ、ぐ、」
ダリウスの言葉に会得してまた肩を揺らした。
想像の中では嬉々として参加するエヴがいるのだろうか。
「石鹸は頼んだ。出した奴には補填もしよう。このままなら公衆浴場からも苦情が来る」
「あっ、確かにそれは困りますね」
私も鼻が慣れたせいで今さら気づいた。
討伐のためとは言え市民も使う公衆浴場だ。
迷惑をかけることに思い至る。
「今日中に頼む。上がってからでいい」
「分かりました」
湯をかけてから熱い湯船に浸かり皆で並んで足を伸ばした。
「やはり気がかりです。先に失礼します」
ガードは石鹸の件を先に済ませたいからと、すぐに湯から上がり出ていった。
その後は時折、他の上官も混ざって会話をする。
整備帰りの奴らが新しく入室してきたので上がることにした。
「団長、」
「ん?スミス」
ちょうどスミスが脱衣室に入ってきて私へ声をかけた。
しばらくタイミングが合わずに顔をよく見ていなかったが、顔色が悪くごっそりとやつれた姿にぎょっとした。
「なんだ、その顔色は」
はっと顔を押さえて頭を下げた。
「すいません、気がかりなもので」
一瞬分からなかったが、ラウルのことかと察する。
「医師が診ている。安心しろ。それに自身の大怪我さえも新しい術式の研究に、」
ばっと膝を折ってその場に土下座した。
「会いたいんです!顔を見たい!お願いします!会わせてください!」
お願いしますと咽びながら懇願されて、後ろのヤンとダリウスへと視線を向けた。
「任せる」
「押し付けないでください」
渋面のヤンに睨まれたが仕方がない。
私が判断することではないのだから。
ダリウスは見なかった振りで着替えを続けていた。
「スミス、私に権限はない」
「ですが、団長からエヴ嬢に、」
がっと頭を上から掴んで床に押し付けた。
「エヴにすがるな。利用は許さない」
謝ったので手を離して着替えを始めた。
「頼むならそこの二人だ。取りなしてもらえ」
床に座ったまま痛む顎を押さえてじっとしているのを無視して話を続けた。
「結局、采配はエヴ様ですよ?」
「お前達からならいい。直接ラウルに交渉する。話が済んでからエヴに伝えるだろう?エヴに頼むならこいつはしつこいからだめだ。エヴが諦めるまで言う」
「ご自分は?」
「私が頼めば自分でラウルと交渉する。疲れているエヴに拗ねたラウルの相手をさせたくない。だいたいなぜ最上位上官の私がスミスのために働いて心労の重なったエヴまで働かせねばならない?目をかけた部下とは言え限度がある」
ズボンを履いたら頭から被るシャツに袖を通した。
「スミス、ヤンとダリウスに取りなしてもらえと助言はした。してくれとも頼んだ。それ以上、上官に頼むことではない。エヴも臨時兵団団長だ。甘えた態度を取るな」
「はい」
改めてヤンに頭を下げるので嫌そうにため息を吐いた。
「それなら私も、副官に当たります。ダリウスも副次官です。あなたより上位なので、そのような頼まれ事をされても、…はあ」
断り文句が止まってまた大きなため息を吐いた。
「本人に聞いてみますが、期待されないでください」
「ありがとうございますっ」
「ダリウス、聞いとけ」
「え、俺?」
「一人逃げようとしたからだ」
「…分かった」
むうっと唇を突き出して答えた。
「こいつが世話になる」
「気持ちが分からない訳ではないので。でも、いつになるか分かりませんし、先に体調だけはどうにかされてください」
心配そうにするヤンの小言にスミスは頷いた。
話の途中、ばさ、ばさっと大きな羽ばたきが聞こえたので空を見上げた。
音自体は小さく、ヤン達は気づいていない。
音が大きいのではなく、鳥よりも確実に大きな体格と分かる羽ばたきが続いていた。
脱衣場に屋根があるとは言え、衝立の上を見上げれば吹き抜けの青空が見える。
薄着の蝙蝠羽根の女と鳥羽根の男が二人、上を通り抜けていた。
「ヤン、あれは分かるか?」
ダリウスとヤンが釣られて空を見上げ、目視した途端ダリウスが剣を片手に飛び出しヤンも続く。
「分けてくださるだけでありがたいことです。お支払もさせてください」
「いえ、リーグのお礼も兼ねてますから」
「分かりました。ではそういうことで。それにしても灰の話も助かりました」
クレインの臭い奴らを洗いますと真顔で答えた。
「エヴ様が臭いでだいぶやられてますから」
「…そうか、灰まみれにしてやれ。私も手伝おう。うちの奴らもだ」
それも原因かと思うと眉間にデカイ亀裂が走った。
「ぶふっ、ふ、ふふ、うちの奴らが余分に持ち込んでます。集めてお渡しします」
鬼の形相で灰を振り撒く姿を想像したのだろう。
ヤンと私から目をそらして肩を揺らしている。
「…エヴ様が面白がる」
「ふっ、くくっ、ぐ、」
ダリウスの言葉に会得してまた肩を揺らした。
想像の中では嬉々として参加するエヴがいるのだろうか。
「石鹸は頼んだ。出した奴には補填もしよう。このままなら公衆浴場からも苦情が来る」
「あっ、確かにそれは困りますね」
私も鼻が慣れたせいで今さら気づいた。
討伐のためとは言え市民も使う公衆浴場だ。
迷惑をかけることに思い至る。
「今日中に頼む。上がってからでいい」
「分かりました」
湯をかけてから熱い湯船に浸かり皆で並んで足を伸ばした。
「やはり気がかりです。先に失礼します」
ガードは石鹸の件を先に済ませたいからと、すぐに湯から上がり出ていった。
その後は時折、他の上官も混ざって会話をする。
整備帰りの奴らが新しく入室してきたので上がることにした。
「団長、」
「ん?スミス」
ちょうどスミスが脱衣室に入ってきて私へ声をかけた。
しばらくタイミングが合わずに顔をよく見ていなかったが、顔色が悪くごっそりとやつれた姿にぎょっとした。
「なんだ、その顔色は」
はっと顔を押さえて頭を下げた。
「すいません、気がかりなもので」
一瞬分からなかったが、ラウルのことかと察する。
「医師が診ている。安心しろ。それに自身の大怪我さえも新しい術式の研究に、」
ばっと膝を折ってその場に土下座した。
「会いたいんです!顔を見たい!お願いします!会わせてください!」
お願いしますと咽びながら懇願されて、後ろのヤンとダリウスへと視線を向けた。
「任せる」
「押し付けないでください」
渋面のヤンに睨まれたが仕方がない。
私が判断することではないのだから。
ダリウスは見なかった振りで着替えを続けていた。
「スミス、私に権限はない」
「ですが、団長からエヴ嬢に、」
がっと頭を上から掴んで床に押し付けた。
「エヴにすがるな。利用は許さない」
謝ったので手を離して着替えを始めた。
「頼むならそこの二人だ。取りなしてもらえ」
床に座ったまま痛む顎を押さえてじっとしているのを無視して話を続けた。
「結局、采配はエヴ様ですよ?」
「お前達からならいい。直接ラウルに交渉する。話が済んでからエヴに伝えるだろう?エヴに頼むならこいつはしつこいからだめだ。エヴが諦めるまで言う」
「ご自分は?」
「私が頼めば自分でラウルと交渉する。疲れているエヴに拗ねたラウルの相手をさせたくない。だいたいなぜ最上位上官の私がスミスのために働いて心労の重なったエヴまで働かせねばならない?目をかけた部下とは言え限度がある」
ズボンを履いたら頭から被るシャツに袖を通した。
「スミス、ヤンとダリウスに取りなしてもらえと助言はした。してくれとも頼んだ。それ以上、上官に頼むことではない。エヴも臨時兵団団長だ。甘えた態度を取るな」
「はい」
改めてヤンに頭を下げるので嫌そうにため息を吐いた。
「それなら私も、副官に当たります。ダリウスも副次官です。あなたより上位なので、そのような頼まれ事をされても、…はあ」
断り文句が止まってまた大きなため息を吐いた。
「本人に聞いてみますが、期待されないでください」
「ありがとうございますっ」
「ダリウス、聞いとけ」
「え、俺?」
「一人逃げようとしたからだ」
「…分かった」
むうっと唇を突き出して答えた。
「こいつが世話になる」
「気持ちが分からない訳ではないので。でも、いつになるか分かりませんし、先に体調だけはどうにかされてください」
心配そうにするヤンの小言にスミスは頷いた。
話の途中、ばさ、ばさっと大きな羽ばたきが聞こえたので空を見上げた。
音自体は小さく、ヤン達は気づいていない。
音が大きいのではなく、鳥よりも確実に大きな体格と分かる羽ばたきが続いていた。
脱衣場に屋根があるとは言え、衝立の上を見上げれば吹き抜けの青空が見える。
薄着の蝙蝠羽根の女と鳥羽根の男が二人、上を通り抜けていた。
「ヤン、あれは分かるか?」
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