人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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魔導師

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食堂の外からベアードの部隊が入室し、三人を連れ出した。
「ヤン、鎧を、先に靴をちょうだい」
その場で履き替えて退室を口にし、見苦しいのですがと一言付け足すと直ぐ様裾を捲ってヤンと駆け出した。
私も同様に食堂を出て、念のため隣室に待機させていた団員から鎧を受け取る。
着替えて通路の途中でダリウスに担がれたラウルと着替えを済ませたエヴ達が叫ぶように話し合っていた。
「申し訳ありません!見張りから、見えるほど近くに。鐘が鳴るまで気づけませんでした。恐らく飛行種です。俺の探索を抜けた」
「地面や木に休まず一直線にこっちに来たってこと?大型?」
「かもしれません」
数も大きさも分からないと答える。
「エヴ、」
「俺も出ます!」
「まともに歩けもしないのに!だめよ!」
「術式と魔法は使えます!動けなくても種類の判別や討伐に助言を出せるっ」
詳しく話を聞きたくて声をかけたのに二人の怒鳴り合いがやまない。
「ラウル!エヴ!」
二人に怒鳴り付けるとはっとして四人は振り返った。
「連れてこい。行くぞ」
そのまま四人を連れて外へ向かう。
「ラウル、ダリウスは戦力だ。背中は誰かと代われ」
「はい!」
「怪我の悪化も困る。痛くないからと調子に乗るな」
術式が有能過ぎるのも考えものだ。
痛みに鈍感で、こんなに走って振動で揺さぶられているのに平気な顔をしている。
「…エヴは、その格好か」
げんなりと隣を走るエヴの姿を横目に見た。
髪型はそのままに、さっきの装いの上から鎧を着けて長いスカートの裾は鎧の隙間にまとめて押し込むから、腰垂れのスカートの下が膨らんでいる。
「スカートで、」
ぶつくさと文句を言うと申し訳なさそうに眉を下げて謝った。
「…全部、手間だったので。一人で脱げないし、…すいません」
どうやって、誰の手を借りて着付けたのか。
思わずきつい眼差しをエヴへ向けた。
両陣営の天幕に向かい、慌ただしい陣内を通るとこちらへ走るエドを見つけた。
遠くから手を上げて激しく横に振っている。
「エド、状況は?」
「敵襲ではありませんっ」
「は?間違いなのか?」
今までなかったことに軽く首を捻った。
周囲にも敵襲ではないことを大声で伝えてあちらこちらへと伝言に走らせている。
武装解除と叫ぶ声が広がった。
「中央の広場へ、空からお客人です」
またワイバーンかと疑問に思う。
暗闇のせいで夜の見張りが見間違えたのかと眉をひそめた。
「団長、私達はどうしましょう?」
エヴの問いかけに戻れと指示を出して城内へ向かわせた。
広場に向かうと白い一頭の馬と隣に重たそうなローブを来た背の高い男がいた。
白髪の小さな丸眼鏡を鼻にかけた人型の私と背の変わらない。
背筋の延びた老人が手を上げて挨拶をした。
「こんばんは、カリッド」
「これは、魔導師長」
「騒がせてすまないね。急いで飛んで来たものだから」
隣の馬の背を優しく撫で呪文を唱えると光が霧散して消えた。
馬も普通の馬ではなく、羽と角を持つユニコーンだった。
王国魔導団のトップ、相談役の魔導師長シモン・マグリット。
人族と変わらない見た目だが、中身は違う。
賢者や魔女など、魔法使いの血を継ぐウィッカー族だ。
「陛下の命でね」
懐から手紙を出して渡したので受け取った。
陛下の御印である封印を確認して目をしばたたかせた。
「明るいところで読みます。こちらへ」
天幕へ案内してすぐに受け取った手紙に目を通した。
中身は勝手に押し掛けたであろう大公と宰相のことに触れて、諸々の謝罪とクレインへの取りなしを頼む文面に顔を上げた。
テーブルの向かいに手を置いて私の耳と尻尾を嬉々として覗きこんでいる。
「なぜ魔導師長自ら?」
「私の馬が早いからねぇ。早速だけど怪我人はどこだい?クレイン伯にも会わねばならない。直接ね」
生えた毛皮に飽きたのか、側の椅子を引いて腰かけると懐からもう一通の手紙を出してゆらゆらと揺らした。
「エド、取り次ぎを頼む」
この遅い時分と騒ぎの後に下の者をやるわけにはいかない。
走らせている間に事情を問いかける。
「事情ねぇ。…そちらから毎日使者が来ていたが、陛下への上申が遅れてね。研究職の私も関わる立場じゃないから今朝知ったんだよね。先に大公と宰相が動いてしまった。ワイバーンを勝手に持ち出して露見した」
「宰相が握りつぶしていたのですか?」
「そうとも言えるし違うとも。だが、長らく大公のなされようを黙認していたと思う。隠居されて10年以上たつのに、宮中にはまだ大公の子買いが多くて困ったことだ」
隠蔽に関わった者の何人か処分されたと新しい人事について話をする。
「情報ありがとうございます」
「それでね、今回の不忠に大変ご立腹だよ。この国には二人の王がいると謁見の間に怒号が響いた。すごかったよ」
ふふ、と笑みを浮かべて肩をすくめる。
「その様子だと大公派を一気に崩せたのですね」
「そう、あっという間。陛下の成長が嬉しいね。幼馴染みの君もそうだろ?」
微かに笑みを浮かべて隠すように頭を下げた。
冷遇された王妃とその王子。
一粒種の尊い存在ではあったが、大公の興味は妹とその姪だ。
幼かった頃、年が近いということで陛下と交流していた。
その頃から自身の境遇を仕方ないと寂しそうに受け入れ無邪気になつく従姉妹を妹同然に可愛がり、日々、勉学と武道に勤しみ素晴らしい王子と評価された。
一人を除いてだが。
「陛下は聡い。大公のご趣味を理解している。それをもう庇えないこともね」
「やっと、終わりますね」
大人になっても愛情の薄い父親の関心を求めて言いなりになる様は側で見ていて心が痛かった。
成人後、責任のある仕事が増える度にご本人もこのままではいけないと寸度のない公平な仕事を心掛けて、父親とは真逆にご自身の王妃を慈しみ二人のお子へ何くれとなく気にかける。
寂しい子供時代を思えば、とても愛情深い方になったと感慨深い。
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