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勝敗
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「始め!」
掛け声と共に全身に最大の強化をかけた。
後先なんか考えない。
このあとスタンビートが起きたら災難だと片付けてしまえ。
そのくらい目の前のエヴのことしか頭にはなかった。
本当にエヴの姿勢の悪さと反応の悪さに感謝する。
エヴが動く前に強化をかけてしまったらもう対等だ。
スタートが遅れたエヴの腕を倒してもう手の甲が地面に着く寸前だ。
「うううっ!」
顔を盛大に歪めて呻きながら、ばき、ばき、とまた強化を上げて、まだ上がるのかと驚かされた。
火力を上げてしまう前に倒そうと手を押すが、踏みとどまって押し返してきた。
ぼごん、とお互い地面に指を食い込ませながら力のごり押しを続ける。
踏ん張って足先も固い地面に埋まる。
きっとエヴも同じようになってる。
「んんんっ!んー!」
歯を噛み締めて隙間から白い歯が見え隠れしてる。
頭を振って斜めに倒れた腕を起こそうと必死だ。
「ふっ!くうっ!この!」
私もこのまま潰してやるつもりでじわりと圧を強めるのに支えの手を地面に埋めながら抵抗している。
「絶対!いや!負けたくなぁい!」
「褒美の!約束は!守らせるからな!」
絶対キスさせたい。
「いや!膝!膝だけ!」
「い、や、だ!」
ぐっと押さえてもうすぐ着くところまで来たのに。
まだ微かにばき、ばき、と金鳴りは続いてまだ火力を上げる気だと焦った。
「嫌って、言うな!ばか団長ぉ!」
「いつもは、自分が、言うだろうがっ!」
「言わなきゃ!勝手なことばっかり!するでしょうがぁ!ばかぁ!ばぁか!」
「口が、悪い、くそ!このっ!」
小さくいくつも鳴る金鳴りで腕力が上がった。
ぐわっと押し返されてもうすぐ着きそうなほど倒された。
なんとかぎりぎりで耐える。
「団、長、なん、か、き、ら、いぃ!」
「言、う、な!傷、つく!」
崩れた体勢を押し返しながら怒鳴り返す。
「嫌いぃ!」
「こっち、は、死ぬほど、好きだ!」
言われたから何だと開き直って言い返すとエヴが唸りながら頭を垂らして腕を潰しにかかる。
「知っ、て、ま、すぅっ」
勝てそうな気配に笑みを浮かべて倒れた私の腕を、ぐっぐっと小刻みに押す。
「負け、る、かぁ」
タイミングに合わせてながら、じわっと体勢を変えて反対に押し返してやった。
だらだら汗を流して頭の血管が切れそうだ。
睨み付けるが、エヴも汗を流して乱れた黒髪が頬に張り付くのも構わず、ぎゅうっと強く目を瞑って必死で張り合っている。
「そんなに、私が、嫌いかぁ」
呻きながら呟くと違うと喉から声を絞り出しながら答えた。
「嫌い、じゃないぃ」
「この、がん、こがぁ」
多少なりと私に好意があると言うなら慣例通り大人しく囲われればいいのに。
気難しくて我が儘で移り気な飽き性と罵れば、エヴも負けじとアモルと同類の変態、短気な馬鹿犬、焼きもち焼の乱暴者と言い返す。
次第に罵る余裕もなくなれば、お互いに背中を丸めて頭を項垂れたまま腕だけぶるぶる震わせて必死で引き合う。
ふーふーと肩で息をしながらいつまでも勝負がつかない。
まさか日をまたぐつもりかと血の昇った頭の中を微かによぎる。
「んあっ!わわ!わぁぁ!」
エヴがぐいっと力を込めたら、力加減が悪くエヴの肘が地面にぼごん、と刺さってバランスを崩した。
エヴの反発が急に消えたのに私の勢いが止まらず、ぶんっと腕を横に凪ぎ払った。
「エヴ!」
手からエヴがすっぽ抜けて人だかりのど真ん中まで飛ばしてしまい、慌てて追いかけた。
「お前ら、どけ!」
よろけて立ち上がるが、ふらついて這い着くようにエヴの側に転がった。
強すぎた強化で手足の筋肉ががくがくと震えてまともに動けない。
「エヴ?!しっかりしろ!」
「うー…」
悪かった、すまないと何度も謝ってぎゅうっと瞑ったまま顔を上から覗く。
ぐったりと大の字に手足を広げて転がったまま起きない。
心配から駆け付けたヤンやジェラルド伯らも虚ろな表情のエヴを囲んで覗き込むと大きく一呼吸吐いていつもとのように、はぁいと間延びした返事が聞こえる。
「ううっ、負けましたぁ」
すぐに手をパタパタと揺らして大丈夫だと呟くが、震える手足に私と同じように強すぎた強化で筋肉が硬直して動けないのだと察した。
「疲れたし、動けません」
「はは、私もだ」
ずるずるも隣にうつ伏せに倒れてごろっと寝転ぶ。
ぼんやりしているとジェラルド伯らの会話と遠くからイグナスの勝敗を告げる声が聞こえてくる。
疲れのせいで内容を理解できない。
「約束は守れよ?」
「嫌。膝枕」
「分かった。この間の可愛い格好で頼む。鎧は固い」
「モルガナが戻ったら二人に頼みます」
「楽しみだ」
それでも隣にいるエヴの声だけは聞こえた。
「団長、強い。黒獅子の時いてくれたら良かったのに」
あれ、本当にきつかったのと呟く。
泣きそうな悲しげな声に辛さが伝わった。
「間に合わなくて悪かった」
そうやってだらだら話しているうちにジェラルド伯がエヴを横抱きに抱えて、私はエドと他の団員の両方から挟まれて肩に寄りかかる。
頭を上げる力もなく項垂れた頭が動かせない。
「エヴ、次は間に合うように来るからな」
「…次って。二度めは嫌だなぁ。でも頼りにしてます。それでお願いなんですけど。お父様と団長に」
「ん?」
何かと微かに顔を動かして視線を向ける。
「明日、お休みさせてください。多分、これ無理です。ごめんなさい」
ぐたぁとジェラルド伯の胸にもたれたまま呟く。
「奇遇だな。私もだよ。エド、すまんが明日は頼む」
「団長もエヴ嬢もやりすぎですよ。こんなになるまでやらないでください」
後先考えて欲しいと呆れるエドと意外と満足そうに微笑むジェラルド伯が対照的だった。
「見応えのあるものを観れたのでよしとしましょう。明日の動きは私と息子にお願いします」
「見応えは確かに」
ジェラルド伯の言葉にエドは頷いて明日はお世話になりますと返した。
「こんなに楽しそうな娘を見られるとはな」
「ふふ、負けて悔しいけど」
ジェラルド伯がそう呟くと腕の中でエヴが小さく含み笑いで答えた。
「それでは失礼します」
「我々も、ではまた明日」
エドが私の代わりに答えてお互いにそれぞれ別れた。
天幕に着くまで小言を聞かされてさすがに仕事に支障をきたすほど熱中したことは反省して謝った。
寝台に転がされて鎧を緩めようとしたのでむくっと起きる。
「は?!起きれるんですか?!」
「ああ、もうだいぶいい」
まだ身体がぎしぎしときしむが動けた。
「逆に動かした方が回復が早い」
「ならご自分で歩いてください」
「歩くのは無理だった」
呆れたエドにそう返すと黙って鎧を外すのを手伝う。
「はー、本当にさすが人狼ですね」
「回復力が違う。エヴは明日一日、筋肉痛と無理をした反動で苦しむだろうな」
「エヴ嬢も凄かった。団長と張り合えるなんて。筋肉は普通の女性並みなのに」
強化は元の筋肉の強さを魔力で補強して増幅させるものだ。
「あれだけ魔力があるならなぁ。強化をかけ続けて日をまたげるほど」
腰巻きひとつの楽な格好になり快適さから安堵のため息が漏れる。
「そう言えば面白い話をしていたぞ。ゆっくり段階をかけてかけるともっと強くなるらしい」
「へぇ、初耳です」
「エドもそうか。私もだ。回復したら試してみる」
お前もやってみろと言うとエドも面白がってその場で試し始めた。
しかしさっきからしかめっ面で何度も試すが納得がいかないらしい。
ぴかぴか光って正直鬱陶しい。
「む、意外と難しい。徐々に上げるってことですよね?」
「エヴから小さな金鳴りが聞こえていた。部分強化をした時くらいの音だ」
「癖なのか一気にしか出来ません。練習がいります」
「ふうん」
好奇心から私も試しに魔力をゆっくり流して強化をかけたがいつも通りだった。
「う、おえ」
しかも今日は使いすぎている。
魔力枯渇の症状が現れて断念した。
「目が回る。もうやめた。明日だ」
仰向けに勢いよく寝台に転がる。
「エド、練習はよそでやってくれ。眠れない」
「ああ、すいません。ごゆっくりお休みください」
「明日は頼むぞ」
「回復力が違うのでしょう?通常通りお願いします」
「たまには休みたい」
「しばらく午後は休みだったでしょうが。せめて書類仕事はやってくださいよ」
少々溜まっていたのを思い出して寝転んだまま、分かったと返事を返すと蝋燭の明かりを消してエドが出ていく。
真っ暗な天幕の中、薄い掛布を手繰り寄せて目をつぶればすぐに睡魔に襲われた。
「団長、団長ぉ」
「…う、…ん?」
ゆさゆさと揺らされて目が覚めた。
また金髪の小さなエヴがいた。
「また来たのか?今日はなんだ?」
疲れて覇気のない言い方をするのに腹の上にまたがって跳ねるエヴが可愛くて勝手に笑みが浮かぶ。
「今日は楽しかったね?」
ころんと仰向けの胸に転がって目を細める。
「ああ、楽しかった」
頭を撫でると黒髪とは少し違う手触りだった。
少し柔らかくふわふわしている。
「悪いが眠い。休ませてくれ」
「はぁい」
腹の上から降りたと思ったら勝手にシーツを捲って横に添い寝をしてくる。
ついでに尻尾を手繰り寄せて抱き締めた。
「おい」
「おやすみなさーい」
勝手に私の肘を枕に目をつぶってしまった。
追い出そうと思うが城内に送るのも手間だ。
身体の怠さも、外の天幕とは違い邸門の見張りに会うのも。
もういい、どうせ影送りだと開き直った。
小さくともエヴと眠れるのは嬉しい。
消えるからいいと私も目をつぶってそのまま寝た。
掛け声と共に全身に最大の強化をかけた。
後先なんか考えない。
このあとスタンビートが起きたら災難だと片付けてしまえ。
そのくらい目の前のエヴのことしか頭にはなかった。
本当にエヴの姿勢の悪さと反応の悪さに感謝する。
エヴが動く前に強化をかけてしまったらもう対等だ。
スタートが遅れたエヴの腕を倒してもう手の甲が地面に着く寸前だ。
「うううっ!」
顔を盛大に歪めて呻きながら、ばき、ばき、とまた強化を上げて、まだ上がるのかと驚かされた。
火力を上げてしまう前に倒そうと手を押すが、踏みとどまって押し返してきた。
ぼごん、とお互い地面に指を食い込ませながら力のごり押しを続ける。
踏ん張って足先も固い地面に埋まる。
きっとエヴも同じようになってる。
「んんんっ!んー!」
歯を噛み締めて隙間から白い歯が見え隠れしてる。
頭を振って斜めに倒れた腕を起こそうと必死だ。
「ふっ!くうっ!この!」
私もこのまま潰してやるつもりでじわりと圧を強めるのに支えの手を地面に埋めながら抵抗している。
「絶対!いや!負けたくなぁい!」
「褒美の!約束は!守らせるからな!」
絶対キスさせたい。
「いや!膝!膝だけ!」
「い、や、だ!」
ぐっと押さえてもうすぐ着くところまで来たのに。
まだ微かにばき、ばき、と金鳴りは続いてまだ火力を上げる気だと焦った。
「嫌って、言うな!ばか団長ぉ!」
「いつもは、自分が、言うだろうがっ!」
「言わなきゃ!勝手なことばっかり!するでしょうがぁ!ばかぁ!ばぁか!」
「口が、悪い、くそ!このっ!」
小さくいくつも鳴る金鳴りで腕力が上がった。
ぐわっと押し返されてもうすぐ着きそうなほど倒された。
なんとかぎりぎりで耐える。
「団、長、なん、か、き、ら、いぃ!」
「言、う、な!傷、つく!」
崩れた体勢を押し返しながら怒鳴り返す。
「嫌いぃ!」
「こっち、は、死ぬほど、好きだ!」
言われたから何だと開き直って言い返すとエヴが唸りながら頭を垂らして腕を潰しにかかる。
「知っ、て、ま、すぅっ」
勝てそうな気配に笑みを浮かべて倒れた私の腕を、ぐっぐっと小刻みに押す。
「負け、る、かぁ」
タイミングに合わせてながら、じわっと体勢を変えて反対に押し返してやった。
だらだら汗を流して頭の血管が切れそうだ。
睨み付けるが、エヴも汗を流して乱れた黒髪が頬に張り付くのも構わず、ぎゅうっと強く目を瞑って必死で張り合っている。
「そんなに、私が、嫌いかぁ」
呻きながら呟くと違うと喉から声を絞り出しながら答えた。
「嫌い、じゃないぃ」
「この、がん、こがぁ」
多少なりと私に好意があると言うなら慣例通り大人しく囲われればいいのに。
気難しくて我が儘で移り気な飽き性と罵れば、エヴも負けじとアモルと同類の変態、短気な馬鹿犬、焼きもち焼の乱暴者と言い返す。
次第に罵る余裕もなくなれば、お互いに背中を丸めて頭を項垂れたまま腕だけぶるぶる震わせて必死で引き合う。
ふーふーと肩で息をしながらいつまでも勝負がつかない。
まさか日をまたぐつもりかと血の昇った頭の中を微かによぎる。
「んあっ!わわ!わぁぁ!」
エヴがぐいっと力を込めたら、力加減が悪くエヴの肘が地面にぼごん、と刺さってバランスを崩した。
エヴの反発が急に消えたのに私の勢いが止まらず、ぶんっと腕を横に凪ぎ払った。
「エヴ!」
手からエヴがすっぽ抜けて人だかりのど真ん中まで飛ばしてしまい、慌てて追いかけた。
「お前ら、どけ!」
よろけて立ち上がるが、ふらついて這い着くようにエヴの側に転がった。
強すぎた強化で手足の筋肉ががくがくと震えてまともに動けない。
「エヴ?!しっかりしろ!」
「うー…」
悪かった、すまないと何度も謝ってぎゅうっと瞑ったまま顔を上から覗く。
ぐったりと大の字に手足を広げて転がったまま起きない。
心配から駆け付けたヤンやジェラルド伯らも虚ろな表情のエヴを囲んで覗き込むと大きく一呼吸吐いていつもとのように、はぁいと間延びした返事が聞こえる。
「ううっ、負けましたぁ」
すぐに手をパタパタと揺らして大丈夫だと呟くが、震える手足に私と同じように強すぎた強化で筋肉が硬直して動けないのだと察した。
「疲れたし、動けません」
「はは、私もだ」
ずるずるも隣にうつ伏せに倒れてごろっと寝転ぶ。
ぼんやりしているとジェラルド伯らの会話と遠くからイグナスの勝敗を告げる声が聞こえてくる。
疲れのせいで内容を理解できない。
「約束は守れよ?」
「嫌。膝枕」
「分かった。この間の可愛い格好で頼む。鎧は固い」
「モルガナが戻ったら二人に頼みます」
「楽しみだ」
それでも隣にいるエヴの声だけは聞こえた。
「団長、強い。黒獅子の時いてくれたら良かったのに」
あれ、本当にきつかったのと呟く。
泣きそうな悲しげな声に辛さが伝わった。
「間に合わなくて悪かった」
そうやってだらだら話しているうちにジェラルド伯がエヴを横抱きに抱えて、私はエドと他の団員の両方から挟まれて肩に寄りかかる。
頭を上げる力もなく項垂れた頭が動かせない。
「エヴ、次は間に合うように来るからな」
「…次って。二度めは嫌だなぁ。でも頼りにしてます。それでお願いなんですけど。お父様と団長に」
「ん?」
何かと微かに顔を動かして視線を向ける。
「明日、お休みさせてください。多分、これ無理です。ごめんなさい」
ぐたぁとジェラルド伯の胸にもたれたまま呟く。
「奇遇だな。私もだよ。エド、すまんが明日は頼む」
「団長もエヴ嬢もやりすぎですよ。こんなになるまでやらないでください」
後先考えて欲しいと呆れるエドと意外と満足そうに微笑むジェラルド伯が対照的だった。
「見応えのあるものを観れたのでよしとしましょう。明日の動きは私と息子にお願いします」
「見応えは確かに」
ジェラルド伯の言葉にエドは頷いて明日はお世話になりますと返した。
「こんなに楽しそうな娘を見られるとはな」
「ふふ、負けて悔しいけど」
ジェラルド伯がそう呟くと腕の中でエヴが小さく含み笑いで答えた。
「それでは失礼します」
「我々も、ではまた明日」
エドが私の代わりに答えてお互いにそれぞれ別れた。
天幕に着くまで小言を聞かされてさすがに仕事に支障をきたすほど熱中したことは反省して謝った。
寝台に転がされて鎧を緩めようとしたのでむくっと起きる。
「は?!起きれるんですか?!」
「ああ、もうだいぶいい」
まだ身体がぎしぎしときしむが動けた。
「逆に動かした方が回復が早い」
「ならご自分で歩いてください」
「歩くのは無理だった」
呆れたエドにそう返すと黙って鎧を外すのを手伝う。
「はー、本当にさすが人狼ですね」
「回復力が違う。エヴは明日一日、筋肉痛と無理をした反動で苦しむだろうな」
「エヴ嬢も凄かった。団長と張り合えるなんて。筋肉は普通の女性並みなのに」
強化は元の筋肉の強さを魔力で補強して増幅させるものだ。
「あれだけ魔力があるならなぁ。強化をかけ続けて日をまたげるほど」
腰巻きひとつの楽な格好になり快適さから安堵のため息が漏れる。
「そう言えば面白い話をしていたぞ。ゆっくり段階をかけてかけるともっと強くなるらしい」
「へぇ、初耳です」
「エドもそうか。私もだ。回復したら試してみる」
お前もやってみろと言うとエドも面白がってその場で試し始めた。
しかしさっきからしかめっ面で何度も試すが納得がいかないらしい。
ぴかぴか光って正直鬱陶しい。
「む、意外と難しい。徐々に上げるってことですよね?」
「エヴから小さな金鳴りが聞こえていた。部分強化をした時くらいの音だ」
「癖なのか一気にしか出来ません。練習がいります」
「ふうん」
好奇心から私も試しに魔力をゆっくり流して強化をかけたがいつも通りだった。
「う、おえ」
しかも今日は使いすぎている。
魔力枯渇の症状が現れて断念した。
「目が回る。もうやめた。明日だ」
仰向けに勢いよく寝台に転がる。
「エド、練習はよそでやってくれ。眠れない」
「ああ、すいません。ごゆっくりお休みください」
「明日は頼むぞ」
「回復力が違うのでしょう?通常通りお願いします」
「たまには休みたい」
「しばらく午後は休みだったでしょうが。せめて書類仕事はやってくださいよ」
少々溜まっていたのを思い出して寝転んだまま、分かったと返事を返すと蝋燭の明かりを消してエドが出ていく。
真っ暗な天幕の中、薄い掛布を手繰り寄せて目をつぶればすぐに睡魔に襲われた。
「団長、団長ぉ」
「…う、…ん?」
ゆさゆさと揺らされて目が覚めた。
また金髪の小さなエヴがいた。
「また来たのか?今日はなんだ?」
疲れて覇気のない言い方をするのに腹の上にまたがって跳ねるエヴが可愛くて勝手に笑みが浮かぶ。
「今日は楽しかったね?」
ころんと仰向けの胸に転がって目を細める。
「ああ、楽しかった」
頭を撫でると黒髪とは少し違う手触りだった。
少し柔らかくふわふわしている。
「悪いが眠い。休ませてくれ」
「はぁい」
腹の上から降りたと思ったら勝手にシーツを捲って横に添い寝をしてくる。
ついでに尻尾を手繰り寄せて抱き締めた。
「おい」
「おやすみなさーい」
勝手に私の肘を枕に目をつぶってしまった。
追い出そうと思うが城内に送るのも手間だ。
身体の怠さも、外の天幕とは違い邸門の見張りに会うのも。
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