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説教
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ちらほらとうろつく数人の団員らが朝の挨拶に声をかけられたが、急いでると返して足早に去る。
早めた足取りに声をかける者はもういない。
自陣を抜けて人のいない道まで抜けた。
「団長、私なんで運ばれてるんですか?どこに行くんですか?」
その一言でヤンと私がピリッといら立つ。
ひと気がなくなったことに気づいたようだ。
それでも黙っていればいいものを。
「エヴ様が部屋を抜け出したからですよ」
ヤンが不機嫌に低く答えた。
「ええ?ちゃんと部屋で寝てたよ?そんなことしてないもん」
すぐに肩の上で身動ぎをしてずるっと落ちてくる。
「大人しくしろ」
頭を上げてシーツから顔を出す気配に諦めて横抱きに持ち直す。
くるんだシーツから顔を出して私達を丸くなった目で見つめて首をかしげ辺りを見回す。
「朝方、団長の天幕に行ってたんです。色魔の能力と思います。…急に姿をくらませて私達がどれだけ心配したか」
「…ごめんなさいぃ」
目尻を吊り上げて睨まれている。
顔を寄せて静かに囁くヤンの小言に首をすくめて謝って、隠れるようにシーツを頭から被った。
もう一度荷物を装い肩に担いで城内を抜けて部屋へ向かった。
部屋の扉を開けた瞬間、全員が総立ちに私達を囲む。
ダリウスとトリス、ジェラルド伯とロバート殿が揃っていた。
「娘がご迷惑をおかけしました」
先程ヤンにしたのと同じ話を伝えると怒り心頭の様子のジェラルド伯の謝罪に頭を下げてエヴを手渡そうとすると自分で立ちなさいと厳しい叱責が飛ぶ。
「ごめんなさい。ご、ご心配を、おかけしました」
ふらふらと揺れながら震えてか細い声。
シーツを身体に巻いたまま頭を下げていると、しばらくの沈黙のあと着替えてきなさいとそれだけを告げる。
「話はあとだ」
「は、はい」
トリスとダリウスにも謝り、項垂れて裸足のまま寝室へ歩こうとして足元からぐしゃっと崩れた。
尻餅をついて前屈みに這うエヴにジェラルド伯も顔色を変えた。
「ご、ごめん、ふらついて」
慌てる周囲にエヴが答える。
昨日の影響とヤンが告げると回りは納得に多少の安堵が浮く。
「二人とも退きなさい。私が運ぶ」
もがくだけで立てない様子からダリウスとロバートがエヴを抱えようとしているのを制してジェラルド伯が横抱きに抱えた。
少し話をしたいと呼び止めてジェラルド伯の腕の中のエヴを厳しく睨む。
「エヴ、そんなに尻尾が触りたいなら襟巻きにして首に縫い付けるぞ」
慌ててブンブンと横に顔を振る。
「男の寝台にもぐり込むなんかとんでもない醜聞になるからな」
そんな話が広まれば貴族社会からの爪弾きどころではない。
男の襲う女と決めつけられたら誰に夜這いをかけられようが襲われようが、何をされて当然と見なされる。
ペリエ嬢もかなり危ない橋を渡ったのだ。
令嬢として恥ずかしいあの行為は私の不在に天幕を借りて泊まり込んだという形で収まった。
恋愛が主流で羽目を外す貴族が多いが、高位貴族の令嬢に直接的な行為は許されていない。
既婚者、未婚でも下位貴族同士の遊びや婚約後の戯れに目をつぶっているだけだ。
これらを噛み砕いて説明をして二度とするなと釘を刺した。
「…よ、よばい?…襲われるって、」
全く分かっていない気配にかっとなった。
しかも微かに自分の強さの傲りも漂っていた。
「誰彼と蛙みたいにひっくり返されても文句言えなくなると言ってる!そういうことをされたがってると思われるんだ!されたいのか?!またやりたいのか?!」
「ち、違うもん!」
「違うなら二度とするな!回りからお前がそう思われるのは不愉快だ!馬鹿が群がるからな!手を出す馬鹿は一人残らず私が千切ってエヴの目の前に飾ってやる!」
生首並べて臓物のネックレスにしてやると怒鳴ると目に一杯の涙を溜めて顔を横に必死に振ってあうあうと口がわなないた。
「分かったら行動を改めろ!尻軽とレッテル貼られるようなことになったらかっ拐って屋敷に閉じ込める!」
私の剣幕に怖がってジェラルド伯にしがみつく。
「き、気を付けます!ごめんなさい!」
「場当たり的なその能力を使いこなすかラウルに封印させろ!その軽率さのせいで人が死ぬと思え!」
「ふえ、ふえええっ、はいぃ、うわああん!」
叱られた勢いで号泣してジェラルド伯に失礼しましたと一言断る。
「いえ、私の言いたいことをはっきりとどうも」
眉を下げてため息を吐いている。
「失礼な物言いでした。出過ぎた真似を申し訳ない」
「いい薬です」
血の昇った頭はまだカッカしている。
深呼吸で気持ちを整えるがどうにも腹が立つ。
尻尾狙いでも天幕に来たのは嬉しい。
だが、エヴに叱った通り醜聞のせいでちょっかいをかける馬鹿が増えると思うと我慢ならない。
もう用は済んだとその場は辞去する。
自分の天幕に戻ればエドはおらず机には新しい手紙と書類が整頓されて置かれていた。
半刻ほど処理をしていたらエドが訪ねてきた。
「食事をお持ちしました」
意外に思って書類からエドへと目線を上げた。
「…どういう風の吹き回しだ」
「…昨日のでお疲れだと思って気を遣ったんですけど」
言われてそうだったと気づいて礼を返す。
思ったよりも身体が元気で忘れていた。
以前ならああなると次の日は身体がきしんで動きが悪かったのに。
獣化して回復力がまた上がったらしい。
「そんなに元気なら、」
「休む」
仕事しろと続きそうな気配を遮って返す。
「事務仕事はこなしてるんだ。文句は言うな」
「普段は迷惑なくらい仕事人間の癖に、たまにそうやって急にやる気なくすんだから」
ぶちぶちと小言が続くが無視して机の上を片付けた。
「お前は?」
「後でいただきます」
「そうか。もういいから食事に行け」
そう言うのに勝手に椅子に腰かけた。
怪訝に視線を向ければニマニマ笑ってこちらを眺めている。
「気持ち悪い笑いをやめろ」
「いやぁ、喜ばしくて。おめで、」
「やかましい」
「ん?素直に喜べばいいのに。またもう、なんでそんな不機嫌なんですか?エヴ嬢は団長が恋しくて来られたんでしょう?」
「全く違う。尻尾だ」
それでもいいじゃないかと言うエドに腹が立つ。
来れば単純に嬉しいが、また同じくらい気に入ったものを見つけたら無意識に飛んでいく。
それが分かってるのに何が楽しい。
しかもあの能力があれば閉じ込めようもないのだから厄介だ。
ジェラルド伯が破天荒な奥方を閉じ込めるのに封印を使った気持ちがよく分かる。
軽口をやめろと叱って無言で食事を終えた。
早めた足取りに声をかける者はもういない。
自陣を抜けて人のいない道まで抜けた。
「団長、私なんで運ばれてるんですか?どこに行くんですか?」
その一言でヤンと私がピリッといら立つ。
ひと気がなくなったことに気づいたようだ。
それでも黙っていればいいものを。
「エヴ様が部屋を抜け出したからですよ」
ヤンが不機嫌に低く答えた。
「ええ?ちゃんと部屋で寝てたよ?そんなことしてないもん」
すぐに肩の上で身動ぎをしてずるっと落ちてくる。
「大人しくしろ」
頭を上げてシーツから顔を出す気配に諦めて横抱きに持ち直す。
くるんだシーツから顔を出して私達を丸くなった目で見つめて首をかしげ辺りを見回す。
「朝方、団長の天幕に行ってたんです。色魔の能力と思います。…急に姿をくらませて私達がどれだけ心配したか」
「…ごめんなさいぃ」
目尻を吊り上げて睨まれている。
顔を寄せて静かに囁くヤンの小言に首をすくめて謝って、隠れるようにシーツを頭から被った。
もう一度荷物を装い肩に担いで城内を抜けて部屋へ向かった。
部屋の扉を開けた瞬間、全員が総立ちに私達を囲む。
ダリウスとトリス、ジェラルド伯とロバート殿が揃っていた。
「娘がご迷惑をおかけしました」
先程ヤンにしたのと同じ話を伝えると怒り心頭の様子のジェラルド伯の謝罪に頭を下げてエヴを手渡そうとすると自分で立ちなさいと厳しい叱責が飛ぶ。
「ごめんなさい。ご、ご心配を、おかけしました」
ふらふらと揺れながら震えてか細い声。
シーツを身体に巻いたまま頭を下げていると、しばらくの沈黙のあと着替えてきなさいとそれだけを告げる。
「話はあとだ」
「は、はい」
トリスとダリウスにも謝り、項垂れて裸足のまま寝室へ歩こうとして足元からぐしゃっと崩れた。
尻餅をついて前屈みに這うエヴにジェラルド伯も顔色を変えた。
「ご、ごめん、ふらついて」
慌てる周囲にエヴが答える。
昨日の影響とヤンが告げると回りは納得に多少の安堵が浮く。
「二人とも退きなさい。私が運ぶ」
もがくだけで立てない様子からダリウスとロバートがエヴを抱えようとしているのを制してジェラルド伯が横抱きに抱えた。
少し話をしたいと呼び止めてジェラルド伯の腕の中のエヴを厳しく睨む。
「エヴ、そんなに尻尾が触りたいなら襟巻きにして首に縫い付けるぞ」
慌ててブンブンと横に顔を振る。
「男の寝台にもぐり込むなんかとんでもない醜聞になるからな」
そんな話が広まれば貴族社会からの爪弾きどころではない。
男の襲う女と決めつけられたら誰に夜這いをかけられようが襲われようが、何をされて当然と見なされる。
ペリエ嬢もかなり危ない橋を渡ったのだ。
令嬢として恥ずかしいあの行為は私の不在に天幕を借りて泊まり込んだという形で収まった。
恋愛が主流で羽目を外す貴族が多いが、高位貴族の令嬢に直接的な行為は許されていない。
既婚者、未婚でも下位貴族同士の遊びや婚約後の戯れに目をつぶっているだけだ。
これらを噛み砕いて説明をして二度とするなと釘を刺した。
「…よ、よばい?…襲われるって、」
全く分かっていない気配にかっとなった。
しかも微かに自分の強さの傲りも漂っていた。
「誰彼と蛙みたいにひっくり返されても文句言えなくなると言ってる!そういうことをされたがってると思われるんだ!されたいのか?!またやりたいのか?!」
「ち、違うもん!」
「違うなら二度とするな!回りからお前がそう思われるのは不愉快だ!馬鹿が群がるからな!手を出す馬鹿は一人残らず私が千切ってエヴの目の前に飾ってやる!」
生首並べて臓物のネックレスにしてやると怒鳴ると目に一杯の涙を溜めて顔を横に必死に振ってあうあうと口がわなないた。
「分かったら行動を改めろ!尻軽とレッテル貼られるようなことになったらかっ拐って屋敷に閉じ込める!」
私の剣幕に怖がってジェラルド伯にしがみつく。
「き、気を付けます!ごめんなさい!」
「場当たり的なその能力を使いこなすかラウルに封印させろ!その軽率さのせいで人が死ぬと思え!」
「ふえ、ふえええっ、はいぃ、うわああん!」
叱られた勢いで号泣してジェラルド伯に失礼しましたと一言断る。
「いえ、私の言いたいことをはっきりとどうも」
眉を下げてため息を吐いている。
「失礼な物言いでした。出過ぎた真似を申し訳ない」
「いい薬です」
血の昇った頭はまだカッカしている。
深呼吸で気持ちを整えるがどうにも腹が立つ。
尻尾狙いでも天幕に来たのは嬉しい。
だが、エヴに叱った通り醜聞のせいでちょっかいをかける馬鹿が増えると思うと我慢ならない。
もう用は済んだとその場は辞去する。
自分の天幕に戻ればエドはおらず机には新しい手紙と書類が整頓されて置かれていた。
半刻ほど処理をしていたらエドが訪ねてきた。
「食事をお持ちしました」
意外に思って書類からエドへと目線を上げた。
「…どういう風の吹き回しだ」
「…昨日のでお疲れだと思って気を遣ったんですけど」
言われてそうだったと気づいて礼を返す。
思ったよりも身体が元気で忘れていた。
以前ならああなると次の日は身体がきしんで動きが悪かったのに。
獣化して回復力がまた上がったらしい。
「そんなに元気なら、」
「休む」
仕事しろと続きそうな気配を遮って返す。
「事務仕事はこなしてるんだ。文句は言うな」
「普段は迷惑なくらい仕事人間の癖に、たまにそうやって急にやる気なくすんだから」
ぶちぶちと小言が続くが無視して机の上を片付けた。
「お前は?」
「後でいただきます」
「そうか。もういいから食事に行け」
そう言うのに勝手に椅子に腰かけた。
怪訝に視線を向ければニマニマ笑ってこちらを眺めている。
「気持ち悪い笑いをやめろ」
「いやぁ、喜ばしくて。おめで、」
「やかましい」
「ん?素直に喜べばいいのに。またもう、なんでそんな不機嫌なんですか?エヴ嬢は団長が恋しくて来られたんでしょう?」
「全く違う。尻尾だ」
それでもいいじゃないかと言うエドに腹が立つ。
来れば単純に嬉しいが、また同じくらい気に入ったものを見つけたら無意識に飛んでいく。
それが分かってるのに何が楽しい。
しかもあの能力があれば閉じ込めようもないのだから厄介だ。
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