人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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探り合い

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エドとジェラルド伯に本日の討伐を任せて天幕でゆっくり書類を片付けながら過ごす。
「やあ、カリッド。昨日は面白かったな」
午前中、魔導師長が顔を出した。
「おはようございます。何かありましたか?…まだその姿ですか?」
「もうよかろう。今さらだ」
細い目をますます細めて薄い唇をにぃっとあげる。
向かいの椅子に腰かけて機嫌の良さにため息を吐いた。
「そちらの仕事はよろしいんですか?」
「もう終えた。面白い助力があった。なあ、カリッド。興味あるよな?」
勿体振った物言いに探るつもりで魔導師長の顔を見返す。
「でも内容は憚られるね。防音をかけよう」
呪文を唱えて、よしと軽く頷くと長い足を組んで笑みを深める。
「ウィッカーの回復魔法はそこまで強力なものではない」
額にかかった白い前髪を後ろに撫で付けて背もたれに寄りかかって目を細める。
急に始まった講義に何なのか不思議になり書類を置いて顔を上げた。
「自分の魔力を糧に使役する精霊の助力で折れた骨の位置を整えたり裂けた肉を簡易的に引っ付けるだけだ。回復というより人の手で出来ない手当ての延長だ。最上位の白ウィッカーでさえ体内の治癒力を底上げする力はない。出来るのは上位の妖精族や神族などだよ」
知らないことには興味が湧く。
魔導師長の治療はほぼ王家の独占で内情を初めて知った。
相槌も忘れてじっと聞き入る。
「つまり、速効性の回復は出来ない。種族の違いだね」
好奇心から聞き入っていたがなぜこんな話を言い出したのか疑念が湧いてきた。
表情を顔に張り付け分からない素振りを続ける。
魔導師長の機嫌のいい声と表情に隠れて私を伺う視線にも何か探りたがっていると分かった。
「昨日、このクレインに何が来たのかい?それとも何かいるのかい?朝の治療で彼らを診たら二人とも回復していた。私の力ではない。どういうことかな」
「…どういうことですか?」
私が知りたいと返すと黙って見つめ合う。
「…レディは、」
唐突に魔導師長の口から出た名前にひくりと反応してしまう。
微かな反応だったのに長い付き合いから簡単にバレて魔導師長は、にまぁと顔を歪めた。
「ふふ、やはりレディか。それにカリッドも何か知ってるね?」
「何を?」
無駄だと思うがそ知らぬ振りを続ける。
「妖精族や神族の他に一部の魔族が治癒力を底上げ出来る。レディはアルコールを避けた方がいい。陰の気質が濃くなる。私の五感の鋭さを侮らない方がいいよ?特に慣れた匂いはね」
本人も体調不良から飲まぬように避けていたのに。
隠れて飲むか間違えて口にしたのかもしれない。
思えば前回の影渡りも酒宴の日だった。
肘かけに寄りかかって姿勢を崩す。
「陰の気質というのは?」
「質問ばかりだね。私の問いに答えないのに」
「…私も分からないので。…魔導師長のお考えを知りたい」
「…ふぅん」
「エヴが疑わしいのは分かります。番として無条件に受け入れてはいますけど。人族でありながら人狼と張り合えるあの火力。不思議になりませんか?」
これでいいのか分からない。
こんな好奇心を煽るような物言いで魔導師長を挑発してまで話を聞き出すべきか。
それともそ知らぬ振りで隠して話を切るべきなのか。
魔導師長は私の言葉にふむと視線を上げて納得した気配を漂わす。
「さあねぇ。分からないなぁ」
またね、と軽く述べると立ち上がって天幕から出ていく。
「何か分かったら知らせてください」
「気が向けばねぇ」
「頼みます」
背を向けたままパタパタと振る手を止めようもなく見送った。
しばらく目をつぶりテーブルに拳をみしみしと沈める。
それでも気が静まらない。
何もかも判断しかねる。
エヴが勝手にしたことに頭に来る部分もあるが、だめだと言われて本人は素直に聞き入れていたことと、まだコントロール出来ずに影渡りの時の記憶がなかったこと。
合わせて考えれば寝てる間に無意識にやりたいようにしたのだ。
壊れそうな机から手を離し剣の柄を強く握り締めた。
ぎちぎちと音が鳴りテーブルよりたっぷりと八つ当たりが出来た。
気がすめば軽く息を吐いて気分も変わる。
最終の決定はジェラルド伯にある。
あの抜け目のなさで何かしら手を打つ。
私のこともしっかり利用するだろう。
必ずエヴの安寧を望まれるはずだから。
魔導師長とジェラルド伯ならどう動くか、そこに考えを集中させる。
今すぐ何か思い浮かぶものはなく、あるとしたら魔導師長がジェラルド伯に脅迫紛いのことをしそうだとよぎった。
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