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先々代
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「ちょっとおいで」
こいこいと、手招きをされてエヴが大人しく机を挟んで目の前に立つ。
ぱきん、と陛下がご自身に強化をかけて肘を机に置いた。
「やってみよう」
「え"、陛下がですか?」
エヴが目を丸くして私達を見つめる。
「興味が出た。ほら、早くしなさい」
うきうきと顔を緩めて椅子から腰をあげた。
ジェラルド伯が諌めるがやってみたいとごねる。
こうなると聞かないのは分かっているので私からは何も言わない。
逆に諦めるようにジェラルド伯に告げた。
「始めからかけるんですか?」
「ああ、クレインでは違うようだが、王都ではそうする」
早くと急かされてエヴがバキィンと大きな音と発光で準備をする。
それだけでかなり強さは分かる。
陛下が感心にため息をはいて笑みを浮かべ、顔に浮いた紋様を珍しげにじっと見つめた。
強化と紋様について報告書は届けたからご存じのはず。
質問しないのはそのためだ。
「お父様、靴は脱いでいいですか?」
「…分かった。脱いでいい」
こめかみを揉みながら頷いてエヴが靴を脱いだ。
エヴが前屈みに肘を置いて陛下の手を握る。
「エスコートの手は嫌がったのに腕相撲なら気にしないのか」
くすくすと笑う陛下にエヴが首をかしげた。
後ろから見学しているので表情は分からないが背中から漂う気配からいつものように困った顔をしているように思える。
間に入って二人の握った拳を掴む。
「合図をしたら始めてください」
「ああ、分かった」
「…はぁい」
楽しそうな陛下とは違い、エヴの顔を見ると不満そうにむうっと唇を突き出している。
「エヴ、そんな難しい顔をするな」
おかしくてからかい混じりに言うと眉を下げて困った顔で、ちらっとこちらを見上げてますます唇をむうっと歪める。
「こちらに集中しなさい」
陛下の笑みにエヴが顔を向けて黙って頷いた。
間を置いて二人の集中した気配にタイミングを知らせるように、一度ぐっと強く握った。
「では、開始っ」
合図と共に手を離して一歩下がった。
陛下が顔を赤らめてぎちぎちと拳を倒そうとするのに、エヴは私を見てますます眉を下げる。
「くーっ!う~~~~っはぁ!」
しばらくそうやっていると陛下がもうだめだと机に突っ伏して諦めた。
おそらく強化が続かなかったのだ。
エヴが黙って手を引いて屈めていた腰を伸ばす。
陛下の顔色を伺いながら静かに靴を履いてまたもじもじと自分の手を握る。
「かったい!ビクともしないね!」
目を丸めてエヴへそう告げた。
顔を見ればまだ濃い紋様は浮いている。
それに気づいてまた唖然となる。
「まだその強さの強化は続くのか」
「…はい」
自信なさげな様子で答えると陛下が苦笑いをする。
「そんなにしょげなくていい。私は楽しめた。私は祖父と違って勝ち負けにこだわらない」
何のことかと視線を向けると陛下が気づいて座ったまま私を見上げた。
「クレインとの確執の原因だよ。年に一度の御前試合で負けた腹いせ」
年に一度、王都では剣技を披露する御前試合が行われる。
王子は慣例で成人したら参加する。
それだけのはずだが。
「昔は王子に勝ちを譲るのが仕来たりだったらしいよ。なのに先代のクレイン統主は間違えて勝ったらしい。当初の予定通り、祖父に軽く一撃を入れるつもりが剣を叩き折って場外に飛ばしてしまったとか。父はそういう汗を流すのか嫌いだから試合にも出なかったらしい。そのおかげで私が出る時は慣例が忘れ去られて好きに出来たけど」
昔のことだよと軽くいなす。
「二人ともそれを気にしていたのだろう?」
ジェラルド伯とエヴの沈黙に肯定だと分かった。
「大丈夫。私は気にしない」
私も隣で頷いた。
陛下はそういうことは些事と片付ける。
「形ばかりの優勝はつまらないし、それより国外からの来賓に向けて団に所属する君らの強さを見せつけた方が国力を見せつけられる。今年はクレインからも参加しなさい。気にする者はいないから」
むしろ出てくれた方が場が賑わうと喜んだ。
正式な要請を出すと言うのでジェラルド伯が承諾に頷く。
「まあ、問題はこの子だね。このままじゃ難しい」
目の前に立つエヴを見つめて頬杖をつく。
「嫌だろうけどそちらの有能な術師と協力させて封印の構築をさせようかと思う」
「う、」
エヴが顔を歪めて後ずさった。
「やっぱり嫌かな。逆にその術師をこちらで預かるということも可能だけど戦力の要なのだろう?クレインから移せない」
確かにいないと困るが、今は抜けた穴を何とか塞いでいる。
リーグの復帰もある。
所属はクレインなのでどう判断されるのかジェラルド伯へ顔を向けた。
「グリーブス団長はどう思われますか?」
「…短期間なら彼の不在は大丈夫と思います。今も抜けた穴を対応出来ています。それか、先に後回しにしていた水辺を間引きして王都に預けるかです」
今後起こる未定のスタンビードは残った者で対応する。
「そうですね。私もそう思います」
「影渡りで私が送迎しますか?」
エヴの提案に陛下は首を振った。
「そう易々と王宮に不法侵入されては困る。魔導師長に防衛の呪符を強めさせるからもう来れないと思いなさい」
「あ、そっか、申し訳ありません」
「本当は簡単に影渡りで来れるような守りではないんだよ?かなり強い能力だと自覚して乱用は控えるんだ」
「…はい」
「渡った距離もかなりすごいからね?クレインから王都まで。神龍の気をまとった魔力のせいなのか、その交合した色魔の能力が高いのか。魔導師長が300年出会った中でも最上位の淫魔だと評していたよ」
どうやら陛下はエヴを気に入ったらしい。
普段の硬い仮面を脱いで内面の感情を隠すことなく微笑んでいる。
その上、物珍しさからエヴを見つめて饒舌が止まらない。
「精の問題がなく扱いこなせるなら最適だ。能力の封印は実に惜しい。このままカリッドと三人の従者がいればいいならそれもいいのではないかとも思う。悪いことばかりではない」
上機嫌な陛下とは反対にエヴは声に張りが消えてますますしょげていく。
よく見れば目に涙を溜めて今にもこぼれそうだった。
「陛下、お話をお待ちくださ、い」
気づいてすぐに陛下の言葉に口を挟むが遅かった。
エヴの頬からぼたぼたと涙が溢れた。
「ふ、ふえ、ふえええっ」
陛下も驚いているが、少し後ろに立っていたジェラルド伯もぎょっとしてエヴに何事かと肩に手を置いた。
「お、お父様、私、ふ、ふつう、の、人、が、いいの。い、いんま、は、キツイィ」
ジェラルド伯が眉を下げながらエヴの頬の涙を手でぬぐう。
「団長やヤンや、ダリウスが、美味しそうに、見えるのが、い、いやなの。こんなの、いや。どんどん、人じゃ、なくなる。こわいぃ、こわいよぉ」
アモルや黒獅子みたいになっちゃうとおいおい泣いて止まらない。
膝から崩れるから抱き止めて収まらないえずきに背中をさする。
抱き上げようとしたが、身体が強張って動かないようだ。
しかも頑なに首を振って嫌だと手から逃げる。
ジェラルド伯に手を貸して二人で支えてすぐに後ろにあるソファーへと誘導すると、靴も脱げて側にいたヒムドも戸惑うようにうろうろとうつ伏せに号泣するエヴに近づいて鼻を鳴らす。
「…ジェラルド、すまない」
なぜ泣くのかと怪訝な様子が見え隠れしているが、ぽつりと呟く。
「申し訳ありません。疲れが溜まっていたせいかと思います」
陛下は立ち上がって続き部屋の扉を開けた。
「私の仮眠室だが、ここで休ませてあげなさい。このまま城内を連れて動くわけにもいくまい」
「お言葉に甘えます」
疲れた表情でエヴを抱えて隣へと連れていく。
その後ろをヒムドも追った。
陛下は扉を閉じて頭を、ごんともたれて大きなため息をはいた。
「…また泣かせたことになるのか?」
「…そうですね」
本人は気にしていたのに。
涙目になっていたことに気づかずぺらぺらと好き勝手にしゃべっていたとはっきり告げた。
ジロッと睨むと言い訳を言いたそうに口をモゴモゴと動かしてまた大きく息を吐いて肩を落とした。
中からはまだ号泣が聞こえる。
好きで淫魔になったんじゃない、人の精を吸うのも嫌だ、自分を淫魔にしたアモルも緑の化け物に変える守護の紋も嫌いだと舌っ足らずな訴えも聞こえた。
「気難しい。本当に手間のかかる」
不機嫌に顔を歪めて先程座っていた執務用の椅子に戻って頬杖をつく。
「まだ16です。剣も握ったこともない。起きたのもここ数年で、まだまともに、」
腹が立って棘のある言い方で諌めた。
「聞いた。10でコブが消えて11で歩き、12で言葉を覚えて勉学を始めた。それが16になると人身御供の覚悟で二つ名の上位種を討伐。その後は毎日、男でも根をあげる鍛練。最近は吐きながら水種魔獣の相手をしていたとな」
陛下も水種はお嫌いだ。
異形の姿を思い出して顔をしかめた。
「そこまで把握していたのに。配慮が足りません」
番が泣いたことが許せず陛下の立場を無視して責めた。
「あそこまで泣くと誰が分かる。カリッドも気づかず止めそびれたくせに」
「落ち込んでることには気づきました」
「後からなら何とでも言える」
それは間違いないので肯定に沈黙を返す。
「…このまま拗ねて引きこもるんじゃないか?」
「また気がすむまで泣いたらすぐ復活します。努力家ですから。領民のために力を使うことを誇りにしてます」
「…そうか。…まあ、女には惜しいね。男ならもっと気楽だったろう」
一度、同じように思ったことがあるので黙って陛下の言葉を聞き流す。
今と違っていたらと想像するが、男でも女でも穏やかで献身的な気質は変わらないように思えた。
こいこいと、手招きをされてエヴが大人しく机を挟んで目の前に立つ。
ぱきん、と陛下がご自身に強化をかけて肘を机に置いた。
「やってみよう」
「え"、陛下がですか?」
エヴが目を丸くして私達を見つめる。
「興味が出た。ほら、早くしなさい」
うきうきと顔を緩めて椅子から腰をあげた。
ジェラルド伯が諌めるがやってみたいとごねる。
こうなると聞かないのは分かっているので私からは何も言わない。
逆に諦めるようにジェラルド伯に告げた。
「始めからかけるんですか?」
「ああ、クレインでは違うようだが、王都ではそうする」
早くと急かされてエヴがバキィンと大きな音と発光で準備をする。
それだけでかなり強さは分かる。
陛下が感心にため息をはいて笑みを浮かべ、顔に浮いた紋様を珍しげにじっと見つめた。
強化と紋様について報告書は届けたからご存じのはず。
質問しないのはそのためだ。
「お父様、靴は脱いでいいですか?」
「…分かった。脱いでいい」
こめかみを揉みながら頷いてエヴが靴を脱いだ。
エヴが前屈みに肘を置いて陛下の手を握る。
「エスコートの手は嫌がったのに腕相撲なら気にしないのか」
くすくすと笑う陛下にエヴが首をかしげた。
後ろから見学しているので表情は分からないが背中から漂う気配からいつものように困った顔をしているように思える。
間に入って二人の握った拳を掴む。
「合図をしたら始めてください」
「ああ、分かった」
「…はぁい」
楽しそうな陛下とは違い、エヴの顔を見ると不満そうにむうっと唇を突き出している。
「エヴ、そんな難しい顔をするな」
おかしくてからかい混じりに言うと眉を下げて困った顔で、ちらっとこちらを見上げてますます唇をむうっと歪める。
「こちらに集中しなさい」
陛下の笑みにエヴが顔を向けて黙って頷いた。
間を置いて二人の集中した気配にタイミングを知らせるように、一度ぐっと強く握った。
「では、開始っ」
合図と共に手を離して一歩下がった。
陛下が顔を赤らめてぎちぎちと拳を倒そうとするのに、エヴは私を見てますます眉を下げる。
「くーっ!う~~~~っはぁ!」
しばらくそうやっていると陛下がもうだめだと机に突っ伏して諦めた。
おそらく強化が続かなかったのだ。
エヴが黙って手を引いて屈めていた腰を伸ばす。
陛下の顔色を伺いながら静かに靴を履いてまたもじもじと自分の手を握る。
「かったい!ビクともしないね!」
目を丸めてエヴへそう告げた。
顔を見ればまだ濃い紋様は浮いている。
それに気づいてまた唖然となる。
「まだその強さの強化は続くのか」
「…はい」
自信なさげな様子で答えると陛下が苦笑いをする。
「そんなにしょげなくていい。私は楽しめた。私は祖父と違って勝ち負けにこだわらない」
何のことかと視線を向けると陛下が気づいて座ったまま私を見上げた。
「クレインとの確執の原因だよ。年に一度の御前試合で負けた腹いせ」
年に一度、王都では剣技を披露する御前試合が行われる。
王子は慣例で成人したら参加する。
それだけのはずだが。
「昔は王子に勝ちを譲るのが仕来たりだったらしいよ。なのに先代のクレイン統主は間違えて勝ったらしい。当初の予定通り、祖父に軽く一撃を入れるつもりが剣を叩き折って場外に飛ばしてしまったとか。父はそういう汗を流すのか嫌いだから試合にも出なかったらしい。そのおかげで私が出る時は慣例が忘れ去られて好きに出来たけど」
昔のことだよと軽くいなす。
「二人ともそれを気にしていたのだろう?」
ジェラルド伯とエヴの沈黙に肯定だと分かった。
「大丈夫。私は気にしない」
私も隣で頷いた。
陛下はそういうことは些事と片付ける。
「形ばかりの優勝はつまらないし、それより国外からの来賓に向けて団に所属する君らの強さを見せつけた方が国力を見せつけられる。今年はクレインからも参加しなさい。気にする者はいないから」
むしろ出てくれた方が場が賑わうと喜んだ。
正式な要請を出すと言うのでジェラルド伯が承諾に頷く。
「まあ、問題はこの子だね。このままじゃ難しい」
目の前に立つエヴを見つめて頬杖をつく。
「嫌だろうけどそちらの有能な術師と協力させて封印の構築をさせようかと思う」
「う、」
エヴが顔を歪めて後ずさった。
「やっぱり嫌かな。逆にその術師をこちらで預かるということも可能だけど戦力の要なのだろう?クレインから移せない」
確かにいないと困るが、今は抜けた穴を何とか塞いでいる。
リーグの復帰もある。
所属はクレインなのでどう判断されるのかジェラルド伯へ顔を向けた。
「グリーブス団長はどう思われますか?」
「…短期間なら彼の不在は大丈夫と思います。今も抜けた穴を対応出来ています。それか、先に後回しにしていた水辺を間引きして王都に預けるかです」
今後起こる未定のスタンビードは残った者で対応する。
「そうですね。私もそう思います」
「影渡りで私が送迎しますか?」
エヴの提案に陛下は首を振った。
「そう易々と王宮に不法侵入されては困る。魔導師長に防衛の呪符を強めさせるからもう来れないと思いなさい」
「あ、そっか、申し訳ありません」
「本当は簡単に影渡りで来れるような守りではないんだよ?かなり強い能力だと自覚して乱用は控えるんだ」
「…はい」
「渡った距離もかなりすごいからね?クレインから王都まで。神龍の気をまとった魔力のせいなのか、その交合した色魔の能力が高いのか。魔導師長が300年出会った中でも最上位の淫魔だと評していたよ」
どうやら陛下はエヴを気に入ったらしい。
普段の硬い仮面を脱いで内面の感情を隠すことなく微笑んでいる。
その上、物珍しさからエヴを見つめて饒舌が止まらない。
「精の問題がなく扱いこなせるなら最適だ。能力の封印は実に惜しい。このままカリッドと三人の従者がいればいいならそれもいいのではないかとも思う。悪いことばかりではない」
上機嫌な陛下とは反対にエヴは声に張りが消えてますますしょげていく。
よく見れば目に涙を溜めて今にもこぼれそうだった。
「陛下、お話をお待ちくださ、い」
気づいてすぐに陛下の言葉に口を挟むが遅かった。
エヴの頬からぼたぼたと涙が溢れた。
「ふ、ふえ、ふえええっ」
陛下も驚いているが、少し後ろに立っていたジェラルド伯もぎょっとしてエヴに何事かと肩に手を置いた。
「お、お父様、私、ふ、ふつう、の、人、が、いいの。い、いんま、は、キツイィ」
ジェラルド伯が眉を下げながらエヴの頬の涙を手でぬぐう。
「団長やヤンや、ダリウスが、美味しそうに、見えるのが、い、いやなの。こんなの、いや。どんどん、人じゃ、なくなる。こわいぃ、こわいよぉ」
アモルや黒獅子みたいになっちゃうとおいおい泣いて止まらない。
膝から崩れるから抱き止めて収まらないえずきに背中をさする。
抱き上げようとしたが、身体が強張って動かないようだ。
しかも頑なに首を振って嫌だと手から逃げる。
ジェラルド伯に手を貸して二人で支えてすぐに後ろにあるソファーへと誘導すると、靴も脱げて側にいたヒムドも戸惑うようにうろうろとうつ伏せに号泣するエヴに近づいて鼻を鳴らす。
「…ジェラルド、すまない」
なぜ泣くのかと怪訝な様子が見え隠れしているが、ぽつりと呟く。
「申し訳ありません。疲れが溜まっていたせいかと思います」
陛下は立ち上がって続き部屋の扉を開けた。
「私の仮眠室だが、ここで休ませてあげなさい。このまま城内を連れて動くわけにもいくまい」
「お言葉に甘えます」
疲れた表情でエヴを抱えて隣へと連れていく。
その後ろをヒムドも追った。
陛下は扉を閉じて頭を、ごんともたれて大きなため息をはいた。
「…また泣かせたことになるのか?」
「…そうですね」
本人は気にしていたのに。
涙目になっていたことに気づかずぺらぺらと好き勝手にしゃべっていたとはっきり告げた。
ジロッと睨むと言い訳を言いたそうに口をモゴモゴと動かしてまた大きく息を吐いて肩を落とした。
中からはまだ号泣が聞こえる。
好きで淫魔になったんじゃない、人の精を吸うのも嫌だ、自分を淫魔にしたアモルも緑の化け物に変える守護の紋も嫌いだと舌っ足らずな訴えも聞こえた。
「気難しい。本当に手間のかかる」
不機嫌に顔を歪めて先程座っていた執務用の椅子に戻って頬杖をつく。
「まだ16です。剣も握ったこともない。起きたのもここ数年で、まだまともに、」
腹が立って棘のある言い方で諌めた。
「聞いた。10でコブが消えて11で歩き、12で言葉を覚えて勉学を始めた。それが16になると人身御供の覚悟で二つ名の上位種を討伐。その後は毎日、男でも根をあげる鍛練。最近は吐きながら水種魔獣の相手をしていたとな」
陛下も水種はお嫌いだ。
異形の姿を思い出して顔をしかめた。
「そこまで把握していたのに。配慮が足りません」
番が泣いたことが許せず陛下の立場を無視して責めた。
「あそこまで泣くと誰が分かる。カリッドも気づかず止めそびれたくせに」
「落ち込んでることには気づきました」
「後からなら何とでも言える」
それは間違いないので肯定に沈黙を返す。
「…このまま拗ねて引きこもるんじゃないか?」
「また気がすむまで泣いたらすぐ復活します。努力家ですから。領民のために力を使うことを誇りにしてます」
「…そうか。…まあ、女には惜しいね。男ならもっと気楽だったろう」
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