人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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「どけ!馬鹿犬が!」
「だ、んちょぉ!どいてぇ!」
はっとして手の力が緩んだ。
目の前に赤黒くパンパンに腫れた顔のエヴ。
目にギラギラと憎しみと怒りを滾らせ、歯を剥き出して今にも噛みつきそうな。
私の手を払いのけて爪を立てる勢いで陛下の顔を掴むと覆い被さって、ごっと頭突きのような音が響いた。
「ぎゃああああ!」
驚いて呆然とする間もなく悲鳴が上がった。次の瞬間、エヴが目の前から消えた。横へ人形のように空中をまっすぐ飛んでいた。
ガラス扉の大きな棚にエヴが頭から。
「あ"っ!ぐう"っ!」
ドサッとガラスの破片の上に転がった。
「エヴ!」
途端に身体が自由に動く。
エヴのもとに行きたいが踏み留まって陛下へ振り向いた。
シルファヌスを捕まえなくては。
エヴが与えた一撃を逃してはだめだ。
逃せばまた繰り返す。
「きぃやぁぁぁぁ!なんなのよぉぉぉ!これぇぇ!」
ごろん、ごろんと転がって頭をかきむしり叫び続ける背中を押さえて後ろ手に床へ押さえつける。
身体が先程の変化したようにぼこんぼこんと体型が変化し続ける。
「押さえとけよ!犬っころ!」
暴れる陛下を捕まえた私を見て色魔も動く。
こいつも魔法が解けた。
壁にもたれたまま陛下へと片手を向けて黒い炎を飛ばした。
「やめろ!陛下を殺すな!」
「ばぁか!殺すんじゃねぇよぉ、術の強化すんだよ!器を壊したらまたシルファヌスが出てくるからなぁ!ははっ!」
蛇のように伸びた黒い炎が陛下を包み印を描くと消えて悶えて苦しんでいたのが静かになった。
激しく移り変わっていた姿が陛下の形でおさまる。
気絶しているだけで魔力の揺らぎはなくなった。
見る限り何も問題はない。
色魔に上手くいったのかと問いかけると、バッチリぃと軽い返事が返ってきた。
「…そうか」
しかし、念のためとシーツでくるんで目を塞いで四肢を縛る。
そうしながら思ったより動ける自分の身体にも目を向けた。
剣の刃が横から半分も入るほど切ったのに。
傷ついた腹より胸の熱さ。
何かを分からずじわじわ胸から全身に広がる熱に手を添えたら、その場所に挟んでいたフェアリーの護符を思い出した。
命を救われたことに感謝した。
これがなければ動けずにエヴと陛下を救えなかった。
「エヴァ、くそ女を封印できたぞぉ。上手いじゃぁん。これ、俺の教えた術色じゃねぇな?」
「えへ、へ。…ラ、ウルの、特製」
四年も私を封印した奴、新しいのはもっとすごいでしょと呟く。
アモルとの会話に気が抜けてエヴは安堵から、ほぉっと息を吐いたが、痛みから呻いて苦しんでいる。
捕縛した陛下をそのままに、ベッドにかけてあったもう一枚のシーツを剥いで傷だらけのエヴをガラスの中から抱き起こして包んだ。
「精くださ、んん、」
聞き終える前にエヴへ口付けから精を移す。
かなり減っている。
今までにないほど吸われた。
目眩と虚脱感でエヴを支えるのがキツくて床に手をついた。
抱き締めていたいのに、膝からずるずると床にエヴの身体が落ちる。
「いぃ、だいぃ」
床に倒れたエヴの上によつんばに被さったまま動けない。
体重をかけないように、上に倒れるのだけは避けたい。
それだけはと耐えた。
「ずずっ、ふうっ。エヴが、生きてる。よかった、よかったぁ。エヴぁ」
声が震えた。
目頭も熱い。
ボタボタ涙がこぼれてエヴの上に落ちた。
耐えられず目を強くつぶってしゃくりが出た。
よつんばの下からエヴの泣き声が聞こえてきた。
目を開けると湿った目のせいでよく見えないが、きっと紫の瞳が宝石のように光らせていつものように泣いてる。
「ふええ、ふええ、だんちょぉ、遅いよぉ、ひっく」
「ああ、ぐず、すまない」
手の甲で顔を拭いて起き上がった。
二、三深呼吸をしてエヴの怪我を確認する。
貫いて穴の空いた手がうまく動かない。
包んだシーツは私とエヴの血の染みが広がった。
私は手のひらと片腹に軽く穴が空いただけ。
エヴより軽い。フェアリーの護符がある。
エヴは顔と肩にガラス片が刺さっている
頬が腫れて大量の鼻血も。口の端も大きく切れている。
目眩でよく見えないから頭を振って意識を戻す。
刺さった大きい破片を摘まんでゆっくり引き抜いた。
「いいいったいいい!ううっ、こ、これが痛い、ですね」
抜く度に悲鳴をあげてぼろぼろ涙を流す。
「ま、魔力枯渇は、慣れてるけどぉ、うう、ひっく、ふえ、」
「エヴ、よくやった。エヴが陛下を救ったんだ」
何があったのか分かってる。
この怪我と先程の見たことが全てだ。
「…だん、ちょう、陛下は?」
顔をあげようとしたが少し顔を揺らしただけ。
「ご無事だ。呼吸もある」
「よ、かったぁ、あは、やったぁ」
それだけ言うと急に目が虚ろになり、ぐらっと頭が崩れた。
「エヴ?」
寝息のような落ち着いた呼吸。
血が多く流れたと言っても命に関わるほどではなかった。
シルファヌスはエヴを殺す気がなく、わざと殴打だけで済ませていた。
おそらくただの気絶。
ほっと息を吐いて安堵した。
振り返って部屋の隅で転がっている色魔に、あの夢魔はどうなったのか問うとシルファヌスをこの男の体内に封印したと答えた。
「お前は無事か」
「えへへー、死にかけぇ」
壁にもたれながら身体を起こすと肩が千切れかけた腕がぶらんと揺れた。
こいつはこのまま死んでくれて構わないのだが。
まだ聞きたいことがある。
それにこいつならエヴの治療が出来る。
死なせられない。
「お前の治療はどうすればいい?」
「えー?協力的じゃーん?どったの?ワンちゃん」
「エヴの治療のためだ。出来るか」
「やるよぉ。エヴは俺の可愛い嫁ちゃぁん」
でも、ちょい待ちと呟いて垂れた肩の肉に手を当ててまた黒い炎が巻き付く。
「さすがに切れたところから魔力がこぼれて動けなぁい、あはぁ」
口からふう、と霧が漏れて流れていた血とこぼれた魔素を包む。
「はは、きっつぅ」
さすがの色魔も顔を歪めた。
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