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宥恕
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ふぅと二人で息を吐いて安堵した頃、慌ただしくドアが開いた。
「カリッド、無事か?」
「エヴ様?!」
近衛隊長を引きずって満身創痍のラウル達が部屋へ駆け込んだ。
「お前らも、ここを…待て。そいつは誰だ」
服装は近衛隊長だが、顔が違う。
かなり耳が長い、それに金髪。
見た目はエルフの青年だ。
「こいつ?近衛隊長だよ?びっくりだよね、顔が違うから。私も驚いたよ」
相変わらず魔導師長が軽い。
「…長耳と、その顔立ち」
「ハイエルフだったみたいだよ。上手に化けたもんだよねぇ。私の長年の探知にも引っ掛からなかった。たいした男だ」
ダリウスが片手に魔導師長の魔法縄を掴んで引きずっていた。
床に倒れるエヴを見たら、もう用はないと床に捨てた。
「陛下は、無事だな。君も立ち上がれるならいいか。よし。レディの怪我を見せなさい。君らどいて」
素早く陛下の診察をしたらすぐにエヴへと駆け寄る。
ヤンが魔力枯渇で苦しむエヴに魔力を注いでいたが、魔導師長が止める。
治療が先だと。
守護の紋で固くなると皮膚の奥深くに刺さった破片が抜けない。
色魔がしようとしたのも、やめろとまた止める。
自然治癒を高めるから体内に破片を残したまま治癒することになると話した。
「もっと単純な打撲や切り傷、病に向いてるね。こういう繊細な怪我には向かない」
リーグとラウルの怪我も先にエヴが治療していたら危なかったそうだ。
後遺症が残さずに治療が出来たのは魔導師長が先にラウルの粉々の骨を整えて、リーグの千切れていた筋肉や筋を繋いだからと説明を受けた。
「こういう怪我はウィッカーの専門だ」
任せろとシーツに巻いてあるエヴを長椅子に乗せて精霊に手当てを手伝わせた。
「今は止血だけね。応急措置はしたよ。少しお互いの状況を整理しよう」
お互いに状況が分からず質問の攻防になる。
こちらからは陛下が以前、討伐した夢魔にとり憑かれてシルファヌスという名の女に変化したことと、色魔との共闘、エヴを贄とされたことを話す。
魔導師長は熱心に聞くが、ヤン達の興味はエヴだけだ。
ダリウスとラウルはこちらの話を聞かずに魔導師長の指示に従ってエヴの手当てを続け、代表で聞いていたヤンも状況を把握したらすぐにエヴへと駆け寄る。
魔導師長と共に捕縛して床に転がしたままの陛下をソファーへと運ぶ。
そうやって動きながらも魔導師長は部屋の隅に休む色魔へ矢継ぎ早に質問を投げ掛けている。
不機嫌に色魔は、ああとか違うと短く答えた。
「では、探知に引っ掛かった下腹の塊が封印した魔人というわけだね?」
「…いい加減うるせぇわぁ」
「享楽の色魔殿、申し訳ないね。教えてもらえると助かるんだ」
「うっせぇ」
「仰せのままに」
下手に出る魔導師長の態度は嫌ではないらしい。
睨み付けて攻撃する素振りを見せたのに、目をつぶって肩の修復に集中し始めた。
「そちらの状況は?そろそろ話をしてください。ハイエルフによく勝てましたね」
質問の途切れたタイミングで魔導師長へそう尋ねた。
ヤンとダリウスがいたとは言え、高等魔法を使うハイエルフに種族としてランクが劣るウィッカーとハーフエルフが敵うのかと驚いた。
何を使うのか、何に特化しているのか手段が見えない。
初見で挑める相手とは思えなかった。
「ラウルの知り合いだったみたいだよ。手の内がバレバレなおかげで善戦したよ。世間は狭いね」
どういうことかと問う。
この男は神皇国に長いこと囚われていたハイエルフだと魔導師長が話をした。
ラウルの昔馴染み。
精神汚染を得意とした種馬用のハイエルフ。
こいつを逃がした罰でラウルは代わりの種馬にされるところを逃げ出したと説明した。
近衛隊長の精神汚染はラウルと二人で解除ずみだそうだ。
「ラウルが言うにはね、こいつは精神汚染に特化しているらしいんだよ。耐性があるのにこれほど強固にかかるなら、ハイエルフ以上の能力者だ。それで私達もこちらへ慌てて駆け付けたんだ」
ここに着くまでに城の使用人は洗脳の魔法がとけたと同時に倒れてしまってどうしようもないらしい。
私と魔導師長でこの場は動くにしても早急に陛下の許可と采配がいる。
応援を呼ぶ許可も。
目を覚ますのは待てないと陛下と近衛隊長を起こす。
先に近衛隊長が目を覚ますと青ざめて震える。
私達へ頭を下げて泣いた。
「今は忙しいんだ。汚染が解けたんだから働いてくれ。陛下も起こさねばならない」
魔導師長の言葉に首肯し、顔をぬぐった。
「すまなかった。グリーブス」
「…陛下の采配次第だ」
事によっては処分すると仄めかした。
操られていたとは言えエヴを捕縛したこいつは許せない。
許可を願い出るつもりだった。
横目で見ると魔導師長が目を覚ました陛下に状況を説明していた。
「…だいたいは覚えている。…操られている間も聞こえていた」
その言葉にざわっと毛が逆立つ。
抗えなかったのだ、仕方がないことと理解しようと思うのに、エヴへの平手打ちも肉の感触も覚えているのかと全身に怒気が回った。
私の気配に陛下は顔を下に向けたまま。
うつ向いて頭を抱えていた。
「陛下、話は後程。今はこの場の采配を私共に委ねていただけますか?」
私の固い声に陛下は項垂れたまま頷く。
拳を強く握り息を整えた。
陛下は前を向くべきだ。
「ご無事で何よりです。私の敬愛する陛下。ご覧になっていのなら誉めてください。陛下を取り戻したことを。前を向いて。今までのように」
陛下は目を押さえていた手を下ろしてのろのろと私へと顔を向けた。
「カリッド、よく、やった」
いつもより短く、言葉を詰まらせながら。
空色の瞳が濡れていた。
あふれて頬にこぼれている。
「カリッド、無事か?」
「エヴ様?!」
近衛隊長を引きずって満身創痍のラウル達が部屋へ駆け込んだ。
「お前らも、ここを…待て。そいつは誰だ」
服装は近衛隊長だが、顔が違う。
かなり耳が長い、それに金髪。
見た目はエルフの青年だ。
「こいつ?近衛隊長だよ?びっくりだよね、顔が違うから。私も驚いたよ」
相変わらず魔導師長が軽い。
「…長耳と、その顔立ち」
「ハイエルフだったみたいだよ。上手に化けたもんだよねぇ。私の長年の探知にも引っ掛からなかった。たいした男だ」
ダリウスが片手に魔導師長の魔法縄を掴んで引きずっていた。
床に倒れるエヴを見たら、もう用はないと床に捨てた。
「陛下は、無事だな。君も立ち上がれるならいいか。よし。レディの怪我を見せなさい。君らどいて」
素早く陛下の診察をしたらすぐにエヴへと駆け寄る。
ヤンが魔力枯渇で苦しむエヴに魔力を注いでいたが、魔導師長が止める。
治療が先だと。
守護の紋で固くなると皮膚の奥深くに刺さった破片が抜けない。
色魔がしようとしたのも、やめろとまた止める。
自然治癒を高めるから体内に破片を残したまま治癒することになると話した。
「もっと単純な打撲や切り傷、病に向いてるね。こういう繊細な怪我には向かない」
リーグとラウルの怪我も先にエヴが治療していたら危なかったそうだ。
後遺症が残さずに治療が出来たのは魔導師長が先にラウルの粉々の骨を整えて、リーグの千切れていた筋肉や筋を繋いだからと説明を受けた。
「こういう怪我はウィッカーの専門だ」
任せろとシーツに巻いてあるエヴを長椅子に乗せて精霊に手当てを手伝わせた。
「今は止血だけね。応急措置はしたよ。少しお互いの状況を整理しよう」
お互いに状況が分からず質問の攻防になる。
こちらからは陛下が以前、討伐した夢魔にとり憑かれてシルファヌスという名の女に変化したことと、色魔との共闘、エヴを贄とされたことを話す。
魔導師長は熱心に聞くが、ヤン達の興味はエヴだけだ。
ダリウスとラウルはこちらの話を聞かずに魔導師長の指示に従ってエヴの手当てを続け、代表で聞いていたヤンも状況を把握したらすぐにエヴへと駆け寄る。
魔導師長と共に捕縛して床に転がしたままの陛下をソファーへと運ぶ。
そうやって動きながらも魔導師長は部屋の隅に休む色魔へ矢継ぎ早に質問を投げ掛けている。
不機嫌に色魔は、ああとか違うと短く答えた。
「では、探知に引っ掛かった下腹の塊が封印した魔人というわけだね?」
「…いい加減うるせぇわぁ」
「享楽の色魔殿、申し訳ないね。教えてもらえると助かるんだ」
「うっせぇ」
「仰せのままに」
下手に出る魔導師長の態度は嫌ではないらしい。
睨み付けて攻撃する素振りを見せたのに、目をつぶって肩の修復に集中し始めた。
「そちらの状況は?そろそろ話をしてください。ハイエルフによく勝てましたね」
質問の途切れたタイミングで魔導師長へそう尋ねた。
ヤンとダリウスがいたとは言え、高等魔法を使うハイエルフに種族としてランクが劣るウィッカーとハーフエルフが敵うのかと驚いた。
何を使うのか、何に特化しているのか手段が見えない。
初見で挑める相手とは思えなかった。
「ラウルの知り合いだったみたいだよ。手の内がバレバレなおかげで善戦したよ。世間は狭いね」
どういうことかと問う。
この男は神皇国に長いこと囚われていたハイエルフだと魔導師長が話をした。
ラウルの昔馴染み。
精神汚染を得意とした種馬用のハイエルフ。
こいつを逃がした罰でラウルは代わりの種馬にされるところを逃げ出したと説明した。
近衛隊長の精神汚染はラウルと二人で解除ずみだそうだ。
「ラウルが言うにはね、こいつは精神汚染に特化しているらしいんだよ。耐性があるのにこれほど強固にかかるなら、ハイエルフ以上の能力者だ。それで私達もこちらへ慌てて駆け付けたんだ」
ここに着くまでに城の使用人は洗脳の魔法がとけたと同時に倒れてしまってどうしようもないらしい。
私と魔導師長でこの場は動くにしても早急に陛下の許可と采配がいる。
応援を呼ぶ許可も。
目を覚ますのは待てないと陛下と近衛隊長を起こす。
先に近衛隊長が目を覚ますと青ざめて震える。
私達へ頭を下げて泣いた。
「今は忙しいんだ。汚染が解けたんだから働いてくれ。陛下も起こさねばならない」
魔導師長の言葉に首肯し、顔をぬぐった。
「すまなかった。グリーブス」
「…陛下の采配次第だ」
事によっては処分すると仄めかした。
操られていたとは言えエヴを捕縛したこいつは許せない。
許可を願い出るつもりだった。
横目で見ると魔導師長が目を覚ました陛下に状況を説明していた。
「…だいたいは覚えている。…操られている間も聞こえていた」
その言葉にざわっと毛が逆立つ。
抗えなかったのだ、仕方がないことと理解しようと思うのに、エヴへの平手打ちも肉の感触も覚えているのかと全身に怒気が回った。
私の気配に陛下は顔を下に向けたまま。
うつ向いて頭を抱えていた。
「陛下、話は後程。今はこの場の采配を私共に委ねていただけますか?」
私の固い声に陛下は項垂れたまま頷く。
拳を強く握り息を整えた。
陛下は前を向くべきだ。
「ご無事で何よりです。私の敬愛する陛下。ご覧になっていのなら誉めてください。陛下を取り戻したことを。前を向いて。今までのように」
陛下は目を押さえていた手を下ろしてのろのろと私へと顔を向けた。
「カリッド、よく、やった」
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