人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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八つ当たり

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今は魔導師長の首を絞めて通路の隙間に引きずっている。
「うむー、むごむが、」
すぐ側に柱と壁の隙間があるからそこに押し込んだ。
片手は口を塞いでいるから魔法の詠唱は出来ない。
腕を叩いて抗議しているが、一層、強く締めた。
部屋にはヤン達が勢揃いしていたのだから私が抜けても問題ない。
その隙にこの男に文句を言いたいと探していたところ廊下でばったり出会った。
「心当たりあるだろう?くそじじぃ」
珍しく目を白黒させてブンブンと横に顔を振った。
「い、」
手に痛みを感じて声が漏れた。
おうおうと聞こえてよく見ると魔導師長の服と首の隙間から枝が飛び出て包帯を巻いた手のひらに木の枝が巻き付いていた。
「ククノチか」
ぱちん、ぱちんと返答するように手を叩く。
ふん、と鼻を鳴らして魔導師長を手離した。
「うえっほ!げほ!ちょ、っと、何をするんだい?いきなりひどくないか?うおおっ!」
壁に叩きつけて少し小さな魔導師長の胸ぐらを押さえて睨み付けた。
「エヴのお人好しに漬け込むからだ」
「あ、そっか、聞いちゃったか。あーあ、ヤンは意外とおしゃべりだねぇ。と言うか意外と仲がいいね、君ら」
「やかましい、それより近衛隊長を許すように仕向けてどういうつもりだ。あんなに脅えていたのに。エヴに何か押し付ける気か?ただの契約で雇われた黒のお前が、」
「あ、言い忘れた。腹に道が出来たからもう肌から摂取出来ないよ」
「……何のことだ」
「精を吸うなら普通のやり方しか無理ってことだよ」
レディと離れていていいのかと聞かれた。
どういうことかと壁に押しやり胸ぐらをまた強く掴んで詳しく聞き出す。
「うう、苦しいって!あーもう、乱暴だね、カリッドは。だからね、レディは破瓜をしたから腹へ直接注げるようになったんだ。本来の食事のやり方を覚えたと言えば分かるかな?ふふ、」
ゆるゆると手から力が抜けて魔導師長が余裕の笑みを浮かべて私を見上げている。
「いいのかい?彼らを側に置いて。精の多いダリウスやトリス、それと、」
「は?トリス?」
「ん?ああ、食欲と性欲は似通っていてね、大食漢のハーピイは君達二人ほどではないけどかなり精が濃い。ヤンとラウルも悪くないね。生命力が強いから常人より精が濃いめ。まあ、淫魔になったレディの好みは性欲旺盛なオーガかな」
耳に顔を寄せた魔導師長の揶揄する囁きにまた力が入る。
「うぐぐ、」
「……じじい。……随分、私をからかうじゃないか?」
「く、からかってなんかいないよ?ふふ、ふ」
首の圧迫に眉をひそめながらも楽しげな笑みは変わらない。
ククノチが抵抗して手のひらに強く巻き付いて包帯から血がにじんだ。
「私はレディがあのまま淫魔のままでも可愛くてね?」
「封印する気がないのか?」
「いや、どちらでも私の好みと言ってるだけだよ?君にはつらいかな?人狼は囲い混んで独り占めを望むのに」
魔導師長は手をククノチに寄せると、するっとそちらに移る。
「レディの魔人化が進んだと覚悟した方がいいよ。あれだけ淫に片寄った魔力を帯びて破瓜もすんだ。君も心当たりあるんじゃないか。例えば、精の器が大きくなったとか」
昨日と今朝、大量に吸われたことを思い出した。
ただ空っぽだからいつもより多く盗られただけと考えていたが、もしこいつの言う通りなら。
「君のこともあるし、陛下のご命令だから努力はするけど、こうなってしまったらラウルの協力があっても完璧な封印はもう無理だね」
笑みを浮かべて覗きこまれ胸ぐらを掴んだ手には機嫌を取るように優しくさする。
「でもハイエフルのシグバドがいれば違うかも?君も望みを捨てられないよね?そう考えたらレディにも君にもシグバドは必要だろう?もちろん陛下にもね」
睨み付けたところで囁きは止まない。
「万にひとつ、寿命なり何なりでご崩御されたらどうなる?魔素を撒き散らすか復活するか。破れない保証もないよね?全て私一人に任す気かい?出来るかな?」
服を掴んだ手を離すのに魔導師長はさする手をそのままに覗いた顔を近づかせる。
「カリッド、そう怖い顔をするな。機嫌を治してくれないかい?私は陛下も君も幼い頃から知っていて可愛く思っているんだから」
エヴのこと、陛下のこと。
考えたら目眩と頭痛がしてきた。
頭の中でぐるぐると考え込んでいるうちに後頭部に手を添えて引き寄せられた。
額同士がコツンと当てて子供のように慰められる。
「やめろ、近い」
顔を背けるが思ったより頭痛がひどい。
よろけて壁に追い詰めた魔導師長の顔の横に手をついてしまい、自分の弱さにため息をつく。
「泣くなら肩を貸してあげるよ?君も色々あって疲れたろう」
「いらん。エヴがいい」
「ふふ、知ってるよ?君らは甥っ子?孫?そんな気分かなぁ」
「なら、サバトに呼ぶな」
「黒のウィッカーには当たり前のことだよ。親でも兄弟でも」
近親相姦を仄めかされて思わず、ぼふっと尻尾が膨らんだ。
「生理的に無理だ。お前らは合わん」
軽く頭を抱き締める腕を掴んで引き離す。
「淫魔になったレディなら平気なはず。兄君が大喜びだろうね。いっ!いたたた!カリッド!痛いよ!折れる!」
つい力を込めてしまった。
すぐに掴んでいたそれを投げ捨てた。
「いったー!もう君は本当に信じらんないよ!」
投げた勢いで横に転んだ。
床によつんばになりながら私に怒鳴り付けている。
「騒ぐな。頭に響く。ウィッカーの頭痛薬を寄越せ。頭が痛い」
「ったく、もう!」
手のひらを見せるとすぐに立ち上がり、袖から薬を出して手に叩きつけてきた。
「意外と素直に出したな」
間違いなく頭痛薬かと尋ねるとはっきりそうだと答えた。
媚薬や精力剤のような怪しいものも入れていないと。
嘘をつけないというのはこういう時に便利だ。
受け取った薬を摘まんで眺める。
「ふ、ふふ、我ながら呆れるけどね。見掛けだけでなく中身までジェラルドに似てきて悔しいなぁ。オーラも違うのに。ふふ、その荒々しい気位の高さはご子息より似てる」
彼はまた違ったタイプだからと目を細めて私へ微笑む。
「辺境伯ご統主を呼び捨てにするな」
「いない時くらいいいじゃないか、ははは」
気抜いて笑う。
そんな魔導師長を眺めて壁を背もたれに寄りかかった。
「カリッドの言う通りだ。立場を忘れてもらうと困るよ、シモン」
その声にひくっと魔導師長の肩が揺れる。
「……陛下、どうしてこちらへ?」
魔導師長の問いに指をついっと窓の外へ向けた。
「ちょうどここは使用人用の通路から見えるらしい。こちらからは見えないから分からないけど。使用人達からデオルトへ話が回って君達が取っ組み合いをしてると私に報告に来た」
君らの仲裁が出来るのは私くらいだと冷めた目で言われて大人しく二人で謝る。
「取っ組み合いで合ってるよな?」
「は?」
「カリッドが若返った魔導師長を襲ってると」
最初から見られていたのか。
罰の悪さにもう一度頭を下げる。
「申し訳ありません。確かに私から襲ったのは間違いありません」
「番を見つけた人狼なのにそういうことがあるのか。他の者なら納得するが。仕方ない。そう言うことなら魔導師長の顔は隠してもらう方が良さそうだ」
なぜ私が魔導師長を襲って顔を隠す話になる。
エヴと話している時のような嫌な予感がする。
「陛下、どういうことですか?」
聞けば私が若い魔導師長を壁に追いやって性的に襲ったと思われたそうだ。
「……ふ、ざける、な」
不敬にも陛下の前で怒号を発しそうになり、血管が切れそうなほど震えた。
誤解を理解していた魔導師長は私の激昂にゲラゲラ笑って喜んでいる。
「あーっははは!自分が悪いからね!あはは!カリッドはここを女の逢い引きに使っていたろ?人通りがないからって安心して!」
「何で知っている?覗きか?」
憎たらしい。
崩れた相好を見下して睨むのに余計声が大きくなる。
「ふっくく、だって、私は、定期的に使い魔を飛ばして城内を見回るから、あはは!報告は、へ、陛下にも!ぶはは!露出は嫌いなくせに野外を好むとな!」
その言葉で、ばっと振り返ったら陛下も肩を揺らして笑いを堪えていた。
「ふふ、ふ、使用人達も、よく知っているよ」
だから皆は番がいるのに魔導師長とここで事を始めたと思ったんだと言われたら返す言葉がない。
二人とも私が誰と城内のどこで何をしたか仄めかして、どれも心当たりにしゃがみこみそうになった。
もとから有名で手癖の悪さを指摘されようが知られようがどうでもいいが、今ここにはエヴがいる。
口止めしたい奴らの多さにどうしたらいいのか。
「……陛下、お願いします」
「ふふ、口止めくらいなら構わないよ。出来るだけするけど、行いを知るのは使用人だけではないし、若いお喋り雀達は元気だから。ふふ、まあ、反省しなさい」
いつものように手の甲で肩を叩かれた。
顔に緊張を漂わせて。
近づいた時の震えた声と手。
少しでも日常に戻ろうとしているのはエヴ達だけでなく陛下も同じだ。
そのまま執務室に呼ばれて揉めた原因を聞かれて魔導師長はペラペラ喋る。
ご自身の封印についても納得して頭を揺らした。
「……私も思わないわけではなかった。しかし、今日明日の命と言うわけでもあるまい」
頬杖をついて淡々と述べる。
達観した様子の陛下に魔導師長は一瞬眉をひそめた。
「魔素を撒く前にどこか遠い地でひとり消えればいい。父も息子もいる。あとは彼らに任すしかない」
それまでの時間は残っているといいが、と小さく呟いて私達の反論を塞ぐと退出を促した。
それでも負けじと魔導師長が陛下の前に出て身振り手振りで声を荒げて説得する。
「お言葉ですが、王子達は妖精族の血が濃く人族より成長が緩やかです。大公は政治に興味がなく、まだ働き盛りにも関わらず早々と陛下に譲られたのに、」
「シモン、話は終わりだ。二人とも出なさい」
「……本当に陛下は無欲であられる。欲深なウィッカーとは相容れない。御前を失礼します」
魔導師長はいら立ちを隠さずにローブの裾を荒々しくさばいて私達に背を向けた。
「カリッド、私はシグバドを生かす。邪魔はするな」
私にだけ聞こえるように小声で。
魔導師長にとって近衛隊長は陛下を生かす手立てだから。
「カリッドも出なさい」
疲れた表情を浮かべて扉を指さす。
「……少し我が儘を言っても?」
「なんだ?」
黙って棚のアルコールを指さすと頬を緩めて手招きをされる。
一昨日、選んだものより苦味のあるものにした。
「苦い」 
「そう言う気分かと思いました」
「ん、そうだな」
一杯を飲み干す前、最後はまたいつも通りグラスを受け取って残りをいただいた。
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