人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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飛んだのはヤンの影。
陛下の執務室でエヴに横抱きにされた姿で戻って全員唖然としていたが、ククノチから様子を聞いていた魔導師長だけは大笑いしていた。
「もう回復しているくせにいつまでレディの腕の中にいるんだい?あはは」
「一気に吸われると目眩がするので」
エヴの肩に捕まりながら立つ。
「陛下!聞いてください!」
せっかちなエヴが挨拶も謝罪もそこそこに自分の用件をポンポン口にした。
落ち着けと言うのに興奮して止まらない。
しかも陛下は先程の怒気におののいてエヴを自由にさせている。
「あながち間違ってないと思うよ、レディ」
魔導師長のお墨付きにエヴが喜んだ。
「ふさふさの赤ちゃん!お耳と尻尾!」
「いや、耳と尻尾はないよ?」
「へ?」
陛下がエヴの勘違いを嗜めると恨めしげに私を睨んだ。
「……団長の嘘つき」
「嘘は言っていない」
勘違いを放置しただけだ。
「じゃあ、団長の赤ちゃんにこだわらなくていいや」
「はぁ?!ちょっと待て!」
「いいもん、団長嘘つきだから」
子供が嘘つきになったら困ると付け足すから慌てて言い訳をする。
ツンとそっぽを向いたエヴに必死で機嫌を取るが取りなしようもなくがっくりとその場に膝をついた。
「……嫌われたか?」
「別に嫌いじゃないけど」
「私がいいと言ったのは?」
「保留」
「くっ」
失敗が悔やまれる。
また振り出しかと思うとさっき襲っておけばよかったと後悔する。
「エヴ様、見かけの可愛さだけで子供を考えるのはどうかと思います。期待通りの子供でなかったらどうなさるのですか?」
「う、」
嫉妬に燃えていたヤンは落ち着きを取り戻してエヴに苦言を呈する。
「急がねばならないのは分かりますが、私共に知らされたその日のうちに、こうやってお一人で即決されるのは少々早計かと。この件は旦那様と奥様にも報告して相談するとして、今は慎重に。何事も落ち着いて行動されてください」
「……はぁい。ごめんなさい」
心配するヤンにエヴも反省して大人しく頷いた。
孤児だと言っていたヤンにも思うところがある。
「ふふ、クレインの姫は即決即断な気質だな。早合点で危なっかしい」
そのやり取りを見て陛下は苦笑いをする。
「……それに可哀想と言ったのは産まれてくる子供達か。……そうだな。……私も気にかけよう」
シルファヌスの魔力を注ぐためだけに産まれる子供達。
省みられない寂しさを知る陛下はまだ知らぬ子供達へ思いを寄せた。
「それと朗報だ。彼らの協力で色魔の話より封印は長持ちしそうだ。クレインの姫、しばらくの猶予がある。その間にカリッドとよく話し合いなさい。憎からずに思ってるならね?」
手を指し示すのは魔導師長と近衛隊長の他にヤンとラウルも。
どうやら魔法と術式の重ねがけで強化したらしい。
「……あと少々面倒になったが」
そう言って近衛隊長に軽く手を振った。
すぐに近衛隊長がエヴの前に進み出て膝をつく。
「エヴ、お願いがあります」
「ちょっと待て。近衛隊長」
近衛隊長がなぜエヴを呼び捨てにしている。
聞けばエヴ本人が構わないと言ったからと答えた。
「だって私、新入りの団長ですもん。最上位の上官の中で下っぱです。それにアルヴがそうしたいって」
「アルヴ?」
エヴが近衛隊長を見ながらそう名指したので問い返す。
「近衛隊長の真名です。アルヴって名前で、私が真名を預かるとあいつや他の能力者に干渉出来ないそうで、す」
振り返って近衛隊長の首を掴もうとして魔法縄に絡まれた。
「あー、カリッドはやっぱり知ってたかぁ」
「……くそじじぃ、これはハイエルフの、婚姻だろうが」
真名の交換。
エヴは真名を持っていないからハイエルフから捧げられるだけだ。
ラウルも知っていただろうに止めもせずにどういうつもりかと睨むとあいつも不機嫌に顔を歪めて納得していないのは分かった。
「え"、また」
エヴが固まる。
「知らなかったのか?」
「知らないですよ。私が預かればあいつの予防になるって魔導師長が言うから」
「実際にその通りですよ。そのために真名を託したんです。エヴ、失礼します。これを着けてほしくて」
立ち上がってエヴの耳に手を添えて離した。
「なんですか、これ」
触られたそこに手を添えて探って見つけた物を手のひらに。
「ぎゃっ!蛇!」
ぽいっと放り投げると床に金属の細い蛇が転がった。
「な、投げてごめんなさい。でも、へ、蛇は嫌いぃ」
「そうでしたか。申し訳ありません。でもこの子が私の所有の中で特に強くて。我慢していただけると助かります」
近衛隊長が拾った蛇を手のひらに乗せてエヴへと向ける。
「使い魔を耳の後ろに預けました。何かあればその子が守ります。名前はアングィスです。いい子ですよ?」
「うう、い、意外と可愛いけど、蛇だもん」
「アルヴ!待てよ!使い魔までは聞いてないぞ!エヴ様に真名を繋げただけでも嫌なのに、いっ、てぇ」
ラウルが近衛隊長の前に出て怒鳴るが、ヤンに首根っこを捕まれて引き戻される。
「御前だ。控えろ」
「悪いな、ラウル。息子の想い人に」
「俺とお前に親子の情なんかねぇだろうが!」
「そう言うな。これでも憎からずには思っているよ」
「……ただの知り合いじゃなかったのか」
エヴもヤン達も私も。
茫然としていると魔法縄が緩んだ。
陛下と魔導師長は気にした風ではないので二人は近衛隊長から話を聞いていたらしい。
「面倒になったというのはこういうことだ。能力の高いクレインの姫に真名を捧げると庇護が強まる。しかも近衛隊長本人が気に入った」
「陛下、私は邪な想いではありません。エヴは私の恩人です。恩を返したいというのもありますし、血肉を捧げるに充分な方。私では精を満たすことは難しいと分かっていますが、側にいることを許されたい」
「……陛下はそれをお許しになったんですか?」
「……死んで償うとやかましくてな。建国以来初めて手に入れたハイエルフを手放すのも惜しい。そう思ってよくよく話し合えば、クレインの姫のためなら生きると言う」
珍しいげんなりした顔に余程揉めたのは分かった。
「友人としてはカリッドを望むが、国を担う立場からはハイエルフも捨てがたい。もう私から口出しは難しいよ。対立する者を制してクレインの姫が望む者だ。それが一番波風立たない。カリッド、がんばれよ」
君の番は手に余るとぼやいて手を振った。
腹立ちに近衛隊長を睨むが飄々としている。
「私の番だというのに」
「今まで貪欲に肉を貪ったあなたと一緒にされないでください。ハイエルフは精の交わらない崇高な愛情です」
言い返そうと口を開いたが、こいつとの確執が頭をよぎる。
「……それが私を嫌っていた理由か」
「ええ、種族を理由にあそこまで派手に。他の方でさえあれほどの貪欲さはありません。多淫はご自身のご趣味でしょう?相容れませんね」
一瞬の蔑みを視線に浮かべて睨み返してきた。
「欲望にまみれたあなたより私の方がエヴに相応しいのでは?」
挑戦的な態度に歯噛みした。
「無性と呼ばれる程のハイエルフのくせに、腹上死がお望みか?」
「淫魔を望むなら他との精の交わりは覚悟の上ですよ。それにあなたより私の方が清純なエヴの好みです」
「いや、あなたは嫌われている。エヴには恐ろしい相手だろう?」
「その償いのために何でも致します。顔の皮も命も惜しくない」
横に顔を向けて耳と頬の間に大きく切り目を見せた。
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