白黒の猫~ずっと可愛い黒猫が欲しかったのに、気づけば茶とらの毛並みを撫でていた~

うめまつ

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落ちて、ごんっと音がしただけで割れもしない。 

割れればよかったのに。

「あー、もう。しっかり持ってよ」

しゃがんですぐに拾うと、蓋を開けながらテーブルへ。

そのまま俺のコップに注いでいた。

「飲みたいならしょうがないなぁ。また買えばいいし。はい、ロニー。美味しいらしいよ?俺は分からないけど」

立ったままの俺に手渡してきた。

コップを傾けて大人しく飲んだ。

腹の中はどろどろのぐずぐず。

でもさっきボトルをわざと落としたくらいしか思い付かねぇ。

自分の小物さが腹立つ。

今すぐ襲って爪痕残そうかとよぎるのに、こいつの後ろに見え隠れするカナン様の存在が恐ろしい。

以前ダグに触れた数人がうちの治験体に回された。

我が家からしたら領主に逆らうこと自体あり得ないし、ダグが関わらなくても平気で上の貴族とやり合ったり、他にも俺の知らないやり方で人を追い詰めていく冷血漢。

カナン様の冷えた視線が怖い。

俺のことは全部、見透かしていつでも処分出来る。

脳ミソからダグに触れるのはまだだめだって信号が出る。

この勘は大事だ。

死んだらもとも子もない。

それにカナン様が出兵で不在の間、放置してるとも思えない。

多分、見張りを残してる。

そういう前提で動いた方がいい。

でも目の前の白くて旨そうなダグの肌がぞわぞわする。

今日、殴り付けた部下と変わらねぇ。

見るだけでもって思ってる。

望みも気配も全くないんだけどさぁ。

せめて、いつになるか分からない払い下げまで待つつもりだったのに。

そのつもりで跡継ぎの俺がこの歳まで未婚でさ。

親父や弟に根回しして来たっつーのに。

多分、ベイル部隊長も同じだ。

未婚で特定の相手がいないし。

腹の底に溜まったどろどろのぐずぐずは変わらないが、頭は冷えて冷静さは戻った。

腹いせにあいつの酒をごいごい飲む。

空にしてやる。

「あーあ、俺の可愛い甘ちゃんが」

「んー?」

椅子に戻って手酌で新しく注ぐ。

ダグは椅子にちっさく足を畳んで膝を抱いて座っている。

「俺も飲んでみたい」

さっきひっくり返した空のコップを向けるから半分注いでやる。

口をつけて唇についたそれをペロペロ舐めるように飲んでいた。

「猫かよ」

「下戸だから」

かなり強い酒だから飲めないんだろ。

「味、そんなんで分かるかよ」

「分かんないね」

ちらっと俺を見て目を細めて弧を描く。

ぐわっとなるからこっち見んな、アホが。

「ロニーがいるからいっか」

ぐいっと煽ってごくごく飲んで、白い喉が仰け反った。

「く、はぁー、口の中があっつぅ」

「……味はどうよ?」

寝たら運べって意味か。

この無防備。

ここまで来ると無神経だ。

「分かんないね。比べようがないし。喉もお腹、あちぃ。ちょっと苦しい」

「もう止めとけ。体質に合わないんだろ」

「これだけ飲むよ」

またちびちび。

無理するなとだけ言って俺はがばがば飲んだ。

*********


「うっ、くうっ」

唐突に意識が浮上した。

うおおお、世界が回る。

なんだこれ。

寝てたのか?

「あ?何?なんだよ?」

息が乱れて苦しい。

真っ暗な部屋の中でどこか分からない。

頭が回って周りがおかしい。

あー、いや、おかしいのは俺のせいか。

ダグと飲んでいたことをうっすら思い出して飲み過ぎたと反省する。

寝かされた寝具の固さと布地の手触り。

自分の寝台じゃない。

ダグの寝床を借りてしまったと顔をしかめ、慌てて体を触ると多少緩めているが、鎧も服も着込んでいてほっとした。

手を伸ばすと枕元に空の洗面器や手拭いが置かれて未使用。

それはセーフだったんだと分かった。

暗い中、寝台の上を手探りで撫でる。

少し間を空けてうつ伏せに丸くなって眠るダグを見つけた。

真っ裸。

すうすうと小さな寝息。

目が慣れてそこを見つめると白い肩と背中、足がシーツから浮き出てる。

……まあ、そうだよな。

女ならまだしも大半の庶民は寝間着を着ねぇ。

男の一人暮らしなら普通、そうだし。

洗濯の手間だし、買うのも勿体ねぇみたいな。

余裕のある我が家は着るけど。

シーツの下にはパンツくらい履いてるだろうけどさ。

てか、こいつはカナン様の援助で余裕あるくせ貧乏性かよ。

「……ん、痛」

「おっと、わりぃ」

少し動いただけでこいつの髪の毛踏んでしまった。

根本は結んでるけど毛先はバラけて散らばってる。

さらさらの長い髪を手でよけて枕を越して上に流した。

起きたかと思ったかけどまだスヤスヤ。

下心満載の俺はズリズリ近寄って背中を抱き込んで二度寝決め込む。

何度も治療の名目で触った肌が気持ちいい。

汗やら何やら匂いそうなのに良い匂いする。

おっきするわ。

カナン様とあの奴隷が羨ましいしムカつく。

まあ、でもまだ二人の後方に食い込んでる自覚はある。

こいつの無防備さも信頼の証。

まだ粘れる。

そう思って良い匂いの後頭部に鼻を埋めてチュッ、チュッとキスを繰り返した。
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