10 / 34
10
しおりを挟む
落ちて、ごんっと音がしただけで割れもしない。
割れればよかったのに。
「あー、もう。しっかり持ってよ」
しゃがんですぐに拾うと、蓋を開けながらテーブルへ。
そのまま俺のコップに注いでいた。
「飲みたいならしょうがないなぁ。また買えばいいし。はい、ロニー。美味しいらしいよ?俺は分からないけど」
立ったままの俺に手渡してきた。
コップを傾けて大人しく飲んだ。
腹の中はどろどろのぐずぐず。
でもさっきボトルをわざと落としたくらいしか思い付かねぇ。
自分の小物さが腹立つ。
今すぐ襲って爪痕残そうかとよぎるのに、こいつの後ろに見え隠れするカナン様の存在が恐ろしい。
以前ダグに触れた数人がうちの治験体に回された。
我が家からしたら領主に逆らうこと自体あり得ないし、ダグが関わらなくても平気で上の貴族とやり合ったり、他にも俺の知らないやり方で人を追い詰めていく冷血漢。
カナン様の冷えた視線が怖い。
俺のことは全部、見透かしていつでも処分出来る。
脳ミソからダグに触れるのはまだだめだって信号が出る。
この勘は大事だ。
死んだらもとも子もない。
それにカナン様が出兵で不在の間、放置してるとも思えない。
多分、見張りを残してる。
そういう前提で動いた方がいい。
でも目の前の白くて旨そうなダグの肌がぞわぞわする。
今日、殴り付けた部下と変わらねぇ。
見るだけでもって思ってる。
望みも気配も全くないんだけどさぁ。
せめて、いつになるか分からない払い下げまで待つつもりだったのに。
そのつもりで跡継ぎの俺がこの歳まで未婚でさ。
親父や弟に根回しして来たっつーのに。
多分、ベイル部隊長も同じだ。
未婚で特定の相手がいないし。
腹の底に溜まったどろどろのぐずぐずは変わらないが、頭は冷えて冷静さは戻った。
腹いせにあいつの酒をごいごい飲む。
空にしてやる。
「あーあ、俺の可愛い甘ちゃんが」
「んー?」
椅子に戻って手酌で新しく注ぐ。
ダグは椅子にちっさく足を畳んで膝を抱いて座っている。
「俺も飲んでみたい」
さっきひっくり返した空のコップを向けるから半分注いでやる。
口をつけて唇についたそれをペロペロ舐めるように飲んでいた。
「猫かよ」
「下戸だから」
かなり強い酒だから飲めないんだろ。
「味、そんなんで分かるかよ」
「分かんないね」
ちらっと俺を見て目を細めて弧を描く。
ぐわっとなるからこっち見んな、アホが。
「ロニーがいるからいっか」
ぐいっと煽ってごくごく飲んで、白い喉が仰け反った。
「く、はぁー、口の中があっつぅ」
「……味はどうよ?」
寝たら運べって意味か。
この無防備。
ここまで来ると無神経だ。
「分かんないね。比べようがないし。喉もお腹、あちぃ。ちょっと苦しい」
「もう止めとけ。体質に合わないんだろ」
「これだけ飲むよ」
またちびちび。
無理するなとだけ言って俺はがばがば飲んだ。
*********
「うっ、くうっ」
唐突に意識が浮上した。
うおおお、世界が回る。
なんだこれ。
寝てたのか?
「あ?何?なんだよ?」
息が乱れて苦しい。
真っ暗な部屋の中でどこか分からない。
頭が回って周りがおかしい。
あー、いや、おかしいのは俺のせいか。
ダグと飲んでいたことをうっすら思い出して飲み過ぎたと反省する。
寝かされた寝具の固さと布地の手触り。
自分の寝台じゃない。
ダグの寝床を借りてしまったと顔をしかめ、慌てて体を触ると多少緩めているが、鎧も服も着込んでいてほっとした。
手を伸ばすと枕元に空の洗面器や手拭いが置かれて未使用。
それはセーフだったんだと分かった。
暗い中、寝台の上を手探りで撫でる。
少し間を空けてうつ伏せに丸くなって眠るダグを見つけた。
真っ裸。
すうすうと小さな寝息。
目が慣れてそこを見つめると白い肩と背中、足がシーツから浮き出てる。
……まあ、そうだよな。
女ならまだしも大半の庶民は寝間着を着ねぇ。
男の一人暮らしなら普通、そうだし。
洗濯の手間だし、買うのも勿体ねぇみたいな。
余裕のある我が家は着るけど。
シーツの下にはパンツくらい履いてるだろうけどさ。
てか、こいつはカナン様の援助で余裕あるくせ貧乏性かよ。
「……ん、痛」
「おっと、わりぃ」
少し動いただけでこいつの髪の毛踏んでしまった。
根本は結んでるけど毛先はバラけて散らばってる。
さらさらの長い髪を手でよけて枕を越して上に流した。
起きたかと思ったかけどまだスヤスヤ。
下心満載の俺はズリズリ近寄って背中を抱き込んで二度寝決め込む。
何度も治療の名目で触った肌が気持ちいい。
汗やら何やら匂いそうなのに良い匂いする。
おっきするわ。
カナン様とあの奴隷が羨ましいしムカつく。
まあ、でもまだ二人の後方に食い込んでる自覚はある。
こいつの無防備さも信頼の証。
まだ粘れる。
そう思って良い匂いの後頭部に鼻を埋めてチュッ、チュッとキスを繰り返した。
割れればよかったのに。
「あー、もう。しっかり持ってよ」
しゃがんですぐに拾うと、蓋を開けながらテーブルへ。
そのまま俺のコップに注いでいた。
「飲みたいならしょうがないなぁ。また買えばいいし。はい、ロニー。美味しいらしいよ?俺は分からないけど」
立ったままの俺に手渡してきた。
コップを傾けて大人しく飲んだ。
腹の中はどろどろのぐずぐず。
でもさっきボトルをわざと落としたくらいしか思い付かねぇ。
自分の小物さが腹立つ。
今すぐ襲って爪痕残そうかとよぎるのに、こいつの後ろに見え隠れするカナン様の存在が恐ろしい。
以前ダグに触れた数人がうちの治験体に回された。
我が家からしたら領主に逆らうこと自体あり得ないし、ダグが関わらなくても平気で上の貴族とやり合ったり、他にも俺の知らないやり方で人を追い詰めていく冷血漢。
カナン様の冷えた視線が怖い。
俺のことは全部、見透かしていつでも処分出来る。
脳ミソからダグに触れるのはまだだめだって信号が出る。
この勘は大事だ。
死んだらもとも子もない。
それにカナン様が出兵で不在の間、放置してるとも思えない。
多分、見張りを残してる。
そういう前提で動いた方がいい。
でも目の前の白くて旨そうなダグの肌がぞわぞわする。
今日、殴り付けた部下と変わらねぇ。
見るだけでもって思ってる。
望みも気配も全くないんだけどさぁ。
せめて、いつになるか分からない払い下げまで待つつもりだったのに。
そのつもりで跡継ぎの俺がこの歳まで未婚でさ。
親父や弟に根回しして来たっつーのに。
多分、ベイル部隊長も同じだ。
未婚で特定の相手がいないし。
腹の底に溜まったどろどろのぐずぐずは変わらないが、頭は冷えて冷静さは戻った。
腹いせにあいつの酒をごいごい飲む。
空にしてやる。
「あーあ、俺の可愛い甘ちゃんが」
「んー?」
椅子に戻って手酌で新しく注ぐ。
ダグは椅子にちっさく足を畳んで膝を抱いて座っている。
「俺も飲んでみたい」
さっきひっくり返した空のコップを向けるから半分注いでやる。
口をつけて唇についたそれをペロペロ舐めるように飲んでいた。
「猫かよ」
「下戸だから」
かなり強い酒だから飲めないんだろ。
「味、そんなんで分かるかよ」
「分かんないね」
ちらっと俺を見て目を細めて弧を描く。
ぐわっとなるからこっち見んな、アホが。
「ロニーがいるからいっか」
ぐいっと煽ってごくごく飲んで、白い喉が仰け反った。
「く、はぁー、口の中があっつぅ」
「……味はどうよ?」
寝たら運べって意味か。
この無防備。
ここまで来ると無神経だ。
「分かんないね。比べようがないし。喉もお腹、あちぃ。ちょっと苦しい」
「もう止めとけ。体質に合わないんだろ」
「これだけ飲むよ」
またちびちび。
無理するなとだけ言って俺はがばがば飲んだ。
*********
「うっ、くうっ」
唐突に意識が浮上した。
うおおお、世界が回る。
なんだこれ。
寝てたのか?
「あ?何?なんだよ?」
息が乱れて苦しい。
真っ暗な部屋の中でどこか分からない。
頭が回って周りがおかしい。
あー、いや、おかしいのは俺のせいか。
ダグと飲んでいたことをうっすら思い出して飲み過ぎたと反省する。
寝かされた寝具の固さと布地の手触り。
自分の寝台じゃない。
ダグの寝床を借りてしまったと顔をしかめ、慌てて体を触ると多少緩めているが、鎧も服も着込んでいてほっとした。
手を伸ばすと枕元に空の洗面器や手拭いが置かれて未使用。
それはセーフだったんだと分かった。
暗い中、寝台の上を手探りで撫でる。
少し間を空けてうつ伏せに丸くなって眠るダグを見つけた。
真っ裸。
すうすうと小さな寝息。
目が慣れてそこを見つめると白い肩と背中、足がシーツから浮き出てる。
……まあ、そうだよな。
女ならまだしも大半の庶民は寝間着を着ねぇ。
男の一人暮らしなら普通、そうだし。
洗濯の手間だし、買うのも勿体ねぇみたいな。
余裕のある我が家は着るけど。
シーツの下にはパンツくらい履いてるだろうけどさ。
てか、こいつはカナン様の援助で余裕あるくせ貧乏性かよ。
「……ん、痛」
「おっと、わりぃ」
少し動いただけでこいつの髪の毛踏んでしまった。
根本は結んでるけど毛先はバラけて散らばってる。
さらさらの長い髪を手でよけて枕を越して上に流した。
起きたかと思ったかけどまだスヤスヤ。
下心満載の俺はズリズリ近寄って背中を抱き込んで二度寝決め込む。
何度も治療の名目で触った肌が気持ちいい。
汗やら何やら匂いそうなのに良い匂いする。
おっきするわ。
カナン様とあの奴隷が羨ましいしムカつく。
まあ、でもまだ二人の後方に食い込んでる自覚はある。
こいつの無防備さも信頼の証。
まだ粘れる。
そう思って良い匂いの後頭部に鼻を埋めてチュッ、チュッとキスを繰り返した。
0
あなたにおすすめの小説
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される
木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる