白黒の猫~ずっと可愛い黒猫が欲しかったのに、気づけば茶とらの毛並みを撫でていた~

うめまつ

文字の大きさ
29 / 34

29

しおりを挟む
でも仕方ないと諦めた。

イーサンから遅れて半泣きで仕事に行った。

すれ違う団員から顔どうしたと聞かれて、ミスったとだけ答えた。

今日は医務室にこもってよう、そう決めて部屋に向かってたら、そっちに近づくと不意に怒鳴り声が聞こえてきた。

くそとかふざけんなとか。

イーサンの声だった。

走って向かうとそれっきり怒鳴り声は止んでいたが、心配で足は止めなかった。

医務室のドアのぶを回したけど開かなくて鍵を使って中へ踏み込む。

「イーサン、外まで声が聞こえたけどどう、し、た?」

中に三人。

親父とイーサンとベイル部隊長。

親父とベイル部隊長は向かい合って腰かけていたが、イーサンは側で怒りに滾った顔をしながら仁王立ち。

親父も雰囲気から怒ってるのが一目で分かった。

扉を開けてたたらを踏んで固まる俺に機嫌の悪くて緊迫した視線が集まる。

「あれ?」

ベイル部隊長は夜勤じゃなかった?

「閉めろ」

「あ、うん」

「鍵も」

親父の声かけにすぐ従って扉を閉めた。

しばらく黙って親父は俺の包帯を睨んで眉間のシワが濃くなる。

向かいに座るベイル部隊長は目を伏せてじっとしてるし、それをイーサンはきつく睨んでる。

「ちょうどいい。本人に聞こう」

「親父?何?」

イーサンそっくりにむすくれてる。

「怪我は誰からだ?」

「あー……」

またその話か。

もう罰が悪い。

「ミスった。子供の振り回す棒を避けそびれた。イーサンにも話をしてる」

「見せなさい」

「イーサンに診せたけど?」

そう答えたのに黙って手招き。

仕方ないから包帯をすぽっと抜いて腰を屈めながら親父の顔に傷を寄せた。

少し触ったら俺の顔を左右に向けさせて他の怪我を確認した。

瞼を引っくり返したり首筋にまでがっつり診察。

「……泣くほど辛い目に」

「へ?」

地の底から這うような低い声と目の前の鬼の形相に固まる。

いきなり目の前に立つ俺を押し退けて立ち上がった。

腰の剣に手をかけながら、視線は俺の後ろの診察台に座るベイル部隊長だ。

「ちょ!タンマ!親父!」

止めようと思うのに首根っこをイーサンに捕まえられるし。

止めるのは間に合わなくて、がっつーんって、腰の剣を鞘ごと掴んで思いっきりベイル部隊長に叩きつけたからビビった。

ベイル部隊長も負けちゃいなくて、それを抜いた刀身であっさり受けとめるけど、どういうこと?

「ベイル部隊長、これは親としての怒りです」

「お、親父?」

なんでそんなに怒ってんの?

なんなの、これ。

「信用していたのですが、残念です」

俺を無視して互いに睨み合ってる。

互いの剣を腰に戻すと、ベイル部隊長の細い目を渋く歪ませて、今までにないくらい分かりやすく歯噛みしてる。

「待ってくれ、何これ?なんでこのくらいの怪我で、」
 
鍛練でよくあることじゃねぇか。

最近なんかダグにボコられてるのに。

「部隊長、弟の俺からのも貰ってくれますかね?」

「イーサン?!お前までやめろ!」

こいつからも、カチャリと金物の擦れる音が聞こえたから慌てて止めた。

「親父!話が見えないんだけど?!」

「ロニー、黙っとれ。熱意を見謝った俺が悪い。長年、側で見ていて乱暴する男ではないと思ったのに。許した自分自身が許せん」

「怪我をさせたのは身内だが、俺からロニーに手荒なことは一切していない」

「もう信用なりません。多少の強引さは目をつぶってきましたが、地位を傘に息子を虐げてると不審を抱いた今は子を守る義務を優先します。二度と我が子に近寄るな」

「俺もいます。兄貴に乱暴したってんなら上官だろうが、噛みつきますからね」

「親父?イーサン?」

二人が剣の柄に手を置いたまま守るように俺に背を向けて、苦虫を潰した顔のベイル部隊長と対峙している。

乱暴?

ベイル部隊長が?

俺に?

誤解が生まれとる!

「ちょ、ちょっと待ってくれ!何もないから!ベイル部隊長とはそういうことないから!」

二人の肩を掴んで必死で言うとイーサンがぎろっと睨んでくる。

「何言ってんだよ。ケツにめたくそ痕をつけて。掘られたの丸分かりじゃねぇか」

処女!

俺達、清い処女だから!

「良い年した息子です。親がでばるなどみっともないと思いました。しかしそれが泣き腫らして怪我までこさえて帰って来たことに、家族としては納得のいくご説明を求めます」

「さっき伝えた通りだ。身内の失態について早めに謝罪をしたくて、出勤も前倒しでここに来た。怪我をさせてしまったことは悪かったと思ってる。泣き腫らしているのは話し合いをしているうちに色々と思うところがあってのことだ。虐げてるようなことはしていない」

「息子の現状を見てどう信じろと?」

「……言って伝わらないなら、どうしようもない」

ベイル部隊長が深くため息をついて肩を落とす。

「ならそういうことでよろしいですね。金輪際、息子に手を出すな」

睨み付ける親父の言葉に顔をしかめるだけ。

しばらくしてベイル部隊長は黙って頷いた。

「話は分かった」

そう言ってゆっくり立ち上がって撤退の気配。

え?

諦めんの?

ちょっと待ってくれって。

なんだよ、急にこの破局寸前な空気?!

昨日一晩中、イチャイチャしただけでお別れムード?

待って、待って。

「待ってくれって!ご、合意だから!」

二人にそう言うのに親父は信用ないと首を振るし、イーサンは訝しげに睨んでる。

おろおろしてベイル部隊長を見ると苦々しくも困った顔で俺を見つめてた。

「親父、イーサン、俺は、ベイル部隊長は何にも、だから、その、」

「ロニー、いくらお前からそう言われても怪我をさせたかもしれない相手に我が子を渡すのは出来ん」

「してないってば、親父。ベイル部隊長は何もしてない、マジ、」

乱暴なんかないって続けようとしたのに言いよどんだせいでイーサンから遮られた。

「したろーが。泣き腫らして全身、赤と紫の斑模様。おい、バカ兄貴。この顔と怪我で信用ねぇんだよ」

レイプじゃなきゃなんだと問い詰められた。

どう説明すればいいんだよ?

「そ、それは、イーサン」

「上官だからと庇わなくていい。身内を差し出して家の安寧を考えてなどいない。我が子の方が大事だ」

「俺も兄貴優先。姉貴やリアーナだって同じことを言うからな。兄貴だってそうだろう?」

そりゃぁもちろん、じゃなくて。

誤解が根深いし、二人から咎められてテンパってる。

違うって言ってるのに信用してもらえない。

困り顔のベイル部隊長に二人が殺気まみれの視線がバリバリ。

マジで一触即発。

親父の背中。

弟より少し小さいのに、めっちゃデカイ。

怒気も溢れて寄るの怖いけど安心する。

子供の頃みたいにこのまま親父の後ろに隠れていたいって思うくらい。

思ってたより自分は甘ったれだったと反省。

「お、親父、聞いて?イーサンも、頼むから」

でも、言わないと。

大事なことはちゃんと言わないと逃がす。

今、その時だってすごい分かる。

怒気を納めてほしくておずおずと親父の背中に手を置いた。

その隣のイーサンにも、肩に手を添えて。

二人が首をひねって俺と目が合うけど、気恥ずかしくてうつ向いた。

「ロニー?」

「兄貴?」

汗だらだら。

顔があちぃ。

絶対真っ赤だ。

多分、これから泣く。

昨日みたいに目頭が熱い。

じわじわ来てる。

家族に白状するはめになるなんて恥ずかしくて死ねる。

しかも親父とイーサンの溺愛が嬉しい俺もいるし。

今もベイル部隊長が困った顔で俺を心配そうに伺ってくる視線もくすぐったい。

ぼろぼろ泣きながら口を開いた。

「親父ぃ、イーサン。ひっく、」

「兄貴?!」

「ロニー?……ロニー?」

ぐずぐずと鼻をすする俺に二人が焦った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

【16+4話完結】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

前世が教師だった少年は辺境で愛される

結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。 ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。 雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。

キスの仕方がわかりません

慶野るちる
BL
全寮制男子校に入学した市原はクラス委員長になったため書類を提出しに生徒会室に行くと、そこに一人いた、初対面の副会長の近藤に襲われてしまう。  混乱するも相部屋の同級生・松川に助けられて元気を取り戻したある日、生徒会長の桜野から仕事を手伝って欲しいと依頼される。  最初は近藤に無視されていたが手伝う中で近藤から告白され、近藤への印象が少しずつ変わっていく市原だが。 表紙:Photo by Markus Spiske on Unsplash / powered by かんたん表紙メーカー様

炎の精霊王の愛に満ちて

陽花紫
BL
異世界転移してしまったミヤは、森の中で寒さに震えていた。暖をとるために焚火をすれば、そこから精霊王フレアが姿を現す。 悪しき魔術師によって封印されていたフレアはその礼として「願いをひとつ叶えてやろう」とミヤ告げる。しかし無欲なミヤには、願いなど浮かばなかった。フレアはミヤに欲望を与え、いまいちど願いを尋ねる。 ミヤは答えた。「俺を、愛して」 小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...