白黒の猫~ずっと可愛い黒猫が欲しかったのに、気づけば茶とらの毛並みを撫でていた~

うめまつ

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俺は気が強くて堂々としてるタイプだと思ってたのに、恋愛やこういう愛情表現にはだめらしい。

二人に聞かれるのにぐたぐだで何にも言えねぇ。

辛かったのかと聞かれて首を横に振ってるのに、堪えてるのかと重ねて聞かれる。

ベイル部隊長のことが好きだと一言言えばいいだけなのに。

少し低い親父の肩に額を押し付けて、添えるだけだったイーサンの肩もがっしり握った。

おろおろしてる気配だが、イーサンのベイル部隊長への殺気は変わってない。

行かすかと捕まえた。

「……また嬉し泣きか?」

こくこくと頭を揺らした。

「家族の、優しさが染みます」

ベイル部隊長の声にぐずぐず泣きながら答えた。

ぐずぐず泣いて小さい声だから聞こえたか分かんねぇ。

でも親父は聞こえたっぽい。

俺の撫でようと手がうろうろしたから。

ぎゅうっと親父の肩にもっと強くしがみつく。

イーサンの肩も強く握ったが、お前は違う。

捕獲だ。

ベイル部隊長に殴りかかろうとするな。

違うって。

乱暴はないってば。

しゃべらねぇ俺が悪いんだけどさ。

「ロニー、自分で言わないと誰も分からない」

いつも言い方は鋭く厳しいのに優しいベイル部隊長の声に促されて口を開けるけど、泣いてるし緊張で息苦しい。

言うことなんか決まってるのに、俺のヘタレ。

親父とイーサンを横に押して左右に退いてもらって、少し前に出てうつ向いたままギクシャクとベイル部隊長に腕を広げて見せた。

察してくれたベイル部隊長が目の前に立ってくれた。

抱き締めると腕に抱き込んだベイル部隊長は、ほーっと長いため息吐いて回した手で俺の背中を叩いた。

「……これがお前の精一杯だよなぁ」

ヘタレは反省する。

でも逃がしたくなくてしっかり服を掴んで、鼻をすすり下を向いたまま頭を揺らした。

もう無理。

勘弁。

身内の前で公開処刑じゃん。

でも嬉しい。

この人が俺の腕の中にいるから。

しばらくベイル部隊長にしがみついたまま黙って泣いた。

さすがに親父達に伝わったみたいだ。

「お前がそんなに涙もろいとはなぁ」

親父が知らなかったと呟いた。

まだ泣いてるからなぁ。

親父の向かいに、ベイル部隊長と並んで診察台に腰かけてる。

貰ったガーゼに顔を埋めて、隣のベイル部隊長が肩を抱いて慰められてんのにまだメソメソしてた。

弟は外だ。

午後の見回りは任せたから。

あいつは呆れてた。

分かりにくいって。

「トロンソ小隊長、ロニーのことを任せてもらえるか?真面目に付き合いたい」

そんなこと言うからまた、ぶわっと目からあふれて自分の膝に体を縮めた。

この、くそ真面目。

ペラペラしゃべるなと思うのに嬉しくて仕方ねぇ。

「本人同士でどうぞ。でばるのは趣味じゃありません」

あっさりと親父は答えた。

「無体をしたというなら話は別ですけど。もう二度と誤解がないようにお願いします。ロニー、お前も気を付けなさい」

黙って頭を揺らした。

声出せねえ。

「新しい水を汲んでこよう。顔も頭も冷やしてやる」

「俺が、」

「いえ、ベイル部隊長の手を煩わせることではありませんから。息子をよろしくお願いします」

ベイル部隊長を遮ってそれだけ言ってさっさと外へ。

鍵の音もした。

副官のみっともないところ見せないように気遣い。

どーも、親父。

「うっ、ぷ、ちょ、ベイル部隊長っ」

「ロニー、愛してる」

熱っぽい声を出しながら、がっしり抱き締められて無理やり顔を顔を上に。

そしてすぐに口を塞がれた。

「ん、」

俺も受け入れて二人で熱っぽいキスしてたら、ゴンゴンって扉を殴る音が響いた。

「話し声は聞こえるからな!そこでサカるな!」

さーせん、親父。

「……それもそうか」

納得するベイル部隊長に手を引かれて仮眠室に連れて行かれそうになり、足を踏ん張った。

「ちょっと待ってください」

「なんだ?」

振り返った顔を見れば目付きがヤバい。

猿。

ヤル気満々じゃねぇか。

「ヤんないですよ」

「なんで?」

「んっ、」

引き寄せられてさわさわ隙間から手ぇ突っ込んでくる。

「トロンソ小隊長から許可を得たし、二人っきりの気遣いを」

「ちげぇし!俺に気を使ったんですよ!俺がこんなツラだから!」

そういうことじゃねぇよ、この猿!

「そうか?」

「くっ、ううっ」

ズボンの隙間から手を突っ込まれて焦れったく触るから力が抜けた。

にやぁって笑ってるのがムカつく。

「ここ、で嫌だ、やめてくださいっ」

じゃあ、中に行こうって耳元で囁いてぞわぞわが背筋に走ってたまんねぇ。

「や、め、……あっ、」

ベイル部隊長の息が熱い。

嫌だ嫌だと無駄な抵抗をしているとノックが鳴った。

「誰、むぐ、ううむ、」

助かったと思って返事を返すと、ベイル部隊長に片手で口を塞がれる。

「取り込み中だ。出直せ」

「ベイル部隊長、俺です。ダグです。ロニー、開けて」

「ダグ?また何かあったのか?」

また久々のカナン様かとよぎって、すぐにベイル部隊長を押し退けて扉を開けた。

同じように察したベイル部隊長も掴んでいた手を離した。

開けたら目の前に、初めて見るダグの豪華な鎧姿。

左の肩当てと胸当ては白銀の金属。

軽めのチェーンメイルと革を組み合わせて細かい紋様で彩られてる。

昇進して新しく新調したのか。

黒と白の見かけにめっちゃ似合うじゃんと感心して目を細めた。

一瞬、豪華な装いに目を奪われたが、よく見れば顔色もよくて、まっすぐ立つ様子から何かあったとも思えず、首をかしげた。

「ロニー、ちょっとどいて」

「ダグ?」

じっと俺の顔を見ていたと思ったら、いきなりダグが医務室に飛び込んで、俺の後ろのベイル部隊長に向けて剣身を逆さに柄を振り下ろした。

抜いた剣を後ろに隠していて気づかなかった。

「ダグ?!」

ベイル部隊長は後ろに飛びすさって目を丸めてダグを見つめていた。

柄の先は床の板張りにめり込んでる。

「何のつもりだ?」

頬を引くつかせてベイル部隊長がダグへ問いかけた。

「ベイル兄さんこそ何なの?俺怒ってんだけど」

「なんで?」

「さっきからロニーは嫌って言ってんじゃん?しつこくない?」

「き、聞いてたのかよ」

思わず上擦った声が漏れた。

うわ、はず。

情けないやり取りを聞かれたことも、今の動揺した声を知られるのも。

ベイル部隊長もさすがに顔をしかめて舌打ち。

「通路まで丸聞こえ。趣味ならやればいいけど、違うっぽいし?入ってみたら助かったって顔で俺見るし?どういうこと?ベイル兄さん。無理やりなわけ?」

もう一発、食らう?と呟いてめり込んだ柄を引き抜いて、次の攻撃の構え。

「やめろ、ダグ。上官に、」

「上官だけど、身内。ベイル部隊長は俺の兄さんだよ。兄さん、俺に上官だって押し通す?」

「……いやぁ、しないなぁ」

「だよねぇ」

二人で笑ってる。

それがお互いの信頼なんだろうけど、ダグの副団長への強気さが怖い。

兄弟って言っても本当の血の繋がりがあるわけでもないのに。

あり得ねぇ。

「ダグ、俺を兄と思うなら信用しろ。剣を振り回すな」

「えー?俺の兄さんだけど、無条件にはねぇ。ロニーは親友だし。どっちに味方するかは状況次第。で、これ何?説明して」

「ふふ、ロニーから聞け」

「ロニーから?」

ニヤニヤするベイル部隊長と不思議そうに俺を見るダグ。

その視線が恥ずかしくて顔を覆ってしゃがみこんだ。

「ロニー?」

「……場所」

ぼそっと答えるとすぐにオッケーって軽い返事が返ってきた。

「場所が問題だったんだね。あー、そっか。ヤるのはいいってことね。分かった」

口にするな、このアホ。

あっさりと理解されたけど恥ずかしい。

いたたまれない。

俺、お前のことマジで好きだったんだけど。

7年も待てるくらい。

今でも顔見るとドキドキするし、好きだと胸がざわつく。

間延びして穏やかな声も俺へ向ける柔らかい視線も好きだ。

白い首も、長い黒髪も綺麗だと思う。

「ベイル兄さん、相手に合わせなきゃ。ロニーにフラれるよ」

「気を付ける」

「ロニーは俺と違って繊細なんだから。俺みたいに人前で気にせず、咥えるタイプじゃないよ」

「お前は気にしないものなぁ」

「まあね。カナン様の望みに応えるのが仕事だし、見られて気にするほどのことじゃないし」

野外プレイなんかしょっちゅう。

見張りの目の前や明るいうちから執務室で押し倒したり、カナン様は人目を憚らない。

それに付き合うダグは受け入れるだけで、今まで気にした素振りを見せたことなかった。

ダグが平気だと分かってたのに。

それに今のダグのあっけらかんとした声からも本気だと分かるのに。

だめ、やっぱり無理かも。

こいつがある意味男らしすぎて無理、怖い。

以前は交合を見せびらかされた興奮でヤりてぇってのばっかりで気づかなかったが、野外プレイの場面を頭の中で描いて自分を置き換えてしまう。

ダグみたいに人前で組み敷かれるのを想像したらゲロ吐く。

発狂する自信がある。

ちゃんと理解していたつもりだったのに、あれがどういうもんなのか俺は分かってなかった。

男役ならまだしも人前で女役なんて、どんだけ精神えぐるか分かってなかった。

想像以上のダグのタフさに目眩がしてきた。

化け物レベルだ。

勝てねぇってのと、こういうので勝ちたくねぇってので感情がぐちゃぐちゃ。

微かに残った7年の片思いがガラガラ砕けた。

「どうしてこうなったのか。昔は子供で可愛かったのに。恐ろしい奴になった」

ベイル部隊長の含み笑いにダグもくすくす笑って答えてる。

二人とも余裕すぎん?

特にダグ。

「そお?てか、兄さんは盛りすぎ。領主のカナン様はともかく。副団長がさすがにヤバいっしょ。団長に咎められるし、兄さんも昇進したばかりで目立つことは止めなよ」

「留意するよ。ったく。口やかましくなった」

「兄さんが迂闊だからだよ。反省して」

「分かった」

「ロニーも、ほらぁ。いつまで泣いてるの?泣き止みなよ」

「うう、」

二人に腕を引っ張られて診察台へ腰かけた。

「こうしてると可愛いね」

慰めるようにダグにふわふわと頭を撫でられた。

「……ダグ、手ぇ出すなよ?アリオンとカナン様に報告するからな?」

「こわ、しないよ。泣いてるのが可愛いだけ、いたっ、ベイル兄さん?!」

悲鳴のような声に驚いて顔を上げるとベイル部隊長がダグに首を脇に締めて押さえつけていた。
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