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「痛いんだけど?何すんの?」
意外なことにダグは腕を首と一緒に挟んで息を整えて冷静に対応してる。
「いい機会かなと思ってな。あの夜、酔って食おうとしたのお前だろ?」
「あは、バレた?」
「ルガンダそっくりだ」
「まぁね、弟だし?酔っ払って好き好き言われたら可愛いくって。7年ってスゴくない?感動しちゃった。後ろはカナン様用だから俺がロニーを食べてあげるつもりだったのに。途中で寝ちゃうから」
え、俺が食われる寸前だったの?
マジか?!
固まってダグの余裕な笑みを見つめると目の合ったダグが俺に目を細めて笑った。
綺麗で見とれてしまう。
「ふふ、そんなにびっくりして。ロニー、可愛いねぇ。ベイル兄さん、ごめんね?俺だけ見ちゃって。うわぁ、頬っぺた真っ赤で、すっごい可愛い。……よっと」
そんな俺の顔をくすくす笑ってたのに、すかさずベイル部隊長の指を捻りながら膝裏をガツンと鋭く蹴ると素早く頭を抜いた。
「くそ、こいつ」
痛かったらしく蹴られた膝裏に手を当てて体を傾けてる。
俺は単純に、すげぇ、こうするんだなと感心しながらそれを眺めていた。
こんな簡単に抜け出したのも、ダグの言葉に唆されて俺に背中を見せていたベイル部隊長の首がこっちに動いたせいだ。
そんなんで釣られるなよ。
アホ。
「そんな怒んなくていいじゃん。舐めただけだよ?ちょっとだけぇ、れ」
口をあ、と開けて赤い舌をぺろっと伸ばした。
「……どこを?」
ゾッとするほど不機嫌な声にダグは弧を描いて目を細めた。
「ロニーが俺のを。慣れてないご奉仕は気持ちよくて可愛かったよ?」
覚えてねぇよ。
恥ずかしくて顔が熱くなった。
「ムカつく」
「してもらえば?してくれればだけどぉ」
にぃっと口角を上げてますますの目を細める。
おい、マジであの甘ったれの可愛いダグはどこだ。
涙も引っ込んだわ。
「喧嘩売る気か?」
「聞いたのは自分でしょ?」
「聞いたが、お前が勝手に余計なことを言った。アリオンに言うぞ」
「言えばぁ?アリィが嫉妬して怒っても逆に泣かすのが楽しいし。最近ハマってるんだよねぇ。マジでアリィって可愛いし、最高」
やべぇ、本当に怖い。
新境地開拓しすぎ。
「だからか。ペラペラと」
「ふふ、でもベイル兄さんは嫉妬してロニーに乱暴しないでね?俺と違って下手そうだし。がつがつタイプ?荒っぽそう。ねー?ロニーも痛いの嫌だよね?」
こっちを見て同意を求められたが答えようがない。
いつもの柔らかい眼差しだけど怖いし、俺の怯んだ顔見てまた満足そうだし。
ベイル部隊長は俺の怯えた気配にため息ついて苦笑いだ。
「なんでこうなったかなぁ」
呆れたベイル部隊長にダグは笑みを浮かべた。
「うーん。いまだに襲うバカいるんだよねぇ。カナン様とアリィがいるのに。躾をしてたら楽しくなっちゃった」
「また襲われたのか」
「うん。相変わらず。一番近いのは先週」
「マジかよ」
それを聞いて俺も呆れて声をこぼした。
同情よりもまた釣ったのかという驚きしか出ない。
アリオンが来る前はベイル部隊長か俺がこいつの虫除けしてた。
あと多分カナン様がつけた見張りが守ってた。
「報告がない。団員か?」
「いや、外。なんかどこかで俺を見かけて一目惚れだって。家まで付きまとうし。アリィが仕事でいない日に勝手に家にまで入って来た。不可抗力って奴」
「これだけ鍛えといて何言ってるんだ。一般人相手に今のお前なら簡単に捕縛出来たはず。もとの趣味だろ?」
「あー、やっぱりそっちなのかな?アリィからも言われた」
呑気に笑ってやがる。
実際に強くなったけど、やっぱりこいつの強気すぎるメンタルが怖いわ。
アリオンを得て戦闘技術を鍛え直してから本当に人が変わったみたいだ。
妙な迫力を身につけて使いこなしている。
「何にしろ剣を振り回して突っかかるな。これは俺とロニーのことなんだから」
ベイル部隊長の文句に変わらない笑みで頷いた。
「ごめんね?俺って思ったより負けず嫌いだったみたい。ベイル兄さんにロニー盗られてムカつくし」
「お前なぁ」
「俺の親友なのに。ベイル兄さんこそ何?今までロニーに興味なかったじゃん」
「状況が変わったんだよ。突っかかるな。てか、俺はいいのかよ」
「はあ?」
「お兄ちゃん返してって泣けよ」
そう言うとダグは首を仰け反らせて爆笑。
「あっはは!何言ってんの?これからもずっと俺の兄さんでしょ?」
「まぁな。そのつもりだ」
ベイル部隊長も頷いて、腹を抱えて笑うダグを楽しそうに眺める。
「でしょ?とりあえず八つ当たりはもう終わるよ。二人で仲良くしてね?応援してるから」
さっさと俺達の間を抜けて扉へ向かうから呼び止めた。
「待てよ、ダグ。用事じゃなかったのか?」
「んー?休憩ついでに新しい鎧を見せに寄っただけだよ。いなかったらそのうちで良かったんだけど。でも、なんかロニーが嫌がって泣いてるっぽかったから乱入したの。ベイル兄さん、もうロニーをいじめないでね?可哀想だから」
「いじめてない。可愛がってる」
「構いすぎると死んじゃうからね?程ほどに」
「お前のことか?腹上死しかねないと何度も心配した」
ベイル部隊長はカナン様のやり取りを揶揄したのにニコッと微笑みを返す。
「閨に限らず構いすぎたらそうでしょ?虫も人間も生き物全般。ベイル兄さんは知らないの?」
年下なのに。
やけに達観したその態度にベイル部隊長は顔をしかめて舌打ちして返す。
「このやろ。いい加減殴るぞ」
「怒んないで?ベイル兄さん。最近、猫が被れなくて本音がこぼれちゃうんだ」
「金の狼を従えるようになったからか?守られてるつもりなら笑う」
「ふふ、アリィは狼かなぁ。俺には可愛い金の猫だよ。もうメロメロ。めっちゃ可愛い」
「………まさかと思っていたが、お前が食うのか」
ベイル部隊長の様子だとうすうす感じていたが知らなかったらしい。
呆れなのか感心なのか複雑そうに顔が歪んでる。
「あんなデカイ男を、お前。………とんでもねぇ奴。どういう神経してんだ?」
「ふふ、ひどいなぁ。兄さんも早くそこの可愛い白猫を食べたら?それとも兄さんが食べられちゃう方?」
可愛い顔でにっこり笑みを浮かべて、俺まで巻き添えにからかってきやがった。
こんな舐めた態度、誰だろうと普段なら許さない。
ダグにだってそうだ。
いつもなら文句のひとつも言えるのに、逆上せた頭はまともに動かないし、怒りに目を見開いてパクパクと口が動くだけだった。
「……あー、お前舐めてんなぁ」
キレたベイル部隊長が身構えて拳を握った。
それに合わせてダグも軽く腰を屈めて対応する姿勢を見せる。
それでもお互いに笑みを浮かべて楽しげ。
俺の体は重なった精神的な衝撃に固まってるし、怒りで混乱した頭は一発殴られろと罵っていた。
「別にそんなつもりないけどね。あ、知ってる?白猫って警戒心強いの。ロニーらしいよね。逆に茶とらの猫って甘えん坊らしいよ。甘えるのは兄さんの方?」
「へぇ、黒猫のお前は?」
「警戒心薄いんだって」
「ぴったりだなっ、と!」
「あっぶな、あはは」
ベイル部隊長の突飛な拳に軽く跳ねてよけた。
一発、二発。
軽くひょいっと。
多少、ベイル部隊長に手加減は見えたがそれでもよけたことに目を丸くした。
「ちっ、すばしっこくなりやがった」
「まあねぇ。少しでもお役に立たないと」
「俺をからかうのがお前の仕事か?兄とは言え上官だ。さすがにやめろ」
「まさか。そんなわけないじゃん。でもがつがつしてそうな兄さんへの牽制かな。ロニーを以前の俺みたいにしてもらいたくないし。いくら体格良くても前線専門なんだからお互いに気を付けてよね。マジで油断したら死ぬよ。忠告は聞いてね?」
ちらっと俺へも視線を向けて、ついビクッとはねた。
「ロニーも覚えておいて。絶対、無理はしないこと。俺みたいに体も慣れてないし。初心者同士、手加減も出来ないでしょ」
「いらん世話だ。ダグ、もう黙れ」
「先輩の話は聞くもんだよ、ベイル兄さん」
ダグは背中を見せずに後ろへ下がって扉に手をかけた。
「今度、オイル分けてあげる。ほぐすのも。うちに取りに来てね」
「ダグ!てめえ、黙れよ!」
ベイル部隊長の舌打ちの横で俺は怒鳴り付けていた。
「なぁに?自分達で出来るの?」
そんなことまで口出されたくねぇ!
カッとなった俺が怒鳴ると余裕を見せて笑ってやがる。
少し前は怒声にビビって跳び跳ねてたのに。
「やり方はアリィか俺に聞けばいいよ。じゃあねぇ。白猫のロニーと茶とらのベイル兄さん。俺はどっちが猫でも可愛いよ?」
「このやろ!からかいやがって!ダグ、てめぇ!」
診察台を蹴飛ばす勢いで飛び出して掴みかかると、パンっと弾ける音と共に目の前がチカチカして、気づいたらダグの腰にしがみついて膝をついていた。
顎と首にかけて、じんわり痛みがある。
少し熱いってくらいの軽い痛み。
「襲われるのも慣れると人がどう動くか分かりやすいんだよね。ロニー、大丈夫?手加減したけど強かったかな?」
手加減?
俺が?
こいつに?
「馬鹿。ロニーで試すな」
「ごめんね?思ったより挑発に乗るし、掌底打ちも綺麗に入っちゃった」
ベイル部隊長に腕を引きずられて診察台に転がされた。
まだチカチカする。
目眩で立てねぇ。
こいつ、こんなに強くなってたのかよ。
すげぇ悔しい。
「……試したって、何のことだ」
狙いが分からなくて寝転んだまま尋ねた。
「別に試したって言う訳じゃないけど。ロニーの夢を壊そうと思っただけ」
「夢って、なんだよ」
「7年越しの片思い」
「ばっ!勘違いすんな!」
「俺のことめっちゃ好きじゃん。愛してるんでしょ?白い背中が好みって。バックからヤってみたいんだったね。払い下げまで待つからって熱烈だったよ」
酔っ払った俺はペラペラ何でも喋ったらしい。
だが、覚えちゃいねぇ!
「もう、こえーよ!恐ろしいわ!」
「そう?ならよかった」
「うっ、」
ダグが怖いのに覗きこむ笑顔がめっちゃ可愛い。
やっぱり間近で見るとドキドキする。
黒目がちな丸みのある瞳とまばらに生えながらも長い睫毛がパサパサ音をたててる。
「いててて!」
ベイル部隊長にまた頬っぺたを引っ張られて叫んだ。
「何度も見とれるな。このアホ」
バレてた!
すいませんと勢いよく謝るとすぐに手を離した。
じんじんする頬を撫でて逃げるように慌てて起き上がるんだけどくらくらする。
まだ感じる目眩に何をどうやったのか不思議だ。
「ベイル兄さん、意地悪は良くないよ?ロニーはそういうの平気なタイプじゃないから」
「………悪い」
いつも表情を変えないのに、今はむすっとした顔でダグへ視線を向けて頷く。
苦笑いのダグにたしなめられて反省したみたいだった。
「それでお前がこんなふざけた態度をとるのはなんだ?床に穴まで開けて。もとはカナン様の指示か?」
ベイル部隊長がダグの一撃で割れた床板を見つめて問いかけた。
「あ、うん。それもあるよ。しばらく暴れろって。ベイル兄さんも許可出てるよ」
「はあ?なんだよ、ダグ。暴れろってどういうことだ。なんでベイル部隊長も?」
意味が分かんねぇ。
「あれか。あぁ、めんどくさい」
訳知り顔なベイル部隊長は心底嫌そうにため息。
「説明しろよ、ダグ」
「簡単だよ。俺は急に序列を無視して少佐になったからね。発表してから絡まれまくり。ベイル兄さんもやっかみで絡まれるだろうから蹴散らしていいって。朝からカナン様と団長が俺達の昇進に納得いかないなら奪ってみろって発破かけてたし」
「知らね」
「ロニーは午後勤務でしょ?知らなくて当然だよ。ちなみに期限は勤務中の1週間ね。場所は敷地内のみ。一応、集団は禁止だけど守るかなぁ。そういうのもあるから本格的にヤるのは控えなよ。仮眠室ですんのもね。襲撃されるよ」
「……なんで、知ってる」
恥ずかしさのあまり顔を両手で覆った。
「来たらヤってたんで何回か帰った」
「……マジかよ」
「マジ。終わったあとピンピンしてたし、抜きっこでしょ?」
「……死ぬ」
「こんなところでヤるからだよ。俺以外も知ってるんじゃない?」
「死ぬ!」
頭を抱えてまた泣いた。
もう号泣。
本当に恥ずかしがり屋だねと呑気なダグの声が恨めしかった。
ちょうど桶を持った親父も戻ってきて今度は何の騒ぎだと呆れてた。
意外なことにダグは腕を首と一緒に挟んで息を整えて冷静に対応してる。
「いい機会かなと思ってな。あの夜、酔って食おうとしたのお前だろ?」
「あは、バレた?」
「ルガンダそっくりだ」
「まぁね、弟だし?酔っ払って好き好き言われたら可愛いくって。7年ってスゴくない?感動しちゃった。後ろはカナン様用だから俺がロニーを食べてあげるつもりだったのに。途中で寝ちゃうから」
え、俺が食われる寸前だったの?
マジか?!
固まってダグの余裕な笑みを見つめると目の合ったダグが俺に目を細めて笑った。
綺麗で見とれてしまう。
「ふふ、そんなにびっくりして。ロニー、可愛いねぇ。ベイル兄さん、ごめんね?俺だけ見ちゃって。うわぁ、頬っぺた真っ赤で、すっごい可愛い。……よっと」
そんな俺の顔をくすくす笑ってたのに、すかさずベイル部隊長の指を捻りながら膝裏をガツンと鋭く蹴ると素早く頭を抜いた。
「くそ、こいつ」
痛かったらしく蹴られた膝裏に手を当てて体を傾けてる。
俺は単純に、すげぇ、こうするんだなと感心しながらそれを眺めていた。
こんな簡単に抜け出したのも、ダグの言葉に唆されて俺に背中を見せていたベイル部隊長の首がこっちに動いたせいだ。
そんなんで釣られるなよ。
アホ。
「そんな怒んなくていいじゃん。舐めただけだよ?ちょっとだけぇ、れ」
口をあ、と開けて赤い舌をぺろっと伸ばした。
「……どこを?」
ゾッとするほど不機嫌な声にダグは弧を描いて目を細めた。
「ロニーが俺のを。慣れてないご奉仕は気持ちよくて可愛かったよ?」
覚えてねぇよ。
恥ずかしくて顔が熱くなった。
「ムカつく」
「してもらえば?してくれればだけどぉ」
にぃっと口角を上げてますますの目を細める。
おい、マジであの甘ったれの可愛いダグはどこだ。
涙も引っ込んだわ。
「喧嘩売る気か?」
「聞いたのは自分でしょ?」
「聞いたが、お前が勝手に余計なことを言った。アリオンに言うぞ」
「言えばぁ?アリィが嫉妬して怒っても逆に泣かすのが楽しいし。最近ハマってるんだよねぇ。マジでアリィって可愛いし、最高」
やべぇ、本当に怖い。
新境地開拓しすぎ。
「だからか。ペラペラと」
「ふふ、でもベイル兄さんは嫉妬してロニーに乱暴しないでね?俺と違って下手そうだし。がつがつタイプ?荒っぽそう。ねー?ロニーも痛いの嫌だよね?」
こっちを見て同意を求められたが答えようがない。
いつもの柔らかい眼差しだけど怖いし、俺の怯んだ顔見てまた満足そうだし。
ベイル部隊長は俺の怯えた気配にため息ついて苦笑いだ。
「なんでこうなったかなぁ」
呆れたベイル部隊長にダグは笑みを浮かべた。
「うーん。いまだに襲うバカいるんだよねぇ。カナン様とアリィがいるのに。躾をしてたら楽しくなっちゃった」
「また襲われたのか」
「うん。相変わらず。一番近いのは先週」
「マジかよ」
それを聞いて俺も呆れて声をこぼした。
同情よりもまた釣ったのかという驚きしか出ない。
アリオンが来る前はベイル部隊長か俺がこいつの虫除けしてた。
あと多分カナン様がつけた見張りが守ってた。
「報告がない。団員か?」
「いや、外。なんかどこかで俺を見かけて一目惚れだって。家まで付きまとうし。アリィが仕事でいない日に勝手に家にまで入って来た。不可抗力って奴」
「これだけ鍛えといて何言ってるんだ。一般人相手に今のお前なら簡単に捕縛出来たはず。もとの趣味だろ?」
「あー、やっぱりそっちなのかな?アリィからも言われた」
呑気に笑ってやがる。
実際に強くなったけど、やっぱりこいつの強気すぎるメンタルが怖いわ。
アリオンを得て戦闘技術を鍛え直してから本当に人が変わったみたいだ。
妙な迫力を身につけて使いこなしている。
「何にしろ剣を振り回して突っかかるな。これは俺とロニーのことなんだから」
ベイル部隊長の文句に変わらない笑みで頷いた。
「ごめんね?俺って思ったより負けず嫌いだったみたい。ベイル兄さんにロニー盗られてムカつくし」
「お前なぁ」
「俺の親友なのに。ベイル兄さんこそ何?今までロニーに興味なかったじゃん」
「状況が変わったんだよ。突っかかるな。てか、俺はいいのかよ」
「はあ?」
「お兄ちゃん返してって泣けよ」
そう言うとダグは首を仰け反らせて爆笑。
「あっはは!何言ってんの?これからもずっと俺の兄さんでしょ?」
「まぁな。そのつもりだ」
ベイル部隊長も頷いて、腹を抱えて笑うダグを楽しそうに眺める。
「でしょ?とりあえず八つ当たりはもう終わるよ。二人で仲良くしてね?応援してるから」
さっさと俺達の間を抜けて扉へ向かうから呼び止めた。
「待てよ、ダグ。用事じゃなかったのか?」
「んー?休憩ついでに新しい鎧を見せに寄っただけだよ。いなかったらそのうちで良かったんだけど。でも、なんかロニーが嫌がって泣いてるっぽかったから乱入したの。ベイル兄さん、もうロニーをいじめないでね?可哀想だから」
「いじめてない。可愛がってる」
「構いすぎると死んじゃうからね?程ほどに」
「お前のことか?腹上死しかねないと何度も心配した」
ベイル部隊長はカナン様のやり取りを揶揄したのにニコッと微笑みを返す。
「閨に限らず構いすぎたらそうでしょ?虫も人間も生き物全般。ベイル兄さんは知らないの?」
年下なのに。
やけに達観したその態度にベイル部隊長は顔をしかめて舌打ちして返す。
「このやろ。いい加減殴るぞ」
「怒んないで?ベイル兄さん。最近、猫が被れなくて本音がこぼれちゃうんだ」
「金の狼を従えるようになったからか?守られてるつもりなら笑う」
「ふふ、アリィは狼かなぁ。俺には可愛い金の猫だよ。もうメロメロ。めっちゃ可愛い」
「………まさかと思っていたが、お前が食うのか」
ベイル部隊長の様子だとうすうす感じていたが知らなかったらしい。
呆れなのか感心なのか複雑そうに顔が歪んでる。
「あんなデカイ男を、お前。………とんでもねぇ奴。どういう神経してんだ?」
「ふふ、ひどいなぁ。兄さんも早くそこの可愛い白猫を食べたら?それとも兄さんが食べられちゃう方?」
可愛い顔でにっこり笑みを浮かべて、俺まで巻き添えにからかってきやがった。
こんな舐めた態度、誰だろうと普段なら許さない。
ダグにだってそうだ。
いつもなら文句のひとつも言えるのに、逆上せた頭はまともに動かないし、怒りに目を見開いてパクパクと口が動くだけだった。
「……あー、お前舐めてんなぁ」
キレたベイル部隊長が身構えて拳を握った。
それに合わせてダグも軽く腰を屈めて対応する姿勢を見せる。
それでもお互いに笑みを浮かべて楽しげ。
俺の体は重なった精神的な衝撃に固まってるし、怒りで混乱した頭は一発殴られろと罵っていた。
「別にそんなつもりないけどね。あ、知ってる?白猫って警戒心強いの。ロニーらしいよね。逆に茶とらの猫って甘えん坊らしいよ。甘えるのは兄さんの方?」
「へぇ、黒猫のお前は?」
「警戒心薄いんだって」
「ぴったりだなっ、と!」
「あっぶな、あはは」
ベイル部隊長の突飛な拳に軽く跳ねてよけた。
一発、二発。
軽くひょいっと。
多少、ベイル部隊長に手加減は見えたがそれでもよけたことに目を丸くした。
「ちっ、すばしっこくなりやがった」
「まあねぇ。少しでもお役に立たないと」
「俺をからかうのがお前の仕事か?兄とは言え上官だ。さすがにやめろ」
「まさか。そんなわけないじゃん。でもがつがつしてそうな兄さんへの牽制かな。ロニーを以前の俺みたいにしてもらいたくないし。いくら体格良くても前線専門なんだからお互いに気を付けてよね。マジで油断したら死ぬよ。忠告は聞いてね?」
ちらっと俺へも視線を向けて、ついビクッとはねた。
「ロニーも覚えておいて。絶対、無理はしないこと。俺みたいに体も慣れてないし。初心者同士、手加減も出来ないでしょ」
「いらん世話だ。ダグ、もう黙れ」
「先輩の話は聞くもんだよ、ベイル兄さん」
ダグは背中を見せずに後ろへ下がって扉に手をかけた。
「今度、オイル分けてあげる。ほぐすのも。うちに取りに来てね」
「ダグ!てめえ、黙れよ!」
ベイル部隊長の舌打ちの横で俺は怒鳴り付けていた。
「なぁに?自分達で出来るの?」
そんなことまで口出されたくねぇ!
カッとなった俺が怒鳴ると余裕を見せて笑ってやがる。
少し前は怒声にビビって跳び跳ねてたのに。
「やり方はアリィか俺に聞けばいいよ。じゃあねぇ。白猫のロニーと茶とらのベイル兄さん。俺はどっちが猫でも可愛いよ?」
「このやろ!からかいやがって!ダグ、てめぇ!」
診察台を蹴飛ばす勢いで飛び出して掴みかかると、パンっと弾ける音と共に目の前がチカチカして、気づいたらダグの腰にしがみついて膝をついていた。
顎と首にかけて、じんわり痛みがある。
少し熱いってくらいの軽い痛み。
「襲われるのも慣れると人がどう動くか分かりやすいんだよね。ロニー、大丈夫?手加減したけど強かったかな?」
手加減?
俺が?
こいつに?
「馬鹿。ロニーで試すな」
「ごめんね?思ったより挑発に乗るし、掌底打ちも綺麗に入っちゃった」
ベイル部隊長に腕を引きずられて診察台に転がされた。
まだチカチカする。
目眩で立てねぇ。
こいつ、こんなに強くなってたのかよ。
すげぇ悔しい。
「……試したって、何のことだ」
狙いが分からなくて寝転んだまま尋ねた。
「別に試したって言う訳じゃないけど。ロニーの夢を壊そうと思っただけ」
「夢って、なんだよ」
「7年越しの片思い」
「ばっ!勘違いすんな!」
「俺のことめっちゃ好きじゃん。愛してるんでしょ?白い背中が好みって。バックからヤってみたいんだったね。払い下げまで待つからって熱烈だったよ」
酔っ払った俺はペラペラ何でも喋ったらしい。
だが、覚えちゃいねぇ!
「もう、こえーよ!恐ろしいわ!」
「そう?ならよかった」
「うっ、」
ダグが怖いのに覗きこむ笑顔がめっちゃ可愛い。
やっぱり間近で見るとドキドキする。
黒目がちな丸みのある瞳とまばらに生えながらも長い睫毛がパサパサ音をたててる。
「いててて!」
ベイル部隊長にまた頬っぺたを引っ張られて叫んだ。
「何度も見とれるな。このアホ」
バレてた!
すいませんと勢いよく謝るとすぐに手を離した。
じんじんする頬を撫でて逃げるように慌てて起き上がるんだけどくらくらする。
まだ感じる目眩に何をどうやったのか不思議だ。
「ベイル兄さん、意地悪は良くないよ?ロニーはそういうの平気なタイプじゃないから」
「………悪い」
いつも表情を変えないのに、今はむすっとした顔でダグへ視線を向けて頷く。
苦笑いのダグにたしなめられて反省したみたいだった。
「それでお前がこんなふざけた態度をとるのはなんだ?床に穴まで開けて。もとはカナン様の指示か?」
ベイル部隊長がダグの一撃で割れた床板を見つめて問いかけた。
「あ、うん。それもあるよ。しばらく暴れろって。ベイル兄さんも許可出てるよ」
「はあ?なんだよ、ダグ。暴れろってどういうことだ。なんでベイル部隊長も?」
意味が分かんねぇ。
「あれか。あぁ、めんどくさい」
訳知り顔なベイル部隊長は心底嫌そうにため息。
「説明しろよ、ダグ」
「簡単だよ。俺は急に序列を無視して少佐になったからね。発表してから絡まれまくり。ベイル兄さんもやっかみで絡まれるだろうから蹴散らしていいって。朝からカナン様と団長が俺達の昇進に納得いかないなら奪ってみろって発破かけてたし」
「知らね」
「ロニーは午後勤務でしょ?知らなくて当然だよ。ちなみに期限は勤務中の1週間ね。場所は敷地内のみ。一応、集団は禁止だけど守るかなぁ。そういうのもあるから本格的にヤるのは控えなよ。仮眠室ですんのもね。襲撃されるよ」
「……なんで、知ってる」
恥ずかしさのあまり顔を両手で覆った。
「来たらヤってたんで何回か帰った」
「……マジかよ」
「マジ。終わったあとピンピンしてたし、抜きっこでしょ?」
「……死ぬ」
「こんなところでヤるからだよ。俺以外も知ってるんじゃない?」
「死ぬ!」
頭を抱えてまた泣いた。
もう号泣。
本当に恥ずかしがり屋だねと呑気なダグの声が恨めしかった。
ちょうど桶を持った親父も戻ってきて今度は何の騒ぎだと呆れてた。
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雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
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