婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

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33※リカルドside

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腕のカフスをはめてもらい身支度を終えたら、ルルドラとラインが拍手を送ってきた。

「本当に別人ですね。リカルド王子じゃないみたいです」

「兄上、すごーい」

「そうか、良かった」

ラインとルルドラの称賛に片頬を上げて笑みを返す。

濃い焦げ茶色のカツラと化粧、それと執事服。

それだけだが、印象がガラッと変わる。

あとは片眼鏡とつけ髭をつけたら終わりだ。

今夜は貴族が勢揃いする新年会の大きなパーティーがある。

緊張しやすいルルドラの側にいるために変装だ。

謹慎の私は招待されないから。

私の隠居を解くのはルルドラの足場が固まってからにしたい。

「ラインも上手く化けた」

「お仕着せに慣れてますから」

ニコッと笑みを浮かべた。

ラインもルルドラの公式の活躍を見たいと望んだので同じように見掛けの装いを変えて参加する。

メイド長とルーラ達と同じお仕着せ。

屋敷で着ていたものと近いが王宮用の華やかなメイド服。

前のものより似合う。

「可愛い。似合うよ、ライン義姉様」

「ありがとうございます」

ルルドラの素直さが羨ましい。

なぜこんなにすんなり言えるのだ。

私は横で同意に頷くだけだ。

側にいるメイド長とルーラが私を残念そうに見るが諦めろ。

行動は得意だが、愛を囁くのは苦手だ。

だいたい鈍いラインに心が折れた。

頭を絞って愛情を示す言葉を必死に告げてもきょとんとした顔が返ってくる。

思い付くことも、定番の言葉も、出来る限り口にした。

メイド長達にこの鈍い主人をどうにかしろと言いたい。

「ライン」

「は、はい」

手を広げたら相変わらずおずおずと寄ってくる。

毎日のことなのにまだ慣れない。

野良猫か。

警戒心が強すぎる。

時間をかけてやっと腕に囲われて、髪型を崩さないように気を付けながらこめかみにキスをした。

「ライン義姉様、僕もする」

ルルドラ相手ならすんなりだ。

しかもお互いに微笑みを浮かべて。

抵抗が無さすぎて腹立つ。

「私には?夫の私を優先すべきだと思うのだが」

ぼろっとついでに本音がこぼれた。

頬を寄せると恥ずかしそうに顔を伏せた。

「ライン?」

「ひ、人前ですから」

か細い震えた声で答えたから手を振って人払い。

これでどうだ。

妻の務めだろとつい言ってしまうがルーラに止められた。

仕事の一環で相手されるようになると言われてしまい、言葉に気を付けている。

それは望んでない。

ここまで警戒されるとそれでもいいからと思わんでもないが。

伏せてた顔がこちらを向いて涙目の上目遣い。

泣くほど嫌なのかと落ち込むのと潤んだ目元と赤い顔が心臓に悪い。
 
この表情も好ましい。

ぞくぞくする。

ぺろっと唇を舐めてじっと待った。

待てばゆっくり動く。

根気がいる。

「も、もう少し、下にお願いします」

「ん」

頭を下げたらコツンとこめかみに額が当たった。

そこじゃないと言いたい。

唇が欲しいのに。

「もう少し下だったか」

「こ、れで精一杯です」

「だめだ。たまにはしろ」

わざわざ人払いもしたんだ。

逃げそうな気配に肩を掴んで引き寄せた。

やっと柔らかい唇が当たった。

本当に根気がいる。

ルルドラにはすんなり許すのにと腹が立つが……

「好ましいから許す」

焦らされて楽しいと思うようになった。

嫉妬もあるが、純粋にルルドラを弟と可愛がってるのも分かってる。

子供と男の違いでこういう態度なのも理解している。

「え?」

「こっちの話だ」

「……はあ」

首をかしげながら気の抜けた返事。

またいつものきょとん顔。

鈍くて助かることも多い。

継母の処遇やルルドラの内心。

政治に疎いことも。

皇太子の地位でいたら関わることもなかった。

継母やもと婚約者のマリアナ嬢のような強く苛烈なタイプしか知らなかった。

貴族社会でここまでのんびりした者も珍しい。

年下のルルドラでさえ、本音と建前は操れるし、他人の操縦は上手い。

皇太子としての才覚は充分。

最近、多くの交流会に顔を出してラインのような者を婚約者か友人に望んで探してるようだが、なかなか見つからずにがっかりしていた。

相手の気質の問題もあるが、皇太子と会うのに人を押し退けて来る性格の者が普通だ。

控えめな人間はなかなか出会えないだろう。

皇太子として過ごしていた頃、多くの友人に囲まれていたが今はその友人達は姿を消した。

彼らにも家を背負う義務と向上心がある。

いずれ親交が戻る気配の者もいるが、多くはない。

「も、もうそろそろでは?あの、お時間が」

「そうだな。だがもう少しこのまま」

抱き締めていると震えて頑な体がゆっくり和らぐ。

それまでもう少しこうしていたかった。

「……以前、怖がらせたせいなのか。まだ私は嫌われているのか?」

「え?!」

がばっと顔を上げて驚いている。

「リカルド王子のこと、お慕いしています!」

このあと優しい雇い主で素晴らしい先生だと続いて気が抜けた。

嫌がるのを無理やり触れて泣かせた。

出会ってすぐの、忌避されていた頃より好ましいと思ってるのなら贅沢は言わないでおこう。

「それより私が女主人らしいことは何もできず、申し訳ありません」

「……例えば?」

夫婦の営みを思い浮かべてないのは分かるが、他に女主人としての何の務めを想像しているのか興味があった。

「屋敷の采配でしたり、社交の手紙など。いくら今のお立場があるとはいえ、私は何もしておりません。いずれリカルド王子の政権の参加をルルドラ王子と陛下は望んでますのに、私ではリカルド王子を支えるのは難しいかと思います」

「ああ、そのことか」

それに関してはむしろ好都合と思っていた。

ラインには社交界との繋がりになる人脈は皆無。

興味も薄い。

無駄に社交を好んで、能力のない妻など甘言の騙されやすさを危惧するだけで、政治に疎く質素で控えめな生活を好むラインなら今後の不都合はない。

「謹慎が解けたとしても立場は廃嫡だ。ルルドラより目立つつもりはない。ラインは本当に心から安らぐ者と交流すればいい。それに政治において私達がルルドラを支えるとそれだけを考えてくれ」

侮られる立場を自ら望んだ。

巻き添えのラインに申し訳なく思っていた。

「はいっ、お二人に真からお仕えします。ずっと」

腕の中で気後れせずにはっきりと答えた。

見つめ返す微笑みが眩しくて目を細めた。

「……夫婦としてはもう少し歩み寄りたい」

さわさわと肩から背中に手を滑らせた途端、息を詰まらせて固まった。

「……難しい」

臣下としての心意気はあるのに、どうして私の妻だと自覚させるとこうなる。

「努力、致します。妻らしい態度がとれるように。いつまでも子供のような態度で申し訳ありません」

初めてだった。

小さな声だが確かに聞いた。

しかも手を私の背に回してしっかりと抱きついて。

「よ、夜も、リカルド王子のお気持ちに添うように」

目をつぶり、背伸びをして顔を寄せてきた。

一瞬、何が起きたのか分からなかった。

キスをねだってる?

どうした、急に。

思わずまじまじと顔を見つめてしまった。

「あの、ご、ごめんなさい」

間が空いたことに臆して身を引こうとした。

悪いのは私だ。

ラインから歩み寄ろうとしたのに呆けていた。

「悪かった。根性なしで。化粧が崩れるからここに」

捕まえてこめかみや耳にキスをする。

何度も。

はうううっと呻いて恥ずかしがっている。

「慕ってくれるのか?」

「は、はい」

「雇い主だから?」

「い、いいえ」

「先生?」

「ち、違います」

「お前から言ってくれ。私のどこを慕っているのか」

聞きたい。

「リカルド王子のもとに来てから、私は幸せです。望まれないご結婚だったと思いますが、こうやって、いつもお心を砕いてくださるリカルド王子のために何でもしたいと思うようになりました。書類上の妻になって後悔したことも、嫌だったこともありません。大切にされて、感謝ばかりです。だから、あの、リカルド王子が嫌でなければ」

“私を本当の、妻にしてください”

耳を疑って固まった。

頭の中で反芻している。

やっと、ラインから望んだ。

長かった。

ようやく手に入れた私の妻。

私の独りよがりではなく、ラインからの。

抱き締める力が強くなる。

「ずっと望んでいた。形だけではなく心から妻にはラインがほしいと。やっとお前から望んだ」

ラインの左手をすくいとり、薬指にキスをした。

「何色がいいか?記念にこの指を飾る指輪を作ろう。やっとお互いの気持ちが通じた」

ふと顔を見るとまたきょとんとしていた。

「……今度は何を不思議がっている」

嫌な予感がする。

「え、あ、……えと、記念?何の?何が通じたのか、わからないです」

……アホ。

「私はラインのことがずっと好ましかったのだが。まだ分かっていなかったのか」

「え?なんで?」

「……建前で接していたとまだ思っているんじゃないだろうな?」

「違うんですか?」

「……この、鈍感が」

ここまでひどいと頭痛がしてくる。

私の絞り出した呻き声に、首をすくめてごめんなさいと返してきた。

あれから私の不機嫌な態度に怯えてルーラの後ろに隠れてしまった。

せっかく寄ってきたのに。

振り出しに戻ったかもしれん。

失敗した。
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