34 / 120
34※リカルドside
しおりを挟む
メイド長とルーラは私の使用人だったこともあり、王宮の祭典に慣れている。
ルルドラの使用人らに混ざってそつなくこなす。
私は父の配下から貸し出された臨時の執事としてその場に混じる。
ラインと私は新顔として受け入れられた。
プライベートの出入りを許された近衛と使用人しか私達の正体を知らない。
「似合うぞ、二人とも」
面白がる父に一瞬だけ、にぃっと頬を上げて返してきつく睨む。
「恐縮にございます。それにしても予定と違うようですが、どういうおつもりで?」
執事らしく受け答えするが威圧を込めた。
わざわざ見に来たことに呆れていた。
自分の立ち位置を無視して。
後ろには渋面の使用人達。
「ううむ、」
「さあ、私共は皇太子のお供で忙しいのです。すぐに配置に戻られてください。他の使用人らを困らせてはいけません。近衛隊長、お供を頼みます」
「かしこまりました」
内情を知る近衛隊長は苦笑いで父の側へ。
「お前達を見たかっただけだ。少しくらい問題ない」
「何があろうと祭典を優先すべきです。今は大切な時期だと御理解がないのでしょうか。回りへの牽制は今や陛下のみが出来る采配です。未成年の皇太子と廃嫡の王子では肩代わりできません。抜け出すなどもっての他。そういう安直さで抜け駆けされたことを理解しておられないのですか。私達の命がかかっていたと言うのに」
ジロッと睨むと一瞬で青ざめた父は降参と手を上げてすぐに逃げ出した。
ゆったりしてると言えば聞こえがいいが、そんなんだから継母に出し抜かれたんだ。
死にかけたのは私達だ。
愛する妻を殺した毒殺魔と気づかず10年。
当初、継母には明確な殺意はなく身体を壊せば王妃の座を退くと考えてのことだったらしい。
いつまでも手放さない父に業を煮やして量を増やしたところ死んでしまったと。
最も我が国で尊い身分の女性を暗殺した。
それからは開き直って誰彼と毒を飲ませ、自らも毒の研究と栽培にまでのめり込んで。
母の亡くなったあと、次の王妃選定に周囲を蹴散らしてのしあがった。
王妃の座に固執したのか、父にそこまでして思い入れがあったのか。
残された手記を見れば両方。
年が釣り合ってさえいれば母でなく自分が選ばれて当然と書き綴られ、父への想いの深さで自分以上のものはいないと記されていた。
執着とエゴは人一倍。
あの女に他者への慈悲がなかった。
「ああ、お、重い」
よたつくルルドラの側に駆け寄る。
皇太子が被る王冠。
三キロはある。
背中には長い厚手のローブもルルドラの身長では倍ほどの長さ。
私が着ていた時も裾持ちがいたほど。
後ろからラインとルーラが裾を持ち上げて支えてるが重いことには変わらない。
「背筋を伸ばして、堂々とした姿を見せれば皆がお前を認める」
耳元にこっそりと。
「はい」
緊張で顔色が悪いが、表情は晴れやかだ。
「ルルドラ王子、私共がおります。なんなりとお申し付けくださいませ」
ラインの声かけに笑みを浮かべ、頬の色が微かに戻る。
「ありがとう、兄上、ライン義姉様」
継母の影に隠れて神経質だったルルドラも今は違う。
穏やかさと自信、明るさで輝いている。
「ルルドラ、私は兄であると共に臣でありたい。手足として使いなさい」
ここにいるのはプライベートの者達。
私がルルドラに膝をつくと皆も倣って膝をつき頭を垂れた。
廃嫡された身でも王族。
ルルドラの次の立場だ。
下位の使用人達が私より上にいてはいけない。
私の行動に釣られて膝を曲げたルルドラを止めた。
「皇太子、どうか分別を」
その一言で顔を引き締めて頷く。
背筋を伸ばし胸を張る仕草に笑みを返す。
それでいい。
兄として、勉学の師として、ルルドラを導くが、皇太子とその臣下だ。
ラインも回りに倣うことに関しては理解がある。
皆と同様に臣としての態度を見せていた。
そして視線にはルルドラへの敬意。
私と視線が合うと目を細めて頷く。
欲のないその姿に感謝の気持ちが溢れた。
祭典は滞りなく。
王妃の不在で空いた席には代わりに新しい皇太子としてルルドラが着座して場を賑わせる。
近衛と共に私達も側に控える。
父が新年の宣誓をしたのち、貴族らが挨拶に列をなした。
昼の明るい時間からの式典ということもあり、子連れが多い。
本来マナーとして重要な式典に子供連れの参加は敬遠されるが。
新皇太子となったルルドラへの顔繋ぎが目的だ。
大概が常識を無視して連れてきている。
同行の許可を求める申請を把握していたが、予定より多い人数に急遽子供だけの場を開くことにした。
「ルルドラを頼む」
「リカルド王子はご一緒されないのですか?」
ラインにこっそり告げると少し不安そうにしている。
「ああ、会場を探りたい」
社交から離れすぎた。
使用人のふりで周囲を見て回りたかった。
「かしこまりました。お気をつけて」
「王宮の会場で何も危険はない」
「……でも」
「不安か?」
「……背格好はどうしても。正体が知られたらと心配です。どうなるのか分からないので」
体格は詰め物でもしないとごまかしようがない。
そこまではしていなかった。
「こんな年寄りの見掛けだ。私と分からない。それに貴族が使用人に注意を払うなどあり得ない。そう心配するな」
何が不満なのか首をかしげて唸っている。
言葉を待つと思案げに呟いた。
「……後ろ姿を見たらリカルド王子と分かるかもしれません」
「後ろ?」
「はい」
あり得ないと思うがラインの精一杯の助言だ。
否定する気はなく、早めに切り上げると答えて会場へ向かった。
しかしあれは女の勘だったのか。
ラインの助言をもう少し聞くべきだったようだ。
ルルドラの使用人らに混ざってそつなくこなす。
私は父の配下から貸し出された臨時の執事としてその場に混じる。
ラインと私は新顔として受け入れられた。
プライベートの出入りを許された近衛と使用人しか私達の正体を知らない。
「似合うぞ、二人とも」
面白がる父に一瞬だけ、にぃっと頬を上げて返してきつく睨む。
「恐縮にございます。それにしても予定と違うようですが、どういうおつもりで?」
執事らしく受け答えするが威圧を込めた。
わざわざ見に来たことに呆れていた。
自分の立ち位置を無視して。
後ろには渋面の使用人達。
「ううむ、」
「さあ、私共は皇太子のお供で忙しいのです。すぐに配置に戻られてください。他の使用人らを困らせてはいけません。近衛隊長、お供を頼みます」
「かしこまりました」
内情を知る近衛隊長は苦笑いで父の側へ。
「お前達を見たかっただけだ。少しくらい問題ない」
「何があろうと祭典を優先すべきです。今は大切な時期だと御理解がないのでしょうか。回りへの牽制は今や陛下のみが出来る采配です。未成年の皇太子と廃嫡の王子では肩代わりできません。抜け出すなどもっての他。そういう安直さで抜け駆けされたことを理解しておられないのですか。私達の命がかかっていたと言うのに」
ジロッと睨むと一瞬で青ざめた父は降参と手を上げてすぐに逃げ出した。
ゆったりしてると言えば聞こえがいいが、そんなんだから継母に出し抜かれたんだ。
死にかけたのは私達だ。
愛する妻を殺した毒殺魔と気づかず10年。
当初、継母には明確な殺意はなく身体を壊せば王妃の座を退くと考えてのことだったらしい。
いつまでも手放さない父に業を煮やして量を増やしたところ死んでしまったと。
最も我が国で尊い身分の女性を暗殺した。
それからは開き直って誰彼と毒を飲ませ、自らも毒の研究と栽培にまでのめり込んで。
母の亡くなったあと、次の王妃選定に周囲を蹴散らしてのしあがった。
王妃の座に固執したのか、父にそこまでして思い入れがあったのか。
残された手記を見れば両方。
年が釣り合ってさえいれば母でなく自分が選ばれて当然と書き綴られ、父への想いの深さで自分以上のものはいないと記されていた。
執着とエゴは人一倍。
あの女に他者への慈悲がなかった。
「ああ、お、重い」
よたつくルルドラの側に駆け寄る。
皇太子が被る王冠。
三キロはある。
背中には長い厚手のローブもルルドラの身長では倍ほどの長さ。
私が着ていた時も裾持ちがいたほど。
後ろからラインとルーラが裾を持ち上げて支えてるが重いことには変わらない。
「背筋を伸ばして、堂々とした姿を見せれば皆がお前を認める」
耳元にこっそりと。
「はい」
緊張で顔色が悪いが、表情は晴れやかだ。
「ルルドラ王子、私共がおります。なんなりとお申し付けくださいませ」
ラインの声かけに笑みを浮かべ、頬の色が微かに戻る。
「ありがとう、兄上、ライン義姉様」
継母の影に隠れて神経質だったルルドラも今は違う。
穏やかさと自信、明るさで輝いている。
「ルルドラ、私は兄であると共に臣でありたい。手足として使いなさい」
ここにいるのはプライベートの者達。
私がルルドラに膝をつくと皆も倣って膝をつき頭を垂れた。
廃嫡された身でも王族。
ルルドラの次の立場だ。
下位の使用人達が私より上にいてはいけない。
私の行動に釣られて膝を曲げたルルドラを止めた。
「皇太子、どうか分別を」
その一言で顔を引き締めて頷く。
背筋を伸ばし胸を張る仕草に笑みを返す。
それでいい。
兄として、勉学の師として、ルルドラを導くが、皇太子とその臣下だ。
ラインも回りに倣うことに関しては理解がある。
皆と同様に臣としての態度を見せていた。
そして視線にはルルドラへの敬意。
私と視線が合うと目を細めて頷く。
欲のないその姿に感謝の気持ちが溢れた。
祭典は滞りなく。
王妃の不在で空いた席には代わりに新しい皇太子としてルルドラが着座して場を賑わせる。
近衛と共に私達も側に控える。
父が新年の宣誓をしたのち、貴族らが挨拶に列をなした。
昼の明るい時間からの式典ということもあり、子連れが多い。
本来マナーとして重要な式典に子供連れの参加は敬遠されるが。
新皇太子となったルルドラへの顔繋ぎが目的だ。
大概が常識を無視して連れてきている。
同行の許可を求める申請を把握していたが、予定より多い人数に急遽子供だけの場を開くことにした。
「ルルドラを頼む」
「リカルド王子はご一緒されないのですか?」
ラインにこっそり告げると少し不安そうにしている。
「ああ、会場を探りたい」
社交から離れすぎた。
使用人のふりで周囲を見て回りたかった。
「かしこまりました。お気をつけて」
「王宮の会場で何も危険はない」
「……でも」
「不安か?」
「……背格好はどうしても。正体が知られたらと心配です。どうなるのか分からないので」
体格は詰め物でもしないとごまかしようがない。
そこまではしていなかった。
「こんな年寄りの見掛けだ。私と分からない。それに貴族が使用人に注意を払うなどあり得ない。そう心配するな」
何が不満なのか首をかしげて唸っている。
言葉を待つと思案げに呟いた。
「……後ろ姿を見たらリカルド王子と分かるかもしれません」
「後ろ?」
「はい」
あり得ないと思うがラインの精一杯の助言だ。
否定する気はなく、早めに切り上げると答えて会場へ向かった。
しかしあれは女の勘だったのか。
ラインの助言をもう少し聞くべきだったようだ。
4
あなたにおすすめの小説
公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした
佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。
その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。
長女ソフィア。
美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。
そして──もう一人。
妹、レーネ・アルヴィス。
社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。
姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。
だが彼女は知っている。
貴族社会では、
誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。
王立学園に入学したレーネは、
礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。
やがて──
軽んじていた者たちは気づく。
「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。
これは、
静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!
パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。
手放したのは、貴方の方です
空月そらら
恋愛
侯爵令嬢アリアナは、第一王子に尽くすも「地味で華がない」と一方的に婚約破棄される。
侮辱と共に隣国の"冷徹公爵"ライオネルへの嫁入りを嘲笑されるが、その公爵本人から才能を見込まれ、本当に縁談が舞い込む。
隣国で、それまで隠してきた類稀なる才能を開花させ、ライオネルからの敬意と不器用な愛を受け、輝き始めるアリアナ。
一方、彼女という宝を手放したことに気づかず、国を傾かせ始めた元婚約者の王子。
彼がその重大な過ちに気づき後悔した時には、もう遅かった。
手放したのは、貴方の方です――アリアナは過去を振り切り、隣国で確かな幸せを掴んでいた。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる