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34※リカルドside

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メイド長とルーラは私の使用人だったこともあり、王宮の祭典に慣れている。

ルルドラの使用人らに混ざってそつなくこなす。

私は父の配下から貸し出された臨時の執事としてその場に混じる。

ラインと私は新顔として受け入れられた。

プライベートの出入りを許された近衛と使用人しか私達の正体を知らない。

「似合うぞ、二人とも」

面白がる父に一瞬だけ、にぃっと頬を上げて返してきつく睨む。

「恐縮にございます。それにしても予定と違うようですが、どういうおつもりで?」

執事らしく受け答えするが威圧を込めた。

わざわざ見に来たことに呆れていた。

自分の立ち位置を無視して。

後ろには渋面の使用人達。

「ううむ、」

「さあ、私共は皇太子のお供で忙しいのです。すぐに配置に戻られてください。他の使用人らを困らせてはいけません。近衛隊長、お供を頼みます」

「かしこまりました」

内情を知る近衛隊長は苦笑いで父の側へ。

「お前達を見たかっただけだ。少しくらい問題ない」

「何があろうと祭典を優先すべきです。今は大切な時期だと御理解がないのでしょうか。回りへの牽制は今や陛下のみが出来る采配です。未成年の皇太子と廃嫡の王子では肩代わりできません。抜け出すなどもっての他。そういう安直さで抜け駆けされたことを理解しておられないのですか。私達の命がかかっていたと言うのに」

ジロッと睨むと一瞬で青ざめた父は降参と手を上げてすぐに逃げ出した。

ゆったりしてると言えば聞こえがいいが、そんなんだから継母に出し抜かれたんだ。

死にかけたのは私達だ。

愛する妻を殺した毒殺魔と気づかず10年。

当初、継母には明確な殺意はなく身体を壊せば王妃の座を退くと考えてのことだったらしい。

いつまでも手放さない父に業を煮やして量を増やしたところ死んでしまったと。

最も我が国で尊い身分の女性を暗殺した。

それからは開き直って誰彼と毒を飲ませ、自らも毒の研究と栽培にまでのめり込んで。

母の亡くなったあと、次の王妃選定に周囲を蹴散らしてのしあがった。

王妃の座に固執したのか、父にそこまでして思い入れがあったのか。

残された手記を見れば両方。

年が釣り合ってさえいれば母でなく自分が選ばれて当然と書き綴られ、父への想いの深さで自分以上のものはいないと記されていた。

執着とエゴは人一倍。

あの女に他者への慈悲がなかった。

「ああ、お、重い」

よたつくルルドラの側に駆け寄る。

皇太子が被る王冠。

三キロはある。

背中には長い厚手のローブもルルドラの身長では倍ほどの長さ。

私が着ていた時も裾持ちがいたほど。

後ろからラインとルーラが裾を持ち上げて支えてるが重いことには変わらない。

「背筋を伸ばして、堂々とした姿を見せれば皆がお前を認める」

耳元にこっそりと。

「はい」

緊張で顔色が悪いが、表情は晴れやかだ。

「ルルドラ王子、私共がおります。なんなりとお申し付けくださいませ」

ラインの声かけに笑みを浮かべ、頬の色が微かに戻る。

「ありがとう、兄上、ライン義姉様」

継母の影に隠れて神経質だったルルドラも今は違う。

穏やかさと自信、明るさで輝いている。

「ルルドラ、私は兄であると共に臣でありたい。手足として使いなさい」

ここにいるのはプライベートの者達。

私がルルドラに膝をつくと皆も倣って膝をつき頭を垂れた。

廃嫡された身でも王族。

ルルドラの次の立場だ。

下位の使用人達が私より上にいてはいけない。

私の行動に釣られて膝を曲げたルルドラを止めた。

「皇太子、どうか分別を」

その一言で顔を引き締めて頷く。

背筋を伸ばし胸を張る仕草に笑みを返す。

それでいい。

兄として、勉学の師として、ルルドラを導くが、皇太子とその臣下だ。

ラインも回りに倣うことに関しては理解がある。

皆と同様に臣としての態度を見せていた。

そして視線にはルルドラへの敬意。

私と視線が合うと目を細めて頷く。

欲のないその姿に感謝の気持ちが溢れた。

祭典は滞りなく。

王妃の不在で空いた席には代わりに新しい皇太子としてルルドラが着座して場を賑わせる。

近衛と共に私達も側に控える。

父が新年の宣誓をしたのち、貴族らが挨拶に列をなした。

昼の明るい時間からの式典ということもあり、子連れが多い。

本来マナーとして重要な式典に子供連れの参加は敬遠されるが。

新皇太子となったルルドラへの顔繋ぎが目的だ。

大概が常識を無視して連れてきている。

同行の許可を求める申請を把握していたが、予定より多い人数に急遽子供だけの場を開くことにした。

「ルルドラを頼む」

「リカルド王子はご一緒されないのですか?」

ラインにこっそり告げると少し不安そうにしている。

「ああ、会場を探りたい」

社交から離れすぎた。

使用人のふりで周囲を見て回りたかった。

「かしこまりました。お気をつけて」

「王宮の会場で何も危険はない」

「……でも」

「不安か?」

「……背格好はどうしても。正体が知られたらと心配です。どうなるのか分からないので」

体格は詰め物でもしないとごまかしようがない。

そこまではしていなかった。

「こんな年寄りの見掛けだ。私と分からない。それに貴族が使用人に注意を払うなどあり得ない。そう心配するな」

何が不満なのか首をかしげて唸っている。

言葉を待つと思案げに呟いた。

「……後ろ姿を見たらリカルド王子と分かるかもしれません」

「後ろ?」

「はい」

あり得ないと思うがラインの精一杯の助言だ。

否定する気はなく、早めに切り上げると答えて会場へ向かった。

しかしあれは女の勘だったのか。

ラインの助言をもう少し聞くべきだったようだ。

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