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32※リカルドside
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好む服を作ってやれとは言ったが、なぜ寝巻きばかり作る。
庭仕事のために外で動きやすい服を作らせたかっただけなのに。
それにしても今日の新しいデザインはいつもより華やかでよく合っている。
本人も気に入って機嫌がいい。
本来の目的と外れているが文句はない。
明日は報酬とは別に彼女達へ褒美を出してやらねば。
「三人でお揃いだね。嬉しいなあ」
満足そうなルルドラにラインも微笑む。
「私も嬉しいです。お二人ともとてもお似合いです」
お揃いだとそんなにうれしいのか。
二人が喜ぶならいい。
それにしてもルルドラの素直さが羨ましい。
私は手を出せない抑圧で余裕がなく、ぐうっと唸ってしまうのに、私と違って無邪気にラインの装いを誉めてる。
あの泣いた晩からルルドラはラインをもっと慕うようになった。
頼りないところが男心を刺激されて守ってやりたくなるらしい。
愛情にあふれた眼差しと態度、無邪気なふりをして多少の欲も見える。
本当に幼かったのにいつの間にか男の仲間入りしたと思うと感慨深い。
ラインは年下に弱いかと心配したのも杞憂で、義弟として純粋に可愛がって、ルルドラが懸命に好きだと伝えるのに、残念ながら鈍感なラインには全く伝わっていない。
ここまで来ると同情と親近感がわく。
扱いは私と大して変わらないのだから。
私のことも今までの距離感と書類上の夫婦と言う感覚は抜けず、寝床を共にすることも一人寝が嫌だからと本気で信じてるし、周りへ見せ掛けるためと思って自分が女性として愛されている自覚がない。
愛してると囁けば、人前ではありませんよと答える。
建前だとまだ思い込んでる。
なぜこんなに鈍い……
私なりに愛情を注いでるつもりなのだが。
何が悪いんだ。
毎日ルルドラと二人でラインを構っていると、腹が違っても女の好みは同じかと父は揶揄していた。
父のあの様子ならルルドラのことを察してしているし、最近はそろそろ義姉の添い寝をやめるようにと諭していた。
私も同感だ。
これ以上ルルドラが義理の姉を慕いすぎては良くない。
大事な妻を挟んで弟と揉めるのは避けたい。
少し寂しくもあるが。
二人の寝顔を頬杖をつきながら眺めた。
「ん?」
コロンと転がるルルドラの寝相。
寝ぼけてラインの胸に顔を埋めようとしてる。
ラインの名前を寝言に呟きながら手は膨らみを求めてまさぐってる。
「……これは許すか」
引き剥がして私の硬い腕と胸にしっかりと抱き込んだ。
嫌そうに呻いてるが我慢しろ。
夫の私だって我慢させられてるのに。
まったく。
油断も隙もない。
やはり添い寝は卒業だ。
もう子供ではない。
朝起きた時も、これじゃないという顔で一瞬睨んでいた。
幼い態度を演じるようになったわけか。
本格的に添い寝の必要はなくなったようだな。
午前中は二人の勉強を見ようと思っていたのに父に呼び出されて執務室を訪れた。
「手紙が届いた」
手は机に置かれた封筒を示してる。
「これは?」
「お前宛にもと婚約者から」
廃嫡と謹慎の身だ。
私とライン宛のものは全て中身の確認をされる。
その方が楽だから私が提案した。
甘い汁を求めて私を唆す輩は父が管理すればいい。
私は皇太子に戻る気はない。
「読んでみろ」
受け取って一行目で固まった。
“結婚して幸せなんてどういうこと?この裏切り者。絶対許さない”
……相変わらず過激だ。
いつもの猫が剥げ落ちてる。
目の前で何度も本性を見てきたが手紙では初めてだ。
「ん?んん?」
“形ばかりの結婚なんだから早く離婚して私を迎えに来なさい。式が延びてしまったし、あなたの社交界復帰も考えなくてはいけないんだから早くして”
「迎えに来い?」
何度読み直してもそう書いてある。
離婚して迎えに来い?
私と結婚したいのか?
なぜ?
それなりに友好的な婚約者ではあったが、あの騒動のあとにやり取りは二回。
謝罪と体調の確認をしただけの内容だった。
返信はあっさりしたもので、私の問いの答えと地位のなくなった私に興味はないとあった。
それ以来やり取りはない。
最後の手紙から数ヶ月たつのに、なぜ今ごろになって。
「……どうして急に?」
分からずに首をかしげた。
「……どうする?……いや、お前がどういう心積もりなのか聞きたい。そういう約束をしていたのか?」
「いえ、してません。手紙をご覧になったでしょう。私と彼女はお互いに勤めとしての婚約でした」
今までの手紙は婚約破棄騒動の折に残していた全てを見せた。
やり取りには、共に国の礎となる覚悟を持っていた。
まったく甘い関係ではない。
それに地位のない男は嫌いのはずだ。
手紙のこともそうだが、もとから上昇思考が強くて私が弟に皇太子の座を譲りたいと言葉にすると必ず激しく憤っていた。
継母を含めて弟のことも邪魔と考えて嫌っている。
相容れない。
私は弟が可愛いのに。
いつも控えめで母親と私の間で申し訳なさそうに顔を伏せている姿ばかりだった。
その辺りはラインと似ている。
健気なタイプに弱いとふとよぎった。
気の強い彼女とは合わなかったと今なら思う。
私も上昇思考のタイプなら気があっただろうが、仕事は嫌いだ。
毎日、公務に追われて案件がいくらでも降ってくる状況にうんざりだったし、休憩を取ろうにも追加で持ってくる彼女に疲れていた。
昔は頼もしいと思っていたのに。
ラインと過ごしてからだいぶ趣味が変わってしまった。
ほどほどに忙しくて派手なことのない日々。
針仕事をする姿を横で眺めるのは意外と気持ちが休まるし、弟のためと思えば仕事の張り合いも出る。
将来、ルルドラが勤めやすいようにと考えて采配をふるうのは楽しい。
父にはもと婚約者のことをそう伝えて、返信の手紙にも父と弟の支えになることの方が性に合っているので復帰のつもりはないこと、迎えの約束もしていないとしたためた。
部屋に戻る途中、通路からプライベートの中庭が見えた。
三階から見下ろすと木陰でルルドラと寄り添って本を読んでいる。
多少、嫉妬にかられたが笑顔の増えたルルドラに私も笑みがこぼれる。
だが、あの表情がまた曇るだろうとため息が漏れた。
先日、継母が息を引き取った。
時期を見て発表する。
ルルドラにとっては血の繋がった母親。
前王妃と暗殺、未遂とはいえ次期皇太子、その婚約者の暗殺未遂を許すことは出来ない。
公表はせずに処分だけ。
国民には病死と発表する。
ルルドラにも。
だがエゴにまみれていたが、あの人なりに父とルルドラを愛していた。
ルルドラも同じだ。
怯えながらも、やはり母と慕っていた。
父の跡を継いで即位すれば全てを知る立場になる。
その時にまた苦しむだろう。
断罪を決行した私達を憎むかもしれない。
それだけが父と私の懸念だった。
ラインに甘えた顔で笑うルルドラの穏やかな時は今だけかもしれないと遠くから二人を眺め続けた。
庭仕事のために外で動きやすい服を作らせたかっただけなのに。
それにしても今日の新しいデザインはいつもより華やかでよく合っている。
本人も気に入って機嫌がいい。
本来の目的と外れているが文句はない。
明日は報酬とは別に彼女達へ褒美を出してやらねば。
「三人でお揃いだね。嬉しいなあ」
満足そうなルルドラにラインも微笑む。
「私も嬉しいです。お二人ともとてもお似合いです」
お揃いだとそんなにうれしいのか。
二人が喜ぶならいい。
それにしてもルルドラの素直さが羨ましい。
私は手を出せない抑圧で余裕がなく、ぐうっと唸ってしまうのに、私と違って無邪気にラインの装いを誉めてる。
あの泣いた晩からルルドラはラインをもっと慕うようになった。
頼りないところが男心を刺激されて守ってやりたくなるらしい。
愛情にあふれた眼差しと態度、無邪気なふりをして多少の欲も見える。
本当に幼かったのにいつの間にか男の仲間入りしたと思うと感慨深い。
ラインは年下に弱いかと心配したのも杞憂で、義弟として純粋に可愛がって、ルルドラが懸命に好きだと伝えるのに、残念ながら鈍感なラインには全く伝わっていない。
ここまで来ると同情と親近感がわく。
扱いは私と大して変わらないのだから。
私のことも今までの距離感と書類上の夫婦と言う感覚は抜けず、寝床を共にすることも一人寝が嫌だからと本気で信じてるし、周りへ見せ掛けるためと思って自分が女性として愛されている自覚がない。
愛してると囁けば、人前ではありませんよと答える。
建前だとまだ思い込んでる。
なぜこんなに鈍い……
私なりに愛情を注いでるつもりなのだが。
何が悪いんだ。
毎日ルルドラと二人でラインを構っていると、腹が違っても女の好みは同じかと父は揶揄していた。
父のあの様子ならルルドラのことを察してしているし、最近はそろそろ義姉の添い寝をやめるようにと諭していた。
私も同感だ。
これ以上ルルドラが義理の姉を慕いすぎては良くない。
大事な妻を挟んで弟と揉めるのは避けたい。
少し寂しくもあるが。
二人の寝顔を頬杖をつきながら眺めた。
「ん?」
コロンと転がるルルドラの寝相。
寝ぼけてラインの胸に顔を埋めようとしてる。
ラインの名前を寝言に呟きながら手は膨らみを求めてまさぐってる。
「……これは許すか」
引き剥がして私の硬い腕と胸にしっかりと抱き込んだ。
嫌そうに呻いてるが我慢しろ。
夫の私だって我慢させられてるのに。
まったく。
油断も隙もない。
やはり添い寝は卒業だ。
もう子供ではない。
朝起きた時も、これじゃないという顔で一瞬睨んでいた。
幼い態度を演じるようになったわけか。
本格的に添い寝の必要はなくなったようだな。
午前中は二人の勉強を見ようと思っていたのに父に呼び出されて執務室を訪れた。
「手紙が届いた」
手は机に置かれた封筒を示してる。
「これは?」
「お前宛にもと婚約者から」
廃嫡と謹慎の身だ。
私とライン宛のものは全て中身の確認をされる。
その方が楽だから私が提案した。
甘い汁を求めて私を唆す輩は父が管理すればいい。
私は皇太子に戻る気はない。
「読んでみろ」
受け取って一行目で固まった。
“結婚して幸せなんてどういうこと?この裏切り者。絶対許さない”
……相変わらず過激だ。
いつもの猫が剥げ落ちてる。
目の前で何度も本性を見てきたが手紙では初めてだ。
「ん?んん?」
“形ばかりの結婚なんだから早く離婚して私を迎えに来なさい。式が延びてしまったし、あなたの社交界復帰も考えなくてはいけないんだから早くして”
「迎えに来い?」
何度読み直してもそう書いてある。
離婚して迎えに来い?
私と結婚したいのか?
なぜ?
それなりに友好的な婚約者ではあったが、あの騒動のあとにやり取りは二回。
謝罪と体調の確認をしただけの内容だった。
返信はあっさりしたもので、私の問いの答えと地位のなくなった私に興味はないとあった。
それ以来やり取りはない。
最後の手紙から数ヶ月たつのに、なぜ今ごろになって。
「……どうして急に?」
分からずに首をかしげた。
「……どうする?……いや、お前がどういう心積もりなのか聞きたい。そういう約束をしていたのか?」
「いえ、してません。手紙をご覧になったでしょう。私と彼女はお互いに勤めとしての婚約でした」
今までの手紙は婚約破棄騒動の折に残していた全てを見せた。
やり取りには、共に国の礎となる覚悟を持っていた。
まったく甘い関係ではない。
それに地位のない男は嫌いのはずだ。
手紙のこともそうだが、もとから上昇思考が強くて私が弟に皇太子の座を譲りたいと言葉にすると必ず激しく憤っていた。
継母を含めて弟のことも邪魔と考えて嫌っている。
相容れない。
私は弟が可愛いのに。
いつも控えめで母親と私の間で申し訳なさそうに顔を伏せている姿ばかりだった。
その辺りはラインと似ている。
健気なタイプに弱いとふとよぎった。
気の強い彼女とは合わなかったと今なら思う。
私も上昇思考のタイプなら気があっただろうが、仕事は嫌いだ。
毎日、公務に追われて案件がいくらでも降ってくる状況にうんざりだったし、休憩を取ろうにも追加で持ってくる彼女に疲れていた。
昔は頼もしいと思っていたのに。
ラインと過ごしてからだいぶ趣味が変わってしまった。
ほどほどに忙しくて派手なことのない日々。
針仕事をする姿を横で眺めるのは意外と気持ちが休まるし、弟のためと思えば仕事の張り合いも出る。
将来、ルルドラが勤めやすいようにと考えて采配をふるうのは楽しい。
父にはもと婚約者のことをそう伝えて、返信の手紙にも父と弟の支えになることの方が性に合っているので復帰のつもりはないこと、迎えの約束もしていないとしたためた。
部屋に戻る途中、通路からプライベートの中庭が見えた。
三階から見下ろすと木陰でルルドラと寄り添って本を読んでいる。
多少、嫉妬にかられたが笑顔の増えたルルドラに私も笑みがこぼれる。
だが、あの表情がまた曇るだろうとため息が漏れた。
先日、継母が息を引き取った。
時期を見て発表する。
ルルドラにとっては血の繋がった母親。
前王妃と暗殺、未遂とはいえ次期皇太子、その婚約者の暗殺未遂を許すことは出来ない。
公表はせずに処分だけ。
国民には病死と発表する。
ルルドラにも。
だがエゴにまみれていたが、あの人なりに父とルルドラを愛していた。
ルルドラも同じだ。
怯えながらも、やはり母と慕っていた。
父の跡を継いで即位すれば全てを知る立場になる。
その時にまた苦しむだろう。
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それだけが父と私の懸念だった。
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