婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

文字の大きさ
32 / 120

32※リカルドside

しおりを挟む
好む服を作ってやれとは言ったが、なぜ寝巻きばかり作る。

庭仕事のために外で動きやすい服を作らせたかっただけなのに。

それにしても今日の新しいデザインはいつもより華やかでよく合っている。

本人も気に入って機嫌がいい。

本来の目的と外れているが文句はない。

明日は報酬とは別に彼女達へ褒美を出してやらねば。

「三人でお揃いだね。嬉しいなあ」

満足そうなルルドラにラインも微笑む。

「私も嬉しいです。お二人ともとてもお似合いです」

お揃いだとそんなにうれしいのか。

二人が喜ぶならいい。

それにしてもルルドラの素直さが羨ましい。

私は手を出せない抑圧で余裕がなく、ぐうっと唸ってしまうのに、私と違って無邪気にラインの装いを誉めてる。

あの泣いた晩からルルドラはラインをもっと慕うようになった。

頼りないところが男心を刺激されて守ってやりたくなるらしい。

愛情にあふれた眼差しと態度、無邪気なふりをして多少の欲も見える。

本当に幼かったのにいつの間にか男の仲間入りしたと思うと感慨深い。

ラインは年下に弱いかと心配したのも杞憂で、義弟として純粋に可愛がって、ルルドラが懸命に好きだと伝えるのに、残念ながら鈍感なラインには全く伝わっていない。

ここまで来ると同情と親近感がわく。

扱いは私と大して変わらないのだから。

私のことも今までの距離感と書類上の夫婦と言う感覚は抜けず、寝床を共にすることも一人寝が嫌だからと本気で信じてるし、周りへ見せ掛けるためと思って自分が女性として愛されている自覚がない。

愛してると囁けば、人前ではありませんよと答える。

建前だとまだ思い込んでる。

なぜこんなに鈍い……

私なりに愛情を注いでるつもりなのだが。

何が悪いんだ。

毎日ルルドラと二人でラインを構っていると、腹が違っても女の好みは同じかと父は揶揄していた。

父のあの様子ならルルドラのことを察してしているし、最近はそろそろ義姉の添い寝をやめるようにと諭していた。

私も同感だ。

これ以上ルルドラが義理の姉を慕いすぎては良くない。

大事な妻を挟んで弟と揉めるのは避けたい。

少し寂しくもあるが。

二人の寝顔を頬杖をつきながら眺めた。

「ん?」

コロンと転がるルルドラの寝相。

寝ぼけてラインの胸に顔を埋めようとしてる。

ラインの名前を寝言に呟きながら手は膨らみを求めてまさぐってる。

「……これは許すか」

引き剥がして私の硬い腕と胸にしっかりと抱き込んだ。

嫌そうに呻いてるが我慢しろ。

夫の私だって我慢させられてるのに。

まったく。

油断も隙もない。

やはり添い寝は卒業だ。

もう子供ではない。

朝起きた時も、これじゃないという顔で一瞬睨んでいた。

幼い態度を演じるようになったわけか。

本格的に添い寝の必要はなくなったようだな。

午前中は二人の勉強を見ようと思っていたのに父に呼び出されて執務室を訪れた。

「手紙が届いた」

手は机に置かれた封筒を示してる。

「これは?」

「お前宛にもと婚約者から」

廃嫡と謹慎の身だ。

私とライン宛のものは全て中身の確認をされる。

その方が楽だから私が提案した。

甘い汁を求めて私を唆す輩は父が管理すればいい。

私は皇太子に戻る気はない。

「読んでみろ」

受け取って一行目で固まった。

“結婚して幸せなんてどういうこと?この裏切り者。絶対許さない”

……相変わらず過激だ。

いつもの猫が剥げ落ちてる。

目の前で何度も本性を見てきたが手紙では初めてだ。

「ん?んん?」

“形ばかりの結婚なんだから早く離婚して私を迎えに来なさい。式が延びてしまったし、あなたの社交界復帰も考えなくてはいけないんだから早くして”

「迎えに来い?」

何度読み直してもそう書いてある。

離婚して迎えに来い?

私と結婚したいのか?

なぜ?

それなりに友好的な婚約者ではあったが、あの騒動のあとにやり取りは二回。

謝罪と体調の確認をしただけの内容だった。

返信はあっさりしたもので、私の問いの答えと地位のなくなった私に興味はないとあった。

それ以来やり取りはない。

最後の手紙から数ヶ月たつのに、なぜ今ごろになって。

「……どうして急に?」

分からずに首をかしげた。

「……どうする?……いや、お前がどういう心積もりなのか聞きたい。そういう約束をしていたのか?」

「いえ、してません。手紙をご覧になったでしょう。私と彼女はお互いに勤めとしての婚約でした」

今までの手紙は婚約破棄騒動の折に残していた全てを見せた。

やり取りには、共に国の礎となる覚悟を持っていた。

まったく甘い関係ではない。

それに地位のない男は嫌いのはずだ。

手紙のこともそうだが、もとから上昇思考が強くて私が弟に皇太子の座を譲りたいと言葉にすると必ず激しく憤っていた。

継母を含めて弟のことも邪魔と考えて嫌っている。

相容れない。

私は弟が可愛いのに。

いつも控えめで母親と私の間で申し訳なさそうに顔を伏せている姿ばかりだった。

その辺りはラインと似ている。

健気なタイプに弱いとふとよぎった。

気の強い彼女とは合わなかったと今なら思う。

私も上昇思考のタイプなら気があっただろうが、仕事は嫌いだ。

毎日、公務に追われて案件がいくらでも降ってくる状況にうんざりだったし、休憩を取ろうにも追加で持ってくる彼女に疲れていた。

昔は頼もしいと思っていたのに。

ラインと過ごしてからだいぶ趣味が変わってしまった。

ほどほどに忙しくて派手なことのない日々。

針仕事をする姿を横で眺めるのは意外と気持ちが休まるし、弟のためと思えば仕事の張り合いも出る。

将来、ルルドラが勤めやすいようにと考えて采配をふるうのは楽しい。

父にはもと婚約者のことをそう伝えて、返信の手紙にも父と弟の支えになることの方が性に合っているので復帰のつもりはないこと、迎えの約束もしていないとしたためた。

部屋に戻る途中、通路からプライベートの中庭が見えた。

三階から見下ろすと木陰でルルドラと寄り添って本を読んでいる。

多少、嫉妬にかられたが笑顔の増えたルルドラに私も笑みがこぼれる。

だが、あの表情がまた曇るだろうとため息が漏れた。

先日、継母が息を引き取った。

時期を見て発表する。

ルルドラにとっては血の繋がった母親。

前王妃と暗殺、未遂とはいえ次期皇太子、その婚約者の暗殺未遂を許すことは出来ない。

公表はせずに処分だけ。

国民には病死と発表する。

ルルドラにも。

だがエゴにまみれていたが、あの人なりに父とルルドラを愛していた。

ルルドラも同じだ。

怯えながらも、やはり母と慕っていた。

父の跡を継いで即位すれば全てを知る立場になる。

その時にまた苦しむだろう。

断罪を決行した私達を憎むかもしれない。

それだけが父と私の懸念だった。

ラインに甘えた顔で笑うルルドラの穏やかな時は今だけかもしれないと遠くから二人を眺め続けた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。 そんな時、夫は陰でこう言った。 「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」 立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。 リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。 男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。 *************************** 本編完結済み。番外編を不定期更新中。

婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました

天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」  婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。  婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。  私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。  もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

異世界転生公爵令嬢は、オタク知識で世界を救う。

ふわふわ
恋愛
過労死したオタク女子SE・桜井美咲は、アストラル王国の公爵令嬢エリアナとして転生。 前世知識フル装備でEDTA(重金属解毒)、ペニシリン、輸血、輪作・土壌改良、下水道整備、時計や文字の改良まで――「ラノベで読んだ」「ゲームで見た」を現実にして、疫病と貧困にあえぐ世界を丸ごとアップデートしていく。 婚約破棄→ザマァから始まり、医学革命・農業革命・衛生革命で「狂気のお嬢様」呼ばわりから一転“聖女様”に。 国家間の緊張が高まる中、平和のために隣国アリディアの第一王子レオナルド(5歳→6歳)と政略婚約→結婚へ。 無邪気で健気な“甘えん坊王子”に日々萌え悶えつつも、彼の未来の王としての成長を支え合う「清らかで温かい夫婦日常」と「社会を良くする小さな革命」を描く、爽快×癒しの異世界恋愛ザマァ物語。

婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました

かしおり
恋愛
「アメリア・ヴァルディア。君との婚約は、ここで破棄する」 王太子ロウェルの冷酷な言葉と共に、彼は“平民出身の聖女”ノエルの手を取った。 だが侯爵令嬢アメリアは、悲しむどころか—— 「では、実家に帰らせていただきますね」 そう言い残し、静かにその場を後にした。 向かった先は、聖獣たちが棲まう辺境の地。 かつて彼女が命を救った聖獣“ヴィル”が待つ、誰も知らぬ聖域だった。 魔物の侵攻、暴走する偽聖女、崩壊寸前の王都—— そして頼る者すらいなくなった王太子が頭を垂れたとき、 アメリアは静かに告げる。 「もう遅いわ。今さら後悔しても……ヴィルが許してくれないもの」 聖獣たちと共に、新たな居場所で幸せに生きようとする彼女に、 世界の運命すら引き寄せられていく—— ざまぁもふもふ癒し満載! 婚約破棄から始まる、爽快&優しい異世界スローライフファンタジー!

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

処理中です...