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41※近衛隊長
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「こんばんは」
「ん?」
私がいるのは少し暗がりの飾り階段。
もっと奥に昇れば男女の軽い悪戯の場所だ。
その手前で階下を見渡していたら男に声をかけられた。
「お一人ですか?」
同様にフルマスクで顔が見えないが、察するに私よりも若い。
隙間の空いた口許には弧を描いた唇が見えていた。
平民にしては服装とマナーは貴族のような……
だがそれにしても発音と所作がいまいち。
金髪の髪だがカツラだとすぐに分かった。
おそらく王宮と縁の薄い下位の貴族。
その階級の金のかけられていない令息かもしれない。
貴族とは言え下手したらこいつもパトロン探しの男だ。
標的にされたかと内心は鳥肌が立つ。
男は好かん。
色っぽい女がいい。
彼女のような。
「連れがいますが機嫌を損ねまして」
「それは気の毒に」
相手の苦笑いにこちらも同じように返す。
丁寧に接して壁を作ったつもりが馴れ馴れしく寄ってきた。
値段の交渉に指でサインを見せて、1人でつまらないだろうから少しだけ奥に行かないかと誘われてすぐに断る。
だからこういうところは好かんのだ。
「せっかく来たのだから火遊びくらい楽しみませんか?」
「いや、いい。興味がない。連れが戻る」
「お相手が嫉妬深いのかな。まさか連れが怖いとか言わないですよね?こんな男らしく逞しいのに?」
からかって会話を引き出そうとしているが、私はもう話を続ける気にならず体を背けて黙った。
「あなたがお相手の方に一筋のようですね。下にいらっしゃるんですか?」
残念だなぁという呟きを背中に受けながら視線はルーラを追っていた。
男も隣に滑り込み私の視線の先を覗いて指をさす。
「あの辺り?どの方ですか?女性?」
「よそを当たれ。男は好かん」
「そんな怒らないでくださいよ。ついでにここから次の相手探ししますから。お宅がここで下ばかり見て暇そうだから試しに声かけてみただけなんで。連れを教えてもらいたいんですけど。相手が被りたくないし、泥棒猫だとか揉めたくない。お宅は俺の首を軽くねじりそうなぶっとい腕をしてますからね」
冗談じゃねぇやと砕けた口調で囁き、ちらっと私の体格を横目に見つめて先程の誘う空気を変えていく。
「連れも誘いを断るから教える意味はない。お前は勝手に過ごせ」
「えー?ならお連れ様と何しに来たんですか?あ!もしかして噂の奥方を見に来たとか?」
「……何の噂だ」
高位の社交場ならまだしも、王宮勤めでこういうシモは好かんから知らん。
何のことか分からず尋ねた。
「……は?……本当に何しに来たの?」
「連れの希望だ。詳しく聞いていない」
「あー、そうなんだ。すげぇね、お宅。そんなんでこの会場に来たのかよ。火遊び場なのに。でも最近はそういう奴らも多いか。見るだけって感じの。おかげで交渉がうまくいかないことが多くてさぁ」
「そうか。それで噂とは?」
「……本当に知らないんだね」
頷くと顎をさすりながら物珍しげに眺めて呆れていた。
それだけで話す気の無さそうな気配にポケットから金貨を一枚取り出して見せびらかすと男の顔が緩んだ。
「気前いいねぇ。くれるなら知ってることは何でも話すよ」
「ああ、やるよ。別にお前も好きで相手を探してるわけじゃないだろ?」
「……まあね」
くっと口の端を持ち上げて笑みを浮かべた。
こいつは私が金にならないと分かった途端に態度を変えて、相手の性別も気にしてないから金目当てと分かりやすい。
「お宅が見てた辺りの近く。あそこの人だかり」
顎を指した方に目を向けた。
だが人が多すぎて誰を伝えたいのか分からん。
私の知るような高位貴族は見当たらない。
たとえこの場にいたとしてもそこまでのスキャンダルとも思えん。
いや、いたとしてもそこまで珍しくない。
お忍びである程度遊ぶ貴族はいる。
よほど高位の奥方か未婚のご令嬢がいるならだが。
「どれだ」
「赤と金の派手なドレス。薄い狐色の髪。黒の揚羽蝶のアイマスク」
大きな人だかりの中央にいる女性。
男を侍らせてくねくねとイタチか蛇のようだ。
言われた女性を見つけてしばらく眺めたが、妙に見たことあるようなないような。
装いが派手だが体格は平凡。
ここまで思い浮かばないなら王宮と関わりのないかもしれない。
記憶を掘り返しても思い当たる人物はなく、どうにもスキャンダルになりそうな人物とは思えず首をかしげた。
「彼女が有名人か?」
「去年のね」
「……去年の」
ふとリカルド王子の婚約者が思い当たる。
あの方ならとんでもないことになる。
だが姿形が全く似ていない。
ここから見て分かるほど身長が低すぎる。
それに普通の女性的な体つき。
もと婚約者に比べて細く小柄なのに無理やり胸元を広げて強調した装いはいまいち。
それにあの気が強くて堅物のご令嬢がこのような場所にいるなどあり得ないし、今はこの国にいない。
先日、隣国へ出立されたばかりだ。
「……例の公爵令嬢ならもうこの国にはいないはずだ」
「まだ分からない?」
「ああ、一人しか思い浮かばない」
「もっといるよ。疎すぎない?ヒントは王家のスキャンダル」
「……まさか平民の?」
あれはもうこの国にはいないし、彼女にも似ていない。
秘密裏の調査も済んで、あの雇った一座は王子から受け取った金で劇場を経営している。
「は?平民?違うって。そっちじゃない。わかんないかなー?もと皇太子の噂は聞いたことない?」
「破棄をしたという大まかなところは聞いている」
「あんた、外国にでもいたの?来たばかり?」
「そんなところだ」
「へー、なら知らないのも無理ないか。ふふ、……はははっ!王子って言っても男だよねー。かなりの堅物だったらしいけど、今は女に振り回されてさ。バカみてぇ。シモに弱いんだろってもっぱらの評判。そんなのが王様なんて笑えねぇし、とっとと落ちるところまで落ちて良かったかもな」
ニヤニヤと歪んだ口許を隠すこともせず嘲笑ってる。
「さすがに結婚したのは知ってるよね?」
「……ああ」
戸惑っていると男がこちらを向いた。
「あれはアホな王子様の奥方様。去年の有名人」
「あれが?」
驚く私に男が嬉しそうに笑った。
「ん?」
私がいるのは少し暗がりの飾り階段。
もっと奥に昇れば男女の軽い悪戯の場所だ。
その手前で階下を見渡していたら男に声をかけられた。
「お一人ですか?」
同様にフルマスクで顔が見えないが、察するに私よりも若い。
隙間の空いた口許には弧を描いた唇が見えていた。
平民にしては服装とマナーは貴族のような……
だがそれにしても発音と所作がいまいち。
金髪の髪だがカツラだとすぐに分かった。
おそらく王宮と縁の薄い下位の貴族。
その階級の金のかけられていない令息かもしれない。
貴族とは言え下手したらこいつもパトロン探しの男だ。
標的にされたかと内心は鳥肌が立つ。
男は好かん。
色っぽい女がいい。
彼女のような。
「連れがいますが機嫌を損ねまして」
「それは気の毒に」
相手の苦笑いにこちらも同じように返す。
丁寧に接して壁を作ったつもりが馴れ馴れしく寄ってきた。
値段の交渉に指でサインを見せて、1人でつまらないだろうから少しだけ奥に行かないかと誘われてすぐに断る。
だからこういうところは好かんのだ。
「せっかく来たのだから火遊びくらい楽しみませんか?」
「いや、いい。興味がない。連れが戻る」
「お相手が嫉妬深いのかな。まさか連れが怖いとか言わないですよね?こんな男らしく逞しいのに?」
からかって会話を引き出そうとしているが、私はもう話を続ける気にならず体を背けて黙った。
「あなたがお相手の方に一筋のようですね。下にいらっしゃるんですか?」
残念だなぁという呟きを背中に受けながら視線はルーラを追っていた。
男も隣に滑り込み私の視線の先を覗いて指をさす。
「あの辺り?どの方ですか?女性?」
「よそを当たれ。男は好かん」
「そんな怒らないでくださいよ。ついでにここから次の相手探ししますから。お宅がここで下ばかり見て暇そうだから試しに声かけてみただけなんで。連れを教えてもらいたいんですけど。相手が被りたくないし、泥棒猫だとか揉めたくない。お宅は俺の首を軽くねじりそうなぶっとい腕をしてますからね」
冗談じゃねぇやと砕けた口調で囁き、ちらっと私の体格を横目に見つめて先程の誘う空気を変えていく。
「連れも誘いを断るから教える意味はない。お前は勝手に過ごせ」
「えー?ならお連れ様と何しに来たんですか?あ!もしかして噂の奥方を見に来たとか?」
「……何の噂だ」
高位の社交場ならまだしも、王宮勤めでこういうシモは好かんから知らん。
何のことか分からず尋ねた。
「……は?……本当に何しに来たの?」
「連れの希望だ。詳しく聞いていない」
「あー、そうなんだ。すげぇね、お宅。そんなんでこの会場に来たのかよ。火遊び場なのに。でも最近はそういう奴らも多いか。見るだけって感じの。おかげで交渉がうまくいかないことが多くてさぁ」
「そうか。それで噂とは?」
「……本当に知らないんだね」
頷くと顎をさすりながら物珍しげに眺めて呆れていた。
それだけで話す気の無さそうな気配にポケットから金貨を一枚取り出して見せびらかすと男の顔が緩んだ。
「気前いいねぇ。くれるなら知ってることは何でも話すよ」
「ああ、やるよ。別にお前も好きで相手を探してるわけじゃないだろ?」
「……まあね」
くっと口の端を持ち上げて笑みを浮かべた。
こいつは私が金にならないと分かった途端に態度を変えて、相手の性別も気にしてないから金目当てと分かりやすい。
「お宅が見てた辺りの近く。あそこの人だかり」
顎を指した方に目を向けた。
だが人が多すぎて誰を伝えたいのか分からん。
私の知るような高位貴族は見当たらない。
たとえこの場にいたとしてもそこまでのスキャンダルとも思えん。
いや、いたとしてもそこまで珍しくない。
お忍びである程度遊ぶ貴族はいる。
よほど高位の奥方か未婚のご令嬢がいるならだが。
「どれだ」
「赤と金の派手なドレス。薄い狐色の髪。黒の揚羽蝶のアイマスク」
大きな人だかりの中央にいる女性。
男を侍らせてくねくねとイタチか蛇のようだ。
言われた女性を見つけてしばらく眺めたが、妙に見たことあるようなないような。
装いが派手だが体格は平凡。
ここまで思い浮かばないなら王宮と関わりのないかもしれない。
記憶を掘り返しても思い当たる人物はなく、どうにもスキャンダルになりそうな人物とは思えず首をかしげた。
「彼女が有名人か?」
「去年のね」
「……去年の」
ふとリカルド王子の婚約者が思い当たる。
あの方ならとんでもないことになる。
だが姿形が全く似ていない。
ここから見て分かるほど身長が低すぎる。
それに普通の女性的な体つき。
もと婚約者に比べて細く小柄なのに無理やり胸元を広げて強調した装いはいまいち。
それにあの気が強くて堅物のご令嬢がこのような場所にいるなどあり得ないし、今はこの国にいない。
先日、隣国へ出立されたばかりだ。
「……例の公爵令嬢ならもうこの国にはいないはずだ」
「まだ分からない?」
「ああ、一人しか思い浮かばない」
「もっといるよ。疎すぎない?ヒントは王家のスキャンダル」
「……まさか平民の?」
あれはもうこの国にはいないし、彼女にも似ていない。
秘密裏の調査も済んで、あの雇った一座は王子から受け取った金で劇場を経営している。
「は?平民?違うって。そっちじゃない。わかんないかなー?もと皇太子の噂は聞いたことない?」
「破棄をしたという大まかなところは聞いている」
「あんた、外国にでもいたの?来たばかり?」
「そんなところだ」
「へー、なら知らないのも無理ないか。ふふ、……はははっ!王子って言っても男だよねー。かなりの堅物だったらしいけど、今は女に振り回されてさ。バカみてぇ。シモに弱いんだろってもっぱらの評判。そんなのが王様なんて笑えねぇし、とっとと落ちるところまで落ちて良かったかもな」
ニヤニヤと歪んだ口許を隠すこともせず嘲笑ってる。
「さすがに結婚したのは知ってるよね?」
「……ああ」
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「あれが?」
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