45 / 120
45※近衛隊長
しおりを挟む
「そうだ。近衛隊長、あれは花や草木が嫌いだ。送るなよ」
「は?」
「ルーラだ」
「それは、珍しい女性ですね」
「そういう性分だ」
「……奥様と庭の手入れをするのはよろしいのでしょうか」
「内心は嫌々だろうな」
「……虫が嫌いだからですか?」
「そういうことではない」
「……僕も嫌いですね」
「皇太子もですか?」
「母を思い出す」
その一言で執務室の空気がピリッと固まる。
亡くなった王妃の離宮にはたくさんの毒草が育てられていた。
内密に処分したのは私達近衛だった。
「……そうか」
リカルド王子が静かにお返事を返してまた固いな空気に戻る。
「ライン義姉様が育てた花なら好きですけど。一生懸命な姿を見るのも楽しいです」
「そうだな。私もだ」
「ルーラも今は意外と楽しんでるかもしれませんよ」
「……かもしれんな。……だが、それよりお前の発言が気になる」
「……“今は”か。……思ったより内情を調べていたか」
陛下とリカルド王子のいぶかしむ視線にルルドラ王子は平然と見返している。
「まあ、それなりにですね。分からない子供じゃありません」
「気を付けねば足元を掬われるかもなぁ。リカルド、大丈夫か?」
「どうでしょうねぇ。これは危ういかもしれない」
「心にもないことを。兄上は」
口を尖らせてリカルド王子を睨んで分かりやすく拗ねて見せる。
「子供扱いは出来ぬなぁ。ふふ」
「……ふふ、頼もしい弟で恐ろしくなります」
「ありがとうございます。でも僕は近衛隊長が鈍感で心配です。多少は把握してるでしょうに」
「は、はぁ、申し訳ありません」
「脳ミソ振り絞ってください」
「はい」
睨まれて頭を下げるしか出来ない。
お三方のやり取りもだが、私に何を仰りたかったのかもさっぱりだ。
考えて分からないから諦めた。
「花は苦手か?」
「……何ですか?……唐突に」
「……好きそうに見えなかったから」
こうなったら本人に聞く。
こっそり一人のタイミングで大事な話をしたいと呼び止めた。
「……そう見えましたか?」
「少し」
本当はリカルド王子達の指摘がなければ分からなかった。
聞いた今でもそうは見えない。
何かの間違いかと思うくらいだ。
「……誤魔化せませんね。……実は少々。……でも昔と違って今は奥様と共に手入れをするのは楽しいのですが。どうしても思い出してしまって」
何がと問いたいがこのまま黙って次の答えを待つ。
「……それだけならもうよろしいのでしょうか」
「いや、話を聞きたい」
「……なぜ」
「大事なことだからだ。昔とは?」
なんでも良いから彼女のことは知りたい。
逃げの言葉を探していたようだが、小さくため息を吐いて項垂れた。
「……あの時は、何も知らず。……お金のためとはいえ反省しております。もう二度とこの学んだ知識を使うつもりはありません。ですが、近衛隊長が王宮を守る立場から私の処分をされるなら粛にお受けいたします」
深々と下げた頭に戸惑った。
ただ彼女のことを知りたかっただけなのに何を見つけてしまったんだ。
「……リカルド王子はなんと仰っていた」
「……何も。……死にかけていた私を匿ってくださった時から何も仰いません。私自身は許されたとは思っておりません。罰があるなら望みたいと願っておりました」
「全てを把握して尋ねたわけではない。……いちから説明してくれるか」
尋ねると頷いて逆に何を知っているかと聞かれた。
私が知るのは亡くなった王妃のもと使用人で、離宮で毒草を育ていたことを知る証人というだけだ。
「……この王宮でその毒草を種から育てたのは私です」
間接的にとはいえ王家の暗殺に荷担したと答えた。
「亡くなられた王妃のもとで草花の育て方と毒薬を作る術を学びました。生きている限り学んだ知識は消えません。……近衛隊長が王家の危険と判断されるなら覚悟しております」
「……陛下の判断に委ねることだ。ご存知なのか確認をする」
「かしこまりました。処遇が決まるまでリカルド王子に謹慎を願うつもりです」
彼女のことを知りたかったがこんな話が出てくるなど思わなかった。
ただ雇い主の命に従い勤めた。
それだけなのに。
「……私は君が好ましい」
見目のよさだけでなくこの潔い態度と物言い。
私が気に入ってることを逆手にとることも出来たのに。
私の小さくこぼした呟きに少し戸惑って顔を歪めた。
「君は私が苦手なようだが」
そう言うと目を丸くして小さく横に顔を振ったのを見逃さなかった。
「リカルド王子の温情があるなら悪いようにはならぬだろう。処遇が終わってからまた話をしないか。仕事ではなく私は君のことを知りたい」
「わ、私では外聞が悪うございます」
「王子妃の側使えだ。何も悪いことはない」
「いえ、近衛隊長に相応しくありません。お控えください」
「私は君がいい」
気位が高く清廉なところ。
若い頃の過ちがあったとしてもその経験から今がある。
それが好ましい。
「……いい加減にして」
ぼそっと刺々しい小さな声といつも以上に刺々しい。
悲しみか怒りか分からない。
「おやめください。こんな、女の価値のない私など」
「ルーラ?」
「私は薬の実験台でした。不妊の。助けてくださったリカルド王子が医師に診せてくださってますが副作用でいまだ体は戻りません。毎月の症状が軽くなっただけで、これからもずっととのことです」
吐き捨てた言葉に固まった。
「お分かりいただけましたか。でしたら私などに構わないでくださいませ。過去の過ちも今の私もこのようなやり取りは苦痛でしかありませんので」
仕事以外、関わるなと釘を刺すとすぐに立ち去ってしまい、ひとり残された私は頭を抱えながら彼女の頑なさの理由をやっと理解した。
「は?」
「ルーラだ」
「それは、珍しい女性ですね」
「そういう性分だ」
「……奥様と庭の手入れをするのはよろしいのでしょうか」
「内心は嫌々だろうな」
「……虫が嫌いだからですか?」
「そういうことではない」
「……僕も嫌いですね」
「皇太子もですか?」
「母を思い出す」
その一言で執務室の空気がピリッと固まる。
亡くなった王妃の離宮にはたくさんの毒草が育てられていた。
内密に処分したのは私達近衛だった。
「……そうか」
リカルド王子が静かにお返事を返してまた固いな空気に戻る。
「ライン義姉様が育てた花なら好きですけど。一生懸命な姿を見るのも楽しいです」
「そうだな。私もだ」
「ルーラも今は意外と楽しんでるかもしれませんよ」
「……かもしれんな。……だが、それよりお前の発言が気になる」
「……“今は”か。……思ったより内情を調べていたか」
陛下とリカルド王子のいぶかしむ視線にルルドラ王子は平然と見返している。
「まあ、それなりにですね。分からない子供じゃありません」
「気を付けねば足元を掬われるかもなぁ。リカルド、大丈夫か?」
「どうでしょうねぇ。これは危ういかもしれない」
「心にもないことを。兄上は」
口を尖らせてリカルド王子を睨んで分かりやすく拗ねて見せる。
「子供扱いは出来ぬなぁ。ふふ」
「……ふふ、頼もしい弟で恐ろしくなります」
「ありがとうございます。でも僕は近衛隊長が鈍感で心配です。多少は把握してるでしょうに」
「は、はぁ、申し訳ありません」
「脳ミソ振り絞ってください」
「はい」
睨まれて頭を下げるしか出来ない。
お三方のやり取りもだが、私に何を仰りたかったのかもさっぱりだ。
考えて分からないから諦めた。
「花は苦手か?」
「……何ですか?……唐突に」
「……好きそうに見えなかったから」
こうなったら本人に聞く。
こっそり一人のタイミングで大事な話をしたいと呼び止めた。
「……そう見えましたか?」
「少し」
本当はリカルド王子達の指摘がなければ分からなかった。
聞いた今でもそうは見えない。
何かの間違いかと思うくらいだ。
「……誤魔化せませんね。……実は少々。……でも昔と違って今は奥様と共に手入れをするのは楽しいのですが。どうしても思い出してしまって」
何がと問いたいがこのまま黙って次の答えを待つ。
「……それだけならもうよろしいのでしょうか」
「いや、話を聞きたい」
「……なぜ」
「大事なことだからだ。昔とは?」
なんでも良いから彼女のことは知りたい。
逃げの言葉を探していたようだが、小さくため息を吐いて項垂れた。
「……あの時は、何も知らず。……お金のためとはいえ反省しております。もう二度とこの学んだ知識を使うつもりはありません。ですが、近衛隊長が王宮を守る立場から私の処分をされるなら粛にお受けいたします」
深々と下げた頭に戸惑った。
ただ彼女のことを知りたかっただけなのに何を見つけてしまったんだ。
「……リカルド王子はなんと仰っていた」
「……何も。……死にかけていた私を匿ってくださった時から何も仰いません。私自身は許されたとは思っておりません。罰があるなら望みたいと願っておりました」
「全てを把握して尋ねたわけではない。……いちから説明してくれるか」
尋ねると頷いて逆に何を知っているかと聞かれた。
私が知るのは亡くなった王妃のもと使用人で、離宮で毒草を育ていたことを知る証人というだけだ。
「……この王宮でその毒草を種から育てたのは私です」
間接的にとはいえ王家の暗殺に荷担したと答えた。
「亡くなられた王妃のもとで草花の育て方と毒薬を作る術を学びました。生きている限り学んだ知識は消えません。……近衛隊長が王家の危険と判断されるなら覚悟しております」
「……陛下の判断に委ねることだ。ご存知なのか確認をする」
「かしこまりました。処遇が決まるまでリカルド王子に謹慎を願うつもりです」
彼女のことを知りたかったがこんな話が出てくるなど思わなかった。
ただ雇い主の命に従い勤めた。
それだけなのに。
「……私は君が好ましい」
見目のよさだけでなくこの潔い態度と物言い。
私が気に入ってることを逆手にとることも出来たのに。
私の小さくこぼした呟きに少し戸惑って顔を歪めた。
「君は私が苦手なようだが」
そう言うと目を丸くして小さく横に顔を振ったのを見逃さなかった。
「リカルド王子の温情があるなら悪いようにはならぬだろう。処遇が終わってからまた話をしないか。仕事ではなく私は君のことを知りたい」
「わ、私では外聞が悪うございます」
「王子妃の側使えだ。何も悪いことはない」
「いえ、近衛隊長に相応しくありません。お控えください」
「私は君がいい」
気位が高く清廉なところ。
若い頃の過ちがあったとしてもその経験から今がある。
それが好ましい。
「……いい加減にして」
ぼそっと刺々しい小さな声といつも以上に刺々しい。
悲しみか怒りか分からない。
「おやめください。こんな、女の価値のない私など」
「ルーラ?」
「私は薬の実験台でした。不妊の。助けてくださったリカルド王子が医師に診せてくださってますが副作用でいまだ体は戻りません。毎月の症状が軽くなっただけで、これからもずっととのことです」
吐き捨てた言葉に固まった。
「お分かりいただけましたか。でしたら私などに構わないでくださいませ。過去の過ちも今の私もこのようなやり取りは苦痛でしかありませんので」
仕事以外、関わるなと釘を刺すとすぐに立ち去ってしまい、ひとり残された私は頭を抱えながら彼女の頑なさの理由をやっと理解した。
1
あなたにおすすめの小説
公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした
佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。
その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。
長女ソフィア。
美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。
そして──もう一人。
妹、レーネ・アルヴィス。
社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。
姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。
だが彼女は知っている。
貴族社会では、
誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。
王立学園に入学したレーネは、
礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。
やがて──
軽んじていた者たちは気づく。
「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。
これは、
静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!
パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。
手放したのは、貴方の方です
空月そらら
恋愛
侯爵令嬢アリアナは、第一王子に尽くすも「地味で華がない」と一方的に婚約破棄される。
侮辱と共に隣国の"冷徹公爵"ライオネルへの嫁入りを嘲笑されるが、その公爵本人から才能を見込まれ、本当に縁談が舞い込む。
隣国で、それまで隠してきた類稀なる才能を開花させ、ライオネルからの敬意と不器用な愛を受け、輝き始めるアリアナ。
一方、彼女という宝を手放したことに気づかず、国を傾かせ始めた元婚約者の王子。
彼がその重大な過ちに気づき後悔した時には、もう遅かった。
手放したのは、貴方の方です――アリアナは過去を振り切り、隣国で確かな幸せを掴んでいた。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる