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50※近衛隊長
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それからの彼女は動きが早かった。
売り物ではなく展示品とすぐに理解して、店のオーナーのご夫人にどこの巨匠の作品だと尋ねていた。
残念ながら作り手はとうの昔に亡くなっていて店に残しているこれが最初で最後の作品だそうだ。
「私共もこちらの作品を超す品を目指していますが」
売り物ではないが虫干しを兼ねて時折こうやって店内に飾るのだと話す。
「本当に素晴らしい品ですものね」
「私もだ。見たことがないよ」
「そんなに感心していただけて。最近は古いデザインということでこうやって飾っても、あまり見向きもされませんでしたの」
「確かに少し前のデザインですが、素晴らしさは変わりません」
ご夫人は目尻のシワを深めて喜んでいた。
確かに最近は見ないが、古いと言われても私には分からなかった。
長い袖に出っ張って大きな肩の膨らみ、高襟のハイネック、銀糸の刺繍はアラベスクに花が全体を包む。
ドレスの形と刺繍の柄は確かに母や祖母が昔着ていたような気がする。
しかしそれでも艶のある光沢の生地、今にも動きそうな繊細な仕上がり。
王宮のパーティーでもここまで手の込んだものはなかなか見ない。
「問題外の私でも良いものだと分かる」
「良ければこちらでお茶を飲んで行かれません?こんなに分かってくださる方に出会えて私も大変嬉しゅうございますから」
おもてなしさせてくださるかしらと、品のよいご夫人の微笑みにこちらも了承で応え、案内されたゲストルームではご夫人とルーラは話が弾んで奥様へのお祝いの品を相談していた。
「良かったらお持ちになってくださいませ」
お得意先にだけ配る特別なカタログをルーラへ。
二代、三代と付き合いが続く貴族にしか配らないもの。
身分を明かしていない私達は戸惑った。
たとえ王宮の者と気づいたにしても、リカルド王子は騒動を起こして嫡廃されてからの風評でこういうやり取りはめっきりご無沙汰になってる。
こちらのご夫人もルーラの主人が誰かを知れば取引は難しいように思えた。
遠慮しているとチラッと私を見て、近衛隊長と呼ぶ。
「仰らなくても分かっております。王家のどの方にこちらをお渡しするのかを。それでも私は構いませんわ」
新婚の、名を明かせない王家の人物とそこまで分かれば、すべて察しているようだった。
「参りました。しかしなぜお分かりになった?」
あまり城下で過ごすことなどないのに私の顔を知っていたのか。
ルーラもさすがに言葉が出ないらしい。
目を丸くしている。
「やはりそうでしたのね。お二人ともとても品が良くて。王宮の方としか思えませんでしたの。近衛隊長のお顔は存じませんでしたが、お色や背格好は仕事柄耳に入っておりまして。それに女は勘が良くなくては。……ね?」
ルーラへとウインクを投げてクスクスと可愛らしい。
お歳を召しているが、まだ少女のようなその仕草に毒気が抜けて私も口許が緩む。
それから針仕事がお好きな奥様へ贈りたいと刺繍の図案と洋裁のデザイン画を持たせてくれた。
「こんなものまで?!」
大事なものだと慌てるのが腑に落ちず首をかしげた。
「そんなに驚くことなのか?」
「当たり前ですっ」
レストランが秘伝のレシピを教えるようなものだと言われてやっと理解できた。
「オーナーの特権ですの。良い方との縁は大事にしなくては」
「一見で訪れた客にこれを渡すほどとは思えん。店の秘密なのだろう?」
「はい。ですがどちらも亡くなったドレスの作者の遺品を写したものですの。原本は残してますし、こちらは分かってくださる方にお譲りしたかったのです」
王子妃様は気に入ってくださるかしらと、それを最後に笑顔で店を見送られて、私もルーラも狐に化かされたような心地で帰路に着いた。
数日のうちにルーラとまたあの店を訪れた。
報告を聞いたリカルド王子がご夫人の反応を面白がったのか。
もしかしたら奥様が贈り物を気に入ったのかもしれん。
どちらかだろう。
今回はルーラがご夫人へ一通の手紙を渡すだけだった。
読むとすぐに返事を書くから待っていてほしいと言われて前回過ごしたゲストルームで待つ。
「祝いの品はこちらで何か注文するみたいだな。間に合うかな」
「そうですね。間に合うとよろしいのですが」
ルーラも心配らしく小さく呟いてため息をはいた。
気がかりかあるせいでいつもよりそわそわと落ち着かず不安げにご夫人があらわれるのを待っている。
用意されたお茶を飲みながら彼女の憂いた横顔を眺めて今回ばかりはリカルド王子に感謝していた。
いつもより感情が表に出る彼女を見られて楽しかった。
売り物ではなく展示品とすぐに理解して、店のオーナーのご夫人にどこの巨匠の作品だと尋ねていた。
残念ながら作り手はとうの昔に亡くなっていて店に残しているこれが最初で最後の作品だそうだ。
「私共もこちらの作品を超す品を目指していますが」
売り物ではないが虫干しを兼ねて時折こうやって店内に飾るのだと話す。
「本当に素晴らしい品ですものね」
「私もだ。見たことがないよ」
「そんなに感心していただけて。最近は古いデザインということでこうやって飾っても、あまり見向きもされませんでしたの」
「確かに少し前のデザインですが、素晴らしさは変わりません」
ご夫人は目尻のシワを深めて喜んでいた。
確かに最近は見ないが、古いと言われても私には分からなかった。
長い袖に出っ張って大きな肩の膨らみ、高襟のハイネック、銀糸の刺繍はアラベスクに花が全体を包む。
ドレスの形と刺繍の柄は確かに母や祖母が昔着ていたような気がする。
しかしそれでも艶のある光沢の生地、今にも動きそうな繊細な仕上がり。
王宮のパーティーでもここまで手の込んだものはなかなか見ない。
「問題外の私でも良いものだと分かる」
「良ければこちらでお茶を飲んで行かれません?こんなに分かってくださる方に出会えて私も大変嬉しゅうございますから」
おもてなしさせてくださるかしらと、品のよいご夫人の微笑みにこちらも了承で応え、案内されたゲストルームではご夫人とルーラは話が弾んで奥様へのお祝いの品を相談していた。
「良かったらお持ちになってくださいませ」
お得意先にだけ配る特別なカタログをルーラへ。
二代、三代と付き合いが続く貴族にしか配らないもの。
身分を明かしていない私達は戸惑った。
たとえ王宮の者と気づいたにしても、リカルド王子は騒動を起こして嫡廃されてからの風評でこういうやり取りはめっきりご無沙汰になってる。
こちらのご夫人もルーラの主人が誰かを知れば取引は難しいように思えた。
遠慮しているとチラッと私を見て、近衛隊長と呼ぶ。
「仰らなくても分かっております。王家のどの方にこちらをお渡しするのかを。それでも私は構いませんわ」
新婚の、名を明かせない王家の人物とそこまで分かれば、すべて察しているようだった。
「参りました。しかしなぜお分かりになった?」
あまり城下で過ごすことなどないのに私の顔を知っていたのか。
ルーラもさすがに言葉が出ないらしい。
目を丸くしている。
「やはりそうでしたのね。お二人ともとても品が良くて。王宮の方としか思えませんでしたの。近衛隊長のお顔は存じませんでしたが、お色や背格好は仕事柄耳に入っておりまして。それに女は勘が良くなくては。……ね?」
ルーラへとウインクを投げてクスクスと可愛らしい。
お歳を召しているが、まだ少女のようなその仕草に毒気が抜けて私も口許が緩む。
それから針仕事がお好きな奥様へ贈りたいと刺繍の図案と洋裁のデザイン画を持たせてくれた。
「こんなものまで?!」
大事なものだと慌てるのが腑に落ちず首をかしげた。
「そんなに驚くことなのか?」
「当たり前ですっ」
レストランが秘伝のレシピを教えるようなものだと言われてやっと理解できた。
「オーナーの特権ですの。良い方との縁は大事にしなくては」
「一見で訪れた客にこれを渡すほどとは思えん。店の秘密なのだろう?」
「はい。ですがどちらも亡くなったドレスの作者の遺品を写したものですの。原本は残してますし、こちらは分かってくださる方にお譲りしたかったのです」
王子妃様は気に入ってくださるかしらと、それを最後に笑顔で店を見送られて、私もルーラも狐に化かされたような心地で帰路に着いた。
数日のうちにルーラとまたあの店を訪れた。
報告を聞いたリカルド王子がご夫人の反応を面白がったのか。
もしかしたら奥様が贈り物を気に入ったのかもしれん。
どちらかだろう。
今回はルーラがご夫人へ一通の手紙を渡すだけだった。
読むとすぐに返事を書くから待っていてほしいと言われて前回過ごしたゲストルームで待つ。
「祝いの品はこちらで何か注文するみたいだな。間に合うかな」
「そうですね。間に合うとよろしいのですが」
ルーラも心配らしく小さく呟いてため息をはいた。
気がかりかあるせいでいつもよりそわそわと落ち着かず不安げにご夫人があらわれるのを待っている。
用意されたお茶を飲みながら彼女の憂いた横顔を眺めて今回ばかりはリカルド王子に感謝していた。
いつもより感情が表に出る彼女を見られて楽しかった。
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