婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

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52※ルーラ

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ご夫人の返信を頂いた帰路にフォルクス様を見かけた。

私の過去を知る人。

骨と皮の汚物にまみれた私を背負って運んでくださった。

感謝しかない。

恩人の一人。

「よお、二人で遣いか?」

あちらも気づいて声をかけてきた。

笑みを添えて頷くと元気な私の姿に目を細めて喜んでいらっしゃる。

なのにこの男ときたら。

「そうですけど、先輩は何しに?」

あからさまにブスくれて私とフォルクス様をジト目で羨んでる。

「巡回。この区域の何件かはうちの請け負い」

「お一人でですか?」

「そーよ?査定もついでだから」

紙を挟んだ板を見せて木炭の印がちらっと見えた。

「ルーラ、ちょいおいで」

手招きについていくと女物を扱う店舗で好きなものを選べと言われた。

「え、いえ。必要ありませんから」

「遅れたけど快気祝いだよ。選びな。俺の懐がちょうど暖かいし」

さっき賭けに買ったとホクホクしてる。

「良い馬がいたのよー」

「一人で動いてたのは競馬に行ってたからか!仕事を放って何やってるんですか?!」

「あはは!いやぁ、勝てそうな気がしてさぁ。ちょっと寄ったらばっちりよぉ。ガッポガッポ」

ご機嫌な様子かおかしくて、それならと髪留めをひとつ選んだ。

「お前も買ってやれよ」

「え?」

ついでとばかりに近衛隊長にまで財布を出せと囃し立てて、対抗してすぐに出すし慌てて断るのに買ってやれよーって煽ってる。

「俺のより出さないとだせぇよ。近衛隊長様なんだからさぁ。ほら、ルーラは高いのねだれ」

「いいですってば」

「これなんかいいんじゃない?似合いそー。どーよ?」

「こっちが似合います」

「悪くないね。じゃあこっちはー?」

「……いいですね。髪の色に似合う」

フォルクス様は面白がって店員に似合いそうなのじゃんじゃん持ってきてと呼び掛けて、近衛隊長はひとつじゃ味気ないといくつも買おうとする。

「ちょっと!もう止めてください!私で遊ばないで!」

「いいからいいから」

「よくありません!」

「気にすんなって。あいつ、無趣味だし、貯めるばっかりの金だ。ちょっとくらい使ったって平気だって。それにしても本当に元気になったねぇ。良かったよ」

ほら、人生楽しめと背中を押されて店員と更衣室へ押し込まれてしまった。

「もう!」

ぷりぷり怒ると状況を把握しかねる店員は首をかしげてる。

それでもにこやかに近衛隊長達が選んだ装いをテーブルに並べて着替えを促してきた。

断りづらくて着替えを受け入れた。

一人だった店員がふたり、三人と増えて装いの他に髪型からお化粧まで手を入れて楽しんでる。

私も奥様にしてるから気持ちがわかる。

「う、く、苦しい」

「あら、こちらはお体に合いませんね」

選んだいくつかは胸が入らなかった。

ウエストが緩くてがばがばなのも。

緩いなら詰めればいいけど苦しいものはどうしようもない。

女性達はスタイルがいいと誉めてくれたけど私には無意味なものと感じた。

「お、いいじゃん」

着せ替えが終わる度に店員がお二人を更衣室へと招くからいちいち見られて恥ずかしい。

「フォルクス様、私には不相応です。着ていく場所もありませんし」

華やかすぎるドレスにげんなりしていた。

貴族の方ほどではないけど裕福な女性が着るようなドレス。

王宮勤めでも平民の私が着るには派手すぎて向かない。

「こいつに連れていかせりゃいいじゃん。競馬場でも社交場でも」

「遠慮します。勤めに専念したいので」

「飽きね?ちょっとくらい息抜きしなよ」

「いえ、私はいいんです」

同情が微かに浮かんだことに気づいた。

フォルクス様にはまだあの時の私に見えるんですねと心の中で呟いた。

ふとフォルクス様との会話ばかりで静かな近衛隊長に気づいて、またいじけてるんだろうとそちらを見ると違っていた。

いつもより熱い眼差し。

満足そうに笑みを浮かべて、細めた目がキラキラ輝いて眩しかった。

「似合う」

そんな目で見られる価値があるのか。

騙されてどぶ板の底の淀みのようなゴミだったのに。

どんなに着飾っても頭の片隅にあの時な私がいて息苦しかった。

奥様の侍女として毎日勤めるから装飾品も高価な装いも必要ないと断ると髪飾りを押し付けられた。

「二つもいりません」

「そうか。ならこっちを買ってやんなよ。俺、支払いがまだだし」

「そうさせてもらいます」

「俺からの快気祝いは甘いものにしようかな。途中で買うから帰りは付き添うわ」

「そうですね。私の横やりになってしまったし」

さっき選んだ髪飾りを近衛隊長が支払って、これなら着けても問題ないと二人に押しきられ、店員に値段を教えてもらおうとするのにフォルクス様がダメだと叱る。

「野暮だ。聞くなよ」

こいつに金を返すつもりだろと図星を言われてどもってしまった。

「もっと高いの買ってやるか?返せないくらいの」

「やめてくださいっ」

「高価すぎると勤め先で使えないから買えませんよ」

「そうだなぁ。ルーラ、とりあえずそれは使ってやんなよ。使うくらいでこいつも逆上せないって」

肩を軽く叩かれて笑われるけど熱心なこの人に警戒心がわくもの。

仕方ないわ。

これだけ冷たくしてるのに。

私のひどい態度にもめけずに熱心なこの人が悪いのよ。

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