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61※ルーラ
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急な話に頭が追い付かない。
部屋を変えるってどこに?
そこまですること?
「と言うわけでルーラの部屋を移動させてください」
「……ふぅん」
リカルド王子が興味なさげに鼻を鳴らしていた。
「どこに?」
「今より良いならどこでも」
「抽象的すぎる」
「男が近寄りにくい部屋です」
「過保護」
「当然の対応でございます」
若い娘が男に言い寄られて困ってるのを見過ごせませんと強めにリカルド王子に迫ってる。
私は何でこんなことにと戸惑ってしまった。
「娘と歳が近いんだったな」
「妹の方が近いです。末の子」
「何でも良い。メイド長と相談して決めろ。あれにもルーラは妹分だからお前一人で勝手に決めるとあとが面倒だろう」
「確かにそうですね。分かりました。ではすぐに伝えて参ります」
リカルド王子と二人で部屋を出ていく執事長の背中を見送り、お互いに何も言えないまま静かな部屋だけが残った。
「……良い歳だろうに」
小さな呟きが聞こえた。
良い歳ねぇ。
もう今年で28だもの。
結婚しておかしくない。
リカルド王子は私を近衛隊長とまとめたいのね。
「仕事に専念したく思ってますが……」
「それは好きにしなさい。……ん?……あぁ、違う。君じゃない。男どもだ」
「は?」
男ども?
誰?
近衛隊長のこと?
「ライオネルは嫁にやりたくない男親の心境なのかよく分からん。欲しければ全うな手順を踏めと思ってるようだな」
「……はぁ、そうなんですね。あの、リカルド王子は近衛隊長と私が親しくなることを望んでらっしゃいますか?」
見合いをしろと言うなら覚悟をするつもりだった。
「いや、別に」
あっさりした返事に、ではなぜ今まで二人っきりにして、間を取り持つようなことをしていたのか首を捻る。
「どちらも便利だったからだよ。近衛隊長がうろうろしていれば君の虫除けになるし、彼は君を餌にすると転がしやすい」
利害の一致だと簡単に仰る。
「そういうことでしたか」
「そう。でも思ってたより負担だったようですまなかったね。さすがに部屋へ押し掛けられるのは迷惑だろう」
近衛隊長への新しい釣り餌は何にしようかなぁとソファーの背もたれに背中を預けてゆったりと呟いていらっしゃった。
……そうです。
呼んでいないのに押し掛けるような大男は迷惑なんです。
そのお言葉をそっくりお返しいたします。
あの小柄な奥様だってそうです。
毎晩、夫だからと寝台に押し掛けられて朝から興奮されたら恐ろしいでしょうね。
なぜそれに気づいてくださらないと言いたくてたまらない。
奥様のことになると回りが見えなくなるんだから。
そう思ったら近衛隊長の空回りも同じに見えてきた。
好きな相手にはああやって相手の都合より自分の気持ちを優先して動いてしまうものなのね。
煩わしい。でもリカルド王子も近衛隊長もご立派な方なのになんだか可愛らしいこと。
笑みがこぼれて、つまらなく感じていた髪留めも褪せた色が少しずつ戻ってきた。
「それとルルドラのことはすまない。手をあげたことも」
「いえ」
自分のせいだから。
少し前まで繊細を通り越して神経質だった。
あの薬の影響を考えたら夜中に意識がなく飛び起きたり悲鳴をあげてたのも関係してる。
聡いあの方ならご自身で調べて理解されてる。
そこまで察したら恨めしく思うのは理解できた。
「ああ、そうだ。ルーラは明日も例の夫人のもとへ行ってくれ」
「明日でしょうか」
「ああ。何か不都合か?」
「執事長からお休みするように言われました」
「じゃあ用事のあとは1日、外で遊んでくれば良い。朝の支度がすんだら自由にしなさい」
「あの、それが執事長から……」
先程のお話を伝えると渋面を全面に出して唸る。
「……言い得ている。……分かった。努力する」
それと明日のお使いの付き添いに執事長を連れていけと仰った。
「明日は私が休みだからあれにも休みをやった。街に行くと言ってたからちょうどいいだろう」
「ご予定があるのでは?」
「そっちもついでになる。男一人で行くのを嫌がってたから良かろう」
何しに行くのか尋ねたら、手間だから本人に聞けと払われた。
しばらく待つと執事長が戻られたので部屋の移動の前に明日の相談。
産まれたばかりのお孫さんに贈り物をしたいらしい。
「助かります。ルーラなら若い子の好みが分かりますからね。ディアナに頼もうかと思ってたところでした」
まとめ役のお二人はご一緒のお休みを避けてるので、そうなるとメイド長ひとりにお任せすることになってしまい選ぶ張り合いがないから悩んでたと話す。
何を買うか決まってないから明日は散策しながら探すことになった。
それと私の新しいお部屋。
まさかのメイド長と同室で奥様のお隣の侍女部屋に寝泊まりすることになった。
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
メイド長のことは慕ってるわよ。
尊敬してるわよ。
すっっごくお優しいわよ。
でも上司と同室って。
こんな落ち着かない生活になるなんて思ってなかった。
緊張しながら寝仕度をしてるとメイド長に手招きされた。
「ルーラ、いらっしゃい。髪をといてあげるわ」
鼻歌つきでご機嫌。
息子二人もかわいいけどこうやって仲良く過ごせる女の子が欲しかったと楽しそう。
「奥様のこともね、いけないと思いつつ甘やかしてばかり。執事長に叱られて反省したわ」
「……はぁ」
下ろした髪と夜着のせいでいつもよりしっとりしてる。
お歳を召してもお綺麗な顔立ちは健在で、もうすぐ40歳に届くらしいんだけどまだ全然、女性らしくて素敵。
「再婚、されないんですか?」
こんなに素敵なのに。
「私は旦那様一筋なのよ?」
「……素敵な旦那様だったんですね」
「……そうでもないのよねぇ」
放浪癖が酷すぎて子育ては一切関わらなかった。
たまに戻って子供達に彫刻刀の扱いを教えるだけだったみたい。
「夫として、父親としてどうかしら。でも一緒にいて呼吸がしやすい人だったの。子供達も慕ってた」
「呼吸、ですか?」
「落ち着くのよ。緊張しなくて、あの人と過ごすと今の自分で良いと思えていつも満足感で満たされて……。不思議な人だったわ」
「奥様みたいですね」
暖かくて心地よい。
日だまりのような微睡みを与えてくれる。
「あら?ふふ、そうね。似てる」
いつもの、凛とした声じゃなくてまったりとした響き。
懐かしそうにうっすらと笑みを浮かべてる。
私も幸せのお裾分けを貰ったみたいに胸が暖かかった。
そして次の日はは初めて叫び声もなくリカルド王子と奥様のお二人が起床された。
やれば出来るじゃないのと思ったのは内緒。
部屋を変えるってどこに?
そこまですること?
「と言うわけでルーラの部屋を移動させてください」
「……ふぅん」
リカルド王子が興味なさげに鼻を鳴らしていた。
「どこに?」
「今より良いならどこでも」
「抽象的すぎる」
「男が近寄りにくい部屋です」
「過保護」
「当然の対応でございます」
若い娘が男に言い寄られて困ってるのを見過ごせませんと強めにリカルド王子に迫ってる。
私は何でこんなことにと戸惑ってしまった。
「娘と歳が近いんだったな」
「妹の方が近いです。末の子」
「何でも良い。メイド長と相談して決めろ。あれにもルーラは妹分だからお前一人で勝手に決めるとあとが面倒だろう」
「確かにそうですね。分かりました。ではすぐに伝えて参ります」
リカルド王子と二人で部屋を出ていく執事長の背中を見送り、お互いに何も言えないまま静かな部屋だけが残った。
「……良い歳だろうに」
小さな呟きが聞こえた。
良い歳ねぇ。
もう今年で28だもの。
結婚しておかしくない。
リカルド王子は私を近衛隊長とまとめたいのね。
「仕事に専念したく思ってますが……」
「それは好きにしなさい。……ん?……あぁ、違う。君じゃない。男どもだ」
「は?」
男ども?
誰?
近衛隊長のこと?
「ライオネルは嫁にやりたくない男親の心境なのかよく分からん。欲しければ全うな手順を踏めと思ってるようだな」
「……はぁ、そうなんですね。あの、リカルド王子は近衛隊長と私が親しくなることを望んでらっしゃいますか?」
見合いをしろと言うなら覚悟をするつもりだった。
「いや、別に」
あっさりした返事に、ではなぜ今まで二人っきりにして、間を取り持つようなことをしていたのか首を捻る。
「どちらも便利だったからだよ。近衛隊長がうろうろしていれば君の虫除けになるし、彼は君を餌にすると転がしやすい」
利害の一致だと簡単に仰る。
「そういうことでしたか」
「そう。でも思ってたより負担だったようですまなかったね。さすがに部屋へ押し掛けられるのは迷惑だろう」
近衛隊長への新しい釣り餌は何にしようかなぁとソファーの背もたれに背中を預けてゆったりと呟いていらっしゃった。
……そうです。
呼んでいないのに押し掛けるような大男は迷惑なんです。
そのお言葉をそっくりお返しいたします。
あの小柄な奥様だってそうです。
毎晩、夫だからと寝台に押し掛けられて朝から興奮されたら恐ろしいでしょうね。
なぜそれに気づいてくださらないと言いたくてたまらない。
奥様のことになると回りが見えなくなるんだから。
そう思ったら近衛隊長の空回りも同じに見えてきた。
好きな相手にはああやって相手の都合より自分の気持ちを優先して動いてしまうものなのね。
煩わしい。でもリカルド王子も近衛隊長もご立派な方なのになんだか可愛らしいこと。
笑みがこぼれて、つまらなく感じていた髪留めも褪せた色が少しずつ戻ってきた。
「それとルルドラのことはすまない。手をあげたことも」
「いえ」
自分のせいだから。
少し前まで繊細を通り越して神経質だった。
あの薬の影響を考えたら夜中に意識がなく飛び起きたり悲鳴をあげてたのも関係してる。
聡いあの方ならご自身で調べて理解されてる。
そこまで察したら恨めしく思うのは理解できた。
「ああ、そうだ。ルーラは明日も例の夫人のもとへ行ってくれ」
「明日でしょうか」
「ああ。何か不都合か?」
「執事長からお休みするように言われました」
「じゃあ用事のあとは1日、外で遊んでくれば良い。朝の支度がすんだら自由にしなさい」
「あの、それが執事長から……」
先程のお話を伝えると渋面を全面に出して唸る。
「……言い得ている。……分かった。努力する」
それと明日のお使いの付き添いに執事長を連れていけと仰った。
「明日は私が休みだからあれにも休みをやった。街に行くと言ってたからちょうどいいだろう」
「ご予定があるのでは?」
「そっちもついでになる。男一人で行くのを嫌がってたから良かろう」
何しに行くのか尋ねたら、手間だから本人に聞けと払われた。
しばらく待つと執事長が戻られたので部屋の移動の前に明日の相談。
産まれたばかりのお孫さんに贈り物をしたいらしい。
「助かります。ルーラなら若い子の好みが分かりますからね。ディアナに頼もうかと思ってたところでした」
まとめ役のお二人はご一緒のお休みを避けてるので、そうなるとメイド長ひとりにお任せすることになってしまい選ぶ張り合いがないから悩んでたと話す。
何を買うか決まってないから明日は散策しながら探すことになった。
それと私の新しいお部屋。
まさかのメイド長と同室で奥様のお隣の侍女部屋に寝泊まりすることになった。
「よろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
メイド長のことは慕ってるわよ。
尊敬してるわよ。
すっっごくお優しいわよ。
でも上司と同室って。
こんな落ち着かない生活になるなんて思ってなかった。
緊張しながら寝仕度をしてるとメイド長に手招きされた。
「ルーラ、いらっしゃい。髪をといてあげるわ」
鼻歌つきでご機嫌。
息子二人もかわいいけどこうやって仲良く過ごせる女の子が欲しかったと楽しそう。
「奥様のこともね、いけないと思いつつ甘やかしてばかり。執事長に叱られて反省したわ」
「……はぁ」
下ろした髪と夜着のせいでいつもよりしっとりしてる。
お歳を召してもお綺麗な顔立ちは健在で、もうすぐ40歳に届くらしいんだけどまだ全然、女性らしくて素敵。
「再婚、されないんですか?」
こんなに素敵なのに。
「私は旦那様一筋なのよ?」
「……素敵な旦那様だったんですね」
「……そうでもないのよねぇ」
放浪癖が酷すぎて子育ては一切関わらなかった。
たまに戻って子供達に彫刻刀の扱いを教えるだけだったみたい。
「夫として、父親としてどうかしら。でも一緒にいて呼吸がしやすい人だったの。子供達も慕ってた」
「呼吸、ですか?」
「落ち着くのよ。緊張しなくて、あの人と過ごすと今の自分で良いと思えていつも満足感で満たされて……。不思議な人だったわ」
「奥様みたいですね」
暖かくて心地よい。
日だまりのような微睡みを与えてくれる。
「あら?ふふ、そうね。似てる」
いつもの、凛とした声じゃなくてまったりとした響き。
懐かしそうにうっすらと笑みを浮かべてる。
私も幸せのお裾分けを貰ったみたいに胸が暖かかった。
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