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62※ルーラ
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「本日はお休みをいただきます」
「いってらっしゃい」
リカルド王子と奥様へお暇のご挨拶。
ご機嫌は麗しい様子でリカルド王子のお隣に座って馴染んでいた。
リカルド王子は片時も手放したくないようで肩を抱き締めたまま。
お二人でご夫人からいただいたカタログとデザイン画を眺めておられる。
「これを渡しなさい」
執事長に小さな木箱と封筒を預けてた。
不思議そうにする奥様へ柔らかく笑みを向けて、謝礼だと教えた。
「君が書いた礼状も同封してる」
「よろしいのですか?まだ私の字は、あんまり……」
練習で何度も書いてリカルド王子の添削を繰り返していた。
「貴族相手に送るならもう少し習練が必要だが、かなり上達した。孤児院以外にこういったやり取りをして充分通用する。がんばったな」
そう言うと奥様のお顔に蕩けるような笑顔が溢れて、眩しさにリカルド王子は惚けて見とれている。
もちろん私達も。
ほのぼのしてたのにリカルド王子は堪らなかったみたい。
「うんんっ!」
「わ!い、いたいっ!いたいぃっ!」
いきなり呻きながら乱暴に抱き寄せて締め上げるから、鯖折りに潰れた奥様に周囲の私達は慌てるのに執事長がゆったりと制した。
執事長がリカルド王子の肩を軽く手を添えると私達の存在を思い出したのか奥様からパッと手を離す。
「ふえぇ、リカルド王子、いたいぃ、苦しいぃ」
「やり直す。今度は優しくするから」
半泣きの奥様にすまなかったと謝って今度は優しく。
奥様も大人しく腕の中へ。
柔らかい手つきにホッとしたようで目をつぶって寄りかかるとじっとしていた。
「……痛いの嫌です。優しいリカルド王子がいい」
いつも痛いし怖いと涙声で小さく口にして、私達は毎朝の騒動の原因はこれかと納得した。
奥様が閨を怖がるのもね。
こんないきなり野獣に変身したら怖いわよ。
鈍い奥様はお気づきにならないけどリカルド王子はジト目をする私達の視線に少し居心地悪そうにしてた。
19歳の男ってあんな感じなのかしら。
リカルド王子は閨の実技もしたし、噂作りのために婚約破棄の前は遊び回って、あの雇った女もリカルド王子のお顔にハマって夜のお相手をこなしてた。
女性経験は豊富。
「……それでもお若いから?」
ポツリと言葉をこぼした。
「どうしました?」
「いえ、なんでもありません」
執事長と馬に乗って背後から支えてくださる。
独り言を聞かれてしまって急いで返事を返した。
「……“お若い”と言うと、もしかしてご夫妻のことですか?」
当てられたなら大人しく頷く。
「朝のことで気になったもので。ああも熱烈だと奥様のご負担になるような気がします」
奥様からリカルド王子のご期待に添えたいと相談されてる。
私もどうしたらいいか分からない。
恋人がいたことがあるけど何年も前だし、臥せったあとリカルド王子のもとで勤めてから色恋はご無沙汰だもの。
仕来たりやマナーはメイド長から。
薬物の勉強は王妃のもとにいた経験を生かして独学。
見掛けを使った演技はリカルド王子と共に劇団から。
本人の望みとはいえ皇太子廃嫡の計画を二年かけて準備した。
それを普段の業務と平行して、周囲にバレないように人との関わりは不必要に増やせず、私だけでなく皆も必死だった。
「もう少しリカルド王子が大人になっていただけたらと思います」
「男は好きな相手にああなってしまうものですから多目に見てあげなさい。惚れてしまうと頭に血が昇ってしまう」
程度の差はありますがと付け足してる。
「恋に逆上せるのは女性も変わらないと思います」
「……はい」
ごもっとも。
王妃がそうでしたね。
恋敵を殺してしまうほど陛下に逆上せていた。
それは心の中にとどめた。
先に遣いを済まそうとお店に行くとフォルクス様がゲストルームでおもてなしを受けていて驚いた。
執事長が挨拶をするとにっと笑って手を振る。
「久しぶりです」
「今日はよろしく」
あっさりと気さくな会話を交わして、フォルクス様がテーブルに乗せられた大きな箱に手を置く。
「こちらはお預かりします」
「かしこまりましたわ。気に入っていただけるとよろしいのですが」
おっとりしたご夫人がフォルクス様にそう答えた。
それから道中お気をつけてと気遣いを見せるとお任せにくださいと返す。
「こちらがご夫人の大事な品と聞いております。丁重に扱いますのでご安心ください」
「ご夫人。こちらを主人より預かって参りました。お納めください」
執事長がリカルド王子からのお礼の品と手紙を渡して、ご夫人はその場で封を開けて二枚の便箋を読むとふふ、と小さく笑みがこぼれた。
「素敵なご夫婦ですのね。おふたりの気遣いに感激でございます」
何と書いてあるのかしら。
奥様のお手紙なら把握しているけどリカルド王子の方は知らない。
でも主人を誉められたことに頭を下げて礼を見せた。
ご夫人に見送られて三人で店を後にした。
フォルクス様は馬の背に荷物を丁寧にくくりつけて、執事長もお手伝いされてる。
「ライオネルさん、老けましたねぇ」
「そっちは太ったな。腹が出ている。勤めを辞めてからだらしない生活をしてるんだろう」
「ちゃんと働いてますぅ」
「サボりばかりじゃないか?」
「真面目ですー。だいたいこれは幸せ太りなんで。そっちはお一人様でやつれたんじゃないですか?」
「独身貴族を満喫してるよ」
「へー、まさか女?新しくいるんですか?」
「いや、縁がない。君ほど困っていないから問題ないよ」
二人で嫌味の応酬。
でも楽しそう。
お二人で過ごすことを見たことなかったから知らなかった。
歳と立場が違うけどおふたりの仲は対等なのね。
「そろそろふざけるのはやめよう。これは無事に届けてくれ。記念日に間に合うか心配しておられる」
「かしこまり。でも走ったら中身が心配だなぁ。服だっけ?ならいいのか?」
「いや、やめとけ。大事な品だから何かあると大変だ。午前中を目処に届ければいいから」
午後に針子達が総出で対応すると説明していた。
リカルド王子は奥様に何かお洋服をお選びになったのね。
細かい仕上げは奥様のお針子達にさせるのだと察した。
「了解です。じゃ、急ぐんで失礼しますよ」
ルーラ、またなと声をかけてさっと馬の鼻を翻した。
それからは産まれたばかりと仰るお孫さんのお祝いを探しに。
女の子と聞いたのでウサギの縫いぐるみと洗い換えになる布オムツ、普段着になりそうな子供服とおくるみのブランケット。
産んだばかりの娘さんのために栄養価の高い穀物と乾燥させた日持ちのするお肉や魚。
それと大きなスカーフ。
抱っこひもにもなるし、授乳の目隠しにも。
「色々あるんですね」
「そうですね」
何がいいか聞かれて、提案した端から全て買ってる執事長もすごかったわ。
「いってらっしゃい」
リカルド王子と奥様へお暇のご挨拶。
ご機嫌は麗しい様子でリカルド王子のお隣に座って馴染んでいた。
リカルド王子は片時も手放したくないようで肩を抱き締めたまま。
お二人でご夫人からいただいたカタログとデザイン画を眺めておられる。
「これを渡しなさい」
執事長に小さな木箱と封筒を預けてた。
不思議そうにする奥様へ柔らかく笑みを向けて、謝礼だと教えた。
「君が書いた礼状も同封してる」
「よろしいのですか?まだ私の字は、あんまり……」
練習で何度も書いてリカルド王子の添削を繰り返していた。
「貴族相手に送るならもう少し習練が必要だが、かなり上達した。孤児院以外にこういったやり取りをして充分通用する。がんばったな」
そう言うと奥様のお顔に蕩けるような笑顔が溢れて、眩しさにリカルド王子は惚けて見とれている。
もちろん私達も。
ほのぼのしてたのにリカルド王子は堪らなかったみたい。
「うんんっ!」
「わ!い、いたいっ!いたいぃっ!」
いきなり呻きながら乱暴に抱き寄せて締め上げるから、鯖折りに潰れた奥様に周囲の私達は慌てるのに執事長がゆったりと制した。
執事長がリカルド王子の肩を軽く手を添えると私達の存在を思い出したのか奥様からパッと手を離す。
「ふえぇ、リカルド王子、いたいぃ、苦しいぃ」
「やり直す。今度は優しくするから」
半泣きの奥様にすまなかったと謝って今度は優しく。
奥様も大人しく腕の中へ。
柔らかい手つきにホッとしたようで目をつぶって寄りかかるとじっとしていた。
「……痛いの嫌です。優しいリカルド王子がいい」
いつも痛いし怖いと涙声で小さく口にして、私達は毎朝の騒動の原因はこれかと納得した。
奥様が閨を怖がるのもね。
こんないきなり野獣に変身したら怖いわよ。
鈍い奥様はお気づきにならないけどリカルド王子はジト目をする私達の視線に少し居心地悪そうにしてた。
19歳の男ってあんな感じなのかしら。
リカルド王子は閨の実技もしたし、噂作りのために婚約破棄の前は遊び回って、あの雇った女もリカルド王子のお顔にハマって夜のお相手をこなしてた。
女性経験は豊富。
「……それでもお若いから?」
ポツリと言葉をこぼした。
「どうしました?」
「いえ、なんでもありません」
執事長と馬に乗って背後から支えてくださる。
独り言を聞かれてしまって急いで返事を返した。
「……“お若い”と言うと、もしかしてご夫妻のことですか?」
当てられたなら大人しく頷く。
「朝のことで気になったもので。ああも熱烈だと奥様のご負担になるような気がします」
奥様からリカルド王子のご期待に添えたいと相談されてる。
私もどうしたらいいか分からない。
恋人がいたことがあるけど何年も前だし、臥せったあとリカルド王子のもとで勤めてから色恋はご無沙汰だもの。
仕来たりやマナーはメイド長から。
薬物の勉強は王妃のもとにいた経験を生かして独学。
見掛けを使った演技はリカルド王子と共に劇団から。
本人の望みとはいえ皇太子廃嫡の計画を二年かけて準備した。
それを普段の業務と平行して、周囲にバレないように人との関わりは不必要に増やせず、私だけでなく皆も必死だった。
「もう少しリカルド王子が大人になっていただけたらと思います」
「男は好きな相手にああなってしまうものですから多目に見てあげなさい。惚れてしまうと頭に血が昇ってしまう」
程度の差はありますがと付け足してる。
「恋に逆上せるのは女性も変わらないと思います」
「……はい」
ごもっとも。
王妃がそうでしたね。
恋敵を殺してしまうほど陛下に逆上せていた。
それは心の中にとどめた。
先に遣いを済まそうとお店に行くとフォルクス様がゲストルームでおもてなしを受けていて驚いた。
執事長が挨拶をするとにっと笑って手を振る。
「久しぶりです」
「今日はよろしく」
あっさりと気さくな会話を交わして、フォルクス様がテーブルに乗せられた大きな箱に手を置く。
「こちらはお預かりします」
「かしこまりましたわ。気に入っていただけるとよろしいのですが」
おっとりしたご夫人がフォルクス様にそう答えた。
それから道中お気をつけてと気遣いを見せるとお任せにくださいと返す。
「こちらがご夫人の大事な品と聞いております。丁重に扱いますのでご安心ください」
「ご夫人。こちらを主人より預かって参りました。お納めください」
執事長がリカルド王子からのお礼の品と手紙を渡して、ご夫人はその場で封を開けて二枚の便箋を読むとふふ、と小さく笑みがこぼれた。
「素敵なご夫婦ですのね。おふたりの気遣いに感激でございます」
何と書いてあるのかしら。
奥様のお手紙なら把握しているけどリカルド王子の方は知らない。
でも主人を誉められたことに頭を下げて礼を見せた。
ご夫人に見送られて三人で店を後にした。
フォルクス様は馬の背に荷物を丁寧にくくりつけて、執事長もお手伝いされてる。
「ライオネルさん、老けましたねぇ」
「そっちは太ったな。腹が出ている。勤めを辞めてからだらしない生活をしてるんだろう」
「ちゃんと働いてますぅ」
「サボりばかりじゃないか?」
「真面目ですー。だいたいこれは幸せ太りなんで。そっちはお一人様でやつれたんじゃないですか?」
「独身貴族を満喫してるよ」
「へー、まさか女?新しくいるんですか?」
「いや、縁がない。君ほど困っていないから問題ないよ」
二人で嫌味の応酬。
でも楽しそう。
お二人で過ごすことを見たことなかったから知らなかった。
歳と立場が違うけどおふたりの仲は対等なのね。
「そろそろふざけるのはやめよう。これは無事に届けてくれ。記念日に間に合うか心配しておられる」
「かしこまり。でも走ったら中身が心配だなぁ。服だっけ?ならいいのか?」
「いや、やめとけ。大事な品だから何かあると大変だ。午前中を目処に届ければいいから」
午後に針子達が総出で対応すると説明していた。
リカルド王子は奥様に何かお洋服をお選びになったのね。
細かい仕上げは奥様のお針子達にさせるのだと察した。
「了解です。じゃ、急ぐんで失礼しますよ」
ルーラ、またなと声をかけてさっと馬の鼻を翻した。
それからは産まれたばかりと仰るお孫さんのお祝いを探しに。
女の子と聞いたのでウサギの縫いぐるみと洗い換えになる布オムツ、普段着になりそうな子供服とおくるみのブランケット。
産んだばかりの娘さんのために栄養価の高い穀物と乾燥させた日持ちのするお肉や魚。
それと大きなスカーフ。
抱っこひもにもなるし、授乳の目隠しにも。
「色々あるんですね」
「そうですね」
何がいいか聞かれて、提案した端から全て買ってる執事長もすごかったわ。
応援ありがとうございます!
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