婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

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番外編※ラド

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馬の騒動から3日目に親父が駆けつけた。

来たことに驚いた。

ガキの頃なら王宮の制約で簡単には来られなかった。

ふと、そういえばちょくちょく来るようになったのはこの半年くらいだったなと思い当たった。

もう1つ妙なこと。

義父が親父の訪問を知らせに来た。

いつもならマイラ達の騒ぐ声で気づくのに家の中が静かだった。

「お義父さん、アディ達は?なんだか妙に静かなんですけど」

「ああ、大事なお客様をお連れしてるからアリエッタ達は離れに行かせた。君にも大事なお客様になるからしっかりご挨拶しなさい。長くお付き合いのあるお方だ。今後もね」

親父の連れで大事なお客様?

アディ達をよそに移すほどの?

誰だ?

話に出たことがない。

顧客名簿に親父と繋がりそうな名前があったか?

首を捻ってる間に寝室を出て行ってしまった。

そんな大事な客人をこんな顔で出迎えるの?

え、どうしよ。

嫁からお客様がびっくりすると言われたのとアディの号泣を思い出して慌てて手拭いを顔に被せて目の下だけでも隠した。

「こちらになります」

モタモタと支度をしてる間に義父が戻ってきた。

後ろに親父、その後ろにはもう一人。

軽く会釈をした一瞬で目利きをする。

背の高い若い男。

親父と似たような服装。

いや、ちょっとランクが下がる。

身綺麗な親父と比べて少しダボダボのサイズで着古しな感じ。

長い栗毛の前髪を垂らして分厚い瓶底眼鏡で顔が分かりづらい。

親父より劣るいまいちな風貌にこれが大事なお客様なのかと疑問が湧く。

そう思ったけど扉を閉めた途端、義父と親父の態度がすぐに変わった。

義父は二人へ直角に頭を下げて、前方を歩いていた親父はすぐに連れの男の背後に大きく下がるからはっとなる。

これは貴族への対応。

「邪魔だ」

男が自分の頭を掴んで乱暴に引っ張ったらずるっと頭の皮が剥げた。

いきなりのことにビビってひえっと小さく息を飲む。

皮が剥げたら下からピッチリに撫で付けた1本の乱れもない黄金の髪。

「今日は日差しが暑い」

ついでに瓶底眼鏡も取る。

あらわれたのは輝くエメラルドグリーンの瞳。

薄く青がかかる緑は光を目映く跳ね返す。

それを飾るのは整った眉、丸さがあるアーモンドアイ、鼻、唇、頬と全てのラインがパーフェクト。

我が国でもっとも知られた尊顔。

陛下の片腕と持て囃され、一年前にスキャンダルを起こした問題児。

「こ、こっ、こっ、皇太子!」

「もとだ」

「も、申し訳ありません!」

身分がある者への勝手な発言は不敬にあたる。

慌てて寝台から飛び出そうとすると寝とけとお声をかけられた。

「怪我人を立たせるほど鬼じゃない」

にっと片方の口角を上げて栗毛の髪のカツラと眼鏡を親父へと渡した。

視線は何を映してるか分からないのに空中に置いたような眼鏡とカツラを羽根が乗ったみたいに親父は受け取ってる。

初めて執事として動く親父の所作を見る。

目を伏せて感情を隠して何も読み取れない。

見ていないように見える。

でも親父はもと皇太子の望むまま、空気のようにかしづく。

それを見たら俺にはソッコー無理とよぎった。

「クドー、いつまでも下げるな」

「はっ」

久しぶりだと笑うとおかげさまでとにこやかな顔で義父は答えた。

親しげに義父の名を呼んで旧知の間柄だとすぐに察するけど知らなかった目の前の光景に混乱した。

親父が王宮勤めなのは分かってた。

でも守秘義務だの制約だので正確な役職や勤めるのがリカルド王子の使用人だとは聞いてない。

「お、親父、お義父さん」

緊張で声が小さく掠れた。

親父はリカルド王子の侍従なの?

普通、歳が近い奴が選ばれるんじゃ?

貴族の侍従はそういうものだと聞いていた。

義父もどういう関係?

なにこれ?

「偽物と思わずに本物と信じるのか?」

「お、……父の態度で、判断いたしました」

親父って言うところだった。

いや、もう先に言っちゃったけど。

「そうか。それで今回は難儀してると聞いて私も心痛めてる。恩人のライオネルとクドーの身内だ。私からも支援をしよう」

指を軽く立てるだけで親父が何かの書類を義父に渡した。

「なんと、これはまぁ……」

義父はそれを見て目を見張ったが、すぐに商売人らしい笑みをこぼして喜んでる。

内容が気になるけど聞けない。

聞いて教えてもらえるものなのかも分からん。

「ありがとうございます」

「礼ならライオネルに。知らせを受けてすぐに整えたのは彼だ。資金も私からではない」

「これだけの額をよろしいのですか?」

「我が子のことなもので。差し出がましいかと思いましたが」

親父が二人の視線に頷く。

でもほんの一瞬、無機質な執事らしさが消えた。

上げた表情から不機嫌な空気が溢れてギラッと目が光っていた。

「ライオネル、あとは好きに過ごせ。私は先に帰る」

「いえ、勤めを優先いたします」

帰るそぶりのリカルド王子へ親父がそう返した。

「息子と過ごせばいい。私は構わないと言ってるんだから」

「お一人になることはよろしくございません」

「……あー、固っ苦しい」

「ふ、ふふ」

御身から離れないと頑なな親父にリカルド王子は呆れて義父は楽しそうに笑う。

「リカルド王子のご厚意で私の代わりに一人残すと仰ってくださったので必要ございません」

「ああ、そうだった。だが、事情を話すくらいしたらどうだ?ほら、息子の顔が。訳が分からないと困ってる」

からかう口調でリカルド王子は俺へ顎をしゃくる。

「クドー、何か暇潰しに付き合ってくれ」

「かしこまりました。最近の市井の様子と物価、庶民の流行りなど、こちらへいらっしゃらない間にかなり変化しております。飽きさせることはありません。他にも、良ければ最愛の奥様へ何か身繕いませんか?」

「それはぜひ見せてもらおう」

貴金属や化粧品を勧める義父に苦笑いを返し、少々無趣味な妻なんだと照れた顔を手で隠して楽しげに話しながら二人は部屋を出ていく。

閉じた扉を確認したら親父は俺の側へ近寄って顔を覗き込んだ。

心配で顔が歪むのが申し訳無い気持ちになるけどなんだか嬉しい。

「どこから話しましょうか。それかあなたから話すことはありますか?」

いつもの優しい声が心地いい。

しゃきしゃきのお袋とおっとりの親父。

どっちも好きだけど落ち込んでる時はいつも親父が恋しかった。

「あぁ、聞きたいことならあるよ」

「話せるだけは答えましょう」

あぁ、また制約かと気持ちが沈んだ。

「親父の仕事って何?」

「……リカルド王子の補佐。護衛、秘書、身の回り全て。今なら話せますね」

「今なら?」

「そう、陛下と皇太子の庇護のもと今なら。私には身内がいないことになっていました。危険があったので。ディアナもみんなそうです。今はもう気にすることはありません」

唇にトントンと伸ばした指を当ててこの話題は終わりと示した。

陛下と皇太子の庇護と言うならリカルド王子が皇太子でいた時期に何があったんだと分かるし、聞くのはヤバい。

「さっきの書類は?」

「簡単に言えば地上げです。あなたに怪我をさせた男の一角を中心に買い取りました。邪魔だからあの男は他所へ。ここに来る前にリカルド王子が交渉してくださいました」

「は?」

「ものを考えないがめつい男ですぐに話が進んで助かりました。即決で手続きをするなら高額で対応すると言うと飛び付いたそうです。ルーラが別口で投資話を見せびらかしてうまく乗せたと。クドーさんもご存じの投資ですが、少々入り組んでて素人には扱いにくいものでして。あまり流行りませんし長く寝かせないと利益にはならないのも難点だと分からなかったようです。リカルド王子とルーラに乗せられて、あの男は地上げで得た金を投資に回しました。今回、地上げで得た土地はあなたに譲ります。生前贈与として受け取りなさい。それとあの男はまた自転車操業で権利を売るはずです。クドーさんがタイミングを見て買えば今回の賠償を払って余るくらいの利益になります」

あの男の回りでこの額を即金で払えるのは義父だけだからと付け足した。

「リカルド王子がわざわざ?」

「私が自分でするつもりでしたが、このタイミングではねぇ。ルーラひとりでも出来ますが、こういう交渉に足元を見られるということでリカルド王子が引き受けてくださいました。その方が早く終わりますから。遠慮したら退職金の前払いと笑っておられた」

噂の問題児って感じじゃない。

穏やかさを混ぜつつ引き締まる空気がある人だったのを思い出す。

「ルーラさんが、なんであの人が絡むんだ?嫁さんだから協力してくれたにしても、女ひとりでそんな金の交渉できるの?」

「彼女は私とディアナと同じ、リカルド王子の手足のひとつ。私とディアナの教え子」

このくらい造作もありませんと呟き、顔にうっすらと自慢げな空気が漂う。

「かなりすごい人なんだな」

そう言うとゆっくり頷いた。

「奥様の侍女と護衛を兼ねてます。私と違った方面では特出した知識も持っていますし……」

そう呟いたあと、ふと顎に手を置いて何か記憶を掘り返すよう黙って考え込む。

「……この間あなたが言った通り、ルーラは私のような年寄りのもとに来るような娘ではありません。才能、勤勉さ、自身を理解してどう動くかという賢さもあります」

ぽつりと話し出した。

「ですが、寂しいことに彼女はリカルド王子と奥様に全てを捧げる心積もりで己を捨てています」

「自分に興味がないってこと?」

「ええ。もう事が落ち着いて皆はそれぞれの道を選ぶのにひとりいつまでも残ろうとしてます。いいタイミングでご縁があったのですがあんなに嫌がるなら……」
 
「なに?分からないんだけど」

「若い男は荒っぽくて怖いそうです。土足で心に踏み込んで荒らすと泣くので可哀想になりました。本当に今さらこの年齢で……。なのにあの子に寄り添いたいと思うようになってしまった」

自信無さそうに。

小さく呟く。

こんな途方にくれた親父は初めて見る。

破天荒なお袋とディアナ姉さんを見て育ったせいか俺が何をやっても驚かなかった。

ディアナ達よりマシと気にしない。

大人しすぎる親父、元気すぎるお袋とディアナ姉さん。

俺達のことは程ほどに元気でいい子だって笑ってた。

「離れていたから子供達へ親らしいことをしたいんですが」

手を伸ばすから自然と俺は頭を寄せた。

ふわっと髪を撫でる。

「大人になりましたねぇ。変わらないのは色だけです」

俺の焦げ茶の髪を指で遊んで髪の色も瞳もいい色だと微笑んだ。

「俺、親父の子?」

「そうですよ。私とロクサーヌの子です。賢く勇敢で家族思いの優しい息子。まだ気にしていましたか?」

「ちょっとね」 

「あの男?」

「ああ、久々に言われて面白くはなかった」

「……もう少し凝らしめても良さそうですね」

「へ?え!」

うわっ!

顔がこわっ!

「もういいよ!だいたいなんでも勝手なんだよ!そっちを怒ってんだよ!お袋と離婚するのも、再婚も!こういうことを勝手にするのも!先に一言言えってんだ!」

「確かに。それは申し訳ない」

「ル、ルーラさんのことは親父達の問題だからとやかくは言わないよ。守ってやりたいんだろ?」

あの人に何があったか知らないけど、若い男は怖いって言うし、親父のこういう強くて寄り添うような性格を望んでるんなら俺も気持ちは分かる。

少し親父の顔が赤いのは気のせいか?

「……年甲斐もなく」

「いいよ、もう。しつこいって」

恥ずかしそうに手で顔を覆って項垂れるのを止めた。

「年は末の妹と変わらないんですが、なんせ見た目が……」

「え?あの人いくつ?」

「28です」

「見えねぇ!」

まだ二十歳かそこらかと思ってた。

「親父が39だから、11違いか」

意外とありだな。

ギリギリ。

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