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番外編※ラド

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「深刻なところ悪いが、お前達は私を鬼か何かと間違えてないか」

扉から入ってきたのは仮面を指にひっかけて手遊びをするあの方。

リカルド王子だった。

「あれ?マスター、いらしてたんですか?」

「え?」

なんでここに?

「烏、お前はまだ働け」

「構いませんけど、素性を知れたら死ねと仰った。俺は覚えてますよ」 

「ふふ、確かに言った。だが昔と状況が変わっただろう?死ぬ必要があるか?」

「……仰る通りで。じゃあ、生きてていいのか」

「そうだよ。それより問題はこの二人だ」

リカルド王子の視線の先は親父とルーラさん。

つられて俺達も顔を向けた。

「初めて私を出し抜こうとしたな」

「……お気づきでしたか」

まあなぁ、と神妙な態度の親父に軽く相づちを返した。

「夜回りの奴らから馬と馬車が足らないという知らせが来た。ライオネル、慌てていたにしても当番の奴らを抱き込んでから敷地を出ろ。ルーラは周到に準備したようだが、別宅の使用人から事前に連絡があった。勝手に使うなら連絡が出来ないタイミングにしろ」

普段、私にさせてるから穴だらけなんだと説教している。

「……ごもっとも」

「ルーラはしょっちゅう落ち込むが、落ち込むお前は初めて見た」

「……息子に見られたと思うと。……女性にまで手をあげて。……大変自分が。……惨めです」

「あんまり落ち込むと勃たなくなるらしいぞ。フォルクスが言っていた」

「……あの馬鹿が。……なんてことを教えてるんだ」

「ルーラ、夫婦の時間を増やすように考慮するから夜遊びはやめなさい」

「そ、そんなつもりでは」

「言い訳なら仲間にするといい。この助言は彼女達からだよ。今まで危険な綱渡りをさせていたから平凡な家庭に収まれないと思われている。……それと嘘か本当か分からんが」

言いよどんでルーラさんの不安げな様子と黙って見守る俺達を順に眺めた。

「……女性達から見て君は、自分をいじめて喜ぶ特殊な性癖と思われてるよ。私も今までの君を見て否定できん。心配になるほど自己犠牲を繰り返すし、熱心に口説いていた若い男より孫のいる年寄りを選ぶから。年齢や将来性、顔や性格はどう見てもあっちだろう。しなくていいと言ったのにわざわざあんな小汚ないのを相手にして。変わった性癖だな」

「ぶはーっ!!あーはは!蝙蝠!お前は、あっはは!うえっ!げほ!げほ!」

烏がむせるほど大笑いして、親父はプライド削れたのか静かにまた落ち込んだ。

「そ、そうじゃなくて、違う、そうではなくて」

半泣きのルーラさんの声が可哀想になる。

「ライオネル、彼女のことはチヤホヤして可愛がるより多少乱暴にした方が喜ぶらしい」

さっき手荒にされたのも本人には良かったんじゃないかとからかった。

「誤解ですぅっっ!!お願いです!やめて!」

「妻に悪影響だから君はその性癖はある程度自制しなさい」

「本当に誤解でございます!」

「大丈夫だ。君の趣向を制限するつもりはないから。ライオネルならきっと大概のプレイに付き合える。夜が長持ちしないというだけでどうにかなるだろう。寝取られも平気かもしれん。経験者だし、若い頃から慣れてる。そっちの趣味かと疑ってる。私なら相手の男を殺したくなるしどんなに愛する妻でも我慢ならん」

経験者だというくだりを聞いて烏と義父が落ち込む親父へ勢いよく振り返った。

「ち、違うって。……違うって、言ってるのに……」

「誤解されたくないならそういう言動は慎みなさい。穿った見方をするなら、今回の行動はわざとライオネルを怒らせて仕置きされたがってるように見える。夫婦のやり取りに私達を巻き込むな」

「う、う」

「……せめて人前でお話になるのはお止めください」

忠告は私共だけにお願いしますと言うとリカルド王子は顔をしかめた。

「ライオネル、私は不機嫌なんだ。今夜も妻のもとへと思ってたのに知らせが来た。推測で大まかなところは察していたし、後日対処するつもりだった。私としてはこのまま放っておきたかったのに拗れる前に何とかしてくれとディアナ達に頼まれたら動くしかない。おかげで私は夜中に君らを追いかけて、その間妻はディアナ達とパジャマパーティーだ。とても嬉しそうだったから許す。だが今夜も私が妻と過ごすはずだったのに!元凶のお前達に嫌味を言うくらい当然だろう!」

「「申し訳ありません!!!」」

「お、お静かに。さすがに内容が。ここには人を配置してませんが、あんまりなことは、」

「そうだな。フーッ」

義父の取りなしと平謝りの二人に荒ぶりは落ち着いた。

「ひ、ひひ」

笑い声をひそめようと烏が丸まってるが、無駄らしい。

「それと蝙蝠、烏、梟、止まり木。これも終わりにする。今後に不要だ。クドー、ここの商売は閉めてしまえ。風紀の取り締まりを強化するから撤退しろ」

「かしこまりました」

「処分されないのはありがたいんですが俺は失業ですか?あと数年は働きたかったですが」

「娘のミシェエラにお城を買って住まわせてやりたいんだったな。私の所有のひとつにお伽噺に出てきそうな小さな城がある。そこの管理人にどうだ?君に売っても構わないが、妻が気に入りそうで惜しくなった。そこの管理人になってくれた方が助かる」

「……城ですか?つり橋あります?小さめの」

「ある」

「壁は白ですか?」

「記録だと白だが。整備はいるかな。長らく放っておいたから変色してるかもしれない。おとぎ話に出てきそうな感じにするなら好きにしていいぞ」

「……今度、見に行きます」

「早めに行って手入れをしてくれ。来年辺りは妻に見せたい」

「大盤振る舞いですね」

「もう気にする相手がいないからね。私としては君らの自由を優先させたい。今までの感謝だ。唯一、頼むとしたら彼の相談相手を勤めてほしい」

半開きだった後ろの扉を押した。

そこにいたのはリカルド王子より小柄な少年。

いや、そんなに小さくはない。

青年らしさが体格に混じる。

驚くほど美しい少年だった。
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