93 / 120
番外編※ラド
17
しおりを挟む
「深刻なところ悪いが、お前達は私を鬼か何かと間違えてないか」
扉から入ってきたのは仮面を指にひっかけて手遊びをするあの方。
リカルド王子だった。
「あれ?マスター、いらしてたんですか?」
「え?」
なんでここに?
「烏、お前はまだ働け」
「構いませんけど、素性を知れたら死ねと仰った。俺は覚えてますよ」
「ふふ、確かに言った。だが昔と状況が変わっただろう?死ぬ必要があるか?」
「……仰る通りで。じゃあ、生きてていいのか」
「そうだよ。それより問題はこの二人だ」
リカルド王子の視線の先は親父とルーラさん。
つられて俺達も顔を向けた。
「初めて私を出し抜こうとしたな」
「……お気づきでしたか」
まあなぁ、と神妙な態度の親父に軽く相づちを返した。
「夜回りの奴らから馬と馬車が足らないという知らせが来た。ライオネル、慌てていたにしても当番の奴らを抱き込んでから敷地を出ろ。ルーラは周到に準備したようだが、別宅の使用人から事前に連絡があった。勝手に使うなら連絡が出来ないタイミングにしろ」
普段、私にさせてるから穴だらけなんだと説教している。
「……ごもっとも」
「ルーラはしょっちゅう落ち込むが、落ち込むお前は初めて見た」
「……息子に見られたと思うと。……女性にまで手をあげて。……大変自分が。……惨めです」
「あんまり落ち込むと勃たなくなるらしいぞ。フォルクスが言っていた」
「……あの馬鹿が。……なんてことを教えてるんだ」
「ルーラ、夫婦の時間を増やすように考慮するから夜遊びはやめなさい」
「そ、そんなつもりでは」
「言い訳なら仲間にするといい。この助言は彼女達からだよ。今まで危険な綱渡りをさせていたから平凡な家庭に収まれないと思われている。……それと嘘か本当か分からんが」
言いよどんでルーラさんの不安げな様子と黙って見守る俺達を順に眺めた。
「……女性達から見て君は、自分をいじめて喜ぶ特殊な性癖と思われてるよ。私も今までの君を見て否定できん。心配になるほど自己犠牲を繰り返すし、熱心に口説いていた若い男より孫のいる年寄りを選ぶから。年齢や将来性、顔や性格はどう見てもあっちだろう。しなくていいと言ったのにわざわざあんな小汚ないのを相手にして。変わった性癖だな」
「ぶはーっ!!あーはは!蝙蝠!お前は、あっはは!うえっ!げほ!げほ!」
烏がむせるほど大笑いして、親父はプライド削れたのか静かにまた落ち込んだ。
「そ、そうじゃなくて、違う、そうではなくて」
半泣きのルーラさんの声が可哀想になる。
「ライオネル、彼女のことはチヤホヤして可愛がるより多少乱暴にした方が喜ぶらしい」
さっき手荒にされたのも本人には良かったんじゃないかとからかった。
「誤解ですぅっっ!!お願いです!やめて!」
「妻に悪影響だから君はその性癖はある程度自制しなさい」
「本当に誤解でございます!」
「大丈夫だ。君の趣向を制限するつもりはないから。ライオネルならきっと大概のプレイに付き合える。夜が長持ちしないというだけでどうにかなるだろう。寝取られも平気かもしれん。経験者だし、若い頃から慣れてる。そっちの趣味かと疑ってる。私なら相手の男を殺したくなるしどんなに愛する妻でも我慢ならん」
経験者だというくだりを聞いて烏と義父が落ち込む親父へ勢いよく振り返った。
「ち、違うって。……違うって、言ってるのに……」
「誤解されたくないならそういう言動は慎みなさい。穿った見方をするなら、今回の行動はわざとライオネルを怒らせて仕置きされたがってるように見える。夫婦のやり取りに私達を巻き込むな」
「う、う」
「……せめて人前でお話になるのはお止めください」
忠告は私共だけにお願いしますと言うとリカルド王子は顔をしかめた。
「ライオネル、私は不機嫌なんだ。今夜も妻のもとへと思ってたのに知らせが来た。推測で大まかなところは察していたし、後日対処するつもりだった。私としてはこのまま放っておきたかったのに拗れる前に何とかしてくれとディアナ達に頼まれたら動くしかない。おかげで私は夜中に君らを追いかけて、その間妻はディアナ達とパジャマパーティーだ。とても嬉しそうだったから許す。だが今夜も私が妻と過ごすはずだったのに!元凶のお前達に嫌味を言うくらい当然だろう!」
「「申し訳ありません!!!」」
「お、お静かに。さすがに内容が。ここには人を配置してませんが、あんまりなことは、」
「そうだな。フーッ」
義父の取りなしと平謝りの二人に荒ぶりは落ち着いた。
「ひ、ひひ」
笑い声をひそめようと烏が丸まってるが、無駄らしい。
「それと蝙蝠、烏、梟、止まり木。これも終わりにする。今後に不要だ。クドー、ここの商売は閉めてしまえ。風紀の取り締まりを強化するから撤退しろ」
「かしこまりました」
「処分されないのはありがたいんですが俺は失業ですか?あと数年は働きたかったですが」
「娘のミシェエラにお城を買って住まわせてやりたいんだったな。私の所有のひとつにお伽噺に出てきそうな小さな城がある。そこの管理人にどうだ?君に売っても構わないが、妻が気に入りそうで惜しくなった。そこの管理人になってくれた方が助かる」
「……城ですか?つり橋あります?小さめの」
「ある」
「壁は白ですか?」
「記録だと白だが。整備はいるかな。長らく放っておいたから変色してるかもしれない。おとぎ話に出てきそうな感じにするなら好きにしていいぞ」
「……今度、見に行きます」
「早めに行って手入れをしてくれ。来年辺りは妻に見せたい」
「大盤振る舞いですね」
「もう気にする相手がいないからね。私としては君らの自由を優先させたい。今までの感謝だ。唯一、頼むとしたら彼の相談相手を勤めてほしい」
半開きだった後ろの扉を押した。
そこにいたのはリカルド王子より小柄な少年。
いや、そんなに小さくはない。
青年らしさが体格に混じる。
驚くほど美しい少年だった。
扉から入ってきたのは仮面を指にひっかけて手遊びをするあの方。
リカルド王子だった。
「あれ?マスター、いらしてたんですか?」
「え?」
なんでここに?
「烏、お前はまだ働け」
「構いませんけど、素性を知れたら死ねと仰った。俺は覚えてますよ」
「ふふ、確かに言った。だが昔と状況が変わっただろう?死ぬ必要があるか?」
「……仰る通りで。じゃあ、生きてていいのか」
「そうだよ。それより問題はこの二人だ」
リカルド王子の視線の先は親父とルーラさん。
つられて俺達も顔を向けた。
「初めて私を出し抜こうとしたな」
「……お気づきでしたか」
まあなぁ、と神妙な態度の親父に軽く相づちを返した。
「夜回りの奴らから馬と馬車が足らないという知らせが来た。ライオネル、慌てていたにしても当番の奴らを抱き込んでから敷地を出ろ。ルーラは周到に準備したようだが、別宅の使用人から事前に連絡があった。勝手に使うなら連絡が出来ないタイミングにしろ」
普段、私にさせてるから穴だらけなんだと説教している。
「……ごもっとも」
「ルーラはしょっちゅう落ち込むが、落ち込むお前は初めて見た」
「……息子に見られたと思うと。……女性にまで手をあげて。……大変自分が。……惨めです」
「あんまり落ち込むと勃たなくなるらしいぞ。フォルクスが言っていた」
「……あの馬鹿が。……なんてことを教えてるんだ」
「ルーラ、夫婦の時間を増やすように考慮するから夜遊びはやめなさい」
「そ、そんなつもりでは」
「言い訳なら仲間にするといい。この助言は彼女達からだよ。今まで危険な綱渡りをさせていたから平凡な家庭に収まれないと思われている。……それと嘘か本当か分からんが」
言いよどんでルーラさんの不安げな様子と黙って見守る俺達を順に眺めた。
「……女性達から見て君は、自分をいじめて喜ぶ特殊な性癖と思われてるよ。私も今までの君を見て否定できん。心配になるほど自己犠牲を繰り返すし、熱心に口説いていた若い男より孫のいる年寄りを選ぶから。年齢や将来性、顔や性格はどう見てもあっちだろう。しなくていいと言ったのにわざわざあんな小汚ないのを相手にして。変わった性癖だな」
「ぶはーっ!!あーはは!蝙蝠!お前は、あっはは!うえっ!げほ!げほ!」
烏がむせるほど大笑いして、親父はプライド削れたのか静かにまた落ち込んだ。
「そ、そうじゃなくて、違う、そうではなくて」
半泣きのルーラさんの声が可哀想になる。
「ライオネル、彼女のことはチヤホヤして可愛がるより多少乱暴にした方が喜ぶらしい」
さっき手荒にされたのも本人には良かったんじゃないかとからかった。
「誤解ですぅっっ!!お願いです!やめて!」
「妻に悪影響だから君はその性癖はある程度自制しなさい」
「本当に誤解でございます!」
「大丈夫だ。君の趣向を制限するつもりはないから。ライオネルならきっと大概のプレイに付き合える。夜が長持ちしないというだけでどうにかなるだろう。寝取られも平気かもしれん。経験者だし、若い頃から慣れてる。そっちの趣味かと疑ってる。私なら相手の男を殺したくなるしどんなに愛する妻でも我慢ならん」
経験者だというくだりを聞いて烏と義父が落ち込む親父へ勢いよく振り返った。
「ち、違うって。……違うって、言ってるのに……」
「誤解されたくないならそういう言動は慎みなさい。穿った見方をするなら、今回の行動はわざとライオネルを怒らせて仕置きされたがってるように見える。夫婦のやり取りに私達を巻き込むな」
「う、う」
「……せめて人前でお話になるのはお止めください」
忠告は私共だけにお願いしますと言うとリカルド王子は顔をしかめた。
「ライオネル、私は不機嫌なんだ。今夜も妻のもとへと思ってたのに知らせが来た。推測で大まかなところは察していたし、後日対処するつもりだった。私としてはこのまま放っておきたかったのに拗れる前に何とかしてくれとディアナ達に頼まれたら動くしかない。おかげで私は夜中に君らを追いかけて、その間妻はディアナ達とパジャマパーティーだ。とても嬉しそうだったから許す。だが今夜も私が妻と過ごすはずだったのに!元凶のお前達に嫌味を言うくらい当然だろう!」
「「申し訳ありません!!!」」
「お、お静かに。さすがに内容が。ここには人を配置してませんが、あんまりなことは、」
「そうだな。フーッ」
義父の取りなしと平謝りの二人に荒ぶりは落ち着いた。
「ひ、ひひ」
笑い声をひそめようと烏が丸まってるが、無駄らしい。
「それと蝙蝠、烏、梟、止まり木。これも終わりにする。今後に不要だ。クドー、ここの商売は閉めてしまえ。風紀の取り締まりを強化するから撤退しろ」
「かしこまりました」
「処分されないのはありがたいんですが俺は失業ですか?あと数年は働きたかったですが」
「娘のミシェエラにお城を買って住まわせてやりたいんだったな。私の所有のひとつにお伽噺に出てきそうな小さな城がある。そこの管理人にどうだ?君に売っても構わないが、妻が気に入りそうで惜しくなった。そこの管理人になってくれた方が助かる」
「……城ですか?つり橋あります?小さめの」
「ある」
「壁は白ですか?」
「記録だと白だが。整備はいるかな。長らく放っておいたから変色してるかもしれない。おとぎ話に出てきそうな感じにするなら好きにしていいぞ」
「……今度、見に行きます」
「早めに行って手入れをしてくれ。来年辺りは妻に見せたい」
「大盤振る舞いですね」
「もう気にする相手がいないからね。私としては君らの自由を優先させたい。今までの感謝だ。唯一、頼むとしたら彼の相談相手を勤めてほしい」
半開きだった後ろの扉を押した。
そこにいたのはリカルド王子より小柄な少年。
いや、そんなに小さくはない。
青年らしさが体格に混じる。
驚くほど美しい少年だった。
3
あなたにおすすめの小説
公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした
佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。
その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。
長女ソフィア。
美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。
そして──もう一人。
妹、レーネ・アルヴィス。
社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。
姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。
だが彼女は知っている。
貴族社会では、
誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。
王立学園に入学したレーネは、
礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。
やがて──
軽んじていた者たちは気づく。
「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。
これは、
静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!
パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。
婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』
鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
--
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。
手放したのは、貴方の方です
空月そらら
恋愛
侯爵令嬢アリアナは、第一王子に尽くすも「地味で華がない」と一方的に婚約破棄される。
侮辱と共に隣国の"冷徹公爵"ライオネルへの嫁入りを嘲笑されるが、その公爵本人から才能を見込まれ、本当に縁談が舞い込む。
隣国で、それまで隠してきた類稀なる才能を開花させ、ライオネルからの敬意と不器用な愛を受け、輝き始めるアリアナ。
一方、彼女という宝を手放したことに気づかず、国を傾かせ始めた元婚約者の王子。
彼がその重大な過ちに気づき後悔した時には、もう遅かった。
手放したのは、貴方の方です――アリアナは過去を振り切り、隣国で確かな幸せを掴んでいた。
お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました
蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。
家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。
アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。
閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。
養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。
※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる