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番外編※ラド
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しおりを挟む「ついでに連れてきた。紹介する。私の弟だ」
「……あなた様は、この方まで連れ出して」
「残していくと私がいない隙に妻の夜這いに来そうで信用ならん」
「添い寝を頼むだけですよ」
「子供のふりして寄るな」
「あいたっ」
軽く肩をはたかれて前のめりに揺れる。
「顔が母親、そっくりですね」
烏の低い声に腕が粟立つ。
憎しみと殺気でどす黒い気配を漂わせてる。
殺気を放つ烏に皇太子の綺麗な顔には蔑みが浮かべた。
切られてもおかしくない不敬な発言に俺は息を飲んだ。
「気が合うね。僕もこの顔が死ぬほど嫌いだ。鏡を見ると毎回ゾッとする」
「ミシェエラは、」
「毎日、粉薬を飲むだけの簡単な仕事。死ぬなんて思ってなかったんだってね。ミシェエラが選ばれたのは僕と年が近くて体格が似ていたから」
「うおおっ」
急に叫んでナイフを振りかざすが親父とリカルド王子にあっという間に捕まえた。
ふたりとも来ると分かっていたように見える。
それに手慣れてる。
床に押さえつけられても、殺してやると口から泡を吹きながら叫んで床に頭をうちつける。
「いかん、発作を起こした。烏、落ち着け。薬を、」
「押さえておけ」
床に貼り付けにされた烏にリカルド王子は股がって、ルーラさんから受け取った指輪を口にかざした。
指輪の飾りを外すと中から白い粉がこぼれた。
濡れたハンカチで口をふさいで慣れた手つきで男達三人は烏が大人しくなるまで上から押さえつけて重しを勤めた。
「落ち着いたようだな」
リカルド王子は烏を労るように優しく声をかける。
こく、と淀んだ瞳の烏は首が揺れる。
「ミシェエラと同じようにルルドラも苦しんでいた。幸せだった者はいない」
「でも、そいつは生きてる。俺のミシェエラは死んだのに。女は皆バカなんだ。娘を金のために死なせた女房も、あの女も」
「殺すなら私よ。私のせいだから。薬を作り続けたのは私だって言ったじゃない!あんたの娘を死なせたのは」
「てめぇは、黙ってろ。蝙蝠」
「いいから殺してよ!」
「うるせぇ!」
「まだその自殺願望は抜けていなかったのか」
のんびりとするリカルド王子と烏にしがみついて泣き崩れたルーラさんを支える親父。
でもルーラさんは親父の手を振り払って烏にすがった。
「烏に蝙蝠は殺せんなぁ」
義父の呟き。
「ミシェエラの次に愛する女性だから」
「仲間だから、だ」
罰が悪そうに顔を歪める。
ナイフを捨てた手でしゃくりをあげる細い肩に手を添えた。
「蝙蝠羽のサキュバスって呼んでたけど、お前は黒い羽の天使だよ。女の癖に体ひとつで良くやったよ。ああ、ミシェエラは白い天使な?」
泣くなと慰めた。
「さあ、泣くなら夫のもとで。他の男の胸を借りてはいけないよ」
そう言いながら嗚咽をこぼして泣き続けるルーラさんを親父へと渡す。
義父の言葉は彼女に届いていない。
涙を流して死なせてほしいと繰り返す。
「いずれ時が解決するでしょう」
小さな慰めを告げた。
その一言に親父は苦しげに眉をひそめて泣き崩れる彼女を胸に抱き締めていた。
「烏、事は済んだんだ。次はミシェエラのために城を見に行こう。二人じゃ暇だろう。私も一緒にいいか?」
「何言ってるんですか」
「幸い、うちには跡取りがいてね。昼間の事は任せられる。私だけじゃなく家内や娘達も彼を信頼してる」
「その考えなしのポンコツが?大丈夫なんですか?」
「昼間ならね。全うな仕事なら任せて安心だよ。とても善人だから」
「くくっ、この怯えた顔じゃ梟は勤まりそうにありませんね。止まり木に抗ったのだって身内と分かったからだ。でなきゃ隅でプルプル震えていた」
その通りだとうつ向いた。
言い返す言葉なんかない。
結局、俺は誰かのおまけ。
自分の才覚で上手いこと立ち回るなんて何にもできないガキなんだ。
重ねたのは歳だけ。
そう思うといつもより自分がだめ人間だと思えた。
「心根がいい者は好きだよ」
「……僕もです」
リカルド王子がそう仰ると皇太子は小さく応える。
「性根が良いだけで仲間は守れませんよ。こいつは、俺達と違う。考えなしで回りを巻き込む。最悪だ」
烏に睨まれびくついた。
だけどなぜかその視線は蔑みや苛立ちより悲しみが映る。
涙を堪える時のアディを思い出した。
続いて頭によぎるのは「妹は良いなぁ」「姉さんはいいなぁ」と羨むマイラとアリエッタ。
それと両親に囲まれた友達を見て心底羨み、寂しいと感じた思い出。
なぜこの人とあの記憶が重なるのか分からないが。
「住む世界が違うんだ。こんなお花畑を跡取りになんて馬鹿なことを考えましたね」
「信頼できるということが大事だからね」
「こういう奴をこっちに引き込むのはどうかと思いますよ。役に立つもんか」
「お前達も同じだよ。始まりは私利私欲ではなく、全ては人のためだった。だから弟を頼もうと思った。そしてこれから立場を得る弟にも君らを守ってほしいと頼みたい」
ルーラさんの泣きじゃくる声が響く部屋でリカルド王子の言葉が俺達に降りかかる。
「彼らに私は友人という想いがある。助けになってほしい。頼めるか?」
「頼みごとが多い気がしますよ。皇太子という地位と国民の期待、それに兄さんの友人まで?」
「悪いね」
「面倒だけど彼らが僕らの悪夢から助けてくれたんでしょう?」
「そうだよ。いなかったらどうなってたかな」
リカルド王子の言葉に顔を歪ませ、ゆっくりと目を伏せて頷いた。
それぞれの思いを込めた様子に頷いて、私からの話は以上だと仰った。
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