婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

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番外編※リカルド

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ふよふよと風が来る。

柔らかく顔に当たるそれに気づいて目を開けた。

「起きられましたか?お疲れのようでしたので」

「ラインか」

いつの間にか寝ていたようだ。

寝起きで妻が足元にちょこんと座って扇で風を送っていた。

可愛らしさに気が緩むが、それより閉め切ったカーテンと部屋の暗さに一瞬戸惑った。

「夕方?それとも夜か?私は寝過ぎたかな」

「いえ、カーテンを閉めただけです。お外はまだ明るいです。お休みでしたから眩しくないように。日差しも今日は少々暑い気がしまして」

「そうか」

それで涼しくなるようにと気を遣って扇で仰いでいたのか。

床に座ったままのラインがいじらしいと感じて胸が熱くなる。

それと同じくらい安らぎも感じて甘い砂糖の中を泳いでる気分になった。

甘酸っぱさを胸に隠し、もっと近くにほしいと願い、おいでと手招きをした。

薄暗がりに浮かぶ顔はきょとんと目を丸める。

「え、と?私はここにおりますよ?」

足元にいるのになぜと言いたいのか。

ソファーは広々と空いているのだから床に座ることないのにと笑みがこぼれる。

「もっと側に。そんなところに座ってないでおいで」

手を向けると素直に掴み、引くとすんなり立ち上がった。

それから困ったと眉を下げて首をかしげる。

このまま隣に座ればいいのに。

「どうした?座りなさい」

立ったままのラインに尋ねるが返答がない。

「……えと。ここ、ですか?」

おずおず膝に乗った。

膝にだ。

膝に。

私の。

「……正解」

寝室でラインの定位置は膝だ。

今も部屋が暗いからどこに座っていいか悩んだのだな。

正解だ。

そのつもりはなかったが正解だ。

素晴らしい。

心臓を掴まれたくらいのときめきがあった。

ラインは当たったことにほっと小さな安堵のため息をついて私の肩に頭を乗せた。

少し体を丸めて胸に寄りかかる。

ふわふわの髪の毛が頬にかかってくすぐったい。

だけど髪が当たる肌より心がむず痒い。

香りを嗅ぎたくて顔を向けて鼻を埋めた。

特別な香りがあるわけではないが安心する。

自然と私も小さくため息がこぼれ、大きく深く香りを吸った。

「……ライン」

「はい。なんでしょうか?」

「……いい子だ」

「ありがとうございます」

きゅうっとしがみついて。

細い腕、小さな体。

声に微笑みが混じっていた。

力強く抱き締めたいのを堪えてラインを包んだ。

私の一回り小さな手を握ったり髪を撫でたり。

キスしたい、という想いも堪えてただこめかみに鼻を埋めるだけ。

時間をかけるとゆっくり自分から首に腕を回して頬にキスをして来る。

急かしたくなるのを堪えた。

それに色気のあるキスじゃなく唇を滑らすだけ。

これがラインの精一杯。

そして合図。

やっと許可が降りた。

顔を横に向けて私からラインの唇に。

静かに滑らせるだけのキスを返す。

色気のあるものではなく、子供が見せる仕草。

これが何を意味するか理解はできる。

赤子が母親に抱かれて育つようにぬくもりを求めてるだけだ。

まだ肉ではない肌の安心感。

今まで相手した女性達の違い。

色恋や欲のない安らぎ。

分かりやすい。

私も相手に求めたことのあるぬくもりだから。

似た経験からラインの望みを察した。

屈折した育ちは私も同じ。

亡くした母を求めて。

代わりにいるのは美しい女の皮を羽織った化け物だった。

ライオネルとディアナから親の情を学び得られたが、私達は親子の代用品だった。

彼らが本当に与えたかったのは私じゃないことも分かってる。

二人は我が子を望み、私が求めたものは微かな思い出を残して逝ってしまった母。

記憶とは厄介で、残っているせいで欲しいものと与えられたものの違いをまざまざと思い知らされる。

ライオネル達に親愛が募れば彼らの子供達への嫉妬に溺れ、冷静さを求めれば顔も知らない子供から親を取り上げた罪悪感に苛まれる。

だから求めず欲しがらず、与える立場を選んだ。

それを目指し、自身を知れば回りが見渡せた。

不思議なことに物事を達観すると次は人の望みと苦しみが理解できるようになった。

人の扱いがうまいと言われるのはそのせいだ。

苦しみがある人間は救う者を裏切らない。

私は相手の望む立ち位置を理解すればいい。

陛下である父の背負うもの。

継母の私と母へ向ける増悪。

ルルドラの苦境。

ライオネルとディアナの家族。

ルーラの贖罪。

クドーとハイステッドの憎悪と怒り。

それぞれの歪みと想いがある。

最近、無欲と献身の淑女と呼ばれているラインも同じ。

ラインが今、求めてるのは欲のない情。

何も言わず静かに甘え引っ付いてるラインの髪に指を絡める。

本人と周囲は妻らしさにこだわって髪をまとめたがるが、プライベートで過ごす時は下ろしておけと言った。

こうやって指通りのいい髪を撫でて過ごしたいから。

それにあの家で若い娘の、令嬢らしい格好もせずに過ごしてたのなら。

そういったことを楽しませたかった。

自分から少しずつ小物や服装を選んで若い女性らしい楽しみを満喫してるらしい。

今日の髪飾りはこれか。

手に当たった髪飾りを撫でる。

頭の後ろを横へ一列。

幅広に後頭部を覆うように飾ったガラス細工のビーズはレース編みのように繊細な柄。

ちょこん、ちょこんと間を開けて鈴なりに垂らしたビーズを指でつついてシャラシャラと揺らす。

クドーに勧められて、たくさんのガラスのビーズを買って送った。

ルーラ達と試作を重ねていくつかの孤児院の子供達に作り方を教えていた。

今着けてる飾りは特に良くできたと本人が気に入っている。

ガラスビーズの擦れる細かい音に混じってラインの落ち着いた呼吸が聞こえる。

私と同じように音に聞き入っているようだ。

ぴったり引っ付いて離れたがらない様子に充足感を得て頬が緩む。

力を抜いてまったりと私に寄りかかって安心しきったラインに満足だ。

このペースでいい。

いずれ育つ。

今も確実に育っている。

そう思えてあれほど気づいてやれなかった後悔や先を急ぐ焦燥感はいつも落ち着く。

無理はさせたくない。

ラインの回りで私以上に与えることに慣れた男はいない。

ラインに甘え上手なルルドラでさえラインにとっての与える者ではない。

家族の望む受け皿を勤め、他人の望む姿を見せるラインは私に近い。

自分を殺して、私以上に与えることに慣れたラインが唯一求めるのは私だけだと知ってる。

それに。

悪くない。

触れあう頬の心地よさ。

私へ寄せる無欲な愛情。

与えられたことの喜びと幸福。

ラインが私の与える者だ。

私も彼女のためにそうなりたい。

だけどそれは夫としてだ。

男としてラインと過ごしたい。

溶けた感覚に目をつぶりラインの唇を軽く食む。

続きをねだるために。
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