婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

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番外編※リカルド

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「きゃっ!」

「ライン?!ぐっ!ううっ!」

いきなりだった。

上に乗っていたラインの息をつめたような悲鳴と一緒に重さが消えて代わりに顔のど真ん中に衝撃。

繰り返され、髪を鷲掴みにソファーから引きずり下ろされた。

「このっ!」

一発めで殴られたとすぐに察した。

王宮のプライベートでまさか、とよぎったが疑問は後回しだ。

こんな寝込みを襲う荒事には慣れてる。

反撃は早ければ早いほどいい。

怯む暇はない。

咄嗟に相手の腕を掴んで、あると分かる鳩尾の位置を狙って拳を叩きつける。

「うぐっ!」

相手の声に男と判断して次は股間を狙った。

だが、相手が早かった。

頭を両手にがっちり鷲掴みにされて、ごっと眉間に頭突き。

こっちはその衝撃で次に狙っていた先は空振り。

目眩。

薄暗い部屋のはずなのに辺りが真っ白に見えた。

「ぐっ!」

しまったと思ったがまた遅かった。

もう一度、ごっと眉間に頭突き。

さっきより強めに。

暗闇のせいではなく目眩で見えない視界は諦めて手探りで馬乗りになる相手の首を掴んだ。 

「えー?兄上、次は僕を殺すんですか?母の次に。僕の母を殺した癖に今度は僕?」

すぐに絞めようとしたのに。

嘲りの混じったその一言で固まった。

「る、ぐっ!」

ばちんっと張り手。

それから拳。

何発も。

「あんたのせいだ。何もかも」

低い声。

「母上はあんたがいなきゃもっとまともな人だったんだっ」

かもな。

だからと言ってこっちは生きてるのに死ぬのは嫌だ。

あの女と妥協点を探そうにも私と亡くなった母の存在を消すことに固執してどうにもならなかった。

周囲の人間の命を、次々と簡単に刈り取る快楽殺人犯には妥当な対応。

むしろ世間には公表せず慈悲深い王妃の病死として、死後もあの女の名誉は守られた。

国内外の世評に波立たせないため。

ルルドラのための温情。

お門違いだなと頭は冷静に答えていた。

振り下ろし続ける拳から腕で顔を隠す。

抵抗して殴り返そうと思うのに動けない。

あんたのせいだと震える声で訴えるのが苦しみの吐き出しなのだと感じてルルドラに何かしたくなかった。

このまま受け入れたかった。

「ぅぐ、」

ああ、くそ。

だが首を絞めるのはなしだ。

苦しくて締まる手を引きはなそうとするが成長して強くなった握力にうまくいかない。

「みんな、みんな、僕を望んでないんだっ!回りはあんたのことばかりだ!なのにあんたの代わりに!」

「や、やめてっ!だめ、こんなことしないでっ」

ラインの声が聞こえる。

人を呼んでこいと言いたいが声が出ないしこんな格好ではなぁ。

絞められた喉の痛みと水に沈められてような息苦しさにはくはくと口が動く。

行き過ぎた兄弟喧嘩にどうしたものかと悩むが、何度も味わった死にかけた経験が妙に冷めた感覚を生んだ。

あの女のじわじわと追い詰める殺意に慣れ過ぎていた。

ルルドラより幼かった頃、「いつか絞めてあげるわね」と私の首を撫でて耳元で囁いていたのを思い出した。

死んだくせに。

ここで実現するとは忌々しい。

首と手のひらの隙間に指をねじ込みながら頭の片隅を掠めた。

「人殺しの母親なんかいらない。あの人にとって僕は、父上の気を引く道具だった。いなくなってすっきりしたよ。でもなんでこんなに寂しいんだよ。今さら僕を構うあんたも父上も。あんたは責任から逃げて僕に押し付けて、父上は僕があんたの代わりだから構うんだ。いなくなればいい」

体重をかけて、ますます首への圧迫が強まる。

鳩尾にめり込む膝。

二の腕の真ん中に踵を刺して下手に動かすと折れる。

私が教えた体術。

がっちりハマって上手く抜けられない。

「ふっ、ぐ、ぅうっ」

「あんたがいなければ、よかったんだ。いなければ、全部」

「やめてよ!どいてったら!」

「いっ!」

何があったのか上に乗っていたルルドラが横に崩れてこっちは軽くなった。

「げほっ!」

飛び起きなければと思うのに、激しく咳き込む。

殴られた痛みを耐えながらなんとかよつんばに這った。

「……ライン義姉様。……蹴ったの?僕のこと」

横を見ると尻餅をついて脇腹を押さえながらラインへ静かに問い掛けている。

「分かってくれると思ったのに。ライン義姉様だけは。……兄上も、ライン義姉様も、だいっ嫌いだ!」

「きゃっ!」

「ルルドラ!やめろ!ラインにまで手をあげるな!」

「うるさいっ!」

高く振り上げた拳。

それはラインに向けてだった。

ラインに飛びかかるルルドラを止めたかった。

だけど当たりどころが悪かった。

格段に体術が上達したこいつは、床を蹴って下から飛びついた私の後頭部に肘をめり込ませた。
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