婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

文字の大きさ
112 / 120
番外編※リカルド

15

しおりを挟む
「……拗れてる」

亡くなった私の母にしか興味を持てなかった父。

気を引きたくて魔女になったルルドラの母親。

道具にされたルルドラ。

全て終わったと思ったのに。

母親への情が心の片隅にあるルルドラには断罪の場を作った兄と死を許した父親は複雑に映っている。

理想の母親として、姉のように。

唯一、女性として慕うラインは私の妻。

物として生きた者は愛する者以外、他者は全て物だ。

全てがどう転ぶのか。

父はまだしも、ルルドラが皇太子として難しいのなら。

それもまた考えに入れるべきかと静かに眠るラインを見つめてじっと考え込んだ。

父のもとにディアナ、ルルドラのもとにライオネル。

それぞれの伝達に私の信頼する者達。

全員、私の顔にぎょっとしていた。

事の内容を知らない一人は久しぶりにそんな顔を拝見しましたと苦笑いを見せた。

以前はフォルクスに頼んで稽古の怪我として誤魔化してた。

あいつは下の立場から上がってきたせいか、不思議とさばけた男で「男なら拳に頼る時もありますよねぇ」と笑い、死んだら困るからと型破りで卑怯な剣術や戦闘を私に仕込んだ。

平民の生活や商人の口八丁、暴力の世界。

母の生前、隊員のひとりだった頃から勉学と貴族社会だけ生きる何も知らない私に面白がって外の世界について入れ知恵する奴で、世話人のひとりだったライオネルは他の使用人のように知らなくていいなどと言わず、己が無知であると知ることに価値があると私の興味あること、知りたいこと、やりたいことは止めなかった。

そして母を亡くし、継母が来てから私の回りの人間は減った。

私を見限って去った者、継母が刈り取った者。

そんな中、残ったライオネル達を守りたくて。

それ以外に生きる糧がなかったかもしれない。

暇になると嫌なことばかり思い出して考え込んでしまう。

仕事があればいいのに。

届いた書類が思ったより少なかった。

父とルルドラが取り合うように仕事をしてるらしい。

気を遣ってなのか、自身のためなのか分からないが。

引き出しから古い見直すだけの書類を出して形ばかり仕事を増やし、やることなくそれを繰り返し読み耽った。

深夜になりライオネルから寝るようにと指摘されても、もう少しこのままと少なくなった書類の束を乗せた書斎机から移動する気になれなかった。

「ルルドラは母親の処分をどこで知ったかわかったか?」

それだけは知らせていなかったはず。

ライオネルは一拍の思案のあと分かりかねると答えるだけだった。

あの女の企てた王妃の毒殺、ルーラの処遇、私の友人達の恨みはルルドラ本人が調べて私が全てを話した。

知ってるのは私と父だけ。

外界には病死。

拿捕に関わった他の人間にはプライドの高い女が自死を選んだとなっている。

私の回りの者たちの中でも実情はライオネルしか知らない。

そしてここまで考えたら切っ掛けは父だと察する。

「……ふぅ。父は子供と思って油断したのか」

子供だからこそ、細心の注意を持ってほしかった。

従順な見掛けによらず、ルルドラは烏に似て傷つきやすく思い込みが激しい激情型だ。

賢さがマイナスに振り切る。

「こうも暴れて、人を簡単に襲うようなら……ラインは別邸に移す。……ルーラ達も。今はしばらく様子を見るが、怪しいと思ったらすぐに報告をしろ」

「畏まりました」

「……父のことも。ルルドラとの間に入ってやれ」

小さなため息をこぼした。

気を回さねばならないことが多すぎる。

ライオネルの言いよどんだ気配を感じてふと目を向けた。

「……今回ばかりは、あなた様の指示に疑問がございます」

「妥当な采配だろう?」

「……分かっております。ですが、なぜあなた様だけ堪えなければならないのかと。私には全てが丸く収まるというのは難しいように思います。一度は手放したお立場ですが、いずれ戻ることも必要かもしれません」

「戻るのは簡単だろうなぁ」

自ら下げた評判で苦労するだろうが、今まで温情となる采配を振っていたことで味方となる者が多い。

陛下という立場から父の厳粛さを模倣しつつ私は慈悲を残した。

王子という産まれ持った地位。

これまで教育者に恵まれたおかげで“身ひとつ”で価値を周囲に見せしめることができる。

私は私の居場所を作るのは得意だ。

だが、ルルドラは違う。

囲いの中で育った。

血筋以外の価値を周囲は知らない。

まだ皇太子として若く幼いこと。

そして三大公爵家全てから生まれの存在を忌避されている。

ひとつは娘を殺され、ひとつは子を成せぬように貶められ、血の繋がる最後のひとつは天に唾を吐く所業に恐れて恥じた。

あれの息子と思えば彼らは蛙の子は蛙と見なし嫌悪している。

公務や年の近い者たちとの集まりに参加しているが、いまだに友人らしい関係は聞かない。

ルルドラの安らぐ相手はラインだけかもしれないとよぎった。

「自分こそ諦めろと言われ続けたくせに。お前に言われてもなぁ。あぁ、私は教師に似たのか。粘り強く周到に立ち回る大事さ」

私の回答は想定内らしい。

会得した様子で微かに頷いて見せた。

唐突な結婚報告と早すぎる妻君の出産、それと全く違う色。

堂々とした態度に覚悟の上と察した。

それでも産まれた子は可愛かったらしい。

私へ向けた眼差しと同じ眼で息子を語る。

幼い頃からこの男の深い情はとても心地好かった。

「お前はそういう男だ」

「あまり良い教育者ではなかったようですね」

「どうかな」

私はお前のように恥じない男になりたかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました

天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」  婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。  婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。  私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。  もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。 そんな時、夫は陰でこう言った。 「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」 立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。 リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。 男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。 *************************** 本編完結済み。番外編を不定期更新中。

婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。  レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。  知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。  私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。  そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

【完結】謀られた令嬢は、真実の愛を知る

白雨 音
恋愛
男爵令嬢のミシェルは、十九歳。 伯爵子息ナゼールとの結婚を二月後に控えていたが、落馬し、怪我を負ってしまう。 「怪我が治っても歩く事は難しい」と聞いた伯爵家からは、婚約破棄を言い渡され、 その上、ナゼールが自分の代わりに、親友のエリーゼと結婚すると知り、打ちのめされる。 失意のミシェルに、逃げ場を与えてくれたのは、母の弟、叔父のグエンだった。 グエンの事は幼い頃から実の兄の様に慕っていたが、彼が伯爵を継いでからは疎遠になっていた。 あの頃の様に、戻れたら…、ミシェルは癒しを求め、グエンの館で世話になる事を決めた___  異世界恋愛:短編☆(全13話)  ※魔法要素はありません。 ※叔姪婚の認められた世界です。 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

愚か者が自滅するのを、近くで見ていただけですから

越智屋ノマ
恋愛
宮中舞踏会の最中、侯爵令嬢ルクレツィアは王太子グレゴリオから一方的に婚約破棄を宣告される。新たな婚約者は、平民出身で才女と名高い女官ピア・スミス。 新たな時代の象徴を気取る王太子夫妻の華やかな振る舞いは、やがて国中の不満を集め、王家は静かに綻び始めていく。 一方、表舞台から退いたはずのルクレツィアは、親友である王女アリアンヌと再会する。――崩れゆく王家を前に、それぞれの役割を選び取った『親友』たちの結末は?

処理中です...