伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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63、ワイン

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私たちは柔らかいソファーに隣同士で腰掛け、果実水を飲みながら庭を眺めて過ごしました。

特にお互い会話をすることもなく黙って寄り添っているだけですが、ロルフ様の穏やかな瞳に見つめられて、今までにない程心が凪いでおりました。

「楽しかったね。」

「はい。とっても。」

夢のようでしたと呟けば、ロルフ様は目を細めて頷かれ、私は静かに先ほどの名残に想いを馳せ、時折ロルフ様の瞳を見つめ、お互いただ穏やかに微笑みを浮かべます。

やはりいつも以上に体を使ったせいで、眠たい訳ではなく目蓋が重く感じます。

「疲れた?」

「はい。気分はとても良いのですが、体が、少々ツラいです。目蓋が重くて。」

「大丈夫か?どこか休んだ方がいいかな。」

「はい。どこかあるなら休みたいです。ございますか?」

パッと隣のロルフ様を見上げると、どうやら私の顔を覗き込んでいたようで、思ったより近くにロルフ様のお顔がございました。
 
「あっ」

「わっ」

お互い驚いて飛び上がり、私はこんなに近く隣同士に座っていることが恥ずかしくなって両手で頬を押さえて立ち上がります。

「私、こんな近くに座ってしまって!申し訳ありません。」

慌てて横の、もう1つの一人掛けの椅子へ移動します。

「いや、後から座ったのは俺だから!ご、ごめん。」

顔を赤く染めたロルフ様が私を気遣い、離れて座り直します。

近すぎましたね、と赤い顔を見合せ笑い合いました。

「ぉぃ!おい!!見つけたぞ!勝手にいなくなるな!」

後ろから離れた所から大きな声が聞こえて、私達は驚いて振り返りました。

「あら、第二王子と、お隣はサフィア様でしょうか。」

「またやかましくなるなぁ…」

駆け寄る第二王子の腕にサフィア様が引きずられるように連れられています。

今にも転びそうな様子に心配になりました。

「フィンレー様!お待ちくださいませ!」

「自分から勝手に付いてきたじゃないか!」

人が私達以外いないので注目を集めることはないのですが、お二人の争う声は大きく、まわりに控えています給仕らは緊張した様子で成り行きを見つめていました。


「おい!リリィ、聞いてるのか?」

「フィンレー様!私がおりますのに!」

「ああもう離せ。邪魔だ。」

乱暴に手を振り払い、サフィア様を置き去りに私達の座る一角へ。

そんな状況なのにサフィア様は第二王子に従って後ろから付き添って来られます。

「第二王子、我が国の令嬢への乱暴はやめていただきたいと再三お伝えしたはずですが。」

第二王子はロルフ様の向かい、私の隣の長椅子に腰掛けて、離れろと言ってもついてくるんだと憮然と仰います。

同席を遠慮して近くのテーブル席へ腰掛けるサフィア様があまりにも気の毒でそちらを見ることが出来ず、手元へ視線を落としました。

喉が乾いたという一言で給仕がワインをセッティングされ、言われる前に用意しないことへの不満を漏らします。

私の感性からは第二王子の尊大な態度を不快と感じますが、連れている侍従や外交官は王家を神聖とし、どんな振る舞いでも喜んで受け止めていらっしゃいました。

ロルフ様は忌々しそうに顔を歪めると第二王子の母国語で話しかけ、お二人で会話をなさいます。

私の分かる単語が聞こえてきますが、日常会話以上の文法は苦手で全く会話の意味は分かりません。

お母様とお姉様の会話を聞いてるようだとじっと気配を消して座っているだけの空気が似てるとひとり考えていました。

合間で、私にもワインを飲めと何度も仰られ、形ばかりグラスに注いだワインを舐める程度に飲むと満足されました。

「おいしいか?」

「お酒は初めてなのでよく分かりません。あの、苦いと思いました。」

「はっはっはっ、そうか。なら甘いものにしよう。早く用意してやれ。」

こちらに話しかけても一言、二言お話ししたらロルフ様が遮って会話をされますので、あとはただじっと石のように固まって自身の爪を眺めて過ごしました。

途端に、背中に強い衝撃を受けて私は椅子から前のめりに倒れました。

咄嗟に腕をつき出しますが、テーブルにぶつかり跳ね返って地面に伏しました。

もう一度、背中に強い衝撃を受けて突っ伏します。

見ると私の横にゴロゴロとワインのデキャンタが転がり、給仕やロルフ様達の慌てる声に、背後を見上げたらサフィア様がソファーの後ろで涙を流して茫然と立っていました。

サフィア様に突き飛ばされ、カートに乗せていたデキャンタを投げつけられたと分かりました。

ワインを背中に浴びて黄色味の強いクリーム色のドレスが赤く染まって、皆様は青ざめて私を見つめていました。
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