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67、診察
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王妃の宮殿に私は預けられて、ロルフ様はすぐに会場に戻られました。
湯あみが終わると部屋にサラとディーナが待っていました。
もともと用意していた予備のドレスも部屋に運び込まれ、着替えの用意は済んでいます。
二人とも目が赤くて泣いていたと分かりました。
「ごめんなさい、心配かけて。」
「いいえ、お辛いのはリリィ様です。」
生きていたらこういうこともあるんでしょうね。
そう思うのですが、二人の様子に言葉にするのは憚られたので、微笑むだけにしました。
着替えて会場に戻ると言うと、宮殿のメイドから会場に戻るかどうかは医師の診察を受けてからにしてくださいと止められて、医師が部屋に呼ばれました。
タットくらいのおじいちゃんでした。
荒っぽい人で名も告げず、早く怪我を診せなさいと急かします。
長椅子の上で腕を診せて、背中と胸元の触診を嫌がって逃げたらサラとディーナに叱られ、宮殿のメイド達も手伝って私の服を剥がしてしまいました。
怖いことしませんと医師は笑って診察を行います。
怖いんじゃなくて恥ずかしいんです。
背中は我慢できたけど胸元は嫌でした。
診察を受けてる間も不満を込めて見つめてしまい医師は苦笑いされてました。
「診たところどこも折れてはいません。良かったですね。」
ニコニコ微笑む医師の言葉にサラ達だけではなく、宮殿のメイド達もホッとした様子でした。
「痛むのは腕と胸と、背中のみで間違いないですか?」
「はい。」
「上を向いて。あぁ。……やはりここもぶつけてますね。赤くなってます。」
「え?顎も?気づきませんでした。」
どうやらテーブルにぶつけていたようです。
「あんまり痛くないから大丈夫そうです。」
「ん~…だいぶ腫れてるので痛いと思いますよ。どれどれ、ああ、ほらね、触ると痛むでしょう?」
医師に顎をさわられて痛みに顔をしかめると医師はニコニコ笑って他の触診を始めました。
「他が痛くて分かりにくいんですよ。よくあることです。念のため、他の所も診ておきます。」
「足はぶつけてませんよ。」
「まあ、念のため。」
「リリィ様、本当にお願いですからしっかり診てもらってください。」
「先生、念入りにお願い致します。リリィ様はすぐ我慢してしまうんです。」
「そうですね、ちょっと痛みに鈍感なようですしね。」
あごの打撲の他は掌に擦り傷が少し、足首を捻ったようで少し痛みがあります。
医師に足首をぐにゃぐにゃ曲げられ、痛い痛いと騒ぐと、ほらね、ありましたよと笑うのです。
先程、湯あみへ歩いた時は平気でしたのに。
「無意識に庇って歩いていたんでしょうね。」
強く曲げたからではないの?と思ったのに反対の足首は同じようにされても痛くありません。
「テーブルにぶつけてたのは上半身なのに、なぜ足まで怪我したのか不思議です。」
「咄嗟のことで無理に体を支えようとしたのでしょう。」
しばらく大人しくしないと歩き方に癖がつきますよと注意され、会場に戻るのは止められました。
結局、ドレスではなくお借りした寝巻きとガウンを着せられた後、ヨルンガを呼んでゲストルームの寝室へ運ばれました。
「心配かけてごめんなさい、ヨルンガ。」
「そうですね。ノコギリを持ち出した時くらい驚きましたね。」
「あぁ、あったわね。ふふ。やめてよ、昔のことを。」
思わず口許が緩んで笑ってしまいます。
みんな心配してるのにヨルンガだけ昔のことを引っ張り出してからかうから。
ヨルンガの腕の中で顔を見上げる私を見ていつも通り微笑んでいました。
サラ達が整えてくれたベッドへ優しく降ろされ、痛みに顔を歪める私をヨルンガは一瞬痛々しそうにしていましたが、また表情を隠して微笑みました。
「クッションの位置はよろしいですか?苦しくありませんか?」
「大丈夫。ちょうどいいわ。…ねえ、小さい頃みたいに頭を撫でて。」
躊躇するヨルンガに、頭は打ってないから大丈夫と伝えると安心したようで、小さい頃のようにおでこにかかる髪をとかし撫でてくれます。
「今日はとっても頑張りましたね。」
繰り返しいい子いい子と小さく呟きながら眉をなぞったり頬を撫でてり、ヨルンガのひんやりした手が気持ちよくてじっと目を閉じていました。
ああ、このまま眠れそうだと、心地よくうつらうつらしていたら、ヨルンガは手を止めてドアに向かっている気配を感じます。
満足している私は呼び止めず、目を閉じたままじっとしました。
「………ディーナ、ニヤニヤするな。」
「………申し訳ありません。」
ボソボソと聞こえる二人の会話に思わず口許が緩みました。
夜中に何度か痛みで呻くと、その都度サラがクッションの位置をずらしてくれます。
「ありがとう、でもサラも休んで。」
「明日、お休みするので大丈夫です。今はご自分のお体のことを1番に考えてくださいませ。」
サラもヨルンガがしてくれたように額を優しく撫でていい子いい子と呟いて何度も寝かしつけてくれました。
湯あみが終わると部屋にサラとディーナが待っていました。
もともと用意していた予備のドレスも部屋に運び込まれ、着替えの用意は済んでいます。
二人とも目が赤くて泣いていたと分かりました。
「ごめんなさい、心配かけて。」
「いいえ、お辛いのはリリィ様です。」
生きていたらこういうこともあるんでしょうね。
そう思うのですが、二人の様子に言葉にするのは憚られたので、微笑むだけにしました。
着替えて会場に戻ると言うと、宮殿のメイドから会場に戻るかどうかは医師の診察を受けてからにしてくださいと止められて、医師が部屋に呼ばれました。
タットくらいのおじいちゃんでした。
荒っぽい人で名も告げず、早く怪我を診せなさいと急かします。
長椅子の上で腕を診せて、背中と胸元の触診を嫌がって逃げたらサラとディーナに叱られ、宮殿のメイド達も手伝って私の服を剥がしてしまいました。
怖いことしませんと医師は笑って診察を行います。
怖いんじゃなくて恥ずかしいんです。
背中は我慢できたけど胸元は嫌でした。
診察を受けてる間も不満を込めて見つめてしまい医師は苦笑いされてました。
「診たところどこも折れてはいません。良かったですね。」
ニコニコ微笑む医師の言葉にサラ達だけではなく、宮殿のメイド達もホッとした様子でした。
「痛むのは腕と胸と、背中のみで間違いないですか?」
「はい。」
「上を向いて。あぁ。……やはりここもぶつけてますね。赤くなってます。」
「え?顎も?気づきませんでした。」
どうやらテーブルにぶつけていたようです。
「あんまり痛くないから大丈夫そうです。」
「ん~…だいぶ腫れてるので痛いと思いますよ。どれどれ、ああ、ほらね、触ると痛むでしょう?」
医師に顎をさわられて痛みに顔をしかめると医師はニコニコ笑って他の触診を始めました。
「他が痛くて分かりにくいんですよ。よくあることです。念のため、他の所も診ておきます。」
「足はぶつけてませんよ。」
「まあ、念のため。」
「リリィ様、本当にお願いですからしっかり診てもらってください。」
「先生、念入りにお願い致します。リリィ様はすぐ我慢してしまうんです。」
「そうですね、ちょっと痛みに鈍感なようですしね。」
あごの打撲の他は掌に擦り傷が少し、足首を捻ったようで少し痛みがあります。
医師に足首をぐにゃぐにゃ曲げられ、痛い痛いと騒ぐと、ほらね、ありましたよと笑うのです。
先程、湯あみへ歩いた時は平気でしたのに。
「無意識に庇って歩いていたんでしょうね。」
強く曲げたからではないの?と思ったのに反対の足首は同じようにされても痛くありません。
「テーブルにぶつけてたのは上半身なのに、なぜ足まで怪我したのか不思議です。」
「咄嗟のことで無理に体を支えようとしたのでしょう。」
しばらく大人しくしないと歩き方に癖がつきますよと注意され、会場に戻るのは止められました。
結局、ドレスではなくお借りした寝巻きとガウンを着せられた後、ヨルンガを呼んでゲストルームの寝室へ運ばれました。
「心配かけてごめんなさい、ヨルンガ。」
「そうですね。ノコギリを持ち出した時くらい驚きましたね。」
「あぁ、あったわね。ふふ。やめてよ、昔のことを。」
思わず口許が緩んで笑ってしまいます。
みんな心配してるのにヨルンガだけ昔のことを引っ張り出してからかうから。
ヨルンガの腕の中で顔を見上げる私を見ていつも通り微笑んでいました。
サラ達が整えてくれたベッドへ優しく降ろされ、痛みに顔を歪める私をヨルンガは一瞬痛々しそうにしていましたが、また表情を隠して微笑みました。
「クッションの位置はよろしいですか?苦しくありませんか?」
「大丈夫。ちょうどいいわ。…ねえ、小さい頃みたいに頭を撫でて。」
躊躇するヨルンガに、頭は打ってないから大丈夫と伝えると安心したようで、小さい頃のようにおでこにかかる髪をとかし撫でてくれます。
「今日はとっても頑張りましたね。」
繰り返しいい子いい子と小さく呟きながら眉をなぞったり頬を撫でてり、ヨルンガのひんやりした手が気持ちよくてじっと目を閉じていました。
ああ、このまま眠れそうだと、心地よくうつらうつらしていたら、ヨルンガは手を止めてドアに向かっている気配を感じます。
満足している私は呼び止めず、目を閉じたままじっとしました。
「………ディーナ、ニヤニヤするな。」
「………申し訳ありません。」
ボソボソと聞こえる二人の会話に思わず口許が緩みました。
夜中に何度か痛みで呻くと、その都度サラがクッションの位置をずらしてくれます。
「ありがとう、でもサラも休んで。」
「明日、お休みするので大丈夫です。今はご自分のお体のことを1番に考えてくださいませ。」
サラもヨルンガがしてくれたように額を優しく撫でていい子いい子と呟いて何度も寝かしつけてくれました。
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