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68、傷※サフィア
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我が国の筆頭公爵ザボン家の一人娘として生まれたサフィア。
祖先を辿れば王家の姫が幾度も降家し、王家の血筋を色濃く継いでいる。
幼少期より蝶よ花よと大事に育てられ、黄金の巻き毛は特に周囲の憧れを集めた。
「美しいお嬢様、大きくなられたらお嬢様はきっとやんごとなき方の奥方になられましょう。」
使用人は口々に誉めそやした。
また父親も国の宰相として美しい我が娘を王族へ、望めるなら王妃へと夢見て熱心に教育した。
陛下のもとにサフィアと年齢が吊り合う王子が3人。
どの王子に見初められてもおかしくないと家族と屋敷の使用人は信じていた。
事あるごとにサフィアに未来の王妃の可能性をほのめかし、未来の王妃として恥ずかしくないように育てられた。
サフィア本人も、まだ見ぬ王子に見初められると信じていた。
父親のザボン公爵は美しく育った娘に喜び、デビュー前に行われる王子との交流会へ積極的に参加させた。
王家のお茶会では、サフィア以上の美しい巻き毛がいなかった。
ブルネットや栗毛、赤毛、プラチナ、その中でもっとも輝く自身の色。
周囲の令嬢たちに憧れを向けられ優越感を抱いた。
王族との謁見で初めて王子達にお会いし、どの王子に自分は愛されるか心が踊った。
特に4つ年上の第一王子に憧れ、積極的に関わっていく。
いずれ自分に婚約申し込みが来るはずと信じて。
1年が経ち、2年が経ち、次第にサフィアはおかしいと気づき始めた。
どんなに近づこうとも王子達の態度は他の令嬢へ向ける眼差しと大差ない。
父親に泣きながら訴えても、父親は王子達の婚約者選びは国内外の政治的な思惑が絡み、難航していると話すばかりで、納得できなかった。
なぜ王子達の瞳に自分が映らないのか。
サフィアの心は王妃となるべく生まれた自分を蔑ろにされた思いで溢れて、どんなに誉めそやされようと王子以外の男に愛を囁かれようと満たされない思いに堪えられず苦しんだ。
サフィアはもうすぐ齢18。
王家からの申し込みを夢見ていたが、他家への輿入れを覚悟せねばならない年齢になった。
苦しい思いを隠して迎賓館でのおもてなしを務めた際、悩むサフィアの前に美しい金髪の王子が現れ心を奪われた。
王家の色とされる黄金の髪、アイスブルーの瞳。
もっとも王座にふさわしいと言われているフィンレー第二王子。
自分と似た黄金の、この方こそ自分を愛してくれる存在だと盲目的に信奉した。
麗しい見た目に反して、フィンレー王子は子供っぽく我が儘であった。
盲信するサフィアにはそれさえも好ましいと感じ、フィンレー王子の為に心を砕くことが何より嬉しかった。
時折、公爵令嬢である自分が粗雑に扱われる事への不満に堪えきれず下位の令嬢へ八つ当たりをした。
その中で特に気に入らない令嬢がいた。
社交界で一目置かれたランディック辺境伯一家に可愛がられ、悩みもなさそうな能天気な顔。
デビュー時の謁見の場で、今まで仮面を崩さなかった王子達があの子を人目見るなり驚き、微笑ましげに見つめていたのだ。
それだけで充分、サフィアの自尊心を傷つけた。
事あるごとに八つ当たりをしていたら、伯爵令嬢への嫌がらせをやり過ぎたと迎賓館への出入りを王妃から禁止され、両親からの叱責を受けた。
それさえもあの伯爵令嬢せいだと恨んだ。
演奏会でやっと謹慎が解けたと喜んでフィンレー王子に会ったのに、彼はあの伯爵令嬢を見つめていた。
語学に堪能なサフィアは第四王子とフィンレー王子の会話で自身の名前を知らないことにまたショックを受け倒れそうだった。
次の日のパーティーではフィンレー王子の心を取り戻そうと躍起になるのに、逃げられ、見つけた時には伯爵令嬢と嬉しそうにダンスを踊っていた。
周囲の同情も嘲りも、サフィアを傷つけるのに充分だった。
次は私と踊ってと恥を忍んで自ら乞うのに、突き放され諦めきれずに必死で追いかけた。
フィンレー王子は第四王子と伯爵令嬢が座っているところに割り込んで、熱心に伯爵令嬢へ話しかける姿に呆然となる。
同席を許されていないので近くに座って3人を見つめた。
第四王子とフィンレー王子の会話に、私への嘲り、伯爵令嬢へ思いを語り、私には許したことのないのに伯爵令嬢へはワインを勧めて飲ませる。
伯爵令嬢は口数少なく座っているだけ。
私の席からは伯爵令嬢がどんな媚びた笑みを浮かべているのか見えない。
きっと愉悦に歪んでるはず。
伯爵令嬢の為にフィンレー王子の嫌いな甘口のワインが運ばれてきた。
なぜ王妃に近いと期待された私がこんな扱いをされてるのか。
そう思ったと同時にデキャンタを掴み、伯爵令嬢へ振り上げていた。
弾かれ地面に伏した伯爵令嬢の背に投げつける。
思いの外頑丈だった硝子製のデキャンタは、ゴロゴロ転がって地面にワインが流れる。
倒れる伯爵令嬢のドレスに赤い染みが拡がっていく。
ムクッと起きた令嬢の瞳は何が起きたかわからない様子で、薄いアイスブルーの瞳は零れそうな程丸く見開いていた。
祖先を辿れば王家の姫が幾度も降家し、王家の血筋を色濃く継いでいる。
幼少期より蝶よ花よと大事に育てられ、黄金の巻き毛は特に周囲の憧れを集めた。
「美しいお嬢様、大きくなられたらお嬢様はきっとやんごとなき方の奥方になられましょう。」
使用人は口々に誉めそやした。
また父親も国の宰相として美しい我が娘を王族へ、望めるなら王妃へと夢見て熱心に教育した。
陛下のもとにサフィアと年齢が吊り合う王子が3人。
どの王子に見初められてもおかしくないと家族と屋敷の使用人は信じていた。
事あるごとにサフィアに未来の王妃の可能性をほのめかし、未来の王妃として恥ずかしくないように育てられた。
サフィア本人も、まだ見ぬ王子に見初められると信じていた。
父親のザボン公爵は美しく育った娘に喜び、デビュー前に行われる王子との交流会へ積極的に参加させた。
王家のお茶会では、サフィア以上の美しい巻き毛がいなかった。
ブルネットや栗毛、赤毛、プラチナ、その中でもっとも輝く自身の色。
周囲の令嬢たちに憧れを向けられ優越感を抱いた。
王族との謁見で初めて王子達にお会いし、どの王子に自分は愛されるか心が踊った。
特に4つ年上の第一王子に憧れ、積極的に関わっていく。
いずれ自分に婚約申し込みが来るはずと信じて。
1年が経ち、2年が経ち、次第にサフィアはおかしいと気づき始めた。
どんなに近づこうとも王子達の態度は他の令嬢へ向ける眼差しと大差ない。
父親に泣きながら訴えても、父親は王子達の婚約者選びは国内外の政治的な思惑が絡み、難航していると話すばかりで、納得できなかった。
なぜ王子達の瞳に自分が映らないのか。
サフィアの心は王妃となるべく生まれた自分を蔑ろにされた思いで溢れて、どんなに誉めそやされようと王子以外の男に愛を囁かれようと満たされない思いに堪えられず苦しんだ。
サフィアはもうすぐ齢18。
王家からの申し込みを夢見ていたが、他家への輿入れを覚悟せねばならない年齢になった。
苦しい思いを隠して迎賓館でのおもてなしを務めた際、悩むサフィアの前に美しい金髪の王子が現れ心を奪われた。
王家の色とされる黄金の髪、アイスブルーの瞳。
もっとも王座にふさわしいと言われているフィンレー第二王子。
自分と似た黄金の、この方こそ自分を愛してくれる存在だと盲目的に信奉した。
麗しい見た目に反して、フィンレー王子は子供っぽく我が儘であった。
盲信するサフィアにはそれさえも好ましいと感じ、フィンレー王子の為に心を砕くことが何より嬉しかった。
時折、公爵令嬢である自分が粗雑に扱われる事への不満に堪えきれず下位の令嬢へ八つ当たりをした。
その中で特に気に入らない令嬢がいた。
社交界で一目置かれたランディック辺境伯一家に可愛がられ、悩みもなさそうな能天気な顔。
デビュー時の謁見の場で、今まで仮面を崩さなかった王子達があの子を人目見るなり驚き、微笑ましげに見つめていたのだ。
それだけで充分、サフィアの自尊心を傷つけた。
事あるごとに八つ当たりをしていたら、伯爵令嬢への嫌がらせをやり過ぎたと迎賓館への出入りを王妃から禁止され、両親からの叱責を受けた。
それさえもあの伯爵令嬢せいだと恨んだ。
演奏会でやっと謹慎が解けたと喜んでフィンレー王子に会ったのに、彼はあの伯爵令嬢を見つめていた。
語学に堪能なサフィアは第四王子とフィンレー王子の会話で自身の名前を知らないことにまたショックを受け倒れそうだった。
次の日のパーティーではフィンレー王子の心を取り戻そうと躍起になるのに、逃げられ、見つけた時には伯爵令嬢と嬉しそうにダンスを踊っていた。
周囲の同情も嘲りも、サフィアを傷つけるのに充分だった。
次は私と踊ってと恥を忍んで自ら乞うのに、突き放され諦めきれずに必死で追いかけた。
フィンレー王子は第四王子と伯爵令嬢が座っているところに割り込んで、熱心に伯爵令嬢へ話しかける姿に呆然となる。
同席を許されていないので近くに座って3人を見つめた。
第四王子とフィンレー王子の会話に、私への嘲り、伯爵令嬢へ思いを語り、私には許したことのないのに伯爵令嬢へはワインを勧めて飲ませる。
伯爵令嬢は口数少なく座っているだけ。
私の席からは伯爵令嬢がどんな媚びた笑みを浮かべているのか見えない。
きっと愉悦に歪んでるはず。
伯爵令嬢の為にフィンレー王子の嫌いな甘口のワインが運ばれてきた。
なぜ王妃に近いと期待された私がこんな扱いをされてるのか。
そう思ったと同時にデキャンタを掴み、伯爵令嬢へ振り上げていた。
弾かれ地面に伏した伯爵令嬢の背に投げつける。
思いの外頑丈だった硝子製のデキャンタは、ゴロゴロ転がって地面にワインが流れる。
倒れる伯爵令嬢のドレスに赤い染みが拡がっていく。
ムクッと起きた令嬢の瞳は何が起きたかわからない様子で、薄いアイスブルーの瞳は零れそうな程丸く見開いていた。
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