伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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73、温室

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しばらくして、ネロが胸元をすんすんと鼻を押し付けるので、居心地の悪くなったワンダが隙間から飛び出してナヴィーン様のもとに走っていきました。

「リリィ、本当に申し訳なかった。」

ワンダを檻に放り込んで、ナヴィーン様がテーブルに頭をぶつけて謝ります。

「いえ、お気になさらないでください。ワンダはとても可愛かったです。」

中でほどける包帯を服の上から押さえて返事を返します。

「騒がせたね。私達はお暇しよう。ネロ。」

ひとしきり笑って満足されたアダム様が一言、名前を呼ぶとネロがのそりと起きて長椅子から降りていきました。

「ナヴィーン、躾は大事だよ。」

お行儀良くアダム様の隣にネロは寄り添い首輪に大きなチェーンをかけられてます。

「ああ、…本当に思い知らされた。」

「もともと猿は好奇心旺盛でいたずらっ子だから、難しいかもな。言葉を覚えて賢いと思ったが、しゃべる鳥なんか四六時中うるさくて敵わん。」

ヘラクレス様が文句をいいながらもイギルを腕に乗せて優しく撫でています。

「へ、へらく、れすっ。りりあそぶ!」

「帰るんだ。」

「いや、だ!あそぶっ」

「あー、腹立つ。鳥の癖に会話をするな。やかましい。」

「へら、くれすうるさいっ」

「黙ってろ。食うぞ。」

「くう!くうぞ!リリィ、くうっおいしいっおいしい」

「はあ?!ばか!」

「ぶっくく。お前もよく躾ろ。」

「わ!わかったよ!」

「私も、こちらで失礼いたします。ヨルンガ、お願い。」

長椅子から抱える時、腰のほどけたリボンをヨルンガに睨まれましたが、素早く直して髪型も整えてくれました。

「ロルフ、部屋まで送ってあげなさい。」

「はい、わかりました。」

必要ないとご辞退しましたが、気にするなとアダム様が仰られて、私はヨルンガに抱えられロルフ様とは並んで部屋に向かいました。

途中、ひとつふたつと言葉を交わし、明日はロルフ様の温室に誘われて伺うとお約束しました。

暑いらしいので涼しい格好を進められました。

その後、宮殿のメイド長に服装の相談しましたら、風通しの良い生地に厚みのない衣類を撰んで選んでもらいました。

腕の包帯が透けて見えるので気にすると、上から薄いストールをかけたらいいと言うことで、お借りしたストールの生地が我が国では珍しいもので、肩からかけても涼しく過ごせる物でした。

次の日、執事の案内で、ヨルンガに抱えられ馬車に乗って移動します。

王妃の宮殿とは別の離宮に到着し、中庭の奥へ進みます。

大きな温室がふたつ、隣に一回り小さめの温室があり、小さな温室の中へ案内をしてくれました。

中は見たことのない植物が所狭しと生い茂り、私より大きな葉っぱやお花が驚くほど溢れています。

「すごいわ。なんていう植物なのかしら。」

「第四王子が教えてくださいます。こちらのお世話は学者達と共にご自身でされていまして。お嬢様、楽しみにされてくださいませ。」

執事が誇らしげにお話ししてくださいます。

「ロルフ様は博識なのですね。」

「植物の配合などよくされていまして、第四王子が開発した品種は国内外で流通しております。」

隣は学者達の専門の温室で、この小さめの温室はロルフ様の専用の温室だそうです。

他国には滋養強壮の目的意識で植物を飲食するそうで、王宮で育てた植物の多くは薬として市井に流通させているとか。

「よく来たね、リリィ。」

「ごきげんよう。ロルフ様。」

中央に長椅子とソファー、テーブルが設置されて、奥に書斎机のような大きな作業台には雑然と書物や植物が置いてあるのが見えました。

「少し暑いけど大丈夫かな?」

「いいえ、木陰が気持ち良くて涼しいくらいです。」

中央には、木陰になるように木枠の屋根が作りつけられて、そこには種類の違う蔦が繁り、違った果物が鈴なりになっていました。

足元には水が流れて、奥に池が見えています。

そこにはうす桃色や白の睡蓮に似た大きな花が浮かんで、水の微かな流れに花と葉がゆらゆら揺れていました。

出されたお茶を見ると初めて見かける薄い黄色お茶で、飲むとひんやりと冷たく爽やかな花の香りがしました。

「おいしい。」

「そうか、そちらの連れもどうだ?」

ロルフ様がヨルンガにも勧めてくださいます。

ヨルンガの返事を聞く前に、さっさと水源の溢れる水の溜まり場所からガラスのポットを引き上げて、グラスに注いでいます。

ヨルンガが慌ててグラスを受け取ります。

王族にお茶を注がせるなんてと私もヨルンガも凝縮して驚いていました。

「ありがとうございます。いただきます。」

「飲んでみてくれ。」

ニコニコと微笑むロルフ様にヨルンガと一緒に呆然と見つめました。

「ほら、リリィ。これを見てごらん。」

私にガラスの縦に細長いポットを持ってきて見せてくださいます。

大きなガラスのポットの中にはいくつもの花が咲いて揺れていました。

「まぁ……。」

あまりの美しさに言葉がありません。

「他国の書物に乗っていて、種子を取り寄せた。最近、ここで飲むくらいの量が出来たんだ。暑いから冷やして飲んでる。」

またザブンと水の中に沈めて冷やします。

「こういうの、興味あるか分からないけど。」

そういって、糸で縫われた変わった形の本を開いて花の絵を見せてくださいました。

「変わった絵と文字ですね。」

文字だけではなく羽ペンとも違う形の文字の線に驚きました。

「筆と言うものを使ってるそうだよ。この絵の花がお茶になると書いてある。」

「この文字、読めるんですか?」

「いや、読めない。読める者に翻訳させてる。まあ、少しは覚えたけどね。」

ひとつひとつの文字を指差して、意味を教えてくれました。

話の途中、頭上の木の実を千切ってロルフ様はナイフを使って手ずから果物を切り分けてくださいます。

ヨルンガが申し出ますが、ニコニコと気にすると風もなく断ります。

「いつもここで作業して、お腹すいたら適当に食べるんだ。普段はこのまま齧るけど、女の子がいるからね。ちゃんとお皿に出すよ。君、フォーク出してあげて。」

ヨルンガにお皿を頼んで私の前に並べて、ご自分も皮を剥いでお皿に盛り付けてフォークを刺して上品に召し上がって、 そのままガブガブ齧る姿が想像できず、不思議になりました。

じっと見つめると、ロルフ様が申し訳なさそうにされて、

「もう少し違う持てなし方が良かった?」

「いいえ、ふふ。このままが楽しいです。こういうおもてなしも好きです。」

緑と黄色の二種類の果物を頂きました。

「ふふ、おいしいです。」

「沢山あるから持って帰っていいよ。君のメイドにも食べさせてあげて。千切ってみる?」

「はいっ、やってみたいです。」

ヨルンガに高く抱えてもらい、ナイフを当てて実を集めました。

ロルフ様が箱を持って中に入れて、付き添ってくれています。

本当は、ロルフ様にこんなお手伝いさせるなんて失礼なのですが、そんなことも気づかず、沢山採って笑いました。

「隣の温室に違う実が成ってるから採りに行く?」

「いいんですか?行きたいです。ヨルンガ、行っていい?連れてってくれる?」

二人でヨルンガを見つめると、少し思案したヨルンガが頷いて許可をくれました。

「早速、行こう。」

「はいっ。」

温室に数人の学者さんがいらっしゃっていました。

おじいさんがこちらへ寄ってきて、ご挨拶されます。

「こんにちは、ロルフ様。可愛らしいお連れですね。」

「友達だ。母のところに泊まってる。この子にあの1番甘い実を食べさせたいんだ。」

興奮して話すロルフ様に、学者の先生達はニコニコと微笑むんでご覧になって、案内してくださいました。

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