伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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77、足技※ヨルンガ

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アイスブルーと輝く金髪。

スラッとした細身の体格。

感心するほど見目がいい。

なのに、気持ち悪い。

それがこの男の印象だった。

迎賓館でリリィ様を蔑む癖にいつも目で追っていた。

尊大だが、それなりに品のある所作と見目、だがリリィ様が側にいると顔をぐしゃぐしゃに潰して睨んでいる。

そうかと思うと、穴が開くほどしつこく舐めるように睨み付けていた。

ランディック辺境伯爵夫人も、気にして俺にリリィ様と離れるなと指示を出した。

あの、乗馬の日。

リリィ様が髪を染めようかと尋ねられたら、顔を真っ赤にして震えていた。

慌てて頭を下げるリリィ様に、ニヤニヤ口許を緩めせ、本当に気持ち悪い男だと思った。

ぶつぶつ母国語を呟いて、耳をすませば俺のために染めるんだと勘違いを何度も。

バカなのか、と。

死ね、と思うのにこんな奴でも他国の王族。

どうにもならない。

何事も起きないことを願って、1日でも早い帰国を待つしかない。

なのに、やりやがった。

パーティーの最終日。

ランディック辺境伯爵家専用の待合室で待っていると、リリィ様が殴られたと近衛騎士から報告が入った。

ランディック家の使用人達と、皆で騒然となった。


王家直属の近衛が報告に動いていたとなれば王家が関わると、古参の執事長が判断し、全員の協力のもと、荷物を持って内密に移動せよという指示に対応し、サラとディーナを先に走らせた。

俺はパーティー会場のランディック辺境伯爵ご夫妻と旦那様へ報告に走ると、それぞれ第四王子より報告が来ていると仰って、第二王子が関わる案件なので大っぴらにしないようと、指示を受けた。

急いでリリィ様の元に向かってると、第四王子と鉢合わせをし、細かい状況を教えられ、あの男は屑だと再確認した。

宮殿へ到着し、ドア越しに待機していたら中から、リリィ様を取り押さえるメイド達とやだやだと叫ぶ元気なリリィ様の声に安心した。

顔を見ればやはり土のような顔色だったが、目元に活力が溢れまだめげてないことが分かった。

だが、睡眠薬を飲んで深く眠るのに、時折寝ぼけてごめんなさい、ごめんなさいと泣き叫ぶ。

側仕えの俺達が交代で側に付き添い、手を握ったり落ち着くように声をかけ続け、王妃のペット達が何事かと覗きに来て、添い寝をするようになるとリリィ様の夜泣きが徐々に落ち着いた。

起きればあっけらかんとしたもので、腕のアザをしげしげと眺めて、テーブルの模様がついてると面白がって俺に見せに来る。

なのに、眠れば泣き叫び、起きれば自分のことな忘れていた。

リリィ様の夜泣きは、王妃と王子たち、宮殿内の使用人の全ての知るところだった。

王妃の計らいで、王妃のと日がな1日ガセポで王妃のペットと昼寝をし、王子達もリリィ様の為に心を砕いて接して下さった。

あの猿はふざけてると思ったが、この隙間に入って暖かかったとリリィ様が喜ぶので良かったと応えておいた。

このまま落ち着くかと思われたが、第二王子との面会が決まり、また夜中の悲鳴がひどくなる。

陛下に護衛の許可を得て、何かあればボコろうと決意する。


そして、今はその、諸悪の根源が足元にころ転がっている。

王子二人に左右から足払いをかけられ、無様にも足を逆さまに転がった。

しかし、まだすがるようにリリィ様を見上げ手を出してくる。 

「ヨルンガ、もうやだこわい。」 

耳を塞ぎ、体が震えていた。

嫌がる相手にしつこ付きまとい、熱望し、自分の願いばかり押し付けてくる。

なんだ、この男は。

リリィ様に触れそうになり、胸元を狙って思いっきり蹴り飛ばした。

脛が入ったので、パァンと弾ける音が響いた。

『これ以上、寄らないでください。リリィ様が怯えてます。』

この、バカに分かりやすいように母国語を使ってやる。

『げほっ!下男のぶんざいで、この!』

『はん、爪先を入れなかったことに感謝してください。入れてたら折れてましたよ。』

『不敬だ!』

『本日は、陛下よりリリィ様の護衛を全うする許可を頂いてます。半殺しにしますよ。』

『私は何もしてない!ただ話しかけているだけだ!』

言葉を変えてもバカなのは変わらないようだ。

『いえ、フィンレー王子は充分リリィを怖がらせてますよ。ちゃんと見てください。』

『可哀想に。ほら、あなたから目を背けて耳を塞いで震えている。』

『なん、でだ?』

リリィ様ならきょとんとしても可愛いのに、この男がすると腹が立つ。

もう一度、脛で横倒しに蹴り飛ばす。

パァンと小気味良い音と共に体をくの字に曲げてふっ飛ぶ。

リリィ様の折れた足と同じ場所をグリグリ踏みつけた。

ぎゃあぎゃぁ騒いでいるが知らん。

『このくらいで折れませんよ、大事なリリィ様のおみ足は折れてしまったのに。全身アザだらけで、恐怖で夜も眠れなくなったのに。それでもリリィ様は他人の為に己を堪えてるのに。』

我が国の両王子は私の所業に多少驚いた様子を見せたが、周囲の騎士を制し傍観を決めたようだ。

『第二王子はこのくらいで騒ぐんですね。情けない。打たれ弱すぎませんか?とっとと母国に帰ったらどうですか?あぁ、手加減しなきゃ良かったです。その肋骨、バキバキに折れば良かったと後悔してます。』

『こ、の!うぐうぅ!!いっだい!』

『反省の色がありませんね。例え、リリィ様が許すと仰っても私は許しませんよ。折りますか?それとも玉潰してやりましょうか?』

『ううっ!ううーっ!や、めろ!やめ、ろ!や、め、ろ!』

『私はこの国の臣民です。そしてリリィ様の侍従ですよ。なぜあなたの言うことを聞かねばならないのですか?リリィ様を守ることが私の任務ですよ。王族だろうが、何だろうがリリィ様の意に背く者は私が処理致します。やはり潰して差し上げましょうか?二度と邪な行動ができないように。』

足首を踏みつけたまま、玉に踵を当てる。

『悪かった!謝るからそれだけは止めてくれ!!誰か止めろ!』

ただじっとやり取りを眺めていた第四王子が動く。

『ヨルンガ、ここは俺と兄で引き受けるから引かないか?令嬢を抱えてすることじゃない。』

『まぁ、そうだな。そろそろ落とし所が欲しい。』

『さようですか。』

『は、はは。あはは、は、は。』

安心してへらへら笑う第二王子の舐めた顔がムカついた。

『何を笑ってるんですか?止めてもらえると?』

ぐりぐりっと力を込めた。

『がっ!!ぐうぅ!ゥーッ!!!』

痛さで声も出ないか。

煩くなくてちょうどいい。

『2度とリリィ様の前に現れないと約束頂けますか?そうして頂けたら喜んで辞去いたします。さっさと決めてください。ほら、早く。ほら。』

再度、体重をかけると、ひいひい喘ぎながら頭を上下に大きく振ったので解放した。

返事が遅いのが悪い。

「第1王子、第4王子、お目汚し申し訳ありません。」

「こんなもんだろう。構わん。」

「俺も構わない。それよりあちらに丸見えだったけどいいのか?父やランディック辺境伯のように荒事に慣れた者はいいけど。」

「ただの露払いです。むしろ、あの方々が出るより穏便に済んだと思います。」

「あとはこちらで対応する。部屋に戻れ。」

第一王子の指示のもと、第二王子がふたりの騎士に抱えられ運ばれるのを尻目に、私は小さく丸まるリリィ様を抱え直してその場を辞去した。
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