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3,ペットと飼い主
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朝から玄関に不在の看板。
手先の器用な俺は街の修理屋をしてる。
壊れた家具や農具、馬車。
何でも引き受ける。
最近多いのは装飾品の修理。
大きいものより小さいものの方が得意だから助かる。
出立の支度を終えてチイネェを待つ間、暇潰しに裏手にある鍛練所で弓を練習した。
細かい作業が苦手な家族全員の手作り。
俺のお気に入り。
「こっちにいたの」
支度を終えたチイネェも来て後ろから俺の弓矢を眺めてた。
「これ当たる?」
手に薪をひとつ。
「何?」
「投げるから当ててみ」
チイネェの豪速球は無理じゃね?と思いながら構えた。
軽く投げたそれに当てると、次々投げて最後は豪速球。
手加減されてる気がするけどなんとか当たった。
「上達してるね」
矢を回収する俺に、にまっと笑ったら、行くよと一言口にして先を歩いた。
集合場所のギルドには先にタンクのガルーダさんが来ていた。
初対面だけどチイネェから特徴と名前は聞いていた。
チイネェばりにでかい体格の人族。
体格と同じくらいでかい盾と槍。
厳つい見た目と黒いたっぷりの髭。
「よお、チサキ」
チイネェは黙って手を上げた。
「そっちは?」
「後方に置く」
「弓か。ちょうどいい。よろしく、坊主。ガルーダだ」
「お世話になります。ラオシンです」
そう言うと握手でなく、俺の腕をにぎにぎと掴んでにぃっと笑った。
「腕は良さそうだ」
何かと思ったら。
腕を触るだけで分かるのか。
あとの奴らは明日合流するらしく、待ち合わせの次のギルドに向かってそこの近くで宿を借りた。
ガルーダさんと俺達姉弟でふた部屋。
訝しげに見られて姉弟だと言おうとしたら、チイネェはこいつはいいんだと一言。
ガルーダさんがにやっと笑ってペットかと呟いた。
「こういうチビの童顔が趣味だとは知らなかった」
「俺は弟です」
「はは、誤魔化さなくていい。お前らの邪魔はしねぇよ」
急いでそう言ったのに体力自慢な鬼人の相手は大変だろうとからかって、さっさと自分の部屋に行ってしまった。
「似てないから信じないよ」
「だけどさぁ」
「嫌なら帰っていいよ」
「か、帰らないよ!」
答えが分かってるのに聞くからムッとした。
「だよね」
にやっと牙を覗かせて笑って嬉しそう。
ならご飯に行こうとチイネェと飯を食べに外へ出て、偏食のひどいチイネェは同じ肉料理ばかり三つも頼んだ。
「飽きない?」
「慣れないのは食べたくない」
「こっち食べてみる?」
俺が頼んだのは逆に食べたことないもの。
チイネェとは逆で新しい味が好きだ。
でも俺はチイネェより少食で二皿だけ。
安いから二皿でちょうどいいと思ったのに、予想より量が多い。
食べきれない。
「もったいないから食べない?」
そう言うとちらっと顔をしかめて料理を見つめ、スプーンに少しだけ取ってペロッと舐めた。
「……こっちは嫌い。そっちならいい」
「どっちも旨いけど。家で作ってみたいかなぁ。チイネェが気に入った方を作ってみるよ」
片方を指さしてこっちなら気に入ったんだろ?って聞くとブスッと顔が歪んだ。
「作っても食べないよ。ちょっとましなだけだし。私は好きなものだけ食べたい」
変な味付けは嫌いだとさ。
変じゃないよ。
普通に旨いってば。
我が儘だなぁ。
俺が一皿食べ終わる頃にチイネェは全部平らげてエールを追加で頼んでる。
「遅くてごめん」
「飲みたいからちょうどいい」
目を細めてご、ご、と飲み干すとまた次を頼んだ。
ペースの早さに俺も慌てて飯をかきこんだ。
「飲み過ぎないでよ」
「鬼人だよ」
種族的に酒豪の酒好きなのは分かってるけど。
親父もダイネェもだし。
俺だけお袋似の下戸。
「チサキじゃねぇか?」
「よお、こっちに来てたのか」
「元気ぃ?こっちの仕事は久々じゃなぁい?」
パーティーなのか、武装した男女五人に囲まれてチイネェは手だけ軽く振ってエールを仰いでる。
「こっちのチビは何?」
「んん?こいつ、男?女?」
「ペット?」
「弟です」
再チャレンジでそう言うと五人はゲラゲラ笑った。
「無理すんなって」
「本当ですってば。ねえ、チイネェ?」
「こいつ、うちの身内」
チイネェはそれだけ言ってまたエールを仰いでる。
「チイネェなんて呼ばせてるのぉ?やだぁ、可愛い」
色っぽい黒い衣装の女魔法使いが小馬鹿にした含み笑い。
実の姉をそう呼んで何が悪いとむすくれた。
「丸い黒目が可愛い。黒髪もさらさらで素敵ね」
頬を撫でたり後ろに結んだ髪をパサパサと遊んだり。
チイネェとは全く違う細い手と化粧の華やかな香りに固まった。
知らない女性からこんなにベタベタされたの初めてだ。
ちらっとチイネェはこっちを見ただけで静かにエールを飲んでる。
「可愛い坊や、お姉さんと遊ばなぁい?」
首に両腕を巻き付けて耳元に吐息をかける。
ビビって顔を横に振ると俺の醜態にチイネェがにやぁって笑う。
「ウケる」
「チ、チイネェ、」
助けてよ。
手先の器用な俺は街の修理屋をしてる。
壊れた家具や農具、馬車。
何でも引き受ける。
最近多いのは装飾品の修理。
大きいものより小さいものの方が得意だから助かる。
出立の支度を終えてチイネェを待つ間、暇潰しに裏手にある鍛練所で弓を練習した。
細かい作業が苦手な家族全員の手作り。
俺のお気に入り。
「こっちにいたの」
支度を終えたチイネェも来て後ろから俺の弓矢を眺めてた。
「これ当たる?」
手に薪をひとつ。
「何?」
「投げるから当ててみ」
チイネェの豪速球は無理じゃね?と思いながら構えた。
軽く投げたそれに当てると、次々投げて最後は豪速球。
手加減されてる気がするけどなんとか当たった。
「上達してるね」
矢を回収する俺に、にまっと笑ったら、行くよと一言口にして先を歩いた。
集合場所のギルドには先にタンクのガルーダさんが来ていた。
初対面だけどチイネェから特徴と名前は聞いていた。
チイネェばりにでかい体格の人族。
体格と同じくらいでかい盾と槍。
厳つい見た目と黒いたっぷりの髭。
「よお、チサキ」
チイネェは黙って手を上げた。
「そっちは?」
「後方に置く」
「弓か。ちょうどいい。よろしく、坊主。ガルーダだ」
「お世話になります。ラオシンです」
そう言うと握手でなく、俺の腕をにぎにぎと掴んでにぃっと笑った。
「腕は良さそうだ」
何かと思ったら。
腕を触るだけで分かるのか。
あとの奴らは明日合流するらしく、待ち合わせの次のギルドに向かってそこの近くで宿を借りた。
ガルーダさんと俺達姉弟でふた部屋。
訝しげに見られて姉弟だと言おうとしたら、チイネェはこいつはいいんだと一言。
ガルーダさんがにやっと笑ってペットかと呟いた。
「こういうチビの童顔が趣味だとは知らなかった」
「俺は弟です」
「はは、誤魔化さなくていい。お前らの邪魔はしねぇよ」
急いでそう言ったのに体力自慢な鬼人の相手は大変だろうとからかって、さっさと自分の部屋に行ってしまった。
「似てないから信じないよ」
「だけどさぁ」
「嫌なら帰っていいよ」
「か、帰らないよ!」
答えが分かってるのに聞くからムッとした。
「だよね」
にやっと牙を覗かせて笑って嬉しそう。
ならご飯に行こうとチイネェと飯を食べに外へ出て、偏食のひどいチイネェは同じ肉料理ばかり三つも頼んだ。
「飽きない?」
「慣れないのは食べたくない」
「こっち食べてみる?」
俺が頼んだのは逆に食べたことないもの。
チイネェとは逆で新しい味が好きだ。
でも俺はチイネェより少食で二皿だけ。
安いから二皿でちょうどいいと思ったのに、予想より量が多い。
食べきれない。
「もったいないから食べない?」
そう言うとちらっと顔をしかめて料理を見つめ、スプーンに少しだけ取ってペロッと舐めた。
「……こっちは嫌い。そっちならいい」
「どっちも旨いけど。家で作ってみたいかなぁ。チイネェが気に入った方を作ってみるよ」
片方を指さしてこっちなら気に入ったんだろ?って聞くとブスッと顔が歪んだ。
「作っても食べないよ。ちょっとましなだけだし。私は好きなものだけ食べたい」
変な味付けは嫌いだとさ。
変じゃないよ。
普通に旨いってば。
我が儘だなぁ。
俺が一皿食べ終わる頃にチイネェは全部平らげてエールを追加で頼んでる。
「遅くてごめん」
「飲みたいからちょうどいい」
目を細めてご、ご、と飲み干すとまた次を頼んだ。
ペースの早さに俺も慌てて飯をかきこんだ。
「飲み過ぎないでよ」
「鬼人だよ」
種族的に酒豪の酒好きなのは分かってるけど。
親父もダイネェもだし。
俺だけお袋似の下戸。
「チサキじゃねぇか?」
「よお、こっちに来てたのか」
「元気ぃ?こっちの仕事は久々じゃなぁい?」
パーティーなのか、武装した男女五人に囲まれてチイネェは手だけ軽く振ってエールを仰いでる。
「こっちのチビは何?」
「んん?こいつ、男?女?」
「ペット?」
「弟です」
再チャレンジでそう言うと五人はゲラゲラ笑った。
「無理すんなって」
「本当ですってば。ねえ、チイネェ?」
「こいつ、うちの身内」
チイネェはそれだけ言ってまたエールを仰いでる。
「チイネェなんて呼ばせてるのぉ?やだぁ、可愛い」
色っぽい黒い衣装の女魔法使いが小馬鹿にした含み笑い。
実の姉をそう呼んで何が悪いとむすくれた。
「丸い黒目が可愛い。黒髪もさらさらで素敵ね」
頬を撫でたり後ろに結んだ髪をパサパサと遊んだり。
チイネェとは全く違う細い手と化粧の華やかな香りに固まった。
知らない女性からこんなにベタベタされたの初めてだ。
ちらっとチイネェはこっちを見ただけで静かにエールを飲んでる。
「可愛い坊や、お姉さんと遊ばなぁい?」
首に両腕を巻き付けて耳元に吐息をかける。
ビビって顔を横に振ると俺の醜態にチイネェがにやぁって笑う。
「ウケる」
「チ、チイネェ、」
助けてよ。
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